オリオン座の神話
女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
牡牛に立ち向かう狩人
オリオン座は、右手に棍棒を握り、腰に剣を下げた狩人の姿で描かれる。ローマ時代のヒュギヌスの星座の本『天文譜』によれば、この狩人は、となりの牡牛と向き合って戦う形に置かれている。帯のところに三つの星が並び、剣にあたるところには、三つの暗い星がある。
ローマ期天文譜
狩人の足もとには、逃げる兎を追いかける犬の星座がある。オリオンが狩りに打ち込んでいたので、その犬も一緒に空に上げられたのだ、と言う人たちもいた。
ローマ期天文譜
女神が射抜いた恋人
オリオンが星になったいきさつについて、ヒュギヌスはいくつもの話を並べている。中でもいちばん哀しいのが、イストロスという著述家の伝える話だ。女神アルテミスはオリオンを愛し、二人は結婚したと思われるほどの仲になった。
ローマ期天文譜
アポロンは、これが面白くなかった。何度たしなめても、少しも効き目がない。あるとき、はるか沖を泳ぐオリオンの頭だけが、ぽつんと見えていた。アポロンはアルテミスに言った。海に浮かんでいるあの黒いものに、お前の矢は届くまい。
ローマ期天文譜
弓の腕では誰にも負けたくない女神は、矢を放った。矢は、オリオンの頭を貫いた。やがて波が、息絶えた狩人を岸へ打ち上げる。自分が射たのがオリオンだったと知ったアルテミスは、深く嘆き、涙を流して見送ったのち、彼を星々のあいだに置いたのだという。
ローマ期天文譜
ほかの伝え
詩人カリマコスたちは、まるで違う話をしている。オリオンはアルテミスに乱暴しようとして、女神の矢に射られた。それでも、狩りにかける熱の入れようが女神とそっくりだったので、星座にされたのだという。
ローマ期天文譜
ヒュギヌス自身がまず語っているのは、さそりの話である。大地から生まれるものなら何でも仕留めてみせると豪語したオリオンは、大地が送り込んださそりに刺されて死んだ。二つの星座は空でも、片方が昇ってくると、もう片方が沈むように置かれている。
ローマ期天文譜
この話の項目
- オリオン巨人の狩人。『イリアス』ではすでに星座として空にあり、『オデュッセイア』では曙の女神エオスに選ばれたためにアルテミスに射殺され、冥界でも獣を追い続けている。死に方は出典ごとに大きく違い、サソリに刺されたという話から、サソリ座が昇るとオリオン座が沈むという星の動きの説明が生まれた。
- アルテミスゼウスとレトの娘でアポロンの双子の姉妹。狩りと野獣、処女性を司る。女性の突然死は彼女の矢によるとされた。トロイア戦争ではトロイア側に立つが、『イリアス』では神々の中でも弱い存在として描かれる。
- アポロン弓・神託・音楽・疫病を司るゼウスとレトの子。『イリアス』は彼が放つ疫病の矢から始まり、トロイア側に立ってパトロクロスを打ち倒し、アキレウスの死にも関わる。デルポイの神託の主でもある。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。