出典 · ローマ期
変身物語
オウィディウス · 8年頃 · Metamorphoses
第12〜14巻がトロイア戦争とアエネアスの旅。
日本語訳: 中村善也訳、岩波文庫、1981-84 · 原文・参考リンク ↗
この出典が語っていること
アカイメニデス
- オウィディウスでは後日談がある。アイネイアスの船がイタリアの海岸(「まだ乳母の名がついていない」浜、のちのカイエタ)に寄ったとき、アカイメニデスは、オデュッセウスの仲間で旅に疲れてそこに住みついていたマカレウスと再会する。死んだと思っていた相手が生きていることに驚くマカレウスに、アカイメニデスはポリュペモスの恐ろしさとアイネイアスへの恩を語り、マカレウスはその後のキルケの島での出来事を語り返す。 (14.154-222(浜は 14.157、マカレウスの語りは 14.223 以下))
- 関係: companion → odysseus (『アエネイス』3.613「不運なウリクセスの仲間」、3.616-618 洞窟から急いで逃げる仲間に置き去りにされた。『変身物語』14.158-222)
- 関係: enemy → polyphemus (『アエネイス』3.616-654 仲間が食われるのを見て、目を潰すのに加わった。『変身物語』14.167-217)
- 関係: companion → aeneas (『アエネイス』3.610-611 アンキセスが手を差し出して迎え、3.666-667 船に乗せて逃げる。3.690-691 シチリアの岸を案内する。『変身物語』14.220「ギリシャ人をトロイアの船が迎えた」)
アケロン
- 川としてではなく人格としてのアケロンが、父として出てくる話もある。アポロドーロスでは、ペルセポネが柘榴の実を食べたと告げ口したアスカラポスは、アケロンとゴルギュラの子。オウィディウス『変身物語』では、アスカラポスはオルプネが暗い森でアケロンとのあいだに産んだ子とされる。 (アポロドーロス1.5.3、『変身物語』5.539-541)
アキレウス
- アキレウスの死は『イリアス』の外側にある。『アイティオピス』要約ではトロイア勢を追って市中に攻め入り、パリスとアポロンに討たれる。アポロドーロス摘要 5.3 は「スカイア門でアレクサンドロス(パリス)とアポロンに踝(くるぶし)を射られた」とする。オウィディウス『変身物語』ではアポロンがパリスの矢を導くが、踵とは書かれない。 (『アイティオピス』要約(プロクロス)、アポロドーロス摘要 5.3、『変身物語』12.580-628)
アキス
- オウィディウスの形: アキスはファウヌスとシュマイトス川のニンフの子で、16歳になったばかりの、頬にうっすら産毛の生えた美しい若者。両親の喜びだったが、ガラテイアの喜びはそれ以上だった、と彼女自身がスキュラに語る。 (Met. 13.750-754)
- ガラテイアと一緒にいるところをポリュペモスに見つかり、アキスは「助けて、ガラテイア、父母よ」と叫んで逃げるが、巨人が投げた岩の端に押し潰される。ガラテイアはアキスに祖父(川の神)の力を取らせた。岩からにじんだ血は濁った雨水の色になり、やがて澄んで、割れた岩から葦が伸び、角を葦で巻いた青い顔の若者が腰まで現れた。アキスは川となり、昔の名を保った。 (Met. 13.873-897(叫び 13.879-881、変身 13.885-897))
- アキスという名の川は、オウィディウスより前のテオクリトスにすでに出てくる。第1歌で、牧人テュルシスがやせ衰えて死んだダプニスを悼み「エトナの見張り場にも、アキスの聖なる水にもいなかったのか」とニンフに呼びかける。ただしテオクリトスのポリュペモスとガラテイアの歌(第6歌・第11歌)には恋敵アキスは登場しない。アキスを恋の三角関係に置いたのは、現存する資料ではオウィディウスが最初とされる。 (『牧歌』1.69 / 第6歌・第11歌にアキスの名はない(本文で確認)。「オウィディウスが最初」は研究書で未確認)
- ガラテイアに恋したポリュペモスは、硬い髪をくまで梳かし、ひげを鎌で刈りそろえ、水に映る顔を見て表情をつくる。予言者テレモスが「お前の一つ目はオデュッセウスに奪われる」と告げると、「もう別の女に奪われた」と笑う。 (13.765-777)
- ポリュペモスは海に突き出た丘に座り、百本の葦の笛を吹いてガラテイアをさまざまなものにたとえて歌う。ガラテイアはアキスの胸に寄りかかって、岩陰でその歌を聞いていた。 (13.778-869)
- 関係: lover → galatea (Met. 13.750-757「彼は私だけと結ばれていた」)
- 関係: killed_by → polyphemus (Met. 13.882-884 山から引きはがした岩の角だけでアキスを覆い尽くす)
- 関係: enemy → polyphemus (Met. 13.860-866 ポリュペモスは恋歌の中で、アキスの体を引き裂いて海にまくと脅す)
アクリシオス
- オウィディウスでは、アバスの子アクリシオスだけが、ディオニュソス(バッコス)をゼウスの子と認めずアルゴスの城壁から締め出し、金の雨から生まれたペルセウスもゼウスの子と認めなかったが、のちにその両方を悔やんだ。また、プロイトスがアクリシオスを武力で追ってその城を奪い、帰ったペルセウスが「罪のない祖父」のためにゴルゴンの首でプロイトスを石にしたとも語る。 (4.607-614、5.236-241)
- 関係: enemy → dionysus (4.607-614 ただ一人ディオニュソス(バッコス)をゼウスの子と認めず、アルゴスに入れまいとする)
アクタイオン
- アリスタイオスと、カドモスの娘アウトノエの子。つまりカドモスの孫で、ディオニュソスやペンテウスとはいとこにあたる。テーバイ王家の不幸の最初の一つとして語られる。 (3.4.4 /『神統記』977(アウトノエとアリスタイオス)/ Met. 3.138-142)
- 「水浴び」の形: アポロドーロスは「大多数の人の説では」として、アルテミスの水浴びを見てしまったため、女神がその場で鹿に変え、50匹の猟犬を狂わせたとする。オウィディウスはこの形を詳しく描き、アクタイオンが偶然洞窟の泉に迷い込んだだけで罪はなかったと強調する。女神は水をかけて「見たと言えるものなら言ってみよ」と告げ、鹿に変える。 (3.4.4 / Met. 3.138-205(罪のなさ 3.141-142、女神の言葉 3.192-193))
- オウィディウスは猟犬の名を30頭以上並べ、声の出ない鹿の姿のアクタイオンを、仲間の狩人たちが「アクタイオンはどこだ」と呼びながら追い立てる場面を描く。アポロドーロスには、主人を失って吠え続ける猟犬のために、ケイロンがアクタイオンの像を作って慰めたという結末が残る。 (Met. 3.206-252(犬の名 3.206-225)/ 3.4.4)
- オウィディウスは話の前置きで、よく調べれば彼の身にあったのは運の罪であって悪事ではない、迷うことのどこが悪事か、と断っている。 (3.141-142)
- アルテミスは手近に矢がないので水をすくって彼の顔に浴びせ、「私の裸を見たと話せるものなら話すがいい」と言う。頭に角が生え、首・耳・手足が変わり、水に映った姿を見て嘆こうとしても声が出ず、心だけがもとのままだった。 (3.185-203)
- 関係: enemy → artemis (Met. 3.138-252 / 3.4.4 / 『バッコスの信女』337-340)
アドニス
- オウィディウスは同じ筋を、キュプロス王キニュラスとその娘ミュラの話として語る。キニュラスはピュグマリオンと彫像の女の孫にあたり、オルペウスが歌う一連の物語の中で、ピュグマリオン→キニュラスとミュラ→アドニスと、三代の話が続けて語られる。 (Met. 10.243-297(ピュグマリオン)、10.298-518(ミュラとアドニスの誕生))
- オウィディウスの形: アプロディテ(ウェヌス)は獅子や猪のような獣には近づくなと忠告するが、アドニスは猪を追い、牙に突かれて死ぬ。女神は彼の血にネクタルを注ぎ、ザクロのような赤い花を咲かせた。その花ははかなく、「名を与える風」に花びらを散らされる、と結ばれる。ギリシャ語で風は anemos で、アネモネの由来譚として読まれている。 (Met. 10.708-739。花の名そのものは書かず、10.739 で「その名を与える風」とだけ言う)
- オウィディウスでは、エロスの矢に胸をかすられたウェヌス(アプロディテ)はアドニスに夢中になり、キュテラやパポスにも天上にも寄りつかず、ディアナのように裾をからげて狩りに付き添う。獲物は兎や鹿などに限り、猪・狼・熊・獅子には近づくなと忠告する。 (10.525-552)
- アドニスの死に際して、ウェヌスは「私の嘆きの記念は永遠に残り、死の姿が毎年くり返されて嘆きが演じられるだろう」と誓う。毎年の哀悼祭を物語の側から説明した一節。 (10.724-727)
- 関係: lover → aphrodite (Met. 10.519-559, 10.708-739 / 3.14.4 / サッポー断片 140a)
アイアコス
- 島でひとりきりのアイアコスのため、ゼウスが蟻を人間に変えた(アポロドーロス、ヘシオドスの断片)。ヒュギヌスでは、ヘラが水に蛇を送って毒を入れたため民が死に、アイアコスの願いでゼウスが蟻を人に変えて、ギリシャ語で蟻を「ミュルメケス」ということからミュルミドネスと名づけた。オウィディウスでは疫病の原因はヘラ(ユノ)の怒り。パウサニアスは、アイアコスが民を求めるとゼウスが地から人々を生え出させた、というアイギナの伝えを記す。 (アポロドーロス3.12.6、『カタログ』断片(エヴリン=ホワイト53)、ヒュギヌス52、『変身物語』7.523-657、パウサニアス2.29.2)
- アポロドーロスによれば、アイアコスは死後もプルトン(ハデス)の館で敬われ、ハデスの鍵を預かる。プラトン『ゴルギアス』の神話では、ヨーロッパから来た死者を裁く裁判官で、杖を持つ。オウィディウスでは、大アイアスが、祖父アイアコスは沈黙の者たちの国で法を与え、ゼウスはこれを自分の子と認めているから、自分はゼウスから数えて三代目だと誇る。 (アポロドーロス3.12.6、『ゴルギアス』523e-526c、『変身物語』13.25-28)
- オウィディウスでは、アテナイ攻めの援軍を求めてきたミノスに、老王アイアコスはアテナイとの盟約を理由に断る。その後、アテナイからの使者ケパロスに、疫病と蟻の民の話を語り、息子のテラモンとペレウスを援軍として送る。 (7.472-500、7.517-660、7.864-8.5)
- 関係: ruler → myrmidons (アポロドーロス3.12.6、『変身物語』7.614-657、『カタログ』断片(エヴリン=ホワイト53) ゼウスが蟻を人に変えてアイアコスの民とする)
- 関係: grandparent → ajax-the-great (『変身物語』13.25-28、アポロドーロス3.12.6-7(テラモンの子))
- 関係: judge → underworld (『ゴルギアス』524a ヨーロッパから来た死者を裁く。『変身物語』13.25-26 沈黙の者たちに法を与える)
アイゲウス
- メデイアを妻にしていたアイゲウスは、やって来た若者テセウスをメデイアにそそのかされて毒殺しかけたが、剣を見て息子と気づいて杯を払い落とした。 (摘要 1.5-6、『変身物語』7.404-424)
アイテル
- ローマのオウィディウスも aether を天の最上層の意味で使う。ギガースたちが天の王座を狙った話は「高きアイテルが大地より安全でないように」という前置きで始まる。 (1.151-153)
アガウエ
- オウィディウスの形: アガウエは儀式を覗く息子を最初に見つけ、テュルソスで打ち、姉妹に「われらの畑をうろつくあの大猪を打て」と叫ぶ。息子が腕をもがれて「母上、見て」と訴えると、彼女は叫び声をあげて首を引きちぎり、「この勝利は私たちのもの」と勝ち誇る。 (Met. 3.710-731)
- 関係: parent → pentheus (『バッコスの信女』507 / 3.5.2 / Met. 3.725 / 『神話伝説集』184。夫はスパルトイ(竜の歯から生まれた戦士)の一人エキオン(『バッコスの信女』538-541, 1274 / Met. 3.126))
- 関係: killed → pentheus (『バッコスの信女』1114-1147 / 3.5.2 / Met. 3.710-731 / 184)
アゲノル
- エウロペが消えると、アゲノルは息子たちに、見つけるまで帰ってくるなと命じて探しに出す。母テレパッサと、タソス(ポセイドンの子、ペレキュデスではキリクスの子)も同行した(アポロドーロス)。オウィディウスは、見つけられなければ追放すると言い渡した父を「同じひとつの行いで、敬虔にして非道」と評する。 (アポロドーロス3.1.1、『変身物語』3.3-5(facto pius et sceleratus eodem))
- 関係: parent → europa (アポロドーロス3.1.1(母はテレパッサ)、ヒュギヌス178(母はアルギオペ)、『変身物語』2.858「アゲノルの娘」)
- 関係: parent → cadmus (アポロドーロス3.1.1、ヘロドトス4.147、『変身物語』3.8「アゲノルの子」、ヒュギヌス6)
人間の五つの時代
- オウィディウス『変身物語』では時代は金・銀・青銅・鉄の四つで、英雄の時代はない。金の時代には法も罰もなく、船も城壁も武器もなく、永遠の春の中で乳とネクタルの川が流れ、樫から蜂蜜がしたたった。サトゥルヌス(クロノス)がタルタロスへ送られユピテルの世になると銀の時代となり、季節と家と農耕が始まる。 (1.89-124)
- オウィディウスの鉄の時代には、恥・真実・信義が逃げ、欺き・暴力・所有欲が入れ替わる。航海が始まり、土地に境界が引かれ、鉄と「鉄よりも害の多い」金が掘り出された。血に濡れた大地を、天の神々のうち最後に処女アストライアが去った。その後に巨人の反乱、リュカオンの話、大洪水が続く。 (1.127-162)
- 関係: participant → kronos (『仕事と日』111 金の種族はクロノスの治世に生きた。『変身物語』1.113 サトゥルヌスが追われて銀の時代に)
- 関係: followed_by → deucalions-flood (1.151-312 鉄の時代、巨人、リュカオンの話のあとに洪水)
大アイアス
- オウィディウス『変身物語』では、彼の血から花が咲き、その花びらに嘆きの声とアイアスの名の頭文字にあたる文字が読めるとされる。 (13.394-398。ヒュアキントスの血から生えた花と同じ花で、花びらの文字が「アイアース」の頭とも嘆きの声「アイアイ」とも読める)
アルクメネ
- オウィディウスでは、アルクメネ自身が7日7晩の難産を語る。ヘラに言い含められた出産の女神ルキナが戸口の前の祭壇に座り、膝を組み指を組んで呪文を唱えて出産を止めていた。侍女ガランティスが「お産は済んだ」と偽ると、女神は驚いて手をほどき、出産が進んだ。笑った侍女は、女神にイタチに変えられた。 (9.285-323)
アルキュオネ
- 父親のアイオロスは、出典によって別人になる。アポロドーロスでは、ギリシャ人の名祖ヘレンの子アイオロスの娘。オウィディウスではアルキュオネ自身が「父ヒッポテスの子は、強い風を牢に閉じ込めている」と言い、『オデュッセイア』でオデュッセウスに風の袋を渡した風の番人アイオロスを父にしている。物語の最後に、娘夫婦の子育てのために父が風を封じるという結びは、この系譜があって成り立つ。 (アポロドーロス 1.7.3-4 / Met. 11.431-432、11.747-748 /『オデュッセイア』10.1-2(ヒッポテスの子アイオロス))
- オウィディウスのアルキュオネは、夫が船旅に出ると聞いて骨まで凍り、三度言いかけて三度泣き崩れる。風の神の娘として、海の風がどれほど荒々しいかを子どものころから見てきたので、陸路ならまだしも海はやめて、行くなら私も連れて行って、と訴える。 (Met. 11.415-443)
- 夢で夫の死を知ったアルキュオネは、朝、夫を見送った浜で、沖から流れてくる遺体を見つける。夫だと分かると、防波堤に駆け上がって身を投げた。そのまま翼が生えて悲しげな声で鳴きながら波をかすめ、遺体を翼で抱いてくちばしで口づけた。神々があわれんで二人とも鳥に変え、鳥になっても夫婦の愛は続いた。 (Met. 11.710-744)
- オウィディウスは、冬の穏やかな7日間、アルキュオネが海に浮かぶ巣で卵を温め、そのあいだ父アイオロスが風を外に出さず、孫たちのために海を凪がせる、と結ぶ。英語の halcyon days は、冬至のころの14日間の凪をいう言い方で、実際のカワセミの習性とは関係がない。オウィディウスより前、前3世紀のテオクリトスも、カワセミは波と南風と東風を鎮める鳥で、海のネレイデスに最も愛された鳥だと歌っている。 (Met. 11.744-748 / etymonline の halcyon の項 /『牧歌』7.57-60。日数は出典で違い、オウィディウスは7日、英語の成句は14日とする。語源記事 etymologies/halcyon-days も参照)
- オウィディウスでは、ユノ(ヘラ)が死者のための祈りに耐えかねてイリスを眠りの神ソムヌスの館へ遣わす。館はキンメリオイの近くの洞窟で、日の光が届かず、鶏も犬も鳴かず、レテの流れが音を立て、戸口にはケシが咲く。ソムヌスは息子モルペウスを送り、モルペウスはケユクスの姿で、嵐で船が砕け妻の名を呼びながら死んだと告げ、弔いを求める。アルキュオネは眠ったまま空を抱き「待って、一緒に行く」と叫ぶ。 (11.573-678)
- 関係: spouse → ceyx (Met. 11.410-748 / 1.7.4)
- 関係: child → aeolus (Met. 11.431「私の父ヒッポテスの子(アイオロス)は、強い風を牢に閉じ込めている」、11.748 孫たちのために風を封じる。オウィディウスは『オデュッセイア』の風の番人アイオロスを父にしている)
- 関係: advisee → hypnos (Met. 11.583-676 ユノの命でソムヌス(ヒュプノス)が子モルペウスを夢として送り、夫の死を知らせる)
- 関係: advisee → hera (Met. 11.578-588 アルキュオネの祈りを受けたユノ(ヘラ)が、夫の死を夢で知らせるよう命じる)
アルタイア
- 薪の形: メレアグロスが生まれたとき(アポロドーロスでは生後7日目)、運命の女神たちが「炉の薪が燃え尽きるとき、この子も死ぬ」と告げた。アルタイアは薪を火から取り出して水をかけ、奥にしまっておいたが、兄弟の死を知ると取り出して火に投じた。バッキュリデス(前476年)では「飾りのある箱から」取り出したとされる。 (バッキュリデス 5.136-144 / 1.8.2-3 / Met. 8.451-459, 8.511-514)
- オウィディウスは、薪を火に投じるまでのアルタイアの迷いを長い独白で描く。姉としての思いと母としての思いのあいだで何度も手を止め、ついに顔を背けて震える手で薪を投げ入れる。薪は燃えながら呻いたとも、そう見えただけともいう。 (Met. 8.460-514)
- 最期: アポロドーロスでは、息子の死の後、アルタイアはメレアグロスの妻クレオパトラと共に首を吊る。オウィディウスでは、自らの行いを悔いて剣で腹を刺す。 (1.8.3 / Met. 8.531-532)
- アルタイアの兄弟たち(テスティオスの息子たち)は、猪狩りの参加者としてどの名簿にも入っている。名前は出典で違い、バッキュリデスではイピクロスとアパレス、オウィディウスではプレクシッポスとトクセウス、テゲアの破風(パウサニアス)ではプロトオスとコメテス。 (バッキュリデス 5.127-129 / Met. 8.440-444 / 8.45.6)
- オウィディウスでは、兄弟の亡骸を見たアルタイアが金の衣を黒に替え、殺したのが息子だと知ると悲しみが復讐心に変わる。薪を4度火に投じかけては4度手を止め、「母と姉が争う」。最後は顔を背けて投げ入れ、メレアグロスは遠くで見えない炎に焼かれ、火が消えると同時に死ぬ。アルタイアはのちに剣で自害する。 (8.445-532)
- 関係: parent → meleager (『イリアス』9.555 / バッキュリデス 5.136-140 / 1.8.2 / Met. 8.451-459)
- 関係: killed → meleager (運命の薪を燃やす。バッキュリデス 5.136-144 / 1.8.3 / Met. 8.460-525)
- 関係: participated_in → calydonian-boar-hunt (狩りの後日談の当事者。1.8.3 / Met. 8.445-532)
アマルテイア
- ヘラクレスはデイアネイラを得るため、雄牛の姿の河神アケロオスと組み打ちして角を折る。オウィディウスでは、ナイアスたちがその角を果物と花で満たして捧げ、「善き豊穣(ボナ・コピア)は私の角で豊かになった」とアケロオス自身が語る。 (9.82-92)
アンピアラオス
