星座になった神話

ヘルクレス座の神話

Hercules

片ひざをついて戦う男の星座。竜と戦うヘラクレスとも、石を持ち上げる若いテセウスとも言われ、古代から正体が定まらなかった。

竜の頭を踏みつける英雄

ヘルクレス座は、片ひざをついた男の姿の星座である。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、前3世紀の学者エラトステネスは、これを英雄ヘラクレスだとした。すぐ下には、黄金のりんごを守る竜の星座、りゅう座がある。

ローマ期天文譜

ヘラクレスは右ひざをつき、左足で竜の頭を押さえつけようとしている。右手は棍棒を振り上げ、左手には獅子の皮を突き出す。まさに戦いの最中という姿で、この戦いぶりに感心したゼウスが、二人をそろって星にしたのだという。

ローマ期天文譜

名前の分からない「ひざをつく者」

ただし古代には、この星座がだれなのかは決まっていなかった。ヒュギヌスによれば、星座の詩を書いたアラトスは、だれなのか示せる人はいないと言っている。ギリシャ語での呼び名も「エンゴナシン」、つまり「ひざをついた者」というだけだった。

ローマ期天文譜

そこでさまざまな説が出た。若いテセウスが、父アイゲウスの残した剣を取り出そうと、トロイゼンで大きな石を持ち上げているところだという人がいる。熊に変えられた娘を嘆き、ひざをついて天に両手を差し伸べる、リュカオンの息子ケテウスだという人もいる。

ローマ期天文譜

ムーサたちに目をつぶされてひざまずく歌い手タミュリスだ、トラキアの女たちに殺されるオルフェウスだ、という説もあった。さらに、腕を縛られたイクシオンだとも、カウカソスの山につながれたプロメテウスだとも言われた。

ローマ期天文譜

石を投げて戦ったヘラクレス

悲劇詩人アイスキュロスは、劇『解き放たれたプロメテウス』で、また別のヘラクレスを描いたという。ゲリュオンの牛を連れて帰る途中、ヘラクレスはリグリア人の土地を通り、牛を奪おうとする人々と戦った。

ローマ期天文譜

矢が尽き、大勢に囲まれて傷を負ったヘラクレスは、ついにひざをついた。ゼウスは息子を哀れんで、まわりにたくさんの石を用意した。ヘラクレスはその石を投げて身を守り、敵を追い払った。ゼウスはこの戦う姿を星座にしたのだという。

ローマ期天文譜

名前の由来

北天の星座。

日本語の「ヘルクレス」は、ラテン語の Hercules を写した名で、デジタル大辞泉・世界大百科事典とも、名はギリシャ神話のヘラクレスにちなむとする。英語で Hercules と呼ばれるのは1670年代から(etymonline)。

オウィディウスはこの星座を名で呼ばず「膝をつく者」(Nixus genu)と言い、アリアドネの冠(かんむり座)がこの「膝をつく者」と「蛇を持つ者」の間に置かれたと書く。

近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語

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