アポロドーロスでは、ケペウスの妃カッシエペイアがネレイス(海のニンフ)たちと美しさを競い、誰よりも美しいと誇った。ネレイスたちが怒り、ポセイドンも怒りに加わって洪水と怪物を送る。アンモンの神託が、娘アンドロメダを怪物の餌食にすれば救われると告げ、ケペウスはエチオピアの民に迫られて娘を岩に縛った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Κασσιέπεια人間
椅子に腰かけた女性の姿で描いたカシオペヤ座。シドニー・ホール(版刻)の作。 『カシオペヤ座(星座カード『ウラニアの鏡』第3図)』 シドニー・ホール(版刻) 1825年 アメリカ議会図書館(版画・写真部)Public domain
秋の宵、北の空の高いところに、5つの星がW字に並ぶ。カシオペヤ座だ。北斗七星が低くて見えにくい季節には、北極星を見つけるよい目印になる、と事典は説明している。
このWは、椅子に腰かけた女性の姿だとされる。モデルは、ギリシャ神話のエチオピアの王妃カシオペイア。ところが古代の詩人によれば、夜空の彼女は、その椅子から頭を下にして沈んでいくのだという。それは罰なのだ、と。
夜空の王妃は、なぜ逆さまにされる罰を受けたのか。そのわけをたどってみよう。
カシオペイアは、エチオピアの王の妃だった。アポロドーロスの神話集によれば、彼女は海のニンフたちと美しさを張り合い、自分は誰よりも美しいと言い放った。ニンフたちは怒り、海の神ポセイドンもその怒りに加わって、国に洪水と海の怪物を送りこんだ。
神託は告げた。王妃の娘アンドロメダを怪物に差し出せば、災いはおさまる。王は民に迫られ、娘を海辺の岩に縛りつけた。
そこへ通りかかったのが、メドゥサを退治した帰りの英雄ペルセウスだった。ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』では、岩の上の娘が、母が自分の美しさを頼みにしすぎたせいでこうなったと打ち明ける。言い終わらないうちに波がとどろき、怪物が海から迫ってきた。娘が悲鳴をあげる。父と母が駆けつけた。二人とも嘆いていたが、嘆くいわれがより深いのは母のほうだった、と詩人は書いている。
助けを連れて来るでもなく、娘にすがって泣くばかりの両親に、ペルセウスは言った。泣くのはあとでもできる。助けるのは今だ。自分の力で救えたら、娘を妻にもらいたい。両親は承知し、王国まで持参金につけると約束した。怪物は倒され、両親は大喜びで婿を迎えた。

アンドロメダの物語は、ここでめでたく終わる。けれども、母の物語には続きがある。空の上で。
紀元前3世紀のアラトスは、星座を題材にした詩『星辰譜』で、この星座を「不運なカシオペイア」と呼んだ。大きな星座ではない。星の並びは、二枚扉の内側のかんぬきを打ち上げる鍵のようだ。狭い肩から両腕を広げたその姿は、娘のことを嘆いているようにも見える。そのすぐそばを、母のせいで苦しんだ娘の星座がめぐっている。
そして、カシオペイアが沈むときのことを、アラトスはこう書いている。娘の姿を追って急ぐ彼女の足と膝は、もう椅子の上にきちんとは見えない。頭から、水にもぐる者のように沈んでいく。海のニンフたちと張り合って、ただですむはずはなかったのだ、と。
ローマ時代の天文書も、同じことを伝える。美しさでニンフたちに勝ると誇ったために、彼女は椅子に座った姿で星になった。けれどもその不敬のために、天がめぐるにつれて、あおむけに運ばれていくように見えるのだという。
もっとも、誇ったのが自分の美しさか、娘の美しさかは、書き手によって違う。同じローマ時代の神話集では、カシオペイアは、娘アンドロメダの美しさが海のニンフたちに勝ると言ったことになっている。
この物語の出典: アラトス『星辰譜(パイノメナ)』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』、小学館『デジタル大辞泉』
アポロドーロスでは、ケペウスの妃カッシエペイアがネレイス(海のニンフ)たちと美しさを競い、誰よりも美しいと誇った。ネレイスたちが怒り、ポセイドンも怒りに加わって洪水と怪物を送る。アンモンの神託が、娘アンドロメダを怪物の餌食にすれば救われると告げ、ケペウスはエチオピアの民に迫られて娘を岩に縛った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヒュギヌスの『神話集』では、カシオペは娘アンドロメダの美しさがネレイスたちに勝ると言った。そのためネプトゥヌス(ポセイドン)がアンドロメダを海の怪物に差し出すよう求めた。
ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃
オウィディウスでは、アンドロメダ自身が罰の理由を「母が自分の美しさを頼みにしすぎたこと」と語り、詩人はこの罰を不当とする。怪物が迫ると父と母が駆けつけ、二人とも嘆くが「より正当な理由で嘆いたのは母」とされる。救出後、カシオペとケペウスはペルセウスを婿として迎える。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ヒュギヌスの『天文譜』は、エウリピデス、ソポクレスらによれば、カシエピアはネレイスより美しいと誇ったため、椅子に座った姿で星座になったが、その不敬のため、天が回るにつれて、あおむけに運ばれていくように見える、と記す。同書は、一家を記念するため神々がケペウスも星座に加えたとし、アンドロメダは父母の反対を押し切ってペルセウスについて行ったとも書く。
ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』 1〜2世紀
現代の日本の事典では、カシオペヤ座は5つの星がW字形に並ぶ北天の星座で、秋の宵に北の空高く昇り、北斗七星が低いときに北極星を見つける目印になる。W字形は、カシオペヤが椅子に腰かけた姿とされる。
小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』 1984-94年刊、随時改訂(2026年9月閲覧)、小学館『デジタル大辞泉』 随時改訂
アラトスの『星辰譜』では、「不運な」カッシエペイアは大きな星座ではなく、満月の夜にも見える。星の並びは二枚扉の閂を打ち上げる鍵のようで、狭い肩から両腕を広げた姿は、娘を嘆いているかのようだとされる。そばには「母のもとでつらい目にあった」アンドロメダの星座がめぐる。
アラトス『星辰譜(パイノメナ)』 前3世紀前半
アラトスは、沈んでいくカッシエペイアについて、娘の姿を追って急ぐ彼女の足と膝はもう椅子の上にきちんと見えず、潜る者のように頭から沈むと書き、ドリスやパノペ(ネレイスたち)と張り合ったからには、ただではすまなかったのだ、と結ぶ。
アラトス『星辰譜(パイノメナ)』 前3世紀前半
カシオペヤ座 / Cassiopeia北の空でW字(裏返せばM字)に並ぶカシオペヤ座は、椅子に腰かけた王妃の姿とされる。空の上では、いつも北斗七星の反対側にいる。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、この王妃は、自分の美しさは海の女神たちにまさると自慢した。その罰当たりのせいで、天がめぐるにつれて、椅子に座ったまま頭を下にして運ばれていくのだという。紀元前3世紀のアラトスの詩『星辰譜』も、西へ沈むときの王妃は、玉座の上で行儀よく輝くどころか、飛び込む人のように真っ逆さまになる、海の女神たちと張り合った報いだ、と書いている。語源辞典によれば、名前の意味は分かっていない。1572年にこの星座に現れた新星は金星よりも明るく輝き、天文学者ティコ・ブラーエらが観測して、天文学の考え方を一変させる一因になった。