- 関係: participated_in → calydonian-boar-hunt (1.8.2 猪の目を射る / Met. 8.316-317 / 8.45.7)
アンドロメダ
- オウィディウスでは、空から見たペルセウスは、風に髪がなびき涙が流れていなければ大理石の像だと思ったほどだった。罪は「母の舌」にあり、罰は不当だとはっきり書かれる。 (4.670-675)
- オウィディウスでは、ペルセウスは嘆く両親に「泣くのは後でもできる」と言い、自分の力で救えば妻にもらうと取り決める。両親は承知し、王国まで持参金に加えると約束した。 (4.695-705)
- 怪物を倒したペルセウスが手を洗うあいだ、メドゥーサの首を海藻の上に置くと、海藻が首の力を吸って固くなった。海のニンフたちが面白がって繰り返し、その種を海にまいた。珊瑚が空気に触れると固くなるのはこのためだ、とオウィディウスは語る。 (4.740-752)
- 名を問われたアンドロメダは初め黙り、手が自由なら恥じらって顔を覆っただろう、と書かれる。問い重ねられてようやく名と国と、母が美貌を誇ったことを打ち明ける。 (4.681-688)
- 関係: spouse → perseus (アポロドーロス 2.4.3、ヘロドトス 7.61.3、オウィディウス『変身物語』4.735-739)
アンタイオス
- オウィディウスでは、毒の衣に苦しむヘラクレスが、これまでの手柄を数え上げる中で「獰猛なアンタイオスから母の助けを奪った」と言う。 (9.183-184)
アンティゴネ
- 同名の別人: オウィディウスの『変身物語』でアラクネが織る布の片隅に描かれる「アンティゴネ」は、トロイア王ラオメドンの娘で、ユノと美を競ったためにコウノトリ(白い鳥)に変えられた人物。オイディプスの娘とは関係がない。 (Met. 6.93-97)
アポロン
- ダプネを追い、彼女が月桂樹に変わって月桂冠がアポロンの木となる話はオウィディウスで語られる話で、ホメロス・ヘシオドスには見えない。 (1.452-567)
アラクネ
- オウィディウスの形: コロポンの染物師イドモンの娘で、身分は低いが機織りの腕で名を上げ、ニンフたちも見物に来るほどだった。アテナに習ったのだろうと言われるのを嫌い、女神と勝負させろと言い放つ。老婆に化けた女神の忠告も退け、正体を現した女神と織り比べをする。 (Met. 6.5-69)
- 二人の布の図柄が対照的に描かれる。女神はアテナイの守護をめぐるネプトゥヌスとの争いで自分が勝つ場面を中央に置き、四隅に神々に逆らった人間の末路を織る。アラクネは神々が人間の女をだました場面を次々に織り、その最初がエウロペをさらう牡牛に化けたユピテル(ゼウス)。レダ、ダナエ、アンティオペなども並ぶ。女神にもあら探しのできない出来だった。 (Met. 6.70-128(アテナの布 6.70-102、アラクネの布 6.103-128、エウロペは 6.103-107))
- 出来に腹を立てた女神は布を裂き、杼(ひ)でアラクネの額を何度も打つ。アラクネは首を吊るが、女神は「生きよ、ただしぶら下がったまま」と言い、ヘカテの薬草の汁を振りかけてクモに変えた。頭は小さくなり、指は細い脚になり、体のほとんどは腹になって、そこから今も糸を出して昔の機織りを続ける。 (Met. 6.129-145)
- アラクネの物語をまとまった形で伝える古代の資料は、ほぼオウィディウスに限られる。少し前のウェルギリウスも、戸口に網を張る「ミネルウァに憎まれたクモ」という言い方をしており、クモと女神の対立という発想自体はオウィディウス以前からあったことがうかがえる。 (『農耕詩』4.246-247。「ほぼオウィディウスに限られる」は他資料の網羅的な確認をしていない)
- アテナは杖をついた白髪の老婆に姿を変えて現れ、人間の中で一番と言われるのはよいが女神には譲って許しを請えと忠告する。アラクネが女神はなぜ自分で来ないのかと言い返すと、女神は「来ている」と言って正体を現した。 (Met. 6.26-44)
- 関係: enemy → athena (Met. 6.5-145 技比べを挑み、クモに変えられる)
アリアドネ
- アポロドーロスでは、ナクソス島でディオニュソスが彼女に恋して連れ去り、レムノスで子をもうけた。オウィディウスでは、テセウスがディア島の浜に置き去りにしたのを、リベル(ディオニュソス)が慰めて救い、冠を天に投げ上げて星座にした。 (アポロドーロス摘要 1.9、『変身物語』8.174-182)
- オウィディウスでは、ディオニュソスが彼女の額の冠を天に放つと、宝石が火の輝きに変わり、冠の形のまま「膝をつく者」(のちのヘルクレス座)と「蛇を持つ者」(へびつかい座)の間に並んだ。かんむり座の由来譚である。 (8.177-182)
- 関係: lover → theseus (『オデュッセイア』11.321-325、アポロドーロス摘要 1.8-9、『変身物語』8.172-176)
- 関係: spouse → dionysus (『神統記』947-949、アポロドーロス摘要 1.9、『変身物語』8.176-179)
アキレウスの武具
- オウィディウス『変身物語』13巻は、武具争いをアイアスとオデュッセウスの長い弁論合戦として書く。武勇を並べるアイアスに対し、オデュッセウスは言葉で勝つ。力より弁舌が勝つという読み方が、ローマ期の修辞の文化の中で前面に出てくる。 (13.1-398)
アルテミス
- 水浴を見たアクタイオンを鹿に変え、自分の猟犬に食い殺させる話はオウィディウスで語られる。 (3.138-252)
アスクレピオス
- オウィディウスは、疫病に苦しむローマがエピダウロスからアスクレピオス(アエスクラピウス)を迎えた話を語る。神は夢の中で「杖に巻きつくこの蛇をよく見ておけ」と告げ、大蛇の姿でローマの船に乗り込み、テヴェレ川の中州に上陸して疫病を鎮めた。 (15.622-744(杖と蛇は 15.659))
アタランテ
- 父の名が割れる。アポロドーロスは、アルカディアのイアソスの娘とし、男子を望んだ父に捨てられて雌熊に育てられたと語ったうえで、「ヘシオドスらはスコイネウスの娘、エウリピデスはマイナロスの娘とし、夫もメラニオンではなくヒッポメネスとする」と書き添える。オウィディウスも、猪狩りの場面では「テゲアの」、徒競走の場面では「スコイネウスの娘」と呼び分けている。アルカディアの狩人とボイオティアの走者が、同じ名で語られていることになる。 (3.9.2 / Met. 8.317, 10.609)
- 猪狩りでは、ケペウスやアンカイオスが女と狩りをするのを嫌がったが、メレアグロスが同行させた。アタランテが最初に猪の背に矢を当て、メレアグロスが止めを刺して、皮を彼女に与える。オウィディウスでは、矢が耳の下をかすめて毛を赤く染め、メレアグロスが「武勇の褒美を受けよ」と叫ぶ。これに怒ったテスティオスの息子たちが皮を奪い、メレアグロスに殺される。 (1.8.2-3 / Met. 8.380-444)
- 徒競走: 求婚者はアタランテと走り、負ければ殺される。オウィディウスでは、アプロディテがキュプロス島タマソスの畑の木から摘んだ3つの黄金の林檎をヒッポメネスに渡し、彼はそれを走りながら投げてアタランテが拾う間に勝つ。アポロドーロスでは林檎を持って来るのはメラニオン。ヒュギヌスでは、求婚者が武器を持たずに先に走り、アタランテが武器を持って追う、という形になっている。 (Met. 10.560-680(林檎 10.644-651)/ 3.9.2 / 185)
- 結末は獅子への変身。アポロドーロスでは、狩りの途中でゼウスの神域に入り、そこで交わったため獅子に変えられた。オウィディウスでは、恩を忘れたヒッポメネスに怒ったアプロディテが、キュベレの神殿の洞で二人に欲情を起こさせ、神殿を汚された女神キュベレが二人を獅子にして自分の車を引かせた。ヒュギヌスでは、パルナッソス山で勝利のゼウスに犠牲を捧げる途中、アプロディテの怒りで神域の中で交わり、ゼウスが二人を獅子と雌獅子に変えた。 (3.9.2 / Met. 10.681-704 / 185)
- オウィディウスでは、結婚について問うたアタランテに神が「夫は要らない、結婚を避けよ。だが逃れられず、生きながら自分を失うだろう」と告げたので、彼女は求婚者に命がけの駆けくらべを課した。 (10.564-572)
- 関係: participated_in → calydonian-boar-hunt (1.8.2 / Met. 8.317-328, 8.380-387 / 『神話伝説集』173-174 / 8.45.6 テゲアの破風)
- 関係: courted_by → meleager (1.8.2 / Met. 8.324-328, 8.425-427 猪の頭と皮を贈られる)
- 関係: spouse → hippomenes (Met. 10.560-680 / 185 / 3.9.2(エウリピデスは夫をヒッポメネスとする、と))
- 関係: courted_by → hippomenes (Met. 10.575-680 徒競走 / 185)
- 関係: enemy → aphrodite (Met. 10.681-704 礼を欠いたヒッポメネスと共に、アプロディテの怒りで獅子に変えられる / 185)
アタマス
- オウィディウスでは、ユノが冥界から復讐女神ティシポネを呼び寄せてアタマスを狂わせる。アタマスは妻を雌獅子、子を仔獅子と思い込み、母の腕からレアルコスを奪って岩に叩きつける。 (4.481-530)
- オウィディウスでは、ティシポネに狂わされたアタマスが宮殿で「網を張れ、ここに雌獅子と二頭の子獅子を見たぞ」と叫び、妻を獣のように追い、母の懐から笑って小さな腕を伸ばすレアルコスを奪い取って、投石器のように振り回して岩に叩きつけた。 (4.512-519)
- 関係: spouse → ino-leucothea (アポロドーロス 1.9.1, 3.4.3、『変身物語』4.416-542)
- 関係: enemy → hera (アポロドーロス 1.9.2, 3.4.3、『変身物語』4.416-542。ディオニュソスを育てたことを恨んだヘラに狂わされる)
アテナ
- 機織り比べでアラクネを蜘蛛に変える話はオウィディウスで語られる。ギリシャの古い叙事詩には見えない逸話である。 (6.1-145)
アテナイ
- オウィディウスでは、アラクネとの機織り競争でアテナ(ミネルウァ)が織り出す図柄が、まさにこの争い。十二神が並ぶ前で、ネプトゥヌスが岩を打って海を湧かせ、ミネルウァがオリーブを生やす。 (6.70-82)
アトラス
- オウィディウスでは、メドゥサを退治して帰るペルセウスがアトラスの国で宿を求めて拒まれ、メドゥサの首を見せてアトラスを巨大な山に変える。髭や髪は森に、肩や腕は尾根になり、天とすべての星がその上に載った。 (4.627-662)
- オウィディウスでは、アトラスは、黄金の林檎の木を奪う者がゼウスの子として現れるという予言(テミスの予言)を恐れて、宿を求めたペルセウスを力ずくで追い払おうとし、そのためにメドゥサの首で山に変えられる。 (4.643-656)
- 関係: enemy → perseus (4.627-662 宿を拒んだアトラスに、ペルセウスがメドゥサの首を見せて山に変える)
バウキスとピレモン
- オウィディウスの形: ユピテルとメルクリウスが人間の姿でプリュギアの村に来て、千軒の家に宿を乞うが、千軒とも門を閉ざした。一軒だけ迎え入れたのが、麦わらと葦で屋根をふいた小さな小屋に住む、若いころに結ばれてともに老いた敬虔な老女バウキスと老人ピレモンだった。二人は火をおこし、菜園の野菜、梁に吊した燻した豚肉、オリーブ、ぶどうなどで精一杯もてなす。 (Met. 8.618-678(神々の訪問 8.626-629、夫婦 8.630-636、食卓 8.646-678))
- 注いでも注いでも混酒器の酒がひとりでに満ちるのを見て、二人は客が神々だと気づき、おびえて祈る。小屋の番をする一羽きりのガチョウを客のために絞めようとすると、ガチョウは神々のそばへ逃げ込み、神々はそれを止めた。神々は正体を明かし、不敬な隣人たちを罰するので山へついて来るよう命じる。振り返ると村は沼に沈み、二人の小屋だけが残って、黄金の屋根と大理石の床を持つ神殿に変わっていた。 (Met. 8.679-702(酒が満ちる 8.679-680、ガチョウ 8.684-688、神殿 8.699-702))
- 望みを聞かれたピレモンは、バウキスと短く相談してから、二人でこの神殿の祭司となること、そして仲むつまじく過ごしてきたので同じ時に死に、互いの墓を見ずにすむことを願った。年老いた二人が神殿の階段の前で昔話をしていると、互いの体から葉が出始め、「さようなら」と同時に言い交わしたところで樹皮が顔を覆った。 (Met. 8.703-719)
- 二人がなった木は、樫(オーク)と菩提樹(リンデン)。オウィディウスは話の冒頭で「菩提樹と隣り合う樫が、低い壁に囲まれてプリュギアの丘にある」と示すだけで、どちらがバウキスでどちらがピレモンかは書いていない。今もその地方の人が、二つの体から生えた隣り合う幹を見せる、と語り手は結ぶ。 (Met. 8.620-621(樫と菩提樹)、8.719-720(今も幹を見せる))
- この話は、河神アケロオスの館での宴の席で語られる。神々が姿を変えさせる話を「作り話だ、神々をそんなに万能だと思うのか」と笑ったイクシオンの子(ペイリトオス)に対し、年長のレレクスが「天の力に限りはない」と、自分がその場所を見たという証言として語る。聞き手のテセウスはとくに感じ入り、アケロオスは続けてエリュシクトンの話を語る。 (Met. 8.611-619(ペイリトオスの嘲笑とレレクス)、8.721-724(証言)、8.725-742(テセウスとアケロオス))
- 老夫婦は残り火を吹き起こして火をおこし、菜園の野菜と梁に吊した燻製の豚肉でもてなす。脚の長さがそろわない食卓の下には土器のかけらを挟んだ。 (8.640-662)
- 関係: visited_by → zeus (Met. 8.626-627 ユピテルが人間の姿で訪れる)
- 関係: visited_by → hermes (Met. 8.626-627「アトラスの孫(メルクリウス)が、翼を外し伝令杖を持って」ユピテルに同行)
ボレアス
- アテナイ王エレクテウスの娘オレイテュイアを、イリソス川のほとりからトラキアへさらって妻にした。オウィディウスでは、トラキア人テレウスの悪行のせいでアテナイ側に拒まれ続け、ついに「力こそ自分にふさわしい」と力ずくでさらう。 (アポロドーロス 3.15.2、『変身物語』6.683-707)
- オレイテュイアとの間に生まれた息子ゼテスとカライスは、父譲りの翼をもち、アルゴ船の乗組員になった。 (アポロドーロス 1.9.16, 3.15.2、アポロニオス 1.211-223、『変身物語』6.711-721)
- オウィディウスでは、トラキア人テレウスの一件のためにアテナイ側に拒まれ続けたボレアスが、雲を払い海を荒らし樫を倒す自分には力こそふさわしいと言い、翼を広げてオレイテュイアをさらう。 (Met. 6.683-707)
- 関係: abducted → orithyia (アポロドーロス 3.15.2、『変身物語』6.683-707、アポロニオス 1.211-218、『パイドロス』229b-c)
- 関係: spouse → orithyia (ヘロドトス 7.189、『変身物語』6.711-713)
カドモス
- 牛をアテナに捧げるため水を汲みに行かせると、アレスの泉を守る竜(アレスの子とも)が従者たちを殺す。カドモスは竜を倒し、アテナの勧めでその歯を地にまく。武装した男たちが生え出て互いに殺し合い、生き残った5人(エキオン、ウダイオス、クトニオス、ヒュペレノル、ペロロス)が「まかれた者(スパルトイ)」としてテーバイの名家の祖になった。竜を殺した償いとして、カドモスは「永遠の一年」、つまり8年間アレスに仕えた。 (3.4.1-2 / Met. 3.26-130)
- 晩年、カドモスとハルモニアはテーバイを去ってイリュリアへ行き、そこで王となる。最後は二人とも蛇(竜)に変えられた。アポロドーロスでは、ゼウスが蛇になった二人をエリュシオンの野へ送る。オウィディウスでは、一族の不幸の原因は自分が殺したアレスの竜ではないかと嘆くカドモスが、そのまま蛇になり、妻も後を追って蛇になる。 (3.5.4 / Met. 4.563-603)
- オウィディウスでは、年老いたカドモスは、自分が殺した蛇が神聖なものだったのかと問い、神々の怒りがそれほどなら自分も蛇になりたいと言った途端に蛇に変わる。ハルモニアは自分も蛇にしてくれと叫び、二匹は寄り添って森へ去った。 (4.569-603)
- 関係: sibling → europa (3.1.1 / Met. 3.1-9 父アゲノルに妹を見つけるまで帰るなと命じられる)
- 関係: creator → thebes (3.4.1 / Met. 3.10-130 牝牛が伏した場所に町を建てる)
- 関係: enemy → ares (3.4.1-2 アレスの泉を守る竜を殺し、償いに8年間アレスに仕える / Met. 3.31-98)
- 関係: advisee → athena (3.4.1 竜の歯をまけと勧める / Met. 3.101-105)
カリオペ
- オウィディウス『変身物語』では、ピエロスの九人の娘がムーサたちに歌くらべを挑んだとき、ムーサの側で歌を受け持ったのがカリオペ。竪琴を手に、ケレス(デメテル)の話とプロセルピナ(ペルセポネ)の略奪を歌って勝ち、「私たちの中で最も偉大な者」と呼ばれる。 (5.337-341, 5.662)
- オウィディウスでは、歌くらべに負けたピエロスの娘たちがなおもムーサを罵ったので、カササギに変えられた。 (5.294-299、5.662-678)
カリスト
- 出自は出典で割れる。アポロドーロスのまとめでは、エウメロスらはアルカディア王リュカオンの娘、ヘシオドスはニンフの一人、アシオスはニュクテウスの娘、ペレキュデスはケテウスの娘とする。オウィディウスはリュカオンの娘とし、熊になった彼女が狼を恐れる場面に「父がその中にいるのに」と添える(リュカオンは狼に変えられていた)。 (3.8.2 / Met. 2.495(リュカオンの狼への変身は Met. 1.209-243))
- オウィディウスの形: ユピテルはディアナ(アルテミス)の姿に化けて近づき、カリストを犯す。数か月後、女神と仲間たちの水浴びで身ごもったことが露見し、一行から追放される。生まれた子アルカスを見たユノは怒り、カリストを熊に変えた。15年後、狩人に育ったアルカスが母とは知らずに熊を槍で突こうとした瞬間、ユピテルが二人を天に上げて隣り合う星座にした。 (Met. 2.401-507)
- オウィディウスは、ホメロスが歌った「熊座は海に沈まない」ことの理由を物語で与える。恋敵が星になったことに怒ったユノが、海の神オケアノスとテテュスのもとへ下り、あの星を海の水に浸からせないでほしいと頼んだ、という結末。ユノはこのとき、牝牛に変えられたイオが元の姿に戻された例も引いて嘆いている。 (Met. 2.508-530(イオへの言及 2.524)/『イリアス』18.489)
- アルテミスに化けたユピテルに声をかけられたカリストは、「女神さま、ユピテルよりも偉大なお方、本人に聞かれても構いません」とあいさつし、ユピテルは笑って聞いていた。 (2.425-430)
- 15年後、狩人に育ったアルカスは、自分を見つめて近づこうとする熊を母と知らずに槍で突こうとし、その瞬間ユピテルが二人を天に運んで隣り合う星にした。 (2.496-507)
- 関係: lover → zeus (3.8.2 / Met. 2.409-440 アルテミスの姿に化けて近づく)
- 関係: companion → artemis (3.8.2 同じ装いで狩りに従い、処女を守ると誓う / Met. 2.409-416, 2.441-465)
- 関係: enemy → hera (Met. 2.466-495 ヘラ(ユノ)が熊に変える / 3.8.2 熊を射させる)
カリュドンの猪狩り
- オウィディウスの名簿(8年頃): さらに膨らみ、30人を超える。アポロドーロスと共通の顔ぶれに加え、若き日のネストル、オデュッセウスの父ラエルテス、アキレウスの育ての親ポイニクス、アカストス、カイネウス、モプソスらが並ぶ。アンピアラオスは「まだ妻から無事な」と、のちに妻エリピュレに裏切られる運命をほのめかして紹介される。ネストルは猪から逃れるため槍を棒にして木に跳び上がり、トロイア戦争を待たずに死ぬところだったと語られる。 (Met. 8.299-317(名簿)、8.316-317(アンピアラオス)、8.365-368(ネストル))
- アポロドーロス、オウィディウス、ヒュギヌス、テゲアの神殿破風(パウサニアスの記録)の4つを突き合わせると、すべてに名があるのはメレアグロス、アタランテ、カストルとポリュデウケス、テセウス、ペレウス、テラモン、アンカイオスの8人と、テスティオスの息子たち(アルタイアの兄弟)。ネストルはオウィディウスだけ、アスクレピオスはヒュギヌスだけに出てくる。後代の作家ほど、別の物語で有名な英雄を名簿に加えていったことがうかがえる。 (1.8.2 / Met. 8.299-317 / 173 / 8.45.6-7 を照合した本サイトの集計。イリアス 9.543-546 とバッキュリデス 5 には名簿自体が無い)
