いるか座の神話
Delphinus
逃げた花嫁を探し出し、海の神の婚礼をまとめたイルカ。歌い手アリオンを背に乗せて岸まで運んだイルカだ、という話もある。
海の神の縁結び
ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、前3世紀の学者エラトステネスたちは、いるか座をこう説明した。海の神ポセイドンが、アンピトリテを妻にしようとした。ところがアンピトリテは結婚を嫌い、天を支えるアトラスのもとまで逃げてしまった。
ローマ期天文譜
ポセイドンは大勢を探しに出した。その中に、デルピンという名の者がいた。島々を回った末に彼女を見つけ、ポセイドンの妻になるよう説き伏せ、婚礼まで取り仕切った。このお礼に、ポセイドンはイルカの姿を星のあいだに置いたという。
ローマ期天文譜
ポセイドンの像を作る人が、神の手や足もとにイルカを添えるのも、イルカが神のお気に入りだと考えられているからだ、とヒュギヌスは書き添えている。
ローマ期天文譜
イルカになった船乗りたち
ところが船乗りたちは、獲物ほしさに、船を別のところへ向けようとした。それに気づいたディオニュソスは、仲間たちに歌を奏でさせた。聞いたこともない音色に船乗りたちは夢中になって踊りだし、気づかぬうちに海へ飛び込んで、イルカになってしまった。ディオニュソスはこのことを人々に覚えておいてもらおうと、その一頭の姿を星のあいだに置いたという。
ローマ期天文譜
歌い手アリオンを救ったイルカ
竪琴弾きのアリオンを、シチリアの海からタイナロンの岬まで運んだイルカだ、という話もある。アリオンは腕前で並ぶ者がなく、稼ぎのために島々を回っていた。その召し使いたちが、主人を海に投げ込んで財産を山分けしようとたくらんだ。
ローマ期天文譜
たくらみに気づいたアリオンは、何度も勝ちを収めた晴れ着を着させてほしいと頼んだ。自分の最期を嘆いてくれる者は、自分のほかにいないからだ。願いがかなうと、アリオンは竪琴を手に、自分の死を嘆く歌を歌いはじめた。その音色に引かれて、海じゅうからイルカが泳ぎ寄ってきた。
ローマ期天文譜
アリオンは神々に祈って、イルカたちの上に身を投げた。そのうちの一頭が彼を受け止め、タイナロンの浜まで運んだ。そこに立てられたアリオンの像には、イルカの姿が添えられている。昔の星の学者は、このイルカを星座にしたのだという。逃げおおせたつもりの召し使いたちは、嵐でタイナロンに流れ着き、主人に捕まって重い罰を受けた。
ローマ期天文譜
名前の由来

英語の dolphin はギリシャ語 delphis から来ていて、星座の名としては15世紀初めから使われている。
近現代オンライン語源辞典
この話の項目
- ポセイドン海を支配する神で、ゼウス・ハデスの兄弟。地震と馬をも司る。『イリアス』ではギリシャ側に立つが、『オデュッセイア』では息子ポリュペモスを潰されたことを恨んでオデュッセウスの帰還を十年阻み続ける、物語の主たる敵対者。
- アンピトリテポセイドンの妻で、海の女王。ヘシオドスではネレウスの娘(ネレイスの一人)でトリトンの母。ところがホメロスでは、アンピトリテは女神というより「海そのもの」を指す名として使われ、ポセイドンの妻としては出てこない。
- アトラス世界の西の果てで天を支え続けるティタン神族の一柱。イアペトスの子でプロメテウスの兄弟にあたる。ホメロスでは海の深みを知り、天と地を隔てる柱を保つ者とされ、カリュプソの父。地名のアトラス山脈、大西洋(Atlantic)、そして地図帳の atlas へと名前が広がった。
- ディオニュソス葡萄酒と熱狂と演劇の神。ホメロスの叙事詩ではほとんど登場せず、オリュンポスの神々の中では後から加わった印象を与える。母は人間セメレで、神々の中で唯一、人間の母から生まれた主要神とされる。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアフロディーテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルフェウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。
- りゅう座黄金のりんごの番をしていた竜は、ヘラクレスに倒されたあと、女神ヘラの手で空に上げられた。
- ヘルクレス座片ひざをついて戦う男の星座。竜と戦うヘラクレスとも、石を持ち上げる若いテセウスとも言われ、古代から正体が定まらなかった。
- かんむり座酒の神ディオニュソスが、妻アリアドネの冠を空に置いた。迷宮の闇を照らした冠とも、海の底から持ち帰った冠とも語られる。
- ぎょしゃ座人間で初めて四頭の馬を車につないだ男が、馭者の姿で空にいる。その肩には、幼いゼウスに乳を与えた雌山羊が乗っている。
- おおいぬ座どんな獲物も逃さない犬が、だれにも捕まらない狐と出会ってしまった。困ったゼウスは、二匹とも石に変えた。
- ケンタウルス座英雄たちを育てた賢いケンタウロス、ケイロン。ヘラクレスの矢がたった一本、足の上に落ちたことで命を落とした。
- アルゴ座金の羊毛を求めた英雄たちの船アルゴは、海に出た最初の船として空に上げられた。ただし星になったのは、船の後ろ半分だけである。
- からす座・コップ座・うみへび座水を汲みに行ったカラスは、イチジクが熟すのを待って道草を食った。怒ったアポロンは、水の入った鉢と、それを守る水蛇を空に置いた。
- や座空の小さな矢は、ヘラクレスがプロメテウスを苦しめる鷲を射落とした一本だという。指輪の始まりも、この話から語られる。