うしかい座の神話
熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
熊を追う牛飼い
前3世紀の詩人アラトスは、星座の詩『星辰譜』でこう書く。大きな熊の後ろから、車を追い立てる人のような姿で運ばれていくのが、「熊の番人」、またの名を「牛飼い」である。車の形をした熊に、手をかけているように見えるからだ。全体がとても明るく、帯の下には、ほかの星よりひときわ明るいアルクトゥルスが回っている。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
神の食卓に出された少年
あるとき、ゼウスがアルカディアの王のもとに客として訪れた。王は、自分の館に泊まりたいというこの客が本当に神なのかを確かめようと、幼いアルカスを切り刻み、ほかの肉と混ぜて食卓に出した。王はその報いを受けた。ゼウスは食卓をひっくり返し、雷で館を焼き、王を狼の姿に変えてしまったのである。
ローマ期天文譜
ゼウスは少年の手足を集めて元どおりに組み合わせ、アイトリアの男に預けて育てさせた。若者になったアルカスは、森で狩りをしていて、熊に変えられた母とは知らずにその熊を見つけ、仕留めようとゼウス・リュカイオスの神域まで追っていった。そこは、入れば死罪と定められた場所だった。母も子も殺されるほかなくなったとき、ゼウスは二人を哀れんで、星々のあいだに置いた。だから今も、この星座は熊の後ろについていき、熊を見張る者と呼ばれるのだという。
ローマ期天文譜
初めて荷車を作った男
ヒュギヌスは、星について書いたヘルミッポスの話も伝えている。穀物の女神デメテルは、イアシオンという男と結ばれ、二人の息子を産んだ。兄弟は仲が悪かった。富んでいたほうのプルトスは、財産を少しも弟に分けなかったのである。
ローマ期天文譜
しかたなく、もう一人の息子ピロメロスは、持っているものをはたいて二頭の牛を買い、それまで誰も作ったことのない荷車をこしらえた。そして畑を耕し、作物を育てて暮らしを立てた。母のデメテルは息子の工夫に感心し、畑を耕す姿のまま彼を星々のあいだに置いて、「牛飼い」と名づけたのだという。
ローマ期天文譜
この星座を、酒をふるまったために羊飼いたちに殺された、娘エリゴネの父だとする人たちもいた。その話は、おとめ座の神話にある。
ローマ期天文譜
この話の項目
- カリストアルテミスに従って処女の誓いを立てた狩りの娘。ゼウスに身ごもらされ、熊に変えられた末、息子アルカスとともに星座(大熊座・小熊座)にされた。ホメロスは「海に沈まない熊座」を歌うだけで、その理由をカリストの物語で説明するのは後代の詩人たち。北極 arctic の「熊」ともつながる。
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
- デメテル穀物と農耕の女神。娘ペルセポネを冥界に奪われた悲しみから大地を実らせるのをやめ、人類を飢饉の淵に追い込んだ。その和解として季節の循環が生まれ、エレウシスの秘儀が人々に授けられる。
- プルトス富の神。名前そのものがギリシャ語で「富」を意味する。ヘシオドスでは、女神デメテルがクレタの三度鋤いた畑で英雄イアシオンと交わって産んだ子で、出会った人を金持ちにする。『デメテル讃歌』では、デメテルとペルセポネが愛する人の家に送り届ける。アリストパネスの喜劇『プルトス』では、ゼウスに目をつぶされた盲目の老人として登場し、アスクレピオスの神殿で目を治される。冥界の王ハデスの別名プルトンとは別の神。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。