- 関係: has_episode → oeneus (発端。『イリアス』9.533-537 収穫の初穂をアルテミスにだけ捧げなかった / 1.8.2 / Met. 8.273-283)
- 関係: participant → artemis (猪を送った女神。『イリアス』9.538-542 / バッキュリデス 5.97-110 / 1.8.2 / Met. 8.279-283)
- 関係: has_episode → meleager (猪を仕留める。『イリアス』9.543-546「多くの町から狩人と犬を集めて」/ 1.8.2 脇腹を突いて / Met. 8.414-424)
- 関係: has_episode → atalanta (最初に矢を当て、皮を贈られる。1.8.2 / Met. 8.380-387, 8.425-431。ホメロスとバッキュリデスには出てこない)
- 関係: has_episode → althaea (結末。兄弟を殺された母が運命の薪を燃やす。バッキュリデス 5.136-144 / 1.8.3 / Met. 8.445-525)
- 関係: participant → castor (1.8.2 / Met. 8.301-302 / 『神話伝説集』173 / 8.45.7 テゲアの破風)
- 関係: participant → polydeuces (1.8.2 / Met. 8.301-302 / 173 / 8.45.6 テゲアの破風)
- 関係: participant → theseus (1.8.2 / Met. 8.268-271, 8.303, 8.403-410 / 173 / 8.45.6)
- 関係: participant → peleus (1.8.2 投げ槍でエウリュティオンを誤って殺す / Met. 8.309「偉大なアキレウスの父」 / 173 / 8.45.6)
- 関係: participant → jason (1.8.2 / Met. 8.302, 8.411-413 投げた槍が外れて犬に当たる / 173。テゲアの破風(パウサニアス 8.45.6-7)には名が無い)
- 関係: participant → amphiaraus (1.8.2 猪の目を射る / Met. 8.316-317「まだ妻から無事なオイクレスの子」/ 8.45.7。ヒュギヌス173の名簿には無い)
- 関係: participant → nestor (Met. 8.313「まだ若き日のネストル」、8.365-368 槍を支えに木に跳び上がって猪を逃れる。アポロドーロスとヒュギヌスの名簿には無い)
- 関係: participant → laertes (Met. 8.315「ペネロペの舅」/ 173。オデュッセウスの父。アポロドーロスの名簿には無い)
- 関係: participant → admetus (1.8.2 ペライから / Met. 8.310「ペレスの子」/ 173)
- 関係: located_at → calydon (舞台の町。『イリアス』9.530-532 / Met. 8.270-272)
カシオペイア
- オウィディウスでは、アンドロメダ自身が罰の理由を「母が自分の美しさを頼みにしすぎたこと」と語り、詩人はこの罰を不当とする。怪物が迫ると父と母が駆けつけ、二人とも嘆くが「より正当な理由で嘆いたのは母」とされる。救出後、カシオペとケペウスはペルセウスを婿として迎える。 (4.670-671、4.687-692、4.736-738)
- 関係: parent → andromeda (アポロドーロス2.4.3、『変身物語』4.738、ヒュギヌス64)
- 関係: parent_in_law → perseus (アポロドーロス2.4.3、『変身物語』4.736-738 ペルセウスを婿として迎える)
ケクロプス
- オウィディウスでも、アテナが機織りの競争で織り出す場面では、ユピテルを中心に十二の神々が審判の席に並ぶ。ケクロプスは登場しない。 (6.70-82)
- 妻アグラウロスとの間に、息子エリュシクトンと、アグラウロス・ヘルセ・パンドロソスの3人の娘がいた。アテナは赤子エリクトニオスを入れた箱をこの娘たちに預け、開けるなと命じたが、娘たちは開けてしまう。 (アポロドーロス 3.14.2, 3.14.6、『変身物語』2.552-561)
- 関係: parent_in_law → hermes (アポロドーロス 3.14.3 娘ヘルセがヘルメスの子を産む。『変身物語』2.708-832 ではヘルセに恋したメルクリウスを姉アグラウロスが妨げ、石にされる)
ケンタウロス族
- オウィディウスでは、イクシオンの子ペイリトオスがヒッポダメ(ヒッポダメイア)をめとる宴に、雲から生まれたケンタウロスたちが招かれ、エウリュトスが酒と情欲にかられて花嫁の髪をつかんで奪う。テセウスが古い酒甕を投げつけて乱闘が始まる。語り手はトロイアの陣中のネストル。 (12.210-240)
- 同じ戦いで、女として生まれポセイドンに男の体と不死身を授かったカイネウスは、刃の通らない体でケンタウロスを苦しめ、オトリュス山とペリオン山の木々を投げつけられて埋められた。予言者モプソスは、木の山から飛び立つ黄色い翼の鳥をカイネウスだと告げた。 (12.169-209、12.459-535)
- 関係: enemy → theseus (『イリアス』1.265、『変身物語』12.227-237、パウサニアス5.10.8)
ケパロス
- オウィディウスはこの二人を一人にまとめる。プロクリスの夫ケパロスが、結婚して間もないころヒュメットス山で狩りをしていてアウロラ(曙)にさらわれ、妻を思い続けたので帰された、とケパロス自身が語る。 (7.700-713)
- オウィディウスでは、アウロラのもとから戻ったケパロスは妻の貞節を疑い、姿を変えて贈り物で妻を誘惑する。妻がためらったところで正体を明かしたので、傷ついたプロクリスは家を出て、ディアナに従う狩りの暮らしに入った。 (7.720-746)
- プロクリスから贈られた犬は、どんな獲物でも捕らえる犬で、テーバイを荒らしたテウメッソスの女狐の退治に使われた。決して捕まらない狐と、決して逃さない犬の追いかけっこは、ゼウスが両方を石に変えて終わらせた。 (アポロドーロス 2.4.7、『変身物語』7.790-792(二つの大理石に変わる))
- オウィディウスでは、狩りで汗をかいたケパロスが「来てくれ、アウラ(そよ風)」と呼びかけるのを聞いた誰かが、ケパロスがアウラという女を呼んでいると誤解してプロクリスに告げた。確かめに来て茂みに隠れたプロクリスの物音を獣と思い、ケパロスは槍を投げてしまう。 (7.805-842)
- オウィディウスでは、ケパロスが妻を思い続けたので、怒ったアウロラは「帰るがいい、いつかその妻を得たことを悔やむだろう」と言って彼を帰した。 (Met. 7.711-713)
- 関係: spouse → procris (アポロドーロス 3.15.1、『変身物語』6.681-682, 7.690-862)
- 関係: killed_unintentionally → procris (アポロドーロス 3.15.1(狩りの最中に知らずに槍で)、『変身物語』7.835-862)
- 関係: abducted_by → eos (アポロドーロス 3.14.3(ヘルメスとヘルセの子のケパロスとして)。『変身物語』7.700-713 ではプロクリスの夫が、結婚して間もなくヒュメットス山でアウロラにさらわれる)
ケルベロス
- 悲劇やアポロドーロス以降は3つの頭が普通になる。アポロドーロスは「犬の頭が3つ、竜の尾、背中には様々な蛇の頭」と描く。オウィディウスも「三つの吠え声」と書く。 (エウリピデス『ヘラクレス』24(三つの体)、611(三つの頭)、アポロドーロス 2.5.12、オウィディウス『変身物語』7.414)
- オウィディウスは、ヘラクレスに引きずり出されたケルベロスが吐いた泡から毒草アコニトン(トリカブト)が生えたとする。メデイアはこの毒でテセウスを殺そうとした。 (7.406-419)
ケユクス
- オウィディウスの形: 兄弟ダイダリオンの変身など不吉なことが続き、ケユクスはクラロスのアポロンの神託を伺いに船出しようとする。アルキュオネは海の恐ろしさを知る風の神の娘として必死に止め、せめて一緒に連れて行ってと頼むが、ケユクスは「二か月のうちに戻る」と父の星にかけて誓って出航した。夜、東風が荒れて船は砕け、ケユクスは妻の名を呼びながら波に沈んだ。 (Met. 11.410-572(神託 11.413、アルキュオネの願い 11.421-443、嵐 11.480-569、最期の場面 11.544-567))
- 夫の無事を毎日ユノ(ヘラ)に祈るアルキュオネを見かね、ユノは使者イリスを眠りの神ソムヌスのもとへ送る。ソムヌスは千人の子の中から、人の姿をまねる名手モルペウスを選んだ。モルペウスは濡れた髪とひげの、死人のように青ざめた裸のケユクスの姿でアルキュオネの枕元に立ち、自分の難破を告げる。薬の「モルヒネ」は、このモルペウスの名から付けられた。 (Met. 11.573-676(イリス 11.585-591、モルペウス 11.633-676)。モルヒネの語源は既存の語源記事 etymologies/morphine を参照)
- 翌朝、夫を見送った浜に立つアルキュオネの前に、波に運ばれた遺体が流れ着く。彼女が防波堤から身を投げると、そのまま翼が生えて海面をかすめて飛び、冷たい遺体に固いくちばしで口づけた。神々があわれんで、ケユクスも鳥に変えた。二人は鳥になっても夫婦のまま、子をもうけ続ける。 (Met. 11.710-748)
- アポロドーロスでは、トラキスのケユクスはヘラクレスの友でもある。カリュドンを去ったヘラクレスは妻デイアネイラを連れてケユクスのもとに身を寄せ、ケユクスの子ヒッパソスはヘラクレスとともにオイカリア攻めで戦死した。ヘシオドスに帰される『ケユクスの結婚』という詩があり、ヘラクレスがケユクスの婚礼の宴を訪れる話だったとされる。オウィディウスもトラキスを「ヘラクレスの町」と呼ぶ。 (アポロドーロス 2.7.6-7 / Met. 11.627「ヘラクレスのトラキス」。『ケユクスの結婚』はアポロニオス古注 1.128 等に引かれる断片のみで、内容は未確認)
- 鳥になったケユクスとアルキュオネは夫婦のまま子をもうけ、冬の7日間アルキュオネが海に浮かぶ巣で卵を温めるあいだ、祖父アイオロスが風を閉じ込めて海を静める。 (11.742-748)
- 関係: spouse → alcyone (Met. 11.410-748 / 1.7.4)
- 関係: visited_by → peleus (Met. 11.266-409 兄弟ポコスを殺して追われたペレウスを、トラキスの王ケユクスが迎え入れる)
カオス
- ローマの詩人オウィディウスは『変身物語』の冒頭で、世界が形を取る前の状態を「人々がカオスと呼んだ、粗野で整理されていない塊」と描く。英語 chaos が「混乱・無秩序」の意味を持つのは、この「秩序(コスモス)の反対」という理解と、その後のラテン語訳聖書での用法による。 (Met. 1.5-9(1.7 rudis indigestaque moles)。意味の変化は etymonline「chaos」)
カロン
- 関係: enemy → orpheus (妻を再び失ったオルペウスの二度目の渡河を拒む。『農耕詩』4.502-503 / Met. 10.72-73)
クリュサオル
- オウィディウス『変身物語』では、ペルセウスが自分の冒険を語る場面で、メドゥーサの首を斬ったことと、「母の血から生まれた、翼で逃げ去るペガソスとその兄弟」に触れるだけで、クリュサオルの名は出てこない。 (4.785-786)
- 関係: sibling → pegasus (『神統記』280-283、アポロドーロス2.4.2、『変身物語』4.785-786(名は出さず「その兄弟」))
キニュラス
- オウィディウスの系譜と悲劇: ピュグマリオンと命を得た像の娘パポスがキニュラスを生んだ。オルペウスは「子がなければ、幸福な人の一人に数えられたかもしれない」と彼を紹介する。妻ケンクレイスがケレスの祭で床を離れているあいだ、酔ったキニュラスは乳母に連れて来られた娘を娘と知らずに迎え、何夜目かに明かりで顔を見て、娘だと知ると剣を抜いた。 (Met. 10.296-299(系譜)、10.431-475(祭と発覚))
- 関係: parent → myrrha (Met. 10.298-518)
- 関係: parent → adonis (Met. 10.503-518(娘ミュラとの子)/ 3.14.3(妻メタルメとの子))
- 関係: grandchild → pygmalion (Met. 10.296-299 ピュグマリオンと像の女の娘パポスから生まれた)
クリュティエ
- オウィディウスの形: 太陽(ソル)は、アレスとアプロディテの密通を最初に見つけてヘパイストスに告げた。その仕返しにアプロディテ(ウェヌス)は太陽に激しい恋をさせ、相手はペルシャの王オルカモスとエウリュノメの娘レウコトエだった。太陽に捨てられたクリュティエは嫉妬して、この恋を言いふらし、父王に告げる。王は「無理やりだった」と訴える娘を生き埋めにした。太陽は光で土を散らしたが娘はもう息がなく、ネクタルを注ぐと、その体から乳香の木が生えた。 (Met. 4.169-255(密通の発見 4.171-189、ウェヌスの仕返し 4.190-192、オルカモスとエウリュノメ 4.209-213、告げ口と生き埋め 4.234-240、乳香 4.250-255))
- クリュティエの苦しみは言い訳になったかもしれないが、太陽はもう彼女のもとを訪れなかった。クリュティエはやつれ、髪もほどいたまま9日間、水も食べ物もとらず露と涙だけで地面に座り、天を渡る太陽の顔を目で追い続けた。体は地面に根づき、青ざめた部分は血の気のない葉に、赤みの残る部分はスミレに似た花になった。根に縛られても、彼女は太陽の方を向き、姿を変えても愛を保っている。 (Met. 4.256-270)
- クリュティエとレウコトエの話を語るのは、ディオニュソスの祭を拒んで機を織り続けるミニュアスの娘の一人レウコノエ。語り手は「太陽の恋を語ろう」と始める。オウィディウスより前にクリュティエの変身を語る資料は見つかっていないとされる。 (Met. 4.167-170(レウコノエが語り始める)。「オウィディウス以前の資料がない」は研究書で未確認)
- オウィディウスでは、生き埋めにされたレウコトエを太陽は救えず、亡骸と墓にネクタルを注ぐと、体が溶けて土にしみ、そこから乳香の木が生えて墓を突き破った。 (4.247-255)
- レウコトエに恋した太陽は、朝は早く昇りすぎ、夕べは遅く沈みすぎ、冬の昼を引き延ばし、ほかの恋人たち(クリュティエを含む)を忘れた。 (4.192-208)
- 関係: lover → helios (Met. 4.206-208(かつて太陽の寝床を求め、捨てられてもなお恋していた)、4.256-270(太陽は二度と訪れない))
クマエのシビュラ
- オウィディウスでは、シビュラ自身が身の上を語る。アポロンに望みを言えと言われ、手にすくった砂の粒の数だけの誕生日を願ったが、若さを願うのを忘れた。愛を受け入れれば永遠の若さも与えると言われても拒んだため、老いだけが続く。すでに700年生き、砂の数に届くにはあと300年ある。やがて体は小さくなって誰にも見えなくなり、声だけが残るだろうという。 (14.129-153)
- 関係: advisor → aeneas (『アエネイス』6.83-97 ラティウムでの戦争を予言し、6.125-155 冥界へ下る手順(黄金の枝)を教える。『変身物語』14.104-153)
- 関係: courted_by → apollo (14.130-141 アポロンが愛を得ようと望みを一つ叶えると約束するが、シビュラは最後まで拒む)
- 関係: visited → underworld (『アエネイス』6.236-898 アイネイアスを連れて冥界を案内する。『変身物語』14.116-155)
キュパリッソス
- オウィディウスの形: ケオス島カルタイアの野のニンフたちに捧げられた大きな鹿がいて、人に慣れ、誰にでも首をなでさせた。ケオスの少年キュパリッソスはとりわけこの鹿をかわいがり、角に花を編み、背にまたがって遊んだ。夏の真昼、木陰で休んでいた鹿を、少年はそれと気づかずに投げ槍で射てしまう。死にゆく鹿を見て自分も死のうと決め、アポロンがいくら慰めても、永遠に悲しませてほしいとだけ願った。涙で血の気を失った体は緑に変わり、髪は逆立って細い梢となり、空を見上げる木になった。 (Met. 10.106-142(鹿 10.109-125、誤射 10.130-131、変身 10.136-140))
- 変わった木を見て、アポロンは「お前は私に悼まれ、他の者を悼み、嘆く人々のそばにいるだろう」と告げる。糸杉が喪の木、墓地の木とされることの由来譚になっている。英語の辞書も、糸杉の枝が葬儀に使われ、死者を悼むしるしとされたことを記している。 (Met. 10.141-142 / etymonline の cypress の項。語源記事 etymologies/cypress も参照)
- この話は、妻を失ったオルペウスが竪琴を弾くと、陰のなかった丘に木々が集まってきた、という場面の中に置かれている。集まった木々の最後に、競走路の折り返し柱のような形の糸杉が来て、「今は木だが、もとはアポロンに愛された少年だった」と話がさかのぼる。語り手はオルペウスではなく詩人自身で、このあとオルペウスがガニュメデスやヒュアキントスの歌を始める。 (Met. 10.86-105(集まる木々)、10.106-108(糸杉)、10.143-148(オルペウスが歌い始める))
- キュパリッソスの鹿は、金に輝く角と宝石の首飾り、額の銀の飾りをつけ、人を恐れず家々を訪れて見知らぬ人にも首をなでさせた。少年はこの鹿を草地や泉へ連れていき、角に花を編み、紫の手綱で背に乗って駆けた。 (10.109-125)
- 関係: lover → apollo (Met. 10.107-108「竪琴と弓を操る神に愛された少年」、10.132-142 アポロンが慰め、最後に喪の言葉をかける)
キュプロス島
- オウィディウスでは、キュプロスの彫刻家ピュグマリオンが象牙で彫った乙女に恋をし、島じゅうで祝われるウェヌスの祭りの日に祈ると、像は人間になった。二人の娘パポスの名は土地の名になり、その血筋からキニュラスが生まれた。 (10.243-297)
- 関係: visited_by → pygmalion (10.270-297)
ダイダロス
- オウィディウスでは、殺された甥の名はペルディクスで、魚の背骨を見て鋸を、さらにコンパスを発明した少年だった。突き落とされた少年をミネルウァが鳥(ヤマウズラ=ペルディクス)に変え、イカロスを葬るダイダロスを、そのヤマウズラが見て喜んだという皮肉な場面がある。 (8.236-259)
- クレタでは、牡牛に恋した王妃パシパエのために車輪付きの木の雌牛を造って牛の皮を張り、中に入れた。生まれたミノタウロスを閉じ込めるため、出口の分からない迷宮も造った。オウィディウスは、曲がりくねるマイアンドロス川のように道を入り組ませ、造った本人も入口に戻るのがやっとだったと書く。 (アポロドーロス 3.1.4、『変身物語』8.159-168)
- テセウスの脱出を助けたことで、ミノスはダイダロスを息子イカロスとともに迷宮に閉じ込めた。ダイダロスは翼を作り、「高く飛べば太陽で膠(にかわ)が溶け、低く飛べば海の湿気で羽が外れる」と息子に言い聞かせて飛び立った。オウィディウスのダイダロスは「ミノスは陸も海も支配できても、空は支配できない」と言う。 (アポロドーロス摘要 1.12、『変身物語』8.183-195)
- 関係: creator → labyrinth (アポロドーロス 3.1.4, 3.15.8、『変身物語』8.159-168)
- 関係: parent → icarus (アポロドーロス摘要 1.12(母はミノスの女奴隷ナウクラテ)、『変身物語』8.195)
ダナイデス
- 冥界で穴の開いた器に水を汲み続ける罰は、アポロドーロスの神話本文には出てこない。ラテン文学では定番で、ホラティウスは「絶えず底から流れ出る水」と「冥界の罰」を歌い、オウィディウスも「失う水を繰り返し汲むベロスの孫娘たち」を、タンタロスやシシュポス、イクシオンと並べて冥界の罪人に数える。 (ホラティウス『歌章』3.11.21-32 / Met. 4.457-463、10.43-44 / アポロドーロス 2.1.4-5 には罰の記述がない。罰とダナイデスを結びつけた最古の資料は未確認)
- 関係: visited → underworld (水を運び続ける罰の場。ホラティウス『歌章』3.11.21-32 / Met. 4.462-463、10.43-44)
