ヘルクレス座の神話
Hercules
片ひざをついて戦う男の星座。竜と戦うヘラクレスとも、石を持ち上げる若いテセウスとも言われ、古代から正体が定まらなかった。
竜の頭を踏みつける英雄
名前の分からない「ひざをつく者」
ただし古代には、この星座がだれなのかは決まっていなかった。ヒュギヌスによれば、星座の詩を書いたアラトスは、だれなのか示せる人はいないと言っている。ギリシャ語での呼び名も「エンゴナシン」、つまり「ひざをついた者」というだけだった。
ローマ期天文譜
石を投げて戦ったヘラクレス
悲劇詩人アイスキュロスは、劇『解き放たれたプロメテウス』で、また別のヘラクレスを描いたという。ゲリュオンの牛を連れて帰る途中、ヘラクレスはリグリア人の土地を通り、牛を奪おうとする人々と戦った。
ローマ期天文譜
矢が尽き、大勢に囲まれて傷を負ったヘラクレスは、ついにひざをついた。ゼウスは息子を哀れんで、まわりにたくさんの石を用意した。ヘラクレスはその石を投げて身を守り、敵を追い払った。ゼウスはこの戦う姿を星座にしたのだという。
ローマ期天文譜
名前の由来
北天の星座。
日本語の「ヘルクレス」は、ラテン語の Hercules を写した名で、デジタル大辞泉・世界大百科事典とも、名はギリシャ神話のヘラクレスにちなむとする。英語で Hercules と呼ばれるのは1670年代から(etymonline)。
オウィディウスはこの星座を名で呼ばず「膝をつく者」(Nixus genu)と言い、アリアドネの冠(かんむり座)がこの「膝をつく者」と「蛇を持つ者」の間に置かれたと書く。
近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
この話の項目
- ヘラクレスゼウスとアルクメネの子の英雄。ヘラに憎まれ、母のいとこにあたるエウリュステウスに仕えて数々の難業をこなした。トロイアをトロイア戦争の一世代前に一度攻め落とし、その弓はのちにピロクテテスに渡ってトロイア陥落の鍵になる。
- テセウスアテナイの王で、アテナイ人にとっての国民的英雄。クレタの迷宮でミノタウロスを倒し、王女アリアドネの糸で脱出した。ヘラクレスとともにアマゾンと戦い、少女ヘレネをさらい、冥界から戻れなくなってヘラクレスに救われるなど、他の英雄譚と何度も交差する。
- アイゲウスアテナイの王で、テセウスの父。子を授かる方法をデルポイに尋ねた帰りにトロイゼンで王女アイトラと交わり、岩の下に剣とサンダルを残した。のちにメデイアを妻に迎える。息子がクレタから黒い帆のまま戻るのを見て、死んだと思い身を投げた。エーゲ海の名の由来とされる。
- オルフェウス竪琴と歌で獣や木や岩まで動かしたトラキアの詩人。亡くした妻エウリュディケを連れ戻しに冥界へ下るが、地上の手前で振り返って再び失う。この「振り返る」結末がまとまった物語として読めるのはウェルギリウスとオウィディウスからで、オペラ・映画でもっとも多く翻案されたギリシャ神話の一つ。
- イクシオン神々の食卓に招かれながらゼウスの妻ヘラに言い寄り、ゼウスが作ったヘラそっくりの雲と交わって、ケンタウロス族の祖を生ませた人間。罰として回り続ける車輪に縛りつけられる。ピンダロスは彼を「身内の血を流した最初の人間」とも呼ぶ。
- プロメテウスティタン族イアペトスの子で、人間の側に立ってゼウスを欺いた神。供犠の分け前をごまかし、火を盗んで人間に与えた。その報いに岩に縛られて鷲に肝臓を啄まれ、人間にはパンドラが送られる。
- カリストアルテミスに従って処女の誓いを立てた狩りの娘。ゼウスに身ごもらされ、熊に変えられた末、息子アルカスとともに星座(大熊座・小熊座)にされた。ホメロスは「海に沈まない熊座」を歌うだけで、その理由をカリストの物語で説明するのは後代の詩人たち。北極 arctic の「熊」ともつながる。
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
- ヘスペリデス世界の西の果て、オケアノスの向こうで黄金の林檎の木を守るニンフたち。ヘラクレスの第十一の功業はこの林檎を持ち帰ることで、すぐそばでは巨人アトラスが天空を支えている。
- 黄金の林檎ペレウスとテティスの婚礼に招かれなかった不和の女神エリスが投げ込んだ林檎。「最も美しい者へ」とされたため、ヘラ・アテナ・アフロディーテが争い、パリスの審判とトロイア戦争を引き起こす。ただし「銘が刻まれていた」という形は古い出典には見られない。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアフロディーテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルフェウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。
- りゅう座黄金のりんごの番をしていた竜は、ヘラクレスに倒されたあと、女神ヘラの手で空に上げられた。
- かんむり座酒の神ディオニュソスが、妻アリアドネの冠を空に置いた。迷宮の闇を照らした冠とも、海の底から持ち帰った冠とも語られる。
- ぎょしゃ座人間で初めて四頭の馬を車につないだ男が、馭者の姿で空にいる。その肩には、幼いゼウスに乳を与えた雌山羊が乗っている。
- おおいぬ座どんな獲物も逃さない犬が、だれにも捕まらない狐と出会ってしまった。困ったゼウスは、二匹とも石に変えた。
- ケンタウルス座英雄たちを育てた賢いケンタウロス、ケイロン。ヘラクレスの矢がたった一本、足の上に落ちたことで命を落とした。
- アルゴ座金の羊毛を求めた英雄たちの船アルゴは、海に出た最初の船として空に上げられた。ただし星になったのは、船の後ろ半分だけである。
- からす座・コップ座・うみへび座水を汲みに行ったカラスは、イチジクが熟すのを待って道草を食った。怒ったアポロンは、水の入った鉢と、それを守る水蛇を空に置いた。
- いるか座逃げた花嫁を探し出し、海の神の婚礼をまとめたイルカ。歌い手アリオンを背に乗せて岸まで運んだイルカだ、という話もある。
- や座空の小さな矢は、ヘラクレスがプロメテウスを苦しめる鷲を射落とした一本だという。指輪の始まりも、この話から語られる。