オウィディウスの形: セミラミスが煉瓦の城壁で囲んだバビロンで、ピュラモスとティスベは隣り合う家に住み、恋に落ちるが、父親たちに結婚を禁じられる。二人は家の境の壁にある細い割れ目を見つけ、そこからささやき合った。ある晩、町の外のニノスの墓で会う約束をする。そこには冷たい泉のそばに、雪のように白い実をつけた桑の木があった。
オウィディウス『変身物語』 8年頃

Πύραμος人間
倒れたピュラモスと、剣を手に嘆くティスベ(版画)。ルーカス・ファン・レイデンの作。 『ピュラモスとティスベ』 ルーカス・ファン・レイデン 1514年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)
シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』の終わりに、アテナイの職人たちが、公爵の婚礼の余興として素人芝居を演じる場面がある。題して「ピラマスとシスビーの、世にも哀れな喜劇にして、世にも残酷な死」。壁の割れ目は「壁」の役の役者が指で作り、月明かりもランタンを持った役者が演じる。観客は大笑いだ。けれど、そのもとになった話は、笑えるものではなかった。
では、ローマの詩人オウィディウスが語った、ピュラモスとティスベの物語をたどってみよう。オウィディウスの作品の中では、酒の神の祭りに加わらずに家で機を織っていた姉妹が、仕事の合間に語って聞かせる話の一つである。
舞台は、古代の大都市バビロンである。煉瓦の高い城壁に囲まれたこの町で、若者ピュラモスと娘ティスベは、隣り合う家に住んでいた。いつしか二人は恋に落ち、結婚を望むようになった。けれど、父親たちがそれを許さなかった。
二つの家を隔てる壁に、家が建てられたときからの細い割れ目があった。誰も気づかなかったその割れ目を、恋する二人が見つけた。二人はそこから声を通わせ、ささやき合った。意地悪な壁よ、なぜ私たちの邪魔をするのか。夜になると、別れを告げ、互いに届かない口づけを壁に残した。

ある日、二人は決心した。夜になったら家を抜け出し、町の外にある古い王の墓で会おう。そこには冷たい泉があって、そのそばに、雪のように白い実をつける背の高い桑の木が立っていた。
先に着いたのはティスベだった。ところが、牛を襲ったばかりで口を血に染めた雌の獅子が、泉の水を飲みにやって来た。月明かりでそれを見たティスベは、暗い洞穴に逃げ込んだ。その途中で、かぶっていたヴェールを落としてしまう。水を飲み終えた獅子は、落ちていたヴェールを見つけ、血のついた口で引き裂いて去っていった。
遅れて来たピュラモスが見たのは、砂の上の獣の足跡と、血に染まって引き裂かれたヴェールだった。ピュラモスは嘆いた。一つの夜が、二人の恋人を滅ぼすのか。こんな恐ろしい場所へ夜に来させた、自分が彼女を殺したのだ。彼はヴェールに口づけし、桑の木の下で、腰の剣を自分の脇腹に突き立てた。噴き出した血は、傷んだ水道管から水が噴き出すように高く飛び散った。桑の白い実は、その血を浴び、根から血を吸って、黒ずんだ紫に変わった。
恐怖がおさまらないまま戻ってきたティスベは、実の色が違うので、同じ木かどうか迷った。そして、地面で倒れて身を震わせている恋人を見つけた。ティスベの名を呼ばれて、ピュラモスは一度だけ目を開け、そして閉じた。
ティスベは、自分のヴェールと、空になった剣の鞘を見て、すべてを悟った。死があなたを私から引き離せるものか。彼女は両親に、二人を同じ墓に葬ってほしいと願い、桑の木には、二人の血の記念として、喪にふさわしい暗い色の実をつけ続けてほしいと祈った。そして、まだ温かい剣で、自らの胸を突いた。祈りは神々にも両親にも届いた。桑の実は熟すと黒くなり、二人の灰は一つの壺に納められた。
この物語の出典: オウィディウス『変身物語』、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』
オウィディウスの形: セミラミスが煉瓦の城壁で囲んだバビロンで、ピュラモスとティスベは隣り合う家に住み、恋に落ちるが、父親たちに結婚を禁じられる。二人は家の境の壁にある細い割れ目を見つけ、そこからささやき合った。ある晩、町の外のニノスの墓で会う約束をする。そこには冷たい泉のそばに、雪のように白い実をつけた桑の木があった。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
先に着いたティスベは、牛を殺したばかりで口を血に染めた雌獅子が泉に来るのを見て洞穴に逃げ、途中でヴェールを落とす。獅子はそれを血のついた口で引き裂いて去った。遅れて来たピュラモスは、足跡と血に染まったヴェールを見て「一夜が二人の恋人を滅ぼす」と、彼女を死なせたのは自分だと嘆き、剣を脇腹に突き立てた。噴き出した血は、傷んだ鉛管から水が噴き出すようだった、とたとえられる。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
血しぶきを浴び、根から血を吸った桑の実は、白から黒ずんだ紫に変わった。戻ってきたティスベは実の色が違うので同じ木か迷う。彼女は後を追って死ぬ前に、この木に「二人の血の記念として、喪にふさわしい暗い色の実を持ち続けて」と祈り、神々と両親はその願いを聞いた。熟すと黒くなる桑の実の由来譚になっている。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ピュラモスとティスベの物語は、現存する資料ではオウィディウスが最古とされる。ホメロスの二つの叙事詩とヘシオドスの『神統記』『仕事と日』には出てこない。『変身物語』の中でも、語り手のミニュアスの娘はいくつもの話を思い浮かべたうえで、「よく知られた話ではないから」という理由でこれを選んでいる。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
シェイクスピア『夏の夜の夢』では、アテナイの職人たちが公爵シーシアス(テセウス)の婚礼の余興として「ピラマスとシスビーの、世にも哀れな喜劇にして、世にも残酷な死」を演じる。機屋のボトムがピラマスを、ふいご直しのフルートがシスビーを演じ、壁の割れ目は「壁」役の役者が指で作り、月明かりもランタンを持った役者が演じる。悲劇の筋をそのままなぞりながら、素人芝居として笑いに転じた現代解釈の代表例。
ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』 1595年頃
壁の割れ目は家が建てられたときからのもので、誰も気づかなかったが、恋人たちが見つけて声の通り道にした。二人は「意地悪な壁よ」と壁に語りかけ、夜には届かない口づけを壁に残して別れた。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ティスベに名を呼ばれたピュラモスは、死の重みのかかった目を上げて彼女を見、再び閉じた。ティスベは両親に二人を同じ墓に葬るよう願い、剣で自らを突いた。二人の灰は一つの壺に納められた。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
もとは小アジア南東部キリキアの由来譚だった、とする見方がある。ピュラモスはキリキアを流れる川の名で、ピュラモスがその川に、ティスベが近くの泉に変わる形の話が、5世紀の修辞学者ニコラオスの作文練習書や、キュプロスのパポスで見つかったモザイクに残っているという。