ダプネ
- オウィディウスの形: 大蛇ピュトンを退治して得意になったアポロンが、弓を持つ少年クピドをからかう。怒ったクピドは、恋を燃え上がらせる金の矢をアポロンに、恋をはねつける鉛の矢を河神ペネイオスの娘ダプネに射る。追いつかれる寸前、ダプネは父に祈って姿を変えてもらい、体は樹皮に、髪は葉に、腕は枝になった。「アポロンの最初の恋」とされる。 (Met. 1.452-552(「アポロンの最初の恋」は 1.452))
- 木になったダプネに、アポロンは「妻にはなれなくとも、せめて私の木になれ」と語り、自分の髪も竪琴も矢筒も月桂樹で飾ると宣言する。ローマの凱旋将軍の月桂冠やアウグストゥスの館の門の月桂樹にも触れ、月桂樹とアポロンの結びつきの由来譚として締めくくられる。 (Met. 1.553-567)
- 父親は出典で割れる。オウィディウスはテッサリアの河神ペネイオス、パルテニオスはラコニアのアミュクラス。パウサニアスはダプネの話をアルカディアのラドン川と結びつける。 (Met. 1.452(Daphne Peneia)/ パルテニオス 15 / パウサニアス 8.20.1)
- オウィディウスでは、ダプネは父に「ディアナのように永遠の乙女でいさせてほしい」と願っていた。アポロンは追いながら、自分は羊飼いではなくゼウスの子でデルポイの主だと呼びかける。二人は野で兎を追う猟犬と兎にたとえられ、力尽きたダプネは父の川に「好かれすぎたこの姿を変えて」と祈る。樹皮の下でまだ胸が震えるのをアポロンは感じ、枝に口づけしても木は身を引いた。最後に月桂樹は枝を揺らしてうなずいたように見えた。 (1.486-487、1.504-524、1.533-567)
- 関係: courted_by → apollo (Met. 1.452-567 / パルテニオス 15 / パウサニアス 8.20.4)
- 関係: enemy → eros (Met. 1.466-473 クピド(エロス)が恋をはねつける鉛の矢でダプネを射る)
デイアネイラ
- エウエノス川で、渡し守をしていたケンタウロスのネッソスがデイアネイラを運ぶ途中で襲いかかり、ヘラクレスに射殺された。ネッソスは死に際に、自分の血を「ヘラクレスの心をつなぎとめる媚薬」として取っておけと告げた。その血には矢に塗られたヒュドラの毒が混じっていた。 (アポロドーロス 2.7.6、ソポクレス『トラキスの女たち』555-577、『変身物語』9.101-133)
- 関係: killed_unintentionally → herakles (殺意はなく、媚薬と信じて毒の衣を贈った。アポロドーロス 2.7.7、ソポクレス『トラキスの女たち』555-577、オウィディウス『変身物語』9.101-272)
デウカリオン
- オウィディウスでは、石を投げよと告げるのはゼウスではなく女神テミスの神託で、「偉大な母の骨を背後に投げよ」という謎の形をとる。ピュラは母の骨を投げるなど畏れ多いと怯えるが、デウカリオンが「偉大な母とは大地、骨とは石のことだ」と解く。そのため人間は石のように硬く、労苦に耐える種族なのだ、と結ばれる。 (1.367-415(神託 1.381、謎解き 1.390-394、結び 1.414-415))
- オウィディウスでは、洪水の後、デウカリオンはピュラに「姉妹よ、妻よ、ただ一人残った女よ」と呼びかける。 (1.351-352)
- 関係: spouse → pyrrha (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.318-329)
- 関係: cousin → pyrrha (1.351-352。父プロメテウスとピュラの父エピメテウスが兄弟なので、二人は従兄妹どうし。デウカリオンは「姉妹よ、妻よ」と呼びかける)
- 関係: participated_in → deucalions-flood (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.253-415、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.41-53)
- 関係: advisee → themis (1.367-383。ケピソス川のほとりのテミスの社で、人間を取り戻す方法を尋ねる)
デウカリオンの洪水
- オウィディウスでは、発端は人間の堕落とリュカオンの非道。ユピテルははじめ雷で焼き払おうとするが、火が天まで燃え移るのを恐れ、水で滅ぼすことにする。兄弟ネプトゥヌスも波で加勢する。 (1.163-261(神々の会議とリュカオン)、1.253-261(雷をやめる)、1.274-284(ネプトゥヌス))
- 箱舟が着いたのはパルナッソス山。アポロドーロス、オウィディウス、ピンダロスがそろってこの山を挙げる。 (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.316-319(頂が二つある山)、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.43)
- 水が引いたあと、二人が背後に投げた石から男と女が生まれた。人間の作り直し方としては、プロメテウスが土から人を造ったという話(アポロドーロス 1.7.1)と並んで、ギリシャ神話に二つある人類の起源の一つになる。 (アポロドーロス 1.7.1-2、『変身物語』1.398-415)
- 生き残りが二人だけかどうかは出典で違う。オウィディウスとヒュギヌスは二人だけとするが、アポロドーロスは近くの高い山に逃げたわずかな者も生き延びたと書く。 (『変身物語』1.325-326、ヒュギヌス 153、アポロドーロス 1.7.2)
- オウィディウスの洪水の描写では、山羊が草を食んだ所にアザラシが寝そべり、ネレイスたちは水中の森や町や家に驚き、イルカが森を泳いで枝にぶつかる。狼は羊のあいだを泳ぎ、止まる所のない鳥は疲れて海に落ち、波を逃れた者も飢えに倒れた。 (1.293-312)
- オウィディウスでは、デウカリオンとピュラが頭を覆い帯を解いて石を後ろへ投げると、石は硬さを失って柔らかくなり、彫りかけの大理石像のように人の形をとり、湿った部分は肉に、硬い部分は骨になった。男の投げた石は男に、女の投げた石は女になり、だから人間は硬く労苦に耐える種族なのだと語られる。 (1.398-415)
- 関係: participant → deucalion (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.253-415、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.41-53)
- 関係: participant → pyrrha (同上)
- 関係: participant → zeus (洪水を起こした神。アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.253-261、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.50-53)
- 関係: participant → poseidon (1.274-284。「青い兄弟」ネプトゥヌスが波で加勢し、川を溢れさせる)
- 関係: participant → themis (1.367-381。水が引いたあと、人間を取り戻す方法を神託で告げる)
ディド
- 兄の名ピュグマリオンは、オウィディウスで象牙の像に恋をするキプロスの彫刻家と同じ名だが、別の人物。テュロスの王で、妹の夫を殺した悪役として出てくる。 (『アエネイス』1.346-352。彫刻家は『変身物語』10.243-297)
エコー
- オウィディウスの形: エコーはもともと体を持つおしゃべりなニンフだった。ユピテルが山のニンフたちと会っている間、ユノを長話で引き留めて逃がしていたことが露見し、ユノに「言葉の終わりだけを返す」ことしかできない声にされた。 (Met. 3.356-369)
- ナルキッソスに恋したエコーは、自分から話しかけられず、彼の言葉の終わりを返すことでしか思いを伝えられない。拒まれて洞窟にこもり、やせ細って骨は石になり、声だけが残った。ナルキッソスの最期にも、彼の嘆きを繰り返している。 (Met. 3.370-401、3.493-501)
- ナルキッソスの物語にエコーを組み込んだのは、現存する資料ではオウィディウスが最初とされる。オウィディウスより前、または同時代のナルキッソス譚(コノン第24話、オクシュリンコス出土のパピルス断片)には、エコーが登場しない。 (詳しくは narcissus の各説を参照)
- 拒まれたエコーは木の葉で顔を隠して洞窟にこもり、眠れずにやせ細り、骨と声だけが残った。骨は石になり、声は山で呼べば答える。 (3.393-401)
- 関係: suitor → narcissus (Met. 3.370-401 一方的に恋し、拒まれる)
- 関係: punished_by → hera (Met. 3.359-369 ユノ(ヘラ)に罰せられ、言葉の終わりしか返せなくされる)
エイレイテュイア
- オウィディウス『変身物語』では、アルクメネ自身が語る。お産の女神ルキナはヘラ(ユノ)に買収され、戸口の祭壇に座って膝を組み、指を組み合わせてお産を止めていた。侍女ガランティスが「お産は済んだ」と嘘をつくと、女神は驚いて手を解き、ヘラクレスが生まれた。だまされた女神は、笑ったガランティスを、口から子を産み今も人家に出入りする小さな獣に変えた。 (9.281-323)
- 関係: enemy → alcmene (『イリアス』19.117-119 ヘラがエイレイテュイアたちを押しとどめてアルクメネのお産を止める。オウィディウス 9.281-323、アポロドロス 2.4.5)
エオス
- オウィディウスでは、息子メムノンを失ったアウロラ(エオス)がユピテルに願い、火葬の灰から鳥の群れ(メムノニデス)を生じさせる。アウロラはいまも涙を流し、それが世界中に朝露となって降りる、と結ばれる。 (13.576-622)
エリクトニオス
- オウィディウスでは、パンドロソスとヘルセは言いつけを守り、アグラウロス一人が結び目を解いて中の赤子と大蛇を見る。これを告げ口したカラスが、アテナの寵愛を失った由来話として語られる。 (2.552-561)
- オウィディウスでは、カラスがアテナのカササギ(ワタリガラス)に告げる。アテナはエリクトニオスを編んだ箱に入れてケクロプスの三人の娘に預けたが、アグラウロスが結び目を解くと、赤子と伸びた大蛇が見えた。カラスは木の上からそれを見て女神に知らせたが、その報いに女神の守りを追われた。 (2.552-565)
- 関係: foster_child → athena (アポロドーロス 3.14.6、『変身物語』2.552-555(母のない子を箱に隠す))
エロス
- ヘレニズム期以降、エロスはアプロディテの息子として扱われるのが普通になる。アポロニオス『アルゴナウティカ』ではアプロディテが息子エロスを動かしてメデイアに矢を射させ、オウィディウスでは「ウェヌスの息子」クピドがアポロンを射る。 (『アルゴナウティカ』3.25-166, 3.275-298。『変身物語』1.452-473(1.463 filius Veneris))
- 関係: enemy → apollo (1.452-473 弓の腕を嘲ったアポロンに、恋を起こす金の矢を射込み、ダプネには恋を拒む鉛の矢を射る)
エリュシクトン
- オウィディウスの形: ケレス(デメテル)の森に、奉納の紐や願いのかなった礼の札が掛けられ、ドリュアスたちが輪になって踊る大樫があった。従者たちがためらうのを見て、エリュシクトンは自ら斧を振るい「女神に愛された木どころか女神そのものでも切り倒す」と言う。斧が入ると木はうめき、葉もどんぐりも青ざめ、切り口から血が流れた。木に宿るニンフは死に際に彼への罰を予言した。 (Met. 8.741-776)
- 嘆くドリュアスたちの願いを聞いたケレスは、豊穣の女神と飢えは会うことができない定めなので、山のニンフを竜の車に乗せて、スキュティアの果て、カウカソス山の石だらけの野に住む「飢え(ファメス)」のもとへ遣わす。やせこけた飢えは夜に彼の寝室に入り、寝ている彼を抱きしめて、のどと胸と口に息を吹き込み、空っぽの血管に飢えをまいた。 (Met. 8.777-822)
- 財産を食べ尽くしたエリュシクトンは、ついに娘を売る。娘は、かつて処女を奪ったネプトゥヌス(ポセイドン)に「主人から救って」と祈り、漁師の姿に変えてもらって逃れる。姿を変えられると知った父は、娘を何度も売り、娘は馬や鳥、牛、鹿になっては戻ってきた。それでも飢えは収まらず、彼は最後に自分の手足を噛みちぎり、自分の体を減らしながら体を養った。オウィディウスは娘の名を出さず「アウトリュコスの妻」とだけ呼ぶ。 (Met. 8.738-739(アウトリュコスの妻)、8.843-878(娘の売却と変身 8.847-874、自食 8.875-878))
- オウィディウスでは、この話はバウキスとピレモンの話の直後、河神アケロオスがテセウスたちに「一度だけ姿を変えられた者もいれば、何度も変われる者もいる」と語り出す例として置かれている。何度も姿を変えられたのは、エリュシクトン自身ではなく娘のほうで、話の最後にアケロオス自身も自分がいくつもの姿に変われることを明かし、失った角を嘆く。 (Met. 8.725-742(前置き)、8.879-884(アケロオスの角))
- 関係: enemy → demeter (カリマコス『讃歌』6.24-117 / Met. 8.738-878)
エウロペ
- オウィディウスの形: ユピテル(ゼウス)はメルクリウスに王の牛の群れを海辺へ追わせ、自分は雪のように白い牡牛になって群れに紛れる。花を摘む王女は恐る恐る牛をなで、角に花輪をかけ、ついに背に乗る。牛は少しずつ波打ち際へ進み、そのまま沖へ泳ぎ出す。王女は片手で角をつかみ、振り返って遠ざかる岸を見る。 (Met. 2.833-875)
- 関係: abducted_by → zeus (Met. 2.833-875, 3.1-2 / 3.1.1 牡牛に化けたゼウスにクレタへ運ばれる)
- 関係: visited → crete (3.1.1 / Met. 3.1-2 / ヘロドトス 4.45.5)
エウリュディケ
- オウィディウスの形: 婚礼の神ヒュメナイオスが来ても吉兆はなく、新妻はナイアスたちと草原を歩くうちに踵を蛇に噛まれて死ぬ。アリスタイオスは出てこない。二度目の死でも夫を責めず、聞こえるかどうかの「さようなら」を残して引き戻される。 (Met. 10.1-10(婚礼と死)、10.60-63(二度目の死))
- オウィディウスは続く巻で、殺されて亡霊になったオルペウスが「敬虔な者たちの野」で彼女を見つけ、抱きしめる場面を置く。今度は並んで歩き、オルペウスは安心して彼女を振り返る。 (Met. 11.61-66)
- オウィディウスでは、冥界の王と妃に呼ばれたエウリュディケは、新しく来た霊たちのあいだから、傷のためにゆっくりと足を引きずりながら進み出る。 (Met. 10.48-50)
- 関係: spouse → orpheus (『農耕詩』4.465、4.486 / Met. 10.1-10 / 1.3.2)
- 関係: visited → underworld (死後の冥界。『農耕詩』4.486-503 / Met. 10.48-63、11.61-66)
ガラテイア
- オウィディウスの形: ガラテイアは、シチリアのファウヌスとニンフの子で16歳の美しい若者アキスを愛し、アキスも彼女だけを愛した。そのあいだポリュペモスは彼女を追い続け、アキスへの愛とポリュペモスへの憎しみのどちらが強かったか分からないほどだった、と彼女は言う。ポリュペモスはエトナ山のふもとの岩に座り、百本の葦を合わせた笛を吹いて長い恋歌を歌う。 (Met. 13.750-869(アキス 13.750-754、恋歌 13.789-869))
- 歌い終えたポリュペモスが、ガラテイアとアキスが一緒にいるのを見つけ、山から引きはがした岩を投げてアキスを押し潰す。ガラテイアは海に潜って逃れ、アキスに祖父の力を取らせた。岩から赤い血がにじみ出て、やがて澄んだ水に変わり、岩が割れて葦が生え、角を葦で飾った青い顔の若者が腰まで現れて、アキスは同じ名の川になった。 (Met. 13.870-897)
- オウィディウスは、予言者テレモスがポリュペモスに「お前の一つ目はウリクセス(オデュッセウス)に奪われる」と告げ、ポリュペモスが「もう別の女に奪われている」と笑い飛ばす場面を置いている。この予言は『オデュッセイア』第9巻にあるもので、恋の話を、よく知られたオデュッセウスとの出会いの前日譚につないでいる。 (Met. 13.770-775 /『オデュッセイア』9.507-512(テレモスの予言をポリュペモス自身が思い出す))
- ピュグマリオンが彫った象牙の像は、オウィディウスでは名前がない。像を海のニンフと同じ「ガラテア」と呼ぶのは古代より後の作家たちで、いつ誰が始めたかははっきりしない。同じ名前でも、ポリュペモスに恋されたこのネレイスとは別の存在。 (Met. 10.243-297(像に名がない)。像の命名の初出は未確認(pygmalion の記述と同じ))
- オウィディウスでは、恋に落ちた凶暴なポリュペモスが羊も洞窟も忘れ、身なりを気にして、熊手で硬い髪をとかし、鎌でひげを刈り、水に顔を映して表情を整える。殺戮への欲も止み、船は無事に行き来するようになった。 (13.762-769)
- ポリュペモスは海に突き出た丘に座り、百本の葦を束ねた笛を吹いて恋歌を歌う。岩陰でアキスの膝に抱かれていたガラテイアはそれを遠くから聞いていた。歌は「雪のように白いイボタの葉より白く、野原より花やかで…」と始まる。見つかったとき巨人の叫びでエトナ山が震えた。 (13.778-795、13.870-877)
- 関係: child → nereus (『神統記』250 ネレウスの娘たちの列挙に「姿の美しいガラテイア」/ Met. 13.742「父はネレウス、母は青い海のドリス」)
- 関係: courted_by → polyphemus (『牧歌』11、6 / Met. 13.755-869 / ルキアノス『海神たちの対話』1(ドリスとガラテイア))
- 関係: lover → acis (Met. 13.750-897)
- 関係: companion → scylla (Met. 13.735-749 まだ怪物になる前の娘スキュラに髪をすかせながら、ガラテイアが自分の恋を打ち明ける)
ガニュメデス
- ゼウス自身が鷲の姿になって(あるいは鷲を遣わして)さらった、という形は後代の定着。オウィディウスでは鷲に変身したゼウスが連れ去る。 (『変身物語』10.155-161、アポロドーロス 3.12.2)
- 関係: lover → zeus (アポロドーロス 3.12.2、『変身物語』10.155-161。『イリアス』は酌をする者とだけ言い、恋情には触れない)
ギガース
- オウィディウス『変身物語』では、ギガースは天の王座を狙って山々を積み上げ、星に届かせようとした。ユピテルが雷でオリュンポスを砕き、オッサ山の上のペリオン山を払い落とす。流れた血を大地が温めて人の姿を与えたが、その子らも神を侮り殺戮を好んだので、「血から生まれた」とすぐに分かったという。 (1.151-162)
ギガントマキア
- オウィディウス『変身物語』では、ムーサに歌くらべを挑んだピエロスの娘の一人が、神々の戦いを歌い、ギガースにいわれのない誉れを与えて神々の手柄を小さく語る。テュポエウスに追われた神々は動物に化けてエジプトに隠れた、と。ムーサ側のカリオペが勝ち、ピエロスの娘たちはカササギに変えられる。 (5.318-331, 5.662-678)
グラウコス(海の神)
- オウィディウス『変身物語』では、グラウコス自身がスキュラに身の上を語る。漁で獲った魚を草地に並べると、魚が草に触れて動きだし海へ跳ね戻った。その草を噛んでみると胸が騒ぎ、海へ飛び込んだ。海の神々に迎えられ、オケアノスとテテュスに人間のものを洗い落とされて、青緑のひげと魚の尾をもつ神になったという。 (13.917-963)
- オウィディウスでは、グラウコスは乙女スキュラに恋し、キルケに恋の薬を頼む。ところがキルケ自身がグラウコスを愛し、拒まれると恋敵のスキュラを恨んで、彼女が水浴びする入り江に毒草を撒く。水に入ったスキュラの下半身は吠える犬の群れに変わった。グラウコスは泣き、キルケとの結婚を避けた。 (13.904-968, 14.1-74)
- 関係: suitor → scylla (13.904-968 岸辺のスキュラに恋して言い寄るが逃げられる)
- 関係: courted_by → circe (14.8-69 恋の薬を頼みに行ったキルケに言い寄られ、拒む)
グライアイ
- オウィディウス『変身物語』では、ペルセウス自身が語る話として、アトラス山のふもとの入口に「一つの目を分け合う双子の姉妹」ポルキスたちが住み、目が手渡される隙に手を差し入れて奪ったとされる。ここでは二人に戻っている。 (4.772-777)
