てんびん座の神話
古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
もとは、さそりのはさみ
ローマ時代のヒュギヌスは、星座の本『天文譜』で、ほかの誕生日の星座には物語を添えているのに、てんびん座には一つも添えていない。この星たちは、もとはさそり座の一部だったからだ。
ローマ期天文譜
ヒュギヌスの説明はこうだ。さそりは図体があまりに大きく、一つの星座に収まりきらない。そこで二つに分け、その一方を、ローマでは天秤と名づけた。星の並びを説明するところでは、同じ星たちを、ギリシャ風に「はさみ」と呼んでいる。
ローマ期天文譜
ヒュギヌスによれば、太陽の通り道の星座は、本当は十二ではなく十一だった。さそりがその大きさで二つ分の場所を占め、前の部分が「はさみ」、残りが「さそり」と呼ばれていたからである。昔の天文家は、月も時刻も、何もかも十二に分けていたので、星座も十二にしたかったのだという。
ローマ期天文譜
秋の始まりの星
ヒュギヌスによれば、太陽がこの星座に来ると、昼と夜の長さがそろい、秋が始まる。ヒュギヌスは、春の昼夜が等しくなるのはおひつじ座、秋はさそりの前の部分、つまり天秤と呼ぶ人もいる星座だ、と書いている。
ローマ期天文譜
さそりが空けた席
ローマの詩人ウェルギリウスは、『農耕詩』の冒頭で、カエサルに呼びかけた。あなたは神々の仲間入りをしたら、何を受け持つのだろうか。新しい星になるなら、乙女エリゴネと、その後ろに続くはさみのあいだに、ちょうど場所が空いている。燃えるさそりは、もう自分から腕を縮めて、空の分け前より多くの場所を、あなたに譲っている、と。
ローマ期農耕詩
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。