いて座の神話
弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
弓を引くのは誰か
ムーサたちの友
それなら、この射手に馬の脚があり、おまけに山野の精サテュロスと同じ尾までぶら下がっているのは、なぜなのか。ある人たちは、これはクロトスという者だと言う。芸術の女神ムーサたちを育てた乳母の息子である。
ローマ期天文譜
悲劇作家ソシテオスによれば、クロトスはヘリコン山に住み、ムーサたちと過ごすのを何よりの楽しみにしていた。ときには狩りにも出た。森の中を走らせれば誰も追いつけず、歌や詩の話をさせれば誰よりも冴えていた。
ローマ期天文譜
ムーサたちは、彼を星の仲間に加えてほしいとゼウスに願った。ゼウスはその願いをかなえ、彼の得意なことをすべて一つの体に表そうとした。馬によく乗ったので馬の脚を付け、鋭さと速さを表すために矢を添えた。サテュロスの尾も付けた。ディオニュソスがサテュロスたちを喜んだのと同じくらい、ムーサたちはクロトスを喜んだからだという。
ローマ期天文譜
射手の足もとには、輪になった小さな星たちがある。彼が遊んでいるうちに投げ捨てた冠だ、と言う人もいた。
ローマ期天文譜
ケイロンは、となりの星座に
この話の項目
- ケイロンケンタウロスでありながら、医術と音楽と武術を英雄たちに教えた賢者。アキレウスの師として知られる。ホメロスが触れるのは薬草の知識と一本の槍だけで、養育者としての姿は後代に大きくなった。
- ケンタウロス族上半身が人間、下半身が馬の一族。ピンダロスでは、ヘラに欲情したイクシオンがヘラに似せた雲と交わって生まれた子孫とされる。ラピタイ族の王の婚礼で酒に酔って花嫁を奪おうとし、人間との戦いになった。ホメロスでは姿の説明はなく「獣」と呼ばれ、賢者ケイロンだけが「最も正しいケンタウロス」として別格に扱われる。
- ムーサ詩歌・音楽・学芸の女神たち。ヘシオドスではゼウスと記憶の女神ムネモシュネの九人の娘で、詩人に歌を授ける。叙事詩は「歌え、ムーサよ」という呼びかけで始まるのが決まりで、詩人は自分ではなく女神が語るという形をとる。英語の music(音楽)と museum(博物館)は、どちらもムーサの名から生まれた。
- サテュロス酒の神ディオニュソスに従う、野山の男たちの一族。古いギリシャの美術では馬の耳と尾を持つ人の姿で描かれ、年を取った者はシレノスと呼ばれた。ヘシオドスの断片は「役立たずで働かない一族」と呼ぶ。エウリピデスの『キュクロプス』は、彼らを合唱隊にした劇「サテュロス劇」の唯一完全に残る作品である。
- ヘラクレスゼウスとアルクメネの子の英雄。ヘラに憎まれ、母のいとこにあたるエウリュステウスに仕えて数々の難業をこなした。トロイアをトロイア戦争の一世代前に一度攻め落とし、その弓はのちにピロクテテスに渡ってトロイア陥落の鍵になる。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。