- 関係: enemy → perseus (アポロドロス 2.4.2 目と歯を奪われ、ニンフたちへの道を教える。オウィディウス『変身物語』4.772-777 受け渡しの隙に目を奪われる)
ハデス
- オウィディウスでは、妻エウリュディケを取り戻しに来たオルペウスの歌に亡霊が泣き、エウメニデス(復讐の女神たち)の頬まで濡れ、冥界の女王も王も願いを拒めなかった。 (Met. 10.40-52(ラテン語本文 10.46-47「nec regia coniunx sustinet oranti nec qui regit ima negare」))
ハルモニア
- 蛇への変身: エウリピデス『バッコスの信女』の結末で、ディオニュソスはカドモスとハルモニアが蛇に変わり、牛の引く車で異民族を率いて多くの町を攻めるが、最後はアレスに守られて祝福された者たちの地へ移されると予言する。アポロドーロスでは、二人はイリュリアでエンケレイス人を率いて勝ち、のちに蛇に変えられてエリュシオンの野に送られる。オウィディウスでは、年老いて不幸の続いた家を離れイリュリアへ流れ着いたカドモスが、殺した竜の祟りなら自分も蛇になりたいと願って蛇に変わり、妻もそれに続いて、二匹は森へ這っていった。 (『バッコスの信女』1330-1339 / 3.5.4 / Met. 4.563-603)
ヘベ
- オウィディウス『変身物語』でも、夫ヘラクレスの頼みに負けたヘベが、イオラオスを少年のころの姿に戻したとされる。青春の女神は若さを与える力をもつ。 (9.394-401)
ヘカベ
- 落城後の運命として、最後に犬(あるいは雌犬)に姿を変えたと語られる。オウィディウスでは、末子ポリュドロスを殺したトラキア王ポリュメストルの目を抉ったのち犬になる。 (『変身物語』13.399-575(犬になるのは 13.565-571)、エウリピデス『ヘカベ』1259-1273 でポリュメストルが犬への変身を予言する)
ヘリオス
- 息子パエトンが父の日輪の車を御そうとして制御を失い、大地を焼いてゼウスの雷に撃たれる話はオウィディウスで広く知られる。ホメロス・ヘシオドスにはこの物語は無い。 (1.750-2.400)
ヘラクレス
- ソポクレスとオウィディウスでは、火を点けたのはポイアスの子ピロクテテス本人で、その礼に弓を受け継ぐ。この弓がのちにトロイア陥落に欠かせないものとなる。 (ソポクレス『ピロクテテス』801-803、オウィディウス『変身物語』9.229-234)
- 関係: gave_gift → philoctetes (ソポクレス『ピロクテテス』801-803 火葬の薪に火を点けた礼に武具(弓)を譲る。オウィディウス『変身物語』9.231-234「ふたたびトロイアの王国を見ることになる矢」)
ヘルマプロディトス
- オウィディウスの形: メルクリウスとウェヌスの子で、イダ山のニンフたちに育てられた少年は、15歳で故郷の山を離れ、リュキアからカリアへと知らない土地を旅した。そこで底まで澄んだ泉に出会い、水に入ったところを、泉のニンフのサルマキスに抱きすくめられる。拒み続ける彼にしがみつき、サルマキスが「この人と私が決して引き離されませんように」と祈ると、二人の体は接ぎ木した枝のように一つになり、「女とも少年とも呼べず、どちらでもなく、どちらでもある」姿になった。 (Met. 4.285-379(旅 4.292-297、融合 4.373-379))
- 男の声を失ったヘルマプロディトスは、両親に「この泉に入った男は誰でも半ば男になって出てくるように」と願い、父母はそれをかなえて泉に薬を混ぜた。語り手は冒頭で「サルマキスの泉がなぜ悪評を持ち、男を柔弱にするのか、原因は隠れているが力はよく知られている」と話を始めており、泉の評判の由来譚として語られる。少年の名前が初めて出てくるのは、この最後の願いの場面。 (Met. 4.285-287(泉の評判)、4.380-388(願い。名は 4.383 で初出))
- 語り手はミニュアスの娘アルキトエ。よく知られた話はやめて「目新しい話で楽しませる」と言ってこの話を選ぶ。ピュラモスとティスベ、クリュティエとレウコトエに続く三つ目の話で、語り終えた姉妹たちはディオニュソスの祭を拒んだ罰でコウモリに変えられる。 (Met. 4.274-284(アルキトエが話を選ぶ)、4.389-415(コウモリ))
- サルマキスは狩りをせず、泉で身を洗い髪をくしけずって水を鏡にして過ごしていた。少年を見て身なりを整えてから言い寄り、拒まれると去ったふりをして茂みに隠れ、少年が水に入ると飛び込んで、鷲に掴まれた蛇、大樹にからむ蔦のようにしがみついた。 (Met. 4.302-372)
- 関係: child → hermes (Met. 4.288「メルクリウスとキュテラの女神の子」、4.368「アトラスの孫(アトランティアデス)」と呼ばれる)
- 関係: child → aphrodite (Met. 4.288-291 顔に父母どちらの面影もあり、名も両親から取った)
- 関係: courted_by → salmacis (Met. 4.316-379)
- 関係: foster_child → nymphs (Met. 4.289 イダ山の洞窟でナイアス(泉のニンフ)たちが育てた)
ヘルメス
- ゼウスの命でイオを盗み出そうとし、見張りのアルゴスを石で殺したため「アルゲイポンテス」と呼ばれた、とアポロドーロスは説明する。オウィディウスでは笛と話でアルゴスを眠らせてから首をはねる。 (アポロドーロス2.1.3、オウィディウス『変身物語』1.668-721)
ヒッポリュトス
- オウィディウスでは、生き返ったヒッポリュトスをディアナ(アルテミス)が雲に包んで姿を変え、イタリアのアリキアの森に移して「ウィルビウス」という名を与える。ギリシャの悲劇の主人公が、ローマ近郊の森の神に接ぎ木されている。 (15.497-546)
- 関係: killed_by → poseidon (テセウスの願いでポセイドンが海から牡牛を送る。『ヒッポリュトス』1214-1215、摘要 1.19、『変身物語』15.497-529)
ヒッポメネス
- オウィディウスの形: はじめ見物人として「妻ひとりにこれほどの危険を冒すのか」と求婚者たちを笑っていたヒッポメネスは、走るアタランテを見て心変わりし、自ら挑む。祈りを聞いたアプロディテが、キュプロス島タマソスの聖なる畑に立つ金色の木から摘んだ3つの林檎を渡し、彼は競走の最中にそれを一つずつ投げて、アタランテが拾うあいだに勝った。 (Met. 10.575-680(見物 10.575-577、林檎 10.644-651))
- 『変身物語』では、この話はアプロディテが恋人アドニスに語る話の中に入っている。女神は、獅子になった二人の話を引き合いに出し、「背を見せず胸を向けてくる獣は避けよ」とアドニスに忠告する。アドニスはこの忠告を聞かず、狩りで猪に殺される。 (Met. 10.560-707(忠告 10.705-707)、アドニスの死 10.708-739)
- 勝者の名は出典で違う。オウィディウスとヒュギヌスではヒッポメネス。アポロドーロスはメラニオンを本筋とし、黄金の林檎もメラニオンがアプロディテから持ってきたとしたうえで、「エウリピデスは夫をヒッポメネスとする」と書き添える。 (Met. 10.560-680 / 185 / 3.9.2)
- 勝った後、ヒッポメネスはアプロディテに礼も香も捧げなかった。オウィディウスでは、怒った女神がキュベレの神殿のそばで彼に欲情を起こさせ、神殿を汚された女神キュベレが二人を獅子に変えて車を引かせる。ヒュギヌスでは、パルナッソス山でゼウスに犠牲を捧げる途中のことで、二人を獅子に変えたのはゼウス。 (Met. 10.681-704 / 185)
- オウィディウスでは、ボイオティアのオンケストスのメガレウスの子で、ポセイドン(ネプトゥヌス)の曾孫だと自ら名乗る。ヒュギヌスは母をメロペとする。 (Met. 10.605-606 / 185)
- ここで使われる黄金の林檎は、オウィディウスではキュプロスのタマソスにあるアプロディテの聖域の木の実とされる。同じ「黄金の林檎」でも、ヘスペリデスの園の林檎や、パリスの審判の発端となったエリスの林檎とは出どころが別である。 (Met. 10.644-651)
- オウィディウスでは、アタランテは何度も追い越せたのにためらう。ヒッポメネスは林檎を一つずつ投げ、最後の一つはわざと脇へ投げて、アタランテが戻るのに時間がかかるようにした。 (10.652-680)
- アタランテは結婚について神に尋ね、「夫は要らない、夫から逃れよ、だが逃れられない」と告げられて、負けた求婚者を殺す徒競走を条件にした。 (10.564-572)
- 関係: spouse → atalanta (Met. 10.680 / 『神話伝説集』185 / 3.9.2(エウリピデスは夫をヒッポメネスとする、と伝える))
- 関係: suitor → atalanta (Met. 10.575-680 / 185)
- 関係: received_gift → aphrodite (Met. 10.644-651 キュプロス島タマソスの木の黄金の林檎3つ / 185)
- 関係: enemy → aphrodite (Met. 10.681-704 感謝も香も捧げなかったため女神の怒りを買う / 185)
- 関係: descendant → poseidon (Met. 10.605-606「父はオンケストスのメガレウス、その祖父がネプトゥヌス。私は海の王の曾孫だ」)
- 関係: told_by → aphrodite (Met. 10.560-707 ウェヌス(アプロディテ)がアドニスに語って聞かせる話として置かれている)
ヒュアキントス
- オウィディウスの形: 真昼に二人が裸で油を塗り、円盤投げを始める。アポロンの投げた円盤は雲を割って高く飛び、落ちてきたところを拾おうと駆け寄ったヒュアキントスの顔に、地面で跳ね返って当たった。アポロンは「私の手が君の死の原因だ」と嘆き、血から百合に似た紫の花を咲かせ、花びらに自らの嘆き「AI AI」を書き込んだ。風の神の嫉妬は出てこず、跳ね返りは事故として語られる。アポロンは嘆きの中で「いつか最も勇敢な英雄がこの花に加わる」とも予言し、これは第13巻でアイアスの血から同じ花が咲き、文字が彼の名の頭 AI とも読める場面につながる。 (Met. 10.174-219(跳ね返り 10.183-185、嘆き 10.196-206、アイアスの予言 10.207-208、花と文字 10.210-216)→ 13.394-398(アイアスの花))
- アミュクライのアポロン像の台座は祭壇の形をしていて、その中にヒュアキントスが葬られていると言われた。祭ヒュアキンティアでは、アポロンへの犠牲の前に、台座の左の青銅の扉からヒュアキントスに英雄としての供物が捧げられた。台座の浮彫には、神々がヒュアキントスと妹ポリュボイアを天へ運ぶ場面があった。オウィディウスも、スパルタが今も毎年ヒュアキンティアを祝うと書く。 (パウサニアス 3.19.3-4(祭の存在は 3.10.1 にも)/ Met. 10.217-219)
- オウィディウスでは、アポロンはヒュアキントスのためにデルポイを留守にしてスパルタで過ごし、竪琴も弓も顧みず、網を運び犬を引き、少年について山の尾根を歩いた。 (Met. 10.167-173)
- アポロンは、手当ての術も役に立たず首を垂れた少年を抱いて、「私の手が君の死の原因だ。代われるなら死にたいが、それはかなわない。私の竪琴と歌は君を響かせ、君は新しい花となって私の嘆きを刻むだろう」と嘆いた。 (Met. 10.185-208)
- 関係: lover → apollo (Met. 10.162-219 / 1.3.3, 3.10.3 / 『ヘレネ』1469-1475)
- 関係: killed_unintentionally_by → apollo (1.3.3「円盤を投げて意図せず殺した」/ Met. 10.178-185 / 『ヘレネ』1471-1473)
- 関係: told_by → orpheus (Met. 10.162-219 妻を失ったオルペウスが歌う物語の2番目(ガニュメデスの次))
ヒュプノス
- オウィディウスでは、眠り(ソムヌス)の館はキンメリオイ人の国の近く、光の届かない洞窟にあり、忘却の川レテが流れる。ユノの使いのイリスが訪れると、ソムヌスは千人の息子の中から人の姿をまねる名人モルペウスを選んで夢を届けさせる。 (11.592-649)
- 眠りの神の息子モルペウスの名は、1816年ごろドイツの薬剤師ゼルチュルナーが、眠りを誘う作用からアヘンの主成分を「モルフィン(morphine)」と名づけるのに使われた。オウィディウスが夢の神に付けた名が、麻酔薬の名として残った。 (etymonline「morphine」。『変身物語』11.633-638)
- 関係: visited_by → iris (11.585-632 ユノの使いのイリスが眠りの館を訪れる)
イカロス
- オウィディウスでは、大胆な飛行が楽しくなった少年が空への憧れに引かれて父から離れ、太陽の近くで蝋が溶けた。父の名を叫ぶ口が青い海に呑まれ、その海は彼の名を取った。父は「イカロス、イカロス、どこにいる」と呼び、波間に羽を見つけて自分の技を呪い、遺体を葬った土地もその名で呼ばれるようになった。 (8.223-235)
- サモス島沖のイカリア島とその周りのイカリア海は、イカロスにちなむ名と説明されてきた。アポロドーロス、オウィディウス、パウサニアスがそろって地名の由来として語っている。 (アポロドーロス摘要 1.13、『変身物語』8.229-230, 8.235、パウサニアス 9.11.5)
- オウィディウスでは、ダイダロスは羽を小さいものから大きいものへ並べ、真ん中を糸で、根元を蝋で留めて翼を作る。そばで幼いイカロスは羽を追いかけ、蝋を指でこねて仕事の邪魔をする。父は「真ん中を飛べ」と忠告し、涙を流しながら息子に翼をつける。 (8.183-216)
- 飛んでいく父子を見上げた釣り人、羊飼い、農夫は、二人を神々だと思った。 (8.217-220)
- 関係: child → daedalus (アポロドーロス摘要 1.12、『変身物語』8.195)
イノ・レウコテア
- 神になった経緯はホメロスの外にある。オウィディウス『変身物語』では、ヘラの怒りで狂った夫アタマスから逃れ、子メリケルテスを抱いて断崖から身を投げ、ウェヌスの願いで二人ともレウコテアとパライモンという海神になったと語られる。 (4.416-542(変身は4.531-542))
イオ
- 父親は出典で割れる。アポロドーロスは、イアソスの娘とする説、年代記作者カストルや多くの悲劇詩人が言うアルゴスの河神イナコスの娘とする説、ヘシオドスとアクシラオスが言うペイレンの娘とする説を並べている。オウィディウスは河神イナコスの娘とし、牝牛になった娘を父イナコスが嘆く場面を置く。 (2.1.3 / Met. 1.639-667)
- ヘラは牝牛をもらい受け、全身に目をもつ番人アルゴスに見張らせた。ゼウスに命じられたヘルメスは、アポロドーロスでは石を投げてアルゴスを殺し、そこから「アルゴス殺し(アルゲイポンテス)」の呼び名を得たとされる。オウィディウスでは、ヘルメスが葦笛シュリンクスの由来話を語って百の目をすべて眠らせてから首をはねる。 (2.1.3 / Met. 1.668-721(シュリンクスの話 1.689-712))
- 放浪の果てにエジプトのナイル河畔で元の姿に戻り、ゼウスの子エパポスを生む。アポロドーロスは、エジプト人がイオをイシスと呼んだと書き、オウィディウスも、亜麻の衣の信者たちに崇められる女神になった、とイシスと重ねる。エパポスの子孫からは、ダナオスとその50人の娘たち、そしてエウロペやカドモスの一族が出る。 (2.1.3(エジプト、エパポス、イシス)、2.1.4(エパポス→リビュエ→ベロスとアゲノル→ダナオス、アイギュプトス)/ Met. 1.738-749)
- オウィディウスでは、牝牛にされたイオはアルゴスに腕を差し伸べようにも腕が無く、訴えようとすると牛の声が出て自分で怯える。故郷のイナコス川で水に映る角を見て逃げ、父が差し出した草を持つ手をなめ、ひづめで砂に文字を書いて身の上を伝えた。 (1.635-650)
- ヘルメスがアルゴスの首をはねたあと、ユノ(ヘラ)はその百の目を拾い集め、自分の鳥である孔雀の尾羽に宝石のようにはめ込んだ。 (1.721-723)
- ナイル川に着いたイオが天を仰いで嘆くと、ユピテル(ゼウス)がユノをなだめ、イオは毛が抜け、角が消え、ひづめが指に戻って元の姿に返った。 (1.728-746)
- 関係: lover → zeus (アポロドーロス 2.1.3 / Met. 1.588-600 / 『縛られたプロメテウス』561-886)
- 関係: enemy → hera (2.1.3 ヘラの女神官だった。ヘラは牝牛をもらい受けてアルゴスに見張らせ、アブを送る / Met. 1.601-624, 1.724-727)
イクシオン
- ピンダロスは車輪がどこにあるかを言わないが、ローマの詩人たちは冥界の罰の一つとして描く。ウェルギリウスとオウィディウスはどちらも、オルペウスの歌を聴いてイクシオンの車輪が止まった、と書く。 (『農耕詩』4.484 / Met. 10.42)
- 関係: visited → underworld (ローマの詩人は車輪の罰を冥界に置く。『農耕詩』4.484 / Met. 10.42)
ラビュリントス
- オウィディウスは、行きつ戻りつ自分の流れに出会うマイアンドロス川(「蛇行」meander の語源)にたとえ、造ったダイダロス自身も入口に戻るのがやっとだったと書く。 (『変身物語』8.159-168、etymonline「meander」(カリアの蛇行する川マイアンドロスの名から))
- オウィディウスでは、ミノタウロスはアテナイの血で二度養われ、9年ごとの三度目のくじで選ばれた者(テセウス)に倒された。それまで誰も再びたどれなかった戸口が、乙女(アリアドネ)の助けと巻き戻す糸で見つけられた。 (8.169-173)
- 関係: created_by → daedalus (アポロドーロス 3.1.4, 3.15.8、『変身物語』8.159-168)
- 関係: owned_by → minos (3.1.4、『変身物語』8.157-158)
- 関係: visited_by → minotaur (閉じ込められた。3.1.4、『変身物語』8.169-170)
ラミア
- ラミアの名は、ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロドーロス『ビブリオテーケー』、オウィディウス『変身物語』、ヒュギヌス『神話集』には出てこない。まとまった話は、歴史家ディオドロスや辞典『スーダ』、著述家たちのたとえ話のなかに残る。 (手元の英訳全文(『イリアス』『オデュッセイア』『神統記』『ビブリオテーケー』『変身物語』『神話集』)と、『イリアス』『オデュッセイア』『神統記』のギリシャ語本文で Lamia / Λάμια を検索して該当なし(2026年9月))
レト
- オウィディウスでは、双子を抱いて放浪するレトがリュキアの池で水を飲もうとすると、農夫たちが拒んで池を泥でかき回したため、レトの呪いで蛙に変えられた。 (6.317-381)
リュキア
- オウィディウスでは、双子を抱いて放浪するレトがリュキアの池で水を飲もうとすると、農夫たちが拒んで池を泥でかき回したため、レトの呪いで蛙に変えられた。 (6.317-381)
- 関係: visited_by → leto (6.317-381)
マルシュアス
- 『変身物語』では、ラトナ(レト)の子に「トリトンの女神(ミネルウァ)の葦笛」で負けたサテュロスが「なぜ私を私から引き剥がすのか。笛にそれほどの値打ちはなかった」と叫ぶ。皮を剥がれて全身が傷になり、筋と脈と臓腑が透けて数えられるほどだった、と生々しく描かれる。本文ではサテュロスの名を言わず、最後に川の名としてだけ「マルシュアス」が出てくる。 (Met. 6.382-391(川の名 6.400))
- オウィディウスによれば、野の神ファウヌスたち、兄弟のサテュロスたち、弟子のオリュンポス、ニンフたち、その山で羊や牛を飼う者たちみなが彼のために泣き、大地が吸い込んだ涙が泉となって湧き出し、プリュギアで最も澄んだ川マルシュアスになった。パウサニアスも、ケライナイのプリュギア人は町を流れる川をかつての笛の名手だと考え、「母神の歌」という笛の曲も彼の作とし、ガリア人の侵入を彼の川の水と笛の音で撃退したと言い伝えている、と記す。 (Met. 6.392-400 / パウサニアス 10.30.9 / ストラボン 12.8.15(アパメイア市中を流れるマルシュアス川))
- オウィディウスでは、ファウヌスたち、兄弟のサテュロスたち、弟子オリュンポス、ニンフたち、山の羊飼いたちが泣き、大地が吸い込んだ涙が泉となってプリュギアで最も澄んだマルシュアス川になる。 (6.392-400)
