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ティスベ。ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの作。

ティスベ

Θίσβη人間

ティスベ。ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの作。 『ティスベ』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 1909年Public domain

シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』では、アテネの町の職人たちが、領主の婚礼の余興に芝居を演じる。演目は、悲恋の物語「ピラマスとシスビー」。娘シスビーの役は、ひげが生えてきたと嫌がる若い職人がしぶしぶ引き受け、恋人たちを隔てる「壁」の役まで人が演じて、指の隙間越しに二人がささやき合う。笑いの種にされたこの芝居のもとは、ローマの詩人オウィディウスが語った、若い恋人たちの物語だった。

娘の名はティスベ。笑いではなく涙の物語だったもとの話を、見ていこう。

舞台は古代の都バビロン。隣り合う二軒の家に、町いちばんの美青年ピュラモスと、東の国いちばんの美しい娘ティスベが住んでいた。近所づきあいから知り合い、時とともに恋が育つ。二人は結婚を望んだが、父親たちが許さない。それでも、禁じようのない心だけは燃え続ける。

二軒の家を隔てる壁には、建てたときからの細いひびがあった。何年も誰も気づかなかったその隙間に、恋人たちが最初に気づき、そこを声の通り道にした。いまいましい壁よ、なぜ私たちの邪魔をするのか。けれどもお前のおかげで、言葉だけは恋しい人の耳に届く。夜になると、二人はそれぞれの側の壁に口づけをして別れた。

ある日、二人は決心する。夜の静けさにまぎれて家を抜け出し、町の外にある昔の王の墓で落ち合おう。そこには冷たい泉のそばに、雪のように白い実をたわわにつけた桑の木がある、と。

先に着いたのはティスベだった。顔を覆い、家の者の目を盗んで墓までやって来て、約束の木の下に座る。恋が彼女を大胆にしていた。そこへ、牛を食い殺したばかりで口を血だらけにした雌獅子が、泉の水を飲みにやって来る。月明かりでそれを見たティスベは、暗い洞穴に逃げ込んだ。逃げる途中で、背中からヴェールが落ちる。水を飲み終えた獅子は、そのヴェールを見つけ、血まみれの口で引き裂いて去っていった。

遅れて来たピュラモスは、砂の上に獣の足跡を見つけて青ざめる。そして、血に染まったヴェールを見つけた。一つの夜が、二人の恋人を滅ぼす。こんな恐ろしい場所に夜来いと言いながら、先に来なかった私が彼女を殺したのだ。ピュラモスはヴェールに涙と口づけを注ぎ、約束の木の下で、腰の剣を自分の脇腹に突き立てた。噴き出した血が、桑の白い実を黒く染め、根にしみ込んで、枝の実を紫に変えた。

まだ怯えながら、ティスベが戻ってくる。恋人に、自分がどんな危険を逃れたか話したくてたまらない。ところが木の実の色が変わっていて、ここが約束の場所なのか迷う。そして、地面でもがく体を見つけた。

ティスベは恋人の名を叫んだ。ピュラモスは、その名に一度だけ目を開け、また閉じた。空の鞘と、自分のヴェールを見て、ティスベはすべてを悟る。死だけが私たちを引き離せたのに、死にも引き離させはしない。彼女は両家の親に、二人を同じ墓に葬ってほしいと願い、桑の木に祈った。二人の血の記念に、喪の色の実をいつまでも実らせて、と。そして、まだ温かい剣の上に身を投げた。

泉のそばに倒れた恋人。娘は涙をぬぐいながら、剣を手に取る。奥には、立ち去る獅子の姿が見える。
泉のそばに倒れた恋人。娘は涙をぬぐいながら、剣を手に取る。奥には、立ち去る獅子の姿が見える。『ピュラモスとティスベ』 ルーカス・ファン・レイデン 1514年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

願いは、神々にも親たちにも届く。桑の実が熟すと黒くなるようになり、二人の遺灰は一つの壺に納められた。

オウィディウスの詩の中で、この話を語っているのは、酒の神ディオニュソスの祭りに加わらず、家で機を織り続けていた三人の姉妹の一人である。姉妹は仕事の手を休めずに、順に物語を語り合った。そのあとには、太陽神に恋した娘の話や、泉のニンフと少年が一つの体になる話が続いていく。

この物語の出典: オウィディウス『変身物語』、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』

この物語の人々

ローマ以後の語り

オウィディウスでは、家の者の目を盗んで先に約束の墓に着いたのはティスベのほうだった。恋が彼女を大胆にした、と語り手は言う。月明かりの中で血まみれの口をした雌獅子を見て洞穴に逃げ込み、そのとき落としたヴェールが、ピュラモスに彼女が死んだと思わせることになる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

戻ったティスベは、倒れているピュラモスを見つけて名を呼ぶ。彼は彼女の名に一度だけ目を開け、また閉じた。空の鞘と自分のヴェールを見て事情を悟ったティスベは、「死だけが私たちを引き離せたのに、死でも引き離せない」と、まだ温かい剣の上に身を投げた。二人の両親には、同じ墓に納めてほしいと頼み、遺灰は一つの壺に納められた。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

ティスベは死ぬ前に桑の木に向かい、今は一人を、まもなく二人を覆うことになるこの木が、二人の血の記念として、喪にふさわしい暗い色の実を持ち続けるようにと祈る。この願いが神々に届き、桑の実は熟すと黒くなるようになった。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

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この話を語るのは、ミニュアスの娘たち(ミニュアデス)の一人。バッコス(ディオニュソス)の祭に加わらず、機を織りながら順に物語を語り合う三姉妹の最初の話で、このあとクリュティエとレウコトエの話、サルマキスとヘルマプロディトスの話が続く。三姉妹は最後に神の怒りでコウモリに変えられる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

シェイクスピア『夏の夜の夢』の劇中劇では、シスビー役は若い職人フルートが演じる。「ひげが生えてきたから女の役は嫌だ」と渋るフルートに、仮面をかぶって好きなだけ細い声で話せばよい、と座長が言い含める場面がある。本番では「壁」役の指の隙間越しに恋人たちが語り合い、観客の貴族たちが茶々を入れる。

ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』 1595年頃

オウィディウスでは、バビロンで隣り合う家のピュラモスとティスベは、親に結婚を禁じられ、共有の壁の細いひびを声の通り道にして語り合い、夜には自分の側の壁に口づけして別れた。二人は夜に家を抜けてニノスの墓で会うことにする。そこには冷たい泉のそばに、雪のように白い実をつけた高い桑の木があった。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

遅れて来たピュラモスは獣の足跡と血に染まったヴェールを見つけ、「一つの夜が二人の恋人を滅ぼす」と嘆き、先に来なかった自分が彼女を殺したと言って剣を脇腹に刺す。血は割れた鉛管から水が噴き出すように高く噴き出し、桑の実を黒く染め、根にしみて実を紫に変えた。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

このページの出典(2件)
  1. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  2. 1595年頃ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』