へびつかい座の神話
太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
「13番目の星座」とは
太陽は一年かけて、星座のあいだを東へ一回りする、と国立天文台は説明している。その通り道を黄道という。
近現代国立天文台 公式サイト
日本天文学会の天文学辞典は、黄道十二星座を、黄道を含む星座のうち、へびつかい座を除いた12の星座だと説明している。この十二の星座は古代の天文学者プトレマイオスに由来し、黄道十二宮とはほぼ対応するが、境目は厳密には一致しない、とも書く。
近現代天文学辞典
つまり今の星座の区切りでは、太陽の通り道は、十二の星座のほかに、へびつかい座も通っている。太陽がこの星座の中にいるのは、年の暮れ近くの11月30日ごろから12月18日ごろにかけてだ、と語源辞典は書いている。国立天文台の88星座の一覧でも、黄道十二宮と関係のある星座として印が付くのは十二で、へびつかい座には付いていない。
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蛇を抱えた男は誰か
ローマ時代のヒュギヌスの星座の本『天文譜』によれば、この星座は、さそり座の上で、胴に巻きついた蛇を両手でつかんでいる男の姿である。ラテン語では「蛇を持つ者」と呼ばれた。
ローマ期天文譜
麦の種を配る若者を襲った王
トラキアのゲタイ人の王は、はじめ若者を客として迎えた。ところが、恩人であるはずの若者を敵のように罠にかけ、逃げられないように、車を引く竜の一頭を殺させた。若者は、あやうく命を落とすところだった。そこへデメテルが駆けつけ、別の竜をつないで若者に車を返し、王に重い罰を与えた。
ローマ期天文譜
ヘゲシアナクスによれば、デメテルは人々への見せしめとして、竜を両手でつかみ、いまにも殺そうとしている王の姿を星にした。王はそれほどつらい一生を送り、死ぬことをこの上ない救いと思うまでになったのだという。
ローマ期天文譜
ほかの蛇退治
英雄ヘラクレスだという人たちもいた。リュディアのサガリス川のほとりで、大勢の人を殺し、岸の実りを台なしにしていた蛇を退治したのだという。土地の女王オンパレは彼に多くの贈り物をして送り返し、ゼウスはその勇気をたたえて星にした。
ローマ期天文譜
この話の項目
- アスクレピオス医術の神。アポロンとコロニスの子で、ケンタウロスのケイロンに育てられて医術を学び、ついには死者まで生き返らせたためにゼウスの雷で打たれた。ホメロスでは神ではなく、トロイアに従軍した軍医マカオンとポダレイリオスの父である「非の打ちどころのない医者」にすぎない。杖に蛇が巻きついた「アスクレピオスの杖」は、今もWHOの紋章などに医療の象徴として使われている。
- デメテル穀物と農耕の女神。娘ペルセポネを冥界に奪われた悲しみから大地を実らせるのをやめ、人類を飢饉の淵に追い込んだ。その和解として季節の循環が生まれ、エレウシスの秘儀が人々に授けられる。
- ヘラクレスゼウスとアルクメネの子の英雄。ヘラに憎まれ、母のいとこにあたるエウリュステウスに仕えて数々の難業をこなした。トロイアをトロイア戦争の一世代前に一度攻め落とし、その弓はのちにピロクテテスに渡ってトロイア陥落の鍵になる。
- アポロン弓・神託・音楽・疫病を司るゼウスとレトの子。『イリアス』は彼が放つ疫病の矢から始まり、トロイア側に立ってパトロクロスを打ち倒し、アキレウスの死にも関わる。デルポイの神託の主でもある。
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。