- 関係: killed_by → apollo (アポロドーロス 1.4.2 高い松の木に吊るして皮を剥ぐ / ヘロドトス 7.26.3 / Met. 6.382-391)
メデイア
- コリントスを去ったメデイアはアテナイで王アイゲウスの妻となり、やって来たテセウスを毒殺しようとして追放された。オウィディウスでは、その毒はヘラクレスが冥界から引き出したケルベロスの泡から生えたアコニトンだった。 (アポロドーロス 1.9.28、摘要 1.5-6、『変身物語』7.404-424)
- 関係: enemy → theseus (アポロドーロス摘要 1.5-6、『変身物語』7.404-424(ケルベロスの泡から生じたアコニトンの毒))
メドゥサ
- オウィディウスでは、メドゥサはもとは求婚者が絶えないほどの美女で、特に髪が美しかった。ところが海の支配者(ネプトゥヌス=ポセイドン)にミネルウァ(アテナ)の神殿で汚され、女神は罰としてその髪を醜い蛇に変えた。 (4.790-803)
- 首を持って砂漠の上を飛ぶペルセウスから血が滴り、それが地面で蛇になった。リビュアに蛇が多いのはそのためだ、とオウィディウスは説明する。 (4.617-620)
- 関係: lover → poseidon (『神統記』278-279「黒髪の神が柔らかな草地で傍らに臥した」、アポロドーロス 2.4.2、オウィディウス『変身物語』4.798(ミネルウァの神殿で))
- 関係: parent → pegasus (『神統記』280-281 首を斬られたとき飛び出した。アポロドーロス 2.4.2、オウィディウス 4.785-786)
- 関係: enemy → athena (アポロドーロス 2.4.3 美しさでアテナと張り合ったとする説。オウィディウス 4.798-801 神殿を汚された女神が髪を蛇に変えた)
メレアグロス
- 死に方(2)燃えさしの薪: 生まれて7日目に運命の女神たちが現れ、炉で燃えている薪が燃え尽きるとき子も死ぬと告げた。母は薪を取り出して箱にしまったが、息子が兄弟を殺したと知って薪を火に投じ、メレアグロスは遠く離れた場所で体の内から焼かれるように死んだ。現存する詩ではバッキュリデス(前476年)が早い例。パウサニアスによれば、劇に初めて仕立てたのはプリュニコスの『プレウロンの女たち』だが、彼は自分で考えた話としてではなく、ギリシャ中で知られた話として軽く触れているという。 (バッキュリデス 5.136-154 / 10.31.4 / 1.8.2-3 / Met. 8.451-525)
- 殺した母の兄弟の名も出典で違う。バッキュリデスではイピクロスとアパレス(クレテス人との戦闘中に、狙ったのではなく乱戦で)。オウィディウスではプレクシッポスとトクセウスで、アタランテから皮を奪ったことに怒って刺す。ヒュギヌスはイデウス、プレクシッポス、リュンケウスの名を挙げる。アタランテをめぐる争いに変わるのは後代の形で、ホメロスとバッキュリデスには恋の要素が無い。 (バッキュリデス 5.125-135 / Met. 8.425-444 / 『神話伝説集』174 / 1.8.2-3)
- 嘆く姉妹は鳥になった。オウィディウスでは、ゴルゲとデイアネイラを除く姉妹をアルテミスが鳥に変える。ヒュギヌスはその鳥を「メレアグリデス(ホロホロチョウ)」と呼ぶ。大プリニウスは、ボイオティアにいるメレアグリデスはアフリカ産の雌鶏の一種で、メレアグロスの墓がこの鳥を有名にしたと書き、ソポクレスが琥珀を「メレアグロスを悼む鳥の涙からできる」と詠んだことを、あり得ない話として批判している。 (Met. 8.533-546 / 『神話伝説集』174 / 『博物誌』10.74, 37.40 / 1.8.3(嘆いた女たちが鳥に)。語源記事 etymologies/meleagris も参照)
- 関係: child → althaea (『イリアス』9.555 / 1.8.2 / Met. 8.451-459)
- 関係: killed_by → althaea (運命の薪を燃やされる。バッキュリデス 5.136-154 / 1.8.3 / Met. 8.511-525。『イリアス』9.565-572 では呪いのみ)
- 関係: lover → atalanta (1.8.2 妻クレオパトラがいながらアタランテとの子を望んだ / Met. 8.324-328 一目で恋に落ちる)
- 関係: participated_in → calydonian-boar-hunt (『イリアス』9.543-546 / バッキュリデス 5.93-135 / 1.8.2 / Met. 8.299-444)
メムノン
- オウィディウスでは、エオスがゼウスに息子への誉れを願い、ゼウスがうなずくと、崩れた火葬の薪の灰が集まって鳥となり、無数の姉妹の鳥とともに薪を三度回って嘆き、四度目に二手に分かれて争い、灰の上に落ちる。この鳥はメムノニデスと呼ばれ、太陽が十二宮を巡るたびに戻ってきて戦う。エオスはいまも涙を流し、それが世界中を露でぬらす。 (13.576-622)
ミダス
- オウィディウスの形: 酔ってはぐれたシレノスを手厚くもてなして返した礼に、バックスが願いを一つかなえると言う。ミダスは「触れるものすべてが黄金になるように」と願い、パンも酒も口に入ると黄金になって飢え渇く。許しを請うと、パクトロス川の源で体を洗えと言われ、その力が川に移った。今もこの川の砂に金が混じるのはそのためだという由来譚になっている。 (Met. 11.85-145(パクトロス川 11.136-145))
- オウィディウスでは、ミダスは死なずに川で力を洗い流して助かる。アリストテレスの伝える形とは結末が違う。 (Met. 11.131-145)
- パンとアポロンの音楽比べで、山の神トモロスがアポロンの勝ちとしたのに、ミダスだけが異を唱える。怒ったアポロンは彼の耳をロバの耳に変えた。ミダスは頭巾で隠したが、髪を切る召使いが秘密に耐えきれず、地面に穴を掘ってささやき、埋めて去る。やがてそこに生えた葦が風にそよいで秘密を語ってしまった。日本で「王様の耳はロバの耳」として知られる話と同じ筋である。 (Met. 11.146-193)
- 願いがかなうと、ミダスは樫の小枝、石、土くれ、麦の穂、木の実、柱に触れてすべて金に変え、手を洗った水まで金になった。食卓ではパンも肉も金の板になり、ぶどう酒は溶けた金となって喉を流れた。 (11.106-126)
- 関係: received_gift → dionysus (Met. 11.100-105 シレノスを返した礼に、バックス(ディオニュソス)が望みを一つかなえる)
- 関係: enemy → apollo (Met. 11.172-179 音楽比べの判定に異を唱え、耳をロバの耳に変えられる)
- 関係: companion → pan (Met. 11.146-147, 11.171-174 富を嫌って森でパンを崇め、アポロンとの音楽比べでパンの側についた)
- 関係: student → orpheus (Met. 11.92-93 オルペウスとエウモルポスから秘儀を授けられていた / コノン第1話 ピエリアの山でオルペウスに学んだ)
ミノス
- 関係: owner → labyrinth (3.1.4、『変身物語』8.157-158 ミノスが恥を隠すため迷宮に閉じ込めることを決める)
ミノタウロス
- オウィディウスは「牡牛と若者の二つの姿をもつ」怪物、「母の不義の恥」と呼び、ミノスが恥を隠すために迷宮に閉じ込めたとする。アテナイの若者を9年ごとに食べさせられ、3度目のくじでテセウスに倒された。 (8.155-158, 8.169-173)
- 息子アンドロゲオスをアテナイで失ったミノスはアテナイを攻め、神託に従ったアテナイは毎年(オウィディウスでは9年ごとに)7人の若者と7人の乙女を武器を持たせずに差し出した。これが迷宮の怪物の餌になった。 (アポロドーロス 3.15.7-8、オウィディウス 8.170-171)
- 関係: killed_by → theseus (アポロドーロス摘要 1.9、『変身物語』8.169-173)
- 関係: visited → labyrinth (3.1.4, 3.15.8、『変身物語』8.155-170 迷宮に閉じ込められる)
モイラ
- ローマではパルカエ(単数パルカ)と呼ばれ、ギリシャのモイラと重ねられた。オウィディウスは、冥界の食べ物を口にした者は地上に戻れないという掟を「パルカたちの取り決め」と呼ぶ。 (5.530-532)
パルナッソス山
- オウィディウスでは、アウトリュコスはヘルメスとキオネの子で、白を黒に、黒を白に変える盗みの名人として生まれる。双子の兄弟はアポロンの子で歌の名手ピラムモン。 (11.301-317)
- オウィディウスはパルナッソスを、二つの峰が星をめざしてそびえ、頂が雲を越える山として描き、パエトンの暴走で燃えた山々の中でも「二つの頭の」パルナッソスと呼ぶ。 (1.316-317、2.221)
- オウィディウスでは、洪水で海が他のすべてを覆ったとき、デウカリオンとピュラの小舟がパルナッソスに着き、二人はコリュキオンのニンフたち、山の神々、当時神託を持っていたテミスを拝んだ。 (1.316-321)
- オウィディウスでは、娘キオネをアルテミス(ディアナ)に射殺されたダイダリオンが嘆きのあまりパルナッソスの頂へ駆け上がって身を投げ、哀れんだアポロンに鷹へ変えられる。 (11.321-345)
- 関係: visited_by → deucalion (『変身物語』1.316-321、アポロドーロス1.7.2)
- 関係: visited_by → pyrrha (1.318-321)
- 関係: setting_of → deucalions-flood (水の上に残った山、箱舟の漂着地)
- 関係: owned_by → nymphs (パウサニアス10.32.7、『変身物語』1.320 コリュキオンのニンフ)
- 関係: visited_by → eros (1.466-467)
ムーサ
- オウィディウスでは、九人姉妹がムーサに歌比べを挑み、ニンフたちの審判で敗れたうえ、ムーサをののしり続けたためカササギに変えられる。 (5.294-678)
ミュルミドン人
- オウィディウスでは、アイアコスがケパロスに語る。島が恋敵アイギナの名で呼ばれるのを憎んだユノ(ヘラ)が疫病を送り、民は死に絶えた。アイアコスがユピテル(ゼウス)に祈ると、ドドナの種から育った聖なる樫の木を登る蟻の列が目に入り、同じ数の民を求めた。夢で蟻が人に変わるのを見、目覚めると息子テラモンが外に新しい民がいると告げる。アイアコスは彼らをミュルミドンと名づけ、性質は蟻のまま、つましく働き者で、得たものを蓄える民だとする。 (7.517-660(疫病7.523-613、蟻7.614-642、命名7.654-657))
- 関係: created_by → zeus (『カタログ』断片(エヴリン=ホワイト53)、『変身物語』7.614-654、アポロドーロス3.12.6 蟻を人間に変える)
ミュラ
- オウィディウスの語り手オルペウスは、この話の前に「恐ろしいことを歌う。娘たちよ、父親たちよ、ここから離れよ。聞くなら信じるな、信じるなら罰も信じよ」と前置きする。さらに、こんな罪を生んだ遠い国ではなく自分の土地に生まれたことを喜び、あの地は没薬を生む木を得たが、それほどの値打ちはなかった、と言う。恋の神クピドも自分の矢のせいではないと否定し、ミュラの心に毒蛇をまとわせたのは復讐の三姉妹の一人だとされる。 (Met. 10.300-315(復讐の女神 10.313-314))
- 東方じゅうの若者が求婚に来て、父にどんな夫がよいかと聞かれたミュラは「あなたに似た人」と答える。父はその意味に気づかず娘の孝心をほめ、ミュラはその夜、帯で首を吊ろうとする。気づいた年老いた乳母がわけを聞き出し、ケレス(デメテル)の祭で母ケンクレイスが9夜のあいだ夫と床を別にしている時期に、酒に酔ったキニュラスに娘の名を伏せて若い娘を引き合わせた。 (Met. 10.316-470(答え 10.356-367、首吊り 10.378-381、乳母 10.382-430、ケレスの祭と母ケンクレイス 10.431-441))
- 何夜目かに明かりを持ち込んだキニュラスが娘だと知って剣を抜くと、ミュラは闇にまぎれて逃げ、アラビアとパンカイアを越えて9か月さまよい、サバの地で力尽きる。「生きる者も死者も汚さないよう、どちらの国からも締め出して、姿を変えて生も死も拒んでほしい」と祈ると、足は根に、骨は幹に、血は樹液に変わった。木になっても泣き続け、その温かい滴が没薬(ミルラ)で、持ち主の名をとどめて永遠に語られる、と詩人は言う。 (Met. 10.472-502(祈り 10.483-487、涙が没薬になる 10.500-502))
- オウィディウスでは、身重の木は裂けることもできず、声を出せないので出産の女神ルキナを呼ぶこともできない。それでも木は身をよじってうめき、涙をこぼした。あわれんだルキナが枝に手を当てて出産の言葉を唱えると、幹が割れて赤子が泣き声を上げた。ナイアスたちは母の涙(没薬)で赤子に油を塗った。この子がアドニスになる。 (Met. 10.503-518)
- 没薬(英語 myrrh)はアラビアやエチオピアの植物から出る香り高い樹脂で、香や香料に使われた。語はラテン語 myrrha、ギリシャ語 myrrha を経て、アッカド語 murru、ヘブライ語 mor、アラビア語 murr などセム語の「苦い」を意味する語根にさかのぼる。ミュラ(スミュルナ)の神話は、東方から入ってきたこの香料の由来譚になっている。 (etymonline の myrrh の項 / Met. 10.307-310、10.500-502。語源記事 etymologies/myrrh も参照)
- 関係: child → cinyras (Met. 10.298-518)
- 関係: parent → adonis (Met. 10.503-518 木が裂けて生まれる / 3.14.4(パニュアシス説、スミュルナの名で))
- 関係: descendant → pygmalion (Met. 10.296-299 ピュグマリオン → 娘パポス → キニュラス → ミュラ(ひ孫))
- 関係: told_by → orpheus (Met. 10.300-303 オルペウスが「恐ろしいことを歌う。娘たちよ、父親たちよ、遠くへ離れよ」と前置きして語る)
ナルキッソス
- オウィディウスの形: 河神ケピソスとニンフのリリオペの子。16歳で多くの若者と娘に言い寄られるが誰にもなびかず、エコーも拒む。拒まれた若者の祈りを受けて、泉に映る自分の姿に恋し、やせ衰えて死ぬ。遺体は消え、中心が黄色く白い花びらに囲まれた花が残った。 (Met. 3.339-510。花は 3.509-510)
- エコーとナルキッソスを一つの物語にしたのは、現存する資料ではオウィディウスが最初。それ以前の伝承(コノン、パピルス断片)にはエコーが出てこない。エコーの「他人の言葉の終わりしか繰り返せない」声を、自分の像しか愛せないナルキッソスと対にした構成は、オウィディウスの工夫と考えられている。 (Met. 3.356-401 / コノン第24話 / P.Oxy. 4711(オックスフォード大学オクシュリンコス・パピルス解説記事))
- 母が息子の長寿を尋ねると、テイレシアスは「自分を知らなければ」と答える。 (3.339-350)
- 拒まれた者の一人が「彼も恋をし、恋した相手を得られませんように」と祈り、ネメシスがこれを聞き届ける。 (3.402-406)
- 死後、冥界に下っても、ナルキッソスはステュクスの水に映る自分の姿を見つめ続けている。 (3.504-505)
- 関係: courted_by → echo (Met. 3.370-401 エコーが一方的に恋し、拒まれる)
- 関係: advisee → tiresias (Met. 3.339-350 母リリオペが息子の長寿を尋ね、テイレシアスが「自分を知らなければ」と答える。テイレシアスの予言が当たる最初の例として置かれている)
ネメシス
- オウィディウスでは、ナルキッソスに冷たくされた者の一人が「彼も恋をして、恋したものを手に入れられませんように」と祈り、ラムヌシア(ネメシス)がそれを聞き入れる。これがナルキッソスが水に映った自分に恋する発端になる。 (3.402-406)
- 関係: enemy → narcissus (3.402-406 ナルキッソスにはねつけられた者の祈りを「ラムヌシア」が聞き入れる)
ニオベ
- オウィディウスの形: 祖父にゼウスとアトラス、父に神々の食卓に招かれたタンタロスを持ち、夫アンピオンの竪琴でテーバイの城壁が建った、とニオベは家柄を並べ、レトへの供物をやめさせる。レトの訴えでアポロンが7人の息子を射殺し、夫アンピオンは悲しみのあまり自害する。続いて娘たちも次々に射られ、最後の一人だけは、とすがるうちに全員が倒れる。ニオベは石になり、旋風に運ばれて故郷の山頂に据えられ、今も大理石から涙が流れる。 (Met. 6.146-312(家柄の自慢 6.170-203、石化 6.301-312))
- オウィディウスはニオベの話をアラクネの話のすぐ後に置き、二人がリュディアで知り合いだったとわざわざ書く。ニオベは同郷の娘が女神に逆らって罰された話を知っていながら、学ばなかった、というつなぎ方になっている。 (Met. 6.148-151)
- オウィディウスでは、娘たちが次々に射られ、最後の一人を体と衣で覆ったニオベは「この一番小さい一人だけは残して」と叫ぶが、願っているうちにその子も死ぬ。夫アンピオンは息子たちの死のあと自ら胸を刺していた。 (6.271-272(アンピオン)、6.286-301)
- 子と夫の亡骸の中で座り込んだニオベは悲しみに固まり、髪は風に揺れず、顔は血の気を失い、舌は上あごに凍りつき、体の内まで石になる。それでも泣き続け、つむじ風に故郷の山の頂へ運ばれ、その大理石はいまも涙を流している。 (6.301-312)
- 関係: child → tantalus (Met. 6.172-173 / 3.5.6 / 『アンティゴネ』824)
- 関係: enemy → leto (『イリアス』24.607-609 / Met. 6.170-203 / 3.5.6 自分をレトと比べて誇った)
- 関係: enemy → apollo (『イリアス』24.605-606 息子たちを射殺す / Met. 6.218-266 / 3.5.6)
- 関係: companion → arachne (Met. 6.148-150 リュディアで娘時代にアラクネを知っていたが、その罰から学ばなかった)
オイネウス
- オウィディウスの形: 豊作の年に、オイネウスはケレス(デメテル)に穀物の初穂、バッコス(ディオニュソス)に葡萄酒、ミネルウァ(アテナ)にオリーブ油を捧げ、農耕の神々から天の神々まで皆を祀ったが、ディアナ(アルテミス)の祭壇だけが香を焚かれずに残された。 (Met. 8.273-278)
- 関係: enemy → artemis (『イリアス』9.533-540 / バッキュリデス 5.97-104 / 1.8.2 / Met. 8.273-283)
オレイテュイア
- ボレアスとの間に、娘クレオパトラとキオネ、翼のある息子ゼテスとカライスが生まれた。二人の息子はイアソンとともにアルゴ船で航海した。 (アポロドーロス 3.15.2、『変身物語』6.711-721)
- オウィディウスでは、ボレアスは初め穏やかに求婚したが、トラキア人テレウスの一件があったため拒まれ続けた。言葉では通じないと悟ると、「力こそ自分にふさわしい」と翼を広げてさらっていく。 (6.683-707)
- オウィディウスでは、双子の息子ゼテスとカライスは母に似て父の翼を持つが、翼は生まれつきではなく、頬にひげが生えるころ鳥のように脇腹に生えてきた。二人は成長してミニュアイ(アルゴ船の一行)とともに金羊毛を求めて船出した。 (6.711-721)
- 関係: abducted_by → boreas (アポロドーロス 3.15.2、『変身物語』6.705-707、アポロニオス 1.211-218、『パイドロス』229b-c)
- 関係: spouse → boreas (ヘロドトス 7.189、『変身物語』6.711-713)
- 関係: sibling → procris (アポロドーロス 3.15.1、『変身物語』6.681-682)
オルペウス
- ウェルギリウスとオウィディウスの形: 冥界の王と妃は歌に動かされ、「地上に出るまで振り返らない」という条件で妻を返す。出口の手前でオルペウスは振り返り、エウリュディケは再び冥界へ引き戻される。この結末がまとまった物語として読める現存の文学作品は、この二人のローマの詩人のものが最初期とされる。 (『農耕詩』4.485-503(振り返るのは 4.490-491)/ Met. 10.50-63 / アポロドーロス 1.3.2 も同じ条件と失敗を記す)
