アポロドーロスは1巻で、ヘラの怒りで狂ったアタマスがイノとの子レアルコスを矢で射殺し、イノはもう一人の子メリケルテスを抱いて海に身を投げた、と書く。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Ἀθάμας人間
復讐の女神たちにとらわれ、狂気に陥ったアタマス。ミリアリーニの絵。 『復讐の女神にとらわれたアタマス』 アルカンジェロ・ミケーレ・ミリアリーニ 1801年Public domain
炒った種を畑にまいても、芽は出ない。ある国の女たちは、男たちに知られないよう、ひそかに種麦を炒ってから畑にまいた。その年、大地は何も実らせなかった。
仕組んだのは王の後妻イノ。狙われたのは、王と前の妻とのあいだの子どもたちだった。その王アタマスの物語を見ていこう。
アタマスは、ギリシャ中部のある国の王だった。最初の妻とのあいだに息子プリクソスと娘ヘレがいたが、のちにテーバイの王女イノを後妻に迎え、二人の息子をもうける。
後の神話集によれば、イノは先妻の子どもたちを亡き者にしようと企んだ。種麦を炒らせて不作を起こし、困った王がデルポイへ神託を聞きに使いを出すと、その使者たちを抱き込んで、偽りの神託を持ち帰らせる。プリクソスをゼウスへの生贄に捧げれば、不作は終わる、と。民に迫られたアタマスは、息子を祭壇に立たせるしかなかった。
そのとき、子どもたちの母が二人を救い出した。伝令の神ヘルメスから授かった、金の毛を持つ雄羊を与え、その背に乗せて逃がしたのである。雄羊は空を飛び、陸と海を越えていく。途中で娘のヘレは海に落ちて死に、その海はヘレにちなんでヘレスポントスと呼ばれるようになった。プリクソスはコルキスという国にたどり着き、雄羊の金の毛皮をその国の王に贈る。英雄イアソンがアルゴ船で取りに行く金の羊毛は、この毛皮である。

しかし、アタマスの不幸はそれで終わらない。イノとのあいだの子どもたちも、やがて失ってしまう。
原因は女神ヘラの怒りだった。後の神話集によれば、夫婦はイノの姉妹がゼウスとのあいだに産んだ赤ん坊、のちの酒の神ディオニュソスを預かり、女の子として育てていた。夫の浮気の子を育てる夫婦を、ヘラは許さなかったのである。狂ったアタマスは上の息子を鹿と思い込んで狩り殺し、イノは下の息子を抱いて海に身を投げた。
ローマの詩人オウィディウスの語る場面は、さらにむごい。女神ユノ(ヘラ)は冥界から復讐の女神を呼び寄せて、アタマスに狂気を吹き込ませる。アタマスは宮殿で叫んだ。網を張れ、ここに雌獅子と二頭の子獅子がいたぞ。そして妻の腕から、笑って小さな手を差し伸べる息子を奪い取り、振り回して岩に叩きつけた。
すべてを失ったアタマスは、国を追われる。どこに住めばよいかと神託に尋ねると、野の獣にもてなされた所に住め、という答えだった。長くさまよった末、羊を食べていた狼の群れに出くわす。狼たちは彼を見るなり、獲物を置いて逃げ去った。アタマスはその土地に住みつき、自分の名にちなんだ名を付け、新しい妻を迎えた。
この物