罪の説明の一つ: ゼウスが河神アソポスの娘アイギナをひそかにさらったとき、娘を探すアソポスに犯人を教えた。その報いとして冥界で岩を転がす罰を受けた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Σίσυφος人間
大岩を背負って運ぶシシュポス。ティツィアーノの絵。 『シシュポス』 ティツィアーノ 1548〜1549年Public domain
どれだけ努力しても報われない仕事を「シーシュポスの岩」と呼ぶことがある。フランスの作家カミュは、この男を「不条理の英雄」と呼び、「幸福なシーシュポスを想像しなければならない」とエッセイを結んだ。英語にも、終わりのない徒労を意味する「シシフィアン」という言葉がある。
シシュポスは、ギリシャの町コリントスを開いた王である。『イリアス』は彼を「人間の中でいちばん狡猾な男」と紹介している。孫には、天馬ペガソスにまたがって怪物キマイラを退治した英雄がいる。
この男の名を一躍有名にしたのは、死んだあとの姿だった。『オデュッセイア』で、冥界に下りたオデュッセウスは、シシュポスが巨大な岩と格闘しているのを見る。両手両足を踏ん張って、岩を丘の頂へ押し上げていく。ところが頂上を越えようとするたびに、重みで押し戻され、岩は平地まで転がり落ちる。シシュポスはまた一から押し上げる。手足から汗が流れ、頭からは土ぼこりが立ちのぼっていた。
『オデュッセイア』は、これが何の罰なのかを語っていない。理由は後の時代に、いくつも語られるようになった。

後の時代の神話集によれば、原因はゼウスの秘密をばらしたことだった。ゼウスが川の神の娘をひそかにさらったとき、娘を探し回る父親に、犯人はゼウスだと教えてしまったのだ。
もう一つは、死そのものを出し抜いたという話である。前6世紀ごろのある詩人は、シシュポスが巧みな言葉で冥界の女王ペルセポネを説き伏せ、死んだ身でありながら地上の光のもとへ戻ってきた、と書いている。そんなことをやってのけたのは、この男ただ一人だったという。
冥界の岩が止まったことが、一度だけある。ローマの詩人オウィディウスによれば、竪琴の名手オルペウスが亡き妻を返してほしいと冥界で歌ったとき、死者たちも罰を受けている者たちも聴き入り、シシュポスは自分の岩に腰を下ろした。
これほど狡猾な男には、とんでもない噂もつきまとった。英雄オデュッセウスの本当の父親はシシュポスだ、というものである。ソポクレスの悲劇『ピロクテテス』では、オデュッセウスに恨みを抱く男が、彼を「ラエルテスに買われたシシュポスの子」とののしる。知恵の回る男どうしを親子にしてしまう、悪意のこもった呼び方だった。
岩を押し続ける罰と、死さえ出し抜いた知恵。報われない仕事のたとえになったこの男は、神話の中では、誰よりも抜け目のない人間として語られていたのである。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、テオグニス『エレゲイア詩集』、ソポクレス『ピロクテテス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、アルベール・カミュ『シーシュポスの神話』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
罪の説明の一つ: ゼウスが河神アソポスの娘アイギナをひそかにさらったとき、娘を探すアソポスに犯人を教えた。その報いとして冥界で岩を転がす罰を受けた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
もう一つの系統は「死を出し抜いた」話。前6世紀頃のテオグニスは、シシュポスが巧みな言葉でペルセポネを説き伏せ、死者でありながら冥界から日の光のもとへ戻った唯一の者だと歌う。死神タナトスを縛り上げたという話も伝わるが、こちらは断片的な資料でしか残らない。
テオグニス『エレゲイア詩集』 前6世紀頃(集成はさらに後代を含む)
オウィディウスでは、オルペウスの歌に冥界じゅうが聴き入り、タンタロスは逃げる水を追うのをやめ、イクシオンの車輪は止まり、シシュポスは自分の岩に腰を下ろした、と描かれる。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
カミュは1942年のエッセイ『シーシュポスの神話』で、報われない労働を永遠に続けるシシュポスを「不条理の英雄」として読み直し、「幸福なシーシュポスを想像しなければならない」と結んだ。日本語の「シーシュポス」という長音つきの表記は、この邦題でよく知られる。
アルベール・カミュ『シーシュポスの神話』 1942年
英語の Sisyphean(シシュポスのような、果てしなく報われない)は1630年代から(Sisyphian は1590年代)。名前 Sisyphos 自体の語源は不明で、「狡猾な者」を意味する語の重複形とする古い説は民間語源として退けられている。
ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
シシュポスはエピュラ(のちのコリントス)を建て、アトラスの娘メロペを妻とした。子グラウコスの子が、火を吐くキマイラを倒したベレロポンテスである。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
『イリアス』では、リュキアの武将グラウコスが家系を語る場面に出てくる。アルゴスの奥のエピュラに住んだ「人間の中で最も狡猾な」アイオロスの子で、その子グラウコスの子がベレロポンテスだという。ここでは罰の話はない。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
同名に注意: シシュポスの父アイオロスは、ヘレンの子でテッサリアを治め、アイオリス人の名の元になった人物(アポロドーロス)。『オデュッセイア』で袋に風を詰めてオデュッセウスに渡す風の王アイオロスは「ヒッポテスの子」と呼ばれ、系譜が異なる。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
『オデュッセイア』の冥界の場面で、オデュッセウスは巨大な岩を両手両足で丘の上へ押し上げるシシュポスを見る。頂上を越えそうになるたびに重みで押し戻され、岩は平地まで転がり落ちる。汗が流れ、頭から土ぼこりが立つ。ホメロスはタンタロスの場合と同じく、何の罰かを書かない。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
死神タナトスを縛って人が死ななくなった、という話はペレキュデスに遡るとされる(古註経由)。箇所を未確認
1.9.3 エピュラを開いた
11.593-600 オデュッセウスが冥界で岩を押すシシュポスを見る
シーシュポスの岩 / Sisyphean(果てしない徒労)英語の形容詞 Sisyphean は「シシュポスの終わりなく報われない労苦のような」の意で、1630年代から使われる(Sisyphian の形は1590年代)。冥界で岩を丘の上へ押し上げるたびに転がり落ちる罰(『オデュッセイア』11.593-600)に由来する。カミュは随筆『シーシュポスの神話』(1942)で、岩を押し上げ続けるシーシュポスを不条理の英雄として描いた。