くじら座の神話
名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。
星になった二つの理由
空でも王女に迫る怪物
前3世紀の詩人アラトスは、星座の詩『星辰譜』で、空の上でもこの怪物が王女に迫っている、と歌う。アンドロメダは遠く離れて身をすくめているが、南の風が、おひつじ座とうお座の下から、忌まわしい怪物を彼女のほうへ押しやってくるのだという。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
王女の星座が西に沈むときも、南から怪物が寄せてくる。けれども北の空では、父の王ケペウスが大きな手を振り上げて、怪物を押し返そうとしている、とアラトスは書いている。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
ローマに運ばれた骨
ローマの博物学者プリニウスは、『博物誌』の海の生き物を扱った巻で、この怪物の骨の話を書きとめている。アンドロメダがさらされたと言われていた怪物の骨を、ユダヤの町ヨッパからローマへ運んできた者がいた。マルクス・スカウルスという人物で、ローマの役職についていた年に、ほかの珍しい品々と一緒に人々に見せたのだという。
ローマ期博物誌
プリニウスの記すところでは、その骨は長さ40フィート(ローマの尺度)、あばら骨の高さはインドの象よりも高く、背骨の太さは1フィート半もあった。
ローマ期博物誌
この話の項目
- アンドロメダエチオピア王ケペウスとカシオペイアの娘。母が海のニンフより美しいと誇ったため、海の怪物への生贄として岩に縛られ、通りかかったペルセウスに救われて妻となった。一家そろって星座になっている。
- ペルセウスゼウスとダナエの子。見た者を石に変えるゴルゴンのメドゥサの首を取り、帰り道で海の怪物からアンドロメダを救った。ヘラクレスの曾祖父にあたり、ペルシア人の名の由来とする伝えもある。
- ポセイドン海を支配する神で、ゼウス・ハデスの兄弟。地震と馬をも司る。『イリアス』ではギリシャ側に立つが、『オデュッセイア』では息子ポリュペモスを潰されたことを恨んでオデュッセウスの帰還を十年阻み続ける、物語の主たる敵対者。
- カシオペイアエチオピア王ケペウスの妃で、アンドロメダの母。海のニンフ(ネレイス)たちより美しいと誇ったため、ポセイドンが洪水と海の怪物を送り、娘が生贄として岩に縛られた。一家とともに星座になり、北の空でW字に並ぶカシオペヤ座がその姿とされる。アラトスとヒュギヌスは、罰として彼女が天の回転につれて頭から逆さまに沈むと書く。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。