- 最期は、女を寄せつけなくなったオルペウスに怒ったトラキア(キコネス人)の女たちに八つ裂きにされる。首と竪琴はヘブロス川を流れながらなお嘆きの声を上げ、海を渡ってレスボス島に着いた。オウィディウスでは、亡霊となったオルペウスは冥界の「敬虔な者たちの野」でエウリュディケと再会し、今度は安心して振り返る。 (『農耕詩』4.516-527 / Met. 11.1-66(首と竪琴 11.50-55、再会 11.61-66)/ 1.3.2(マイナデスに引き裂かれピエリアに葬られる))
- オウィディウスでは、婚礼の松明がくすぶる不吉な婚礼のあと、エウリュディケはナイアスたちと草原を歩いていて蛇に踝を噛まれて死ぬ。オルペウスはタイナロンの門から冥界へ下り、妻の「命の糸を結び直してほしい」、寿命が来ればまた戻るのだから短い日々を貸してほしいと歌う。亡霊が泣き、タンタロス、イクシオン、ティテュオス、ダナオスの娘たち、シシュポスが罰の手を止め、エウメニデスが初めて涙を流した。 (Met. 10.1-48)
- 振り返って妻を失ったオルペウスは、もう一度渡ろうとして渡し守に拒まれ、7日間食を断って川岸に座り込んだ。 (Met. 10.72-75)
- オウィディウスでは、キコネスの女たちが投げた槍や石は初め歌の力で勢いを失ったが、笛・角笛・太鼓・叫び声が歌をかき消すと、女たちは彼を引き裂いた。流れる竪琴は嘆きの音を立て、命のない舌がつぶやき、岸が答えた。冥界で再会した二人は、並んで、あるいは交互に先に立って歩く。 (Met. 11.1-66)
- 関係: spouse → eurydice (『農耕詩』4.465、4.486 / Met. 10.1-10 / 1.3.2)
- 関係: visited → hades (『農耕詩』4.467-470 / Met. 10.11-48 / 1.3.2(プルトンを説き伏せる))
- 関係: visited → persephone (『農耕詩』4.487 振り返らない条件を課したのはプロセルピナ(ペルセポネ) / Met. 10.15-16, 10.46-48)
- 関係: visited → underworld (『農耕詩』4.467-484 / Met. 10.11-63)
パン
- オウィディウスでは、パンに追われたニンフのシュリンクスが川辺で葦に変わり、パンがその葦に吹き込むと哀しい音が出た。パンは長さの違う葦を蝋でつないで笛を作り、娘の名をとどめてシュリンクス(パンの笛)と呼んだ。 (1.689-712)
- オウィディウスでは、シュリンクスはディアナ(アルテミス)を慕って純潔を守るアルカディアのニンフで、パンに追われて川ラドンの岸で姉妹の水のニンフたちに変身を願い、葦になった。パンのため息が葦を鳴らし、パンは長さの違う葦を蝋でつないで笛を作った。 (1.689-712)
パリス
- アキレウスを射殺す。『イリアス』の外の伝承で、多くはアポロンが矢を導いたとされる。踵に当たったという形は後代に定着した。 (『アイティオピス』要約、アポロドーロス摘要 5.3(踝を射る)、『変身物語』12.597-611)
- 関係: killed → achilles (『アイティオピス』要約、アポロドーロス摘要 5.3、『変身物語』12.597-611。いずれもアポロンの助けを伴う)
パシパエ
- オウィディウスは、二つの姿をもつ怪物の誕生で母の不義が明らかになり、ミノスがその恥を迷宮に隠したと描く。ミノスに捨てられたスキュラ(メガラ王の娘)は、牡牛を木でだました女こそ王にふさわしい妻だとなじり、別の箇所では、太陽の娘は牡牛を愛したが、それでも女が男を愛したのだ、と語られる。 (8.131-137、8.155-158、9.735-740)
- 関係: parent → minotaur (アポロドーロス3.1.4、ディオドロス4.77.3、『変身物語』8.155-156)
ペガソス
- オウィディウスでは、ペガソスの蹄が岩を打って新しい泉が湧き、ムーサたちのもとの名所となった。ミネルウァ(アテナ)がわざわざ見物に来る。 (5.256-264)
ペリアス
- オウィディウスでは、メデイアはイアソンと不仲を装ってペリアスの館に身を寄せ、アイソンを若返らせた話で娘たちの望みをかき立てる。年老いた雄羊を子羊に変えてみせたあと、4日目の夜に効き目のない草を煮て、眠らせた王を娘たちに刺させる。「父思いの娘ほど先に不孝を働いた」。身を起こした王に「娘たちよ、何をする」と問われて娘たちの手が止まると、メデイアが喉を切って煮え湯に沈めた。 (7.297-349)
- 関係: killed_by → medea (アポロドーロス1.9.27、『変身物語』7.297-349(娘たちに刺させ、最後はメデイアが喉を切る)、パウサニアス8.11.2-3)
ペンテウス
- 母には何に見えたか: エウリピデスでは、アガウエは息子の首を「若い獅子」の首と思い込み、テュルソスの先に刺してキタイロン山から持ち帰る。オウィディウスでは、アガウエは姉妹に「われらの畑をうろつくあの大猪を打て」と叫んで襲いかかる。アポロドーロスは、単に獣と思ったとする。 (『バッコスの信女』1139-1142, 1173-1175 / Met. 3.713-715 / 3.5.2)
- オウィディウスの形: ペンテウスは予言者テイレシアスをあざけり、捕らえた神の従者アコイテスの長い話(神を売ろうとした海賊たちがイルカに変えられた話)にも耳を貸さない。自らキタイロン山に向かい、儀式を見ているところを最初に母に見つかり、叔母アウトノエとイノに両腕をもがれる。「アクタイオンの影に心を動かして」と叔母に叫ぶが、狂ったアウトノエにはアクタイオンが誰かも分からない。 (Met. 3.511-733(アコイテス 3.582-691、死 3.708-731))
- 関係: child → agave (『バッコスの信女』507, 1118-1119 / 3.5.2 / Met. 3.725 / 『神話伝説集』184)
- 関係: killed_by → agave (『バッコスの信女』1114-1147 / 3.5.2 / Met. 3.710-731 / 184)
- 関係: enemy → dionysus (『バッコスの信女』215-262, 434-518 / 3.5.2 / Met. 3.513-733 /『エウメニデス』24-26)
- 関係: advisee → tiresias (『バッコスの信女』266-369 新しい神を受け入れよと諭されるが退ける / Met. 3.511-527)
- 関係: cousin → actaeon (Met. 3.719-720 八つ裂きにされながら叔母アウトノエに「アクタイオンの影に心を動かして」と叫ぶ /『バッコスの信女』229-230, 337-340)
ペルセポネ
- オウィディウスでは「一年を等分し、半分は母のもとで、半分は夫のもとで」となる。日本語の概説書で広く紹介される「半年ずつ」はこちらの系統。 (5.564-571)
ペルセウス
- アポロドーロスとオウィディウスのペルセウスは、翼のサンダルで空を飛ぶ。ペガソスはメドゥサの首から生まれるが、ペルセウスはそれに乗らない。 (アポロドーロス 2.4.2、オウィディウス『変身物語』4.614-620(翼で砂漠の上を飛ぶ), 4.785-786)
- オウィディウスでは、西の果てで宿を求めたペルセウスを、ゼウスの子が黄金のりんごを奪うという予言を恐れたアトラスが追い払おうとし、ペルセウスがメドゥサの首を見せてアトラスを山に変える。 (Met. 4.627-662)
- オウィディウスでは、岩に縛られたアンドロメダを、ペルセウスは初め大理石の像だと思い、風に揺れる髪と流れる涙で生身の娘だと気づく。 (Met. 4.671-677)
- 関係: spouse → andromeda (アポロドーロス 2.4.3、ヘロドトス 7.61.3、オウィディウス『変身物語』4.735-739)
パエトン
- オウィディウスの形: イオの子エパポスに「お前の父が太陽だなどと信じるのは愚かだ」とあざけられたパエトンは、東の果ての太陽の宮殿へ行き、父から「何でも一つ願いをかなえる」という誓いを引き出す。願いは父の車を一日御すこと。父は止めるが誓いは取り消せない。軽い御者を乗せた馬は暴走し、天の星座をかすめ、地上の山や川や町を焼き尽くした。 (Met. 1.750-2.300(エパポスとの口論 1.750-761))
- オウィディウスは暴走の被害に由来譚を織り込む。エチオピアの人々の肌が黒くなったのはこのとき血が表面に引き寄せられたためで、リビュアが砂漠になったのも水分を奪われたためだ、という。 (Met. 2.235-238)
- ユピテルの雷に撃たれたパエトンは流れ星のように落ち、遠いエリダノス川が燃える体を受け止めた。ニンフたちが墓に刻んだ碑文は「父の車の御者パエトンここに眠る。御しきれなかったが、大きな企ての末に落ちた」。嘆き続けた姉妹たち(ヘリアデス)はポプラの木に変わり、枝から滴る涙が陽に固まって琥珀(electra)になった。 (Met. 2.304-328(墓碑銘 2.327-328)、2.340-366(琥珀 2.364-366))
- オウィディウスが「琥珀」に使った electrum はギリシャ語 ēlektron(琥珀)から来た語。1600年にウィリアム・ギルバートが、こすると物を引きつける琥珀の性質からラテン語 electricus を作り、英語 electric(電気の)が生まれた。パエトンの姉妹の涙から電気まで、一本の語でつながっている。 (Met. 2.365 / etymonline の electric の項)
- 太陽神は、雷を投げるユピテルでさえこの車は御せないと言って止め、「私がこれほど恐れていることが、お前が私の子である確かなしるしだ」と語る。 (2.59-62、2.90-92)
- 暴走する車に焼かれた大地の女神が、ユピテルに救いを求める。 (2.272-303)
- 関係: child → helios (Met. 1.750-2.328(オウィディウスは父を Sol / Phoebus と呼ぶ)/ エウリピデスの断片では母クリュメネが太陽神を責める)
- 関係: killed_by → zeus (Met. 2.304-318 大地を救うためユピテル(ゼウス)が雷で撃ち落とす)
ピロメラ
- オウィディウスでは、姉に会いたいというプロクネの願いでテレウスがアテナイへ迎えに行き、トラキアへ連れ帰る途中で森の小屋に閉じ込めて辱め、舌を切る。やがてピロメラは白い糸に紫の文字を織り込んで召使いに届けさせた。 (6.438-586(織物は 6.576-586))
- オウィディウスは、姉妹のどちらがどの鳥になったかを言わない。一羽は森へ、一羽は屋根の下へ飛ぶ、とだけ書き、胸には血の印が残る。 (6.667-670)
- オウィディウスでは、辱められたピロメラが「森にも岩にも神々にも訴える」と叫んだため、テレウスは彼女の舌を切る。 (6.533-560)
- 子の首をテレウスに投げつけたとき、ピロメラはこのときほど話せたらと願ったことはなかった、とオウィディウスは書く。 (6.658-660)
- 関係: sibling → procne (アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.412-674)
- 関係: abducted_by → tereus (アポロドーロス 3.14.8(プロクネは死んだと偽って関係をもち、舌を切る)、『変身物語』6.447-570(アテナイから連れ出し、森の小屋に閉じ込める))
フェニックス
- 『変身物語』ではピュタゴラスの語りの中で、自分で自分を生み直す唯一の鳥とされる。乳香と香草の汁で生き、500年を生きると木の枝やヤシの梢に香料の巣を作って死ぬ。父の体から小さな鳥が生まれ、力がつくとその巣(自分のゆりかごで父の墓)を太陽の町の神殿の扉の前に運ぶ。火は出てこない。 (15.391-407。語り手ピュタゴラスの登場は15.60以下)
- オウィディウスは「アッシリアの人々はこの鳥をポイニクスと呼ぶ」と書き、名をアッシリアの呼び名として紹介している。 (15.393)
- 現代日本の辞書は、フェニックスを「エジプト神話の霊鳥」とし、500年に一度みずから火中に入って焼かれ、灰から若い姿で再生すると説明する。古代の書き物では、この形がそろうのは後代(クラウディアヌス)で、ヘロドトスやオウィディウスには火が無い。 (デジタル大辞泉「フェニックス」(2026年9月閲覧))
ポリュペモス
- 後代の扱い: オウィディウス『変身物語』では、海のニンフ、ガラテイアに恋する牧歌的な巨人として描かれ、恋敵アキスを岩で押し潰す。ホメロスの人食い巨人とは性格が大きく異なる。 (13.750-897)
ポリュクセネ
- オウィディウスも同じ場面を描き、母ヘカベが娘の遺体を洗う場面へ繋げる。ヘカベの転落の連続として構成されている。 (13.399-575(ポリュクセネの死とヘカベの嘆き))
- オウィディウスでは、トラキアの岸で風を待つギリシャ軍の前に、生前の姿のアキレウスが大地を裂いて現れ、ポリュクセネを自分の霊への生贄にせよと命じる。ポリュクセネは母の胸から引き離され、ネオプトレモスの前で自ら喉と胸をあらわにし、男たちに触れずに下がるよう、亡骸は身代金なしで母に返すよう頼む。人々は泣き、刺す者も泣きながら刺した。倒れるときも身を慎んだ。 (13.439-480)
プリアポス
- オウィディウス『変身物語』では、ロティスはプリアポスのみだらな思いから逃れるうちに、名前だけを残して水辺の木(ロートス)に変わる。ドリュオペがその花を摘んだときに血がしたたる話の中で語られる。 (9.340-348)
プロクネ
- 妹ピロメラが衣に織り込んだ文字で夫の罪を知ったプロクネは、息子イテュスを殺して煮込み、何も知らないテレウスに食べさせた。そして妹とともに逃げた。 (アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.576-660(織り込んだ知らせ 6.576-586))
- オウィディウスはどちらがどの鳥かを言わない。一羽は森へ、一羽は屋根の下へ飛び、胸の羽には血の印が残った、とだけ書く。テレウスははっきり冠羽のあるヤツガシラ(epops)になる。 (6.667-674)
- オウィディウスでは、布で真相を知ったプロクネは言葉を失い、ディオニュソスの夜の祭りの装いで森の小屋を破って妹を救い出す。息子イテュスが抱きつくと心が揺らぐが、妹と見比べて決意し、姉妹で子を殺してテレウスに食べさせる。「あなたの探す子はあなたの中にいる」と告げ、ピロメラが子の首を投げつける。 (6.581-660)
- 関係: spouse → tereus (アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.427-438、トゥキュディデス 2.29.3)
- 関係: sibling → philomela (アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.412-674)
- 関係: enemy → tereus (息子を夫に食べさせて復讐し、夫に追われる。アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.647-674)
プロクリス
- オウィディウスでは、犬はディアナ(アルテミス)がプロクリスに授けたもの。夫の試しに傷ついて家を出たプロクリスが、女神に従って狩りをしていたことと結びついている。 (7.745-756)
- オウィディウスでは、夫がそよ風(アウラ)に呼びかける言葉を女の名と誤解したプロクリスが、確かめようと茂みに隠れ、物音を獣と思った夫の槍に貫かれた。死の間際に誤解だったと知る。 (7.805-862)
- オウィディウスでは、曙の女神にさらわれて戻ったケパロスが妻の貞節を疑い、姿を変えて贈り物で誘惑し、プロクリスが迷った瞬間に正体を明かす。プロクリスは恥じて家を出てディアナのもとで狩りをし、ケパロスが非を認めて和解する。 (7.700-752)
- プロクリスが夫に贈った犬は、テーバイを荒らす捕まらない狐を追ううち、狐とともに大理石に変えられた。 (7.759-793)
- 関係: child → erechtheus (アポロドーロス 3.15.1、『変身物語』6.681-682)
- 関係: spouse → cephalus (アポロドーロス 3.15.1、『変身物語』6.681-682, 7.690-862)
- 関係: killed_unintentionally_by → cephalus (アポロドーロス 3.15.1、『変身物語』7.835-862)
- 関係: received_gift → artemis (7.753-756。オウィディウスでは犬はキュンティア(ディアナ=アルテミス)から授かったもの)
プロメテウス
- 人間そのものをプロメテウスが土と水から造ったという話は、ヘシオドスには無い。アポロドーロスやオウィディウスなど後代の伝承で語られる。 (アポロドーロス 1.7.1。オウィディウス『変身物語』1.76-88 では「イアペトスの子」が土に雨水を混ぜて人を形づくる)
プロテウス
- オウィディウス『変身物語』では、プロテウスはテティスに「父よりも偉大な息子を産む」と予言した。これを聞いたゼウス(ユピテル)はテティスとの結婚を避け、孫のペレウスに譲る。姿を変えて逃げるテティスに手を焼くペレウスに、眠っているところを縛り、何に変わっても放すなと教えたのも、カルパトスの予言者プロテウスだった。 (11.221-265)
- 関係: advisor → thetis (11.221-223 「父より偉大な息子を産む」と告げる)
- 関係: advisor → peleus (11.249-256 眠るテティスを縛りつけ、姿を変えても離すなと教える)
ピュグマリオン
- オウィディウスの形: 身を売るようになった女たち(プロポイトスの娘たち)の姿を見て女性を嫌い、独身を通したピュグマリオンは、雪のように白い象牙で生身の女より美しい像を彫り、自分の作品に恋をしてしまう。ウェヌスの祭の日に「象牙の乙女に似た妻を」と控えめに祈ると、帰って像に口づけするうちに象牙が柔らかくなり、温かい体に変わった。 (Met. 10.238-294(プロポイトスの娘たち 10.238-242))
- オウィディウスは像にも、命を得た女にも名前を与えていない。二人の間には娘パポスが生まれ、島の町パポスの名の由来とされる。像の名を海のニンフと同じ「ガラテア」とするのは古代より後の作家たちで、いつ誰が始めたかははっきりしない。 (Met. 10.295-297。「ガラテア」の初出の特定は未確認)
- オウィディウスでは、ピュグマリオンの話を語るのは妻を失ったオルペウスで、この話のすぐ後に、ピュグマリオンの孫キニュラスとその娘ミュラの話、さらにミュラが生んだアドニスの話が続く。美しい像から生まれた家系が、三代のうちに禁じられた恋の悲劇へと転がっていく構成になっている。 (Met. 10.243-297 → 10.298-518 → 10.519-739)
- オウィディウスでは、ピュグマリオンは象牙の像に何度も触れて体か象牙かを確かめ、口づけし、話しかけ、押して跡がつくのを恐れ、貝殻や小石や小鳥や花を贈り、衣と指輪と首飾りで飾り、紫の寝台に寝かせる。キュプロスのウェヌスの祭りで「象牙の乙女に似た妻を」と祈ると炎が三度燃え上がり、帰って口づけすると像は温かくなり、象牙は日に溶ける蜜蝋のように柔らかくなって脈打った。乙女は頬を染めて目を上げる。9か月後に娘パポスが生まれた。 (10.243-297)
- 関係: received_gift → aphrodite (Met. 10.270-294 ウェヌス(アプロディテ)の祭で祈り、像に命を与えられる)
- 関係: ancestor → adonis (Met. 10.243-297 → 10.298-518 → 10.519-739 孫キニュラスとミュラの子)
ピュラモス
- オウィディウスの形: セミラミスが煉瓦の城壁で囲んだバビロンで、ピュラモスとティスベは隣り合う家に住み、恋に落ちるが、父親たちに結婚を禁じられる。二人は家の境の壁にある細い割れ目を見つけ、そこからささやき合った。ある晩、町の外のニノスの墓で会う約束をする。そこには冷たい泉のそばに、雪のように白い実をつけた桑の木があった。 (Met. 4.55-92(城壁 4.57-58、壁の割れ目 4.65-70、墓と桑 4.88-90))
- 先に着いたティスベは、牛を殺したばかりで口を血に染めた雌獅子が泉に来るのを見て洞穴に逃げ、途中でヴェールを落とす。獅子はそれを血のついた口で引き裂いて去った。遅れて来たピュラモスは、足跡と血に染まったヴェールを見て「一夜が二人の恋人を滅ぼす」と、彼女を死なせたのは自分だと嘆き、剣を脇腹に突き立てた。噴き出した血は、傷んだ鉛管から水が噴き出すようだった、とたとえられる。 (Met. 4.93-124(血の噴出のたとえ 4.121-124))
