ケフェウス座の神話
王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
ゼウスの縁者として
前3世紀の詩人アラトスは、星座の詩『星辰譜』で、この一家のことも語らずにはおかない、と歌う。不運な王ケペウスの一族は、ゼウスと近い血筋だったので、その名が天にまで届いたのだという。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
王の星座は、こぐま座のすぐ後ろにあって、両手を大きく広げた人のような形をしている。小熊のしっぽの先から王の両足までの幅は、王の片足からもう片方の足までの幅とちょうど同じ。王の帯から少し横にずれたところに、大きな竜の星座の最初のとぐろが始まっている、とアラトスは書く。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
婚礼に乗り込んできた弟
ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』は、娘の婚礼の席で起きた騒ぎを描いている。英雄ペルセウスが怪物メドゥーサ退治の話をしているさなか、王の広間が荒々しい人声で埋まった。先頭に立っていたのは、王の弟ピネウスだった。アンドロメダの婚約者だった男である。
ローマ期変身物語
青銅の穂先のついた槍を振りかざし、ピネウスは叫んだ。奪われた花嫁の仇を討ちに来たぞ。お前の翼も、黄金に化けたゼウスも、今度ばかりはお前を救えまい。
ローマ期変身物語
槍を投げようとする弟に、王は叫んだ。弟よ、何をするのだ。あれほどの働きに、こんな礼で報いるのか。娘をお前から奪ったのはペルセウスではない。海の女神たちの怒りと、角のある神アンモンのお告げと、わたしの子を食らいに来た海の怪物だ。娘が縛りつけられるのを、叔父であり婚約者でもあるお前は、ただ見ていただけではないか。それほど惜しい花嫁なら、あの岩場から取り返せばよかったのだ。今は、娘を求めて救い、この老いた身に子を残してくれた者に、約束どおりのものを受け取らせてくれ。あの若者が選ばれたのは、お前に勝ったからではない。確かな死に勝ったからなのだ。
ローマ期変身物語
ピネウスは言い返さなかった。けれども槍は投げられ、広間は戦いの場になった。王も婿と一緒に死ぬべきだ、と叫ぶ者まで出たが、王はそのとき、もう広間の外へ出ていた。自分は止めたのにこうなったのだ、と、正義と信義と、客をもてなす掟の神々を証人に呼びながら。
ローマ期変身物語
この話の項目
- アンドロメダエチオピア王ケペウスとカシオペイアの娘。母が海のニンフより美しいと誇ったため、海の怪物への生贄として岩に縛られ、通りかかったペルセウスに救われて妻となった。一家そろって星座になっている。
- ペルセウスゼウスとダナエの子。見た者を石に変えるゴルゴンのメドゥサの首を取り、帰り道で海の怪物からアンドロメダを救った。ヘラクレスの曾祖父にあたり、ペルシア人の名の由来とする伝えもある。
- カシオペイアエチオピア王ケペウスの妃で、アンドロメダの母。海のニンフ(ネレイス)たちより美しいと誇ったため、ポセイドンが洪水と海の怪物を送り、娘が生贄として岩に縛られた。一家とともに星座になり、北の空でW字に並ぶカシオペヤ座がその姿とされる。アラトスとヒュギヌスは、罰として彼女が天の回転につれて頭から逆さまに沈むと書く。
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。