おおいぬ座の神話
Canis Major
どんな獲物も逃さない犬が、だれにも捕まらない狐と出会ってしまった。困ったゼウスは、二匹とも石に変えた。
王女エウロペの番犬
捕まえる犬と、捕まらない狐
絶対に捕まえる犬と、絶対に捕まらない狐。この二匹が出会ってしまった。ゼウスはどうしていいか分からなくなり、二匹とも石に変えてしまった、とイストロスという著述家は伝えている。
ローマ期天文譜
狩人の犬、王の犬
この犬は狩人オリオンの犬だ、と言う人もいた。狩りに打ち込んでいたオリオンと一緒に、犬も星のあいだに置かれたのだという。ほかに、アテナイのイカリオスの犬だとする話もあった。ヒュギヌスは、どの話にもそれぞれ言い出した人がいる、と書き添えている。
ローマ期天文譜
すぐそばのこいぬ座も、同じ話のどれかの犬だとされた。この小さな犬は大きな犬より先に昇ってくるので、「犬の前」を意味するプロキオンの名で呼ばれたという。
ローマ期天文譜
炎のように光る星
ヒュギヌスによれば、犬の舌のところにある星は、それ自体が「犬」と呼ばれた。頭のところにはもう一つの星があり、炎のような白い輝きがほかの星にまさるので、シリウスと呼ばれた。エジプトの女神イシスが、自分の名をつけて置いた星だとも考えられていた。
ローマ期天文譜
名前の由来

シリウスの名はギリシャ語で「焼き焦がすもの」の意味と言われ、語源辞典によれば、夏の暑さと結びつけられたのは、夜明け前にこの星が昇ってくる時期が真夏にあたったからである。
英語で真夏のうだるような時期を dog days(犬の日々)と呼ぶのも、このためだ。
こいぬ座の明るい星プロキオンは、ギリシャ語で「犬の前」の意味で、シリウスより少し先に昇ってくることからの名である。
近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
この話の項目
- エウロペフェニキアの王女。白い牡牛に化けたゼウスに背に乗せられ、海を渡ってクレタ島へ連れ去られ、ミノスらの母になった。兄カドモスは彼女を探す旅の果てにテーバイを建てる。大陸名ヨーロッパと同じ名だが、その結びつきは古代から疑われていた。
- ミノスゼウスとエウロペの子で、クレタ島クノッソスの王。海を支配し、アテナイに若者の貢ぎを課してミノタウロスに捧げさせた。死後は冥界で死者を裁く。19世紀末の考古学者は、この王の名からクレタの青銅器文明を「ミノア文明」と名づけた。
- プロクリスアテナイ王エレクテウスの娘で、狩人ケパロスの妻。夫婦は互いの貞節を試し合い、傷つけ合う。彼女が夫に贈った、獲物を逃さない犬は、クレタ王ミノスからもらったものとも、女神アルテミスから授かったものとも言われる。最後は夫の投げた槍に倒れた。
- ケパロスエレクテウスの娘プロクリスの夫で、狩りの名手。曙の女神エオスにさらわれたとも言われる。妻から、決して獲物を逃さない犬と必ず当たる投げ槍を贈られたが、茂みに隠れていた妻を獣と思い込み、その槍で死なせてしまう。
- オリオン巨人の狩人。『イリアス』ではすでに星座として空にあり、『オデュッセイア』では曙の女神エオスに選ばれたためにアルテミスに射殺され、冥界でも獣を追い続けている。死に方は出典ごとに大きく違い、サソリに刺されたという話から、サソリ座が昇るとオリオン座が沈むという星の動きの説明が生まれた。
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアフロディーテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルフェウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。
- りゅう座黄金のりんごの番をしていた竜は、ヘラクレスに倒されたあと、女神ヘラの手で空に上げられた。
- ヘルクレス座片ひざをついて戦う男の星座。竜と戦うヘラクレスとも、石を持ち上げる若いテセウスとも言われ、古代から正体が定まらなかった。
- かんむり座酒の神ディオニュソスが、妻アリアドネの冠を空に置いた。迷宮の闇を照らした冠とも、海の底から持ち帰った冠とも語られる。
- ぎょしゃ座人間で初めて四頭の馬を車につないだ男が、馭者の姿で空にいる。その肩には、幼いゼウスに乳を与えた雌山羊が乗っている。
- ケンタウルス座英雄たちを育てた賢いケンタウロス、ケイロン。ヘラクレスの矢がたった一本、足の上に落ちたことで命を落とした。
- アルゴ座金の羊毛を求めた英雄たちの船アルゴは、海に出た最初の船として空に上げられた。ただし星になったのは、船の後ろ半分だけである。
- からす座・コップ座・うみへび座水を汲みに行ったカラスは、イチジクが熟すのを待って道草を食った。怒ったアポロンは、水の入った鉢と、それを守る水蛇を空に置いた。
- いるか座逃げた花嫁を探し出し、海の神の婚礼をまとめたイルカ。歌い手アリオンを背に乗せて岸まで運んだイルカだ、という話もある。
- や座空の小さな矢は、ヘラクレスがプロメテウスを苦しめる鷲を射落とした一本だという。指輪の始まりも、この話から語られる。