- 血しぶきを浴び、根から血を吸った桑の実は、白から黒ずんだ紫に変わった。戻ってきたティスベは実の色が違うので同じ木か迷う。彼女は後を追って死ぬ前に、この木に「二人の血の記念として、喪にふさわしい暗い色の実を持ち続けて」と祈り、神々と両親はその願いを聞いた。熟すと黒くなる桑の実の由来譚になっている。 (Met. 4.125-127(実が変わる)、4.131-132(ティスベが迷う)、4.158-165(祈りと実現))
- ピュラモスとティスベの物語は、現存する資料ではオウィディウスが最古とされる。ホメロスの二つの叙事詩とヘシオドスの『神統記』『仕事と日』には出てこない。『変身物語』の中でも、語り手のミニュアスの娘はいくつもの話を思い浮かべたうえで、「よく知られた話ではないから」という理由でこれを選んでいる。 (Met. 4.36-54(語り手が話を選ぶ場面。4.53「ありふれた話ではないので」)。「現存最古」はWikipedia等の二次資料の記述で、研究書での確認は未了。ホメロス・ヘシオドスについては本文を検索して確認)
- 壁の割れ目は家が建てられたときからのもので、誰も気づかなかったが、恋人たちが見つけて声の通り道にした。二人は「意地悪な壁よ」と壁に語りかけ、夜には届かない口づけを壁に残して別れた。 (Met. 4.65-80)
- ティスベに名を呼ばれたピュラモスは、死の重みのかかった目を上げて彼女を見、再び閉じた。ティスベは両親に二人を同じ墓に葬るよう願い、剣で自らを突いた。二人の灰は一つの壺に納められた。 (Met. 4.142-166)
- 関係: lover → thisbe (Met. 4.55-166 /『夏の夜の夢』5幕1場の劇中劇)
ピュラ
- 水が引いたあと、夫とともに頭越しに石を投げ、ピュラの投げた石は女になった。 (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.398-413)
- オウィディウスでは、テミスの神託「偉大な母の骨を背後に投げよ」を聞いたピュラが、母の骨を投げて亡霊を傷つけるのは畏れ多いと言って、しばらく従おうとしない。謎を解くのは夫のほう。 (1.381-394)
- オウィディウスは、デウカリオンほど正しい男はおらず、ピュラほど神々を畏れる女はいなかった、と二人を並べて称える。だからユピテルは二人だけを生かした。 (1.322-329)
- 水が引いたあと、デウカリオンはピュラに、この世に残ったのは自分たち二人だけだ、もし海があなたを奪っていたら自分も後を追って海に呑まれただろう、と語り、二人は泣いた。 (1.351-367)
- 投げられた石は固さを失って柔らかくなり、彫りかけの大理石像のような形をとったのち、湿った土の部分は肉に、固い部分は骨に、石の筋は血管になった。オウィディウスは、だから人間は硬く、苦労に耐える種族なのだと結ぶ。 (1.400-415)
- 関係: child → epimetheus (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.390(Epimethis))
- 関係: spouse → deucalion (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.318-329)
- 関係: participated_in → deucalions-flood (アポロドーロス 1.7.2、『変身物語』1.253-415、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.41-53)
ピュトン
- オウィディウスでは、デウカリオンの洪水のあと、泥の大地が太陽に温められて新しい生き物を生み、その中で大地が望まずに産んだのがピュトンだった。山の斜面を覆うほどの大きさで、新しい人間たちの恐怖の的となる。 (1.434-440)
- オウィディウスのアポロンは、それまで鹿や山羊にしか弓を使ったことがなく、矢筒をほぼ空にする千本の矢でピュトンを倒す。黒い傷口から毒が流れ出た。 (1.441-444)
- オウィディウスでは、アポロンは手柄を後世に残すためにピュティア祭を創設し、大蛇の名から名づけた。勝者の冠は樫の葉で、月桂樹はまだ無かったとされ、直後のダプネの話につながる。 (1.445-451)
- 『変身物語』では、ピュトンを倒して得意になったアポロンがクピド(キューピッド)の弓をからかい、怒ったクピドが金の矢でアポロンを、鉛の矢でダプネを射る。ピュトン退治は、アポロンの最初の恋の話の引き金として置かれている。 (1.452-473)
- 関係: killed_by → apollo (『アポロン讃歌』357-374、『変身物語』1.441-444、『神話集』140、アポロドーロス1.4.1)
- 関係: child → gaia (ヒュギヌス序文・140「大地の子」、『変身物語』1.434-440 大地が産む)
アスクレピオスの杖
- オウィディウスでは、疫病に苦しむローマはデルポイで「アポロンでなくアポロンの子を」と告げられ、エピダウロスへ使節を送る。夢に現れた神は左手に素朴な杖を持ち、「杖に巻きつくこの蛇を見ておけ、これに変わって行く」と言う。翌日、金のとさかの大蛇が現れて船に乗り、ローマのティベリス川の島に上がって神の姿に戻り、疫病を終わらせた。 (15.622-744(夢は15.653-662))
- 関係: owned_by → asclepius (パウサニアス2.27.2、『変身物語』15.655-660、ヒュギヌス『天文譜』2.14.7)
サルマキス
- オウィディウスのサルマキスは、狩りの女神ディアナに仕えないただ一人のナイアス。姉妹たちに「投げ槍か矢筒を持って、狩りもしなさい」と言われても聞かず、泉で体を洗い、櫛で髪をすき、水面に自分を映してどう見えるか確かめ、薄い衣をまとって草の上に寝そべり、花を摘んで過ごす。 (Met. 4.302-315)
- 少年に言い寄るサルマキスの言葉は、「神なのか、人間なのか。人間なら親は幸せ、兄弟も幸せ、そして誰より幸せなのは妻となる者」という形をとる。これは『オデュッセイア』でオデュッセウスがナウシカアに呼びかける言葉(「女神か人間か。人間なら父母は三たび幸い、兄弟も三たび幸い、最も幸いなのは嫁に迎える男」)と同じ型で、ホメロスでは男が乙女に言う台詞を、オウィディウスはニンフが少年に言う台詞に入れ替えている。 (Met. 4.320-328 /『オデュッセイア』6.149-159)
- 少年が顔を赤らめて拒むと、サルマキスは立ち去るふりをして茂みに隠れる。彼が衣を脱いで泉に飛び込むと、「勝った、あの子は私のもの」と叫んで衣を投げ捨て、水に飛び込んで抱きすくめた。鷲にさらわれながら巻きつく蛇、幹を覆うツタ、獲物をつかむタコにたとえられる。そして神々に、二人が決して引き離されないよう祈り、その願いがかなって一つの体になった。 (Met. 4.329-379(たとえ 4.361-367))
- オウィディウスでは、一つの体になったヘルマプロディトスが、もう男のものではない声で両親メルクリウスとウェヌスに、この泉に入った男は半ば男となって出て、水に触れたとたん柔らかくなるように、と願い、両親はそれを聞き入れて泉の水に力を与えた。これがサルマキスの泉の悪評の由来として語られる。少年は15歳で故郷のイデ山を離れて旅に出ていた。 (4.285-292、4.380-388)
- 関係: suitor → hermaphroditus (Met. 4.316-379 自ら言い寄り、拒まれても抱きすくめる)
サテュロス
- ヘロドトスは、プリュギアのケライナイの広場に「シレノスのマルシュアスの皮」が吊るされ、アポロンにはがされたものだと伝える。オウィディウスはマルシュアスをサテュロスと呼び、兄弟のサテュロスたちがその死を嘆いたとする。 (ヘロドトス7.26.3、『変身物語』6.382-400)
- 関係: has_member → marsyas (『変身物語』6.383 サテュロス、ヘロドトス7.26.3「シレノスのマルシュアス」)
スキュラ
- 後代の異伝: オウィディウス『変身物語』では、スキュラはもと美しい娘で、海神グラウコスに恋されたことを妬んだキルケが水浴びの入江に毒草を投じ、下半身を犬の群れに変えてしまったとされる。ホメロスにこの由来はない。 (13.900-968、14.1-74)
セメレ
- オウィディウスの形: ユノ(ヘラ)は白髪の老婆に化け、セメレの乳母であるエピダウロスのベロエの姿で近づき、「本当にユピテル(ゼウス)なら、ユノを抱くときの姿を見せてもらいなさい」と疑いを吹き込む。ゼウスはせめて威力を弱めようと、巨人テュポンを倒した雷ではなく、神々が「二番目の矢」と呼ぶ軽い雷を選んだが、人間の体は天の騒ぎに耐えられずに焼けた。 (Met. 3.259-309(ベロエ 3.275-278、軽い雷 3.302-307))
- オウィディウスでは、セメレが一つ願いをかなえてほしいと頼むと、ユピテルはステュクスにかけて何でもかなえると誓い、セメレはユノを抱くときの姿で来てほしいと願う。ユピテルは口をふさごうとしたが間に合わなかった。 (Met. 3.287-298)
- 関係: lover → zeus (『イリアス』14.323-325 /『神統記』940-942 / 3.4.3 / Met. 3.260-261)
- 関係: killed_unintentionally_by → zeus (約束に縛られたゼウスが雷光と共に現れ、その火に焼かれる。3.4.3 / Met. 3.293-309 /『バッコスの信女』6-9, 88-93)
- 関係: enemy → hera (3.4.3 ヘラに欺かれる / Met. 3.259-295 ヘラが乳母ベロエに化けてそそのかす)
シシュポス
- オウィディウスでは、オルペウスの歌に冥界じゅうが聴き入り、タンタロスは逃げる水を追うのをやめ、イクシオンの車輪は止まり、シシュポスは自分の岩に腰を下ろした、と描かれる。 (Met. 10.40-44(シシュポスは 10.44))
シュリンクス
- オウィディウスの形: アルカディアの山のナイアスで、サテュロスたちや森の神々の求愛をいつもかわし、処女神ディアナを慕って暮らしていた。リュカイオン山から戻るところを松の冠のパンに見つかり、言い寄られて逃げる。砂の多いラドン川に行く手をふさがれ、水の姉妹たちに姿を変えてくれるよう祈った。パンが捕まえたと思ったとき、腕の中にあったのは沼の葦だった。ため息が葦を鳴らしてかすかな嘆きのような音を出し、パンは「これでお前と語り合える」と、長さの違う葦を蝋でつないで笛を作り、娘の名をとどめた。 (Met. 1.689-712)
- この話は、ゼウスに愛されて牝牛にされたイオを見張る、百の目の番人アルゴスを眠らせるために、メルクリウス(ヘルメス)が語り聞かせる物語として置かれている。メルクリウスが語り始めたところでアルゴスの目がすべて閉じ、話の後半は「語るはずだった」内容として間接話法で要約される。語り終えないうちに番人は首をはねられる。 (Met. 1.682-721(語りの中断 1.700-701、アルゴスが眠る 1.713-714))
- 楽器のシュリンクスはニンフの話よりずっと古くから記録がある。『イリアス』のアキレウスの盾には、シュリンクスを吹いて楽しむ牧人が描かれ、トロイア勢の陣の笛と管の音も聞こえる。『ヘルメス讃歌』では、竪琴をアポロンに譲ったヘルメスが、遠くまで響くシュリンクスを新たに作る。ホメロスやホメロス風讃歌にはニンフのシュリンクスは出てこない。現存する資料でニンフの変身譚を語るのは、オウィディウスが古いほうとされる。 (『イリアス』18.525-526、10.13 /『ヘルメス讃歌』(第4番)511-512。「オウィディウス以前の変身譚の有無」は研究書で未確認)
- 関係: courted_by → pan (Met. 1.698-712 / ロンゴス『ダプニスとクロエ』2.34)
- 関係: told_by → hermes (Met. 1.687-714 メルクリウスが百の目を持つアルゴスを眠らせるために語る)
- 関係: companion → artemis (Met. 1.694-697 オルテュギアの女神(ディアナ)を慕って処女を守り、弓が角か金かの違いがなければディアナと見分けがつかないほどだった)
- 関係: member_of → nymphs (Met. 1.704 川の姉妹たちに姿を変えてくれるよう祈る)
テレウス
- 姉妹を追うテレウスは、頭に冠羽のあるヤツガシラになった。アポロドーロスもオウィディウスもヤツガシラとする。 (アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.671-674)
- オウィディウスでは、テレウスはトラキアの王で、ピロメラを海の向こうのトラキアへ連れていく。 (6.424-451)
- 舌を切られたピロメラは、白い糸地に紫の糸で罪を織り込み、召使いに頼んで姉プロクネに届けさせた。読んだプロクネは、あまりのことに声も出なかった。 (6.574-583)
- プロクネは幼いイテュスを殺し、姉妹はその肉を煮たり焼いたりしてテレウスに出した。食べ終えたテレウスがイテュスを呼べと言うと、プロクネは「探している子はあなたの中にいる」と答え、ピロメラが子の首を父の顔に投げつけた。 (6.636-660)
- 関係: spouse → procne (アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.427-438、トゥキュディデス 2.29.3)
- 関係: abducted → philomela (アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.447-570)
- 関係: enemy → procne (息子を食べさせられ、姉妹を追う。アポロドーロス 3.14.8、『変身物語』6.647-674)
- 関係: visited → athens (6.444-451。ピロメラを迎えにアテナイへ行く)
テテュス
- オウィディウスでは、夫の愛人カリストが大熊座として天に上げられたことに怒ったユノが、かつての養い親テテュスと老オケアノスのもとへ下り、熊が海で身を洗うのを禁じてほしいと頼む。二神はうなずき、北斗の星は海に沈まなくなった、という星座の由来譚。 (2.508-531)
テーバイ
- もう一つはカドモスの建国譚。神託に従って牝牛の後を追い、牛が伏した場所に町を建て、アレスの竜を倒してその歯から生まれた戦士(スパルトイ)の子孫が町の名家になった。アポロドーロスはカドモスの城砦(カドメイア)と、後のアンピオンとゼトスの城壁を、時代の違う出来事として並べている。 (3.4.1-2、3.5.5 / Met. 3.1-130)
- カドモス→ポリュドロス→ラブダコス→ライオス→オイディプス→エテオクレスとポリュネイケス、と続く王家(ラブダコス家)は、代々不幸に見舞われる。カドモスの孫たちの世代でもアクタイオン、ペンテウス、セメレ、イノが悲劇的な最期を遂げ、オウィディウスはこれらをテーバイの物語として一続きに語る。 (3.4.2-3.5.9 / Met. 3.1-4.603)
テミス
- オウィディウスでは、大洪水を生き延びたデウカリオンとピュラが、当時神託を預かっていたテミスの神殿に祈り、女神は「神殿を出て頭を覆い、帯を解き、偉大な母の骨を背後に投げよ」と答える。 (1.320-321、1.367-383)
- オウィディウスでは、デウカリオンが女神のお告げを解く。偉大な母とは大地、その骨とは大地の中の石のことだ、と。二人が頭を覆って石を背後に投げると、石は人間に変わった。 (1.381-415)
テセウス
- 関係: killed → minotaur (アポロドーロス摘要 1.9 迷宮の奥で拳で打ち殺す、プルタルコス『テセウス伝』19.1、オウィディウス『変身物語』8.169-173)
- 関係: visited → labyrinth (摘要 1.9、『変身物語』8.172-173)
- 関係: enemy → medea (摘要 1.5-6 父アイゲウスの妻になっていたメデイアに毒殺されかけ、剣で父に正体を知られて助かる。オウィディウス 7.404-424)
ティスベ
- オウィディウスでは、家の者の目を盗んで先に約束の墓に着いたのはティスベのほうだった。恋が彼女を大胆にした、と語り手は言う。月明かりの中で血まみれの口をした雌獅子を見て洞穴に逃げ込み、そのとき落としたヴェールが、ピュラモスに彼女が死んだと思わせることになる。 (Met. 4.93-104)
- 戻ったティスベは、倒れているピュラモスを見つけて名を呼ぶ。彼は彼女の名に一度だけ目を開け、また閉じた。空の鞘と自分のヴェールを見て事情を悟ったティスベは、「死だけが私たちを引き離せたのに、死でも引き離せない」と、まだ温かい剣の上に身を投げた。二人の両親には、同じ墓に納めてほしいと頼み、遺灰は一つの壺に納められた。 (Met. 4.128-166(名を呼ぶ 4.142-146、同じ墓の願い 4.154-157、一つの壺 4.166))
- ティスベは死ぬ前に桑の木に向かい、今は一人を、まもなく二人を覆うことになるこの木が、二人の血の記念として、喪にふさわしい暗い色の実を持ち続けるようにと祈る。この願いが神々に届き、桑の実は熟すと黒くなるようになった。 (Met. 4.158-165)
- この話を語るのは、ミニュアスの娘たち(ミニュアデス)の一人。バッコス(ディオニュソス)の祭に加わらず、機を織りながら順に物語を語り合う三姉妹の最初の話で、このあとクリュティエとレウコトエの話、サルマキスとヘルマプロディトスの話が続く。三姉妹は最後に神の怒りでコウモリに変えられる。 (Met. 4.1-54(枠の場面)、4.167-270(レウコノエの語り)、4.274-388(アルキトエの語り)、4.389-415(コウモリへの変身))
- オウィディウスでは、バビロンで隣り合う家のピュラモスとティスベは、親に結婚を禁じられ、共有の壁の細いひびを声の通り道にして語り合い、夜には自分の側の壁に口づけして別れた。二人は夜に家を抜けてニノスの墓で会うことにする。そこには冷たい泉のそばに、雪のように白い実をつけた高い桑の木があった。 (4.55-90)
- 遅れて来たピュラモスは獣の足跡と血に染まったヴェールを見つけ、「一つの夜が二人の恋人を滅ぼす」と嘆き、先に来なかった自分が彼女を殺したと言って剣を脇腹に刺す。血は割れた鉛管から水が噴き出すように高く噴き出し、桑の実を黒く染め、根にしみて実を紫に変えた。 (4.105-127)
- 関係: lover → pyramus (Met. 4.55-166 /『夏の夜の夢』5幕1場の劇中劇)
トラキア
- アポロニオスでは、ボレアスはオレイテュイアをケクロピア(アテネ)からトラキアのサルペドンの岩まで運び、黒い雲に包んで妻にした。オウィディウスでは、ボレアスの穏やかな求婚が拒まれ続けたのは、トラキア人テレウスの一件があったためである。 (アポロニオス1.211-218、『変身物語』6.683-707)
三叉の槍(トライデント)
- オウィディウスの洪水では、ネプトゥヌスが三叉の槍で大地を打つと、大地は震えて水の通り道を開いた。水を引かせるときには、三つ先の武器を置いて波をなだめる。 (1.283-284、1.330-331)
トリトン
- オウィディウス『変身物語』では、大洪水を終わらせるとき、海の支配者ネプトゥヌスが、貝殻に覆われた肩を海から出した青いトリトンを呼び、ほら貝を吹いて波と川に退くよう合図させる。その音は東から西までの海岸に響き渡る。 (1.330-342)
- 関係: participated_in → deucalions-flood (1.330-342 ポセイドン(ネプトゥヌス)に命じられてほら貝を吹き、洪水の水を引かせる)
トゥルヌス
- オウィディウスでは、トゥルヌスが倒れると町アルデアも焼け落ち、その灰の中から一羽の鳥が飛び立つ。やせて青白く、嘆くように羽ばたくこの鳥が、町の名をそのまま受け継いだ「アルデア(アオサギ)」だという。 (14.573-580)
- 関係: killed_by → aeneas (『アエネイス』12.938-952(最後の場面)。『変身物語』14.573)
冥界
- ローマの詩人たちは冥界の入口を具体的な地名に置いた。オルペウスはペロポネソス南端のタイナロン(テナロン)の洞穴から下り、アイネイアスはイタリアのクマエ近く、アウェルヌス湖のほとりの洞窟から下る。 (『農耕詩』4.467 / Met. 10.13 /『アエネイス』6.237-242)
ウラニア
- オウィディウス『変身物語』では、ペガソスの蹄が開いた泉を見にヘリコン山へ来たミネルウァ(アテナ)を、ウラニアが迎えて泉へ案内する。続いて、ピエロスの娘たちとの歌くらべの話がムーサの口から語られる。 (5.250-263, 5.294-678)
- 関係: visited_by → athena (5.250-263 ヘリコン山を訪れたミネルウァ(アテナ)を、ムーサを代表して迎える)
ゼピュロス
- オウィディウス『変身物語』のヒュアキントスの話には西風は出てこず、円盤が地面で跳ね返って少年に当たる事故として語られる。 (10.174-219)