はくちょう座の神話
鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
ただの「鳥」と呼ばれていた星座
ローマ時代のヒュギヌスは星座の本『天文譜』で、ギリシャ人はこの星座を白鳥と呼ぶ、と書く。ただ、多くの人はその由来の話を知らなかったので、ありふれた「鳥」という名で呼んでいたのだという。
ローマ期天文譜
前3世紀の詩人アラトスも、星座の詩『星辰譜』で名を出さずに「鳥」と呼んでいる。かすみに包まれてはいるが、体の上には、大きくはないがはっきりした星がちりばめられている。晴れた日に楽しげに飛ぶ鳥のように、西へすべっていく。右の翼の先は王ケペウスの右手のほうへ伸び、左の翼のそばには、跳ねる天馬がかかっているのだという。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
鷲に追われるふりをした白鳥
ヒュギヌスが伝える話はこうだ。ゼウスは女神ネメシスに恋をしたが、どうしても振り向いてもらえなかった。そこでゼウスは一計を案じ、アプロディテに鷲の姿になって自分を追いかけさせた。自分は白鳥に姿を変え、鷲から逃げるふりをして、ネメシスのもとへ逃げ込み、そのひざにおさまった。
ローマ期天文譜
ネメシスは白鳥を追い払わず、抱いてやっているうちに眠り込んでしまった。ゼウスは眠る女神と交わり、飛び去った。高く飛んでいく姿が人々には空に昇ったように見えたので、白鳥は星になったと言われるようになった。うわさを本当のことにするために、ゼウスは、逃げる白鳥と追う鷲の組を、そっくりそのまま夜空に据えたのだという。
ローマ期天文譜
夏の大三角
はくちょう座のデネブは、こと座のベガ、わし座のアルタイルと並んで、夏の夜空の「夏の大三角」をつくっている。
この話の項目
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
- ネメシス行き過ぎた幸運や傲慢に報いを与える女神。ヘシオドスでは夜(ニュクス)の娘として「死すべき人間を苦しめるため」に生まれる。叙事詩『キュプリア』ではゼウスに追われて交わり、トロイア戦争の原因となるヘレネを産んだ母とされ、ヘレネの誕生にはレダ以前にもう一つの伝えがあったことを示す。
- アプロディテ愛と欲望の女神。出自には二つのまったく異なる伝えがあり、ヘシオドスではウラノスの切り取られた性器の泡から生まれた原初的な存在、ホメロスではゼウスとディオネの娘である。トロイア戦争の原因を作り、戦場ではパリスとアイネイアスを守る。
- レダスパルタ王テュンダレオスの妻。白鳥の姿のゼウスと交わり、ヘレネやカストル・ポリュデウケスの母になったと語られる。「レダと白鳥」として絵画の題材にもなった。
- ヘレネゼウスの娘で、スパルタ王メネラオスの妻。トロイアの王子パリスに連れ去られたことがトロイア戦争の発端となる。生まれ方については諸説ある。
- ヘルメス神々の伝令であり、境界と旅人と盗人と商人の神。生まれたその日に竪琴を発明し、アポロンの牛を盗んだ。魂を冥界へ導く役目も担い、生と死、神と人の境を行き来する神として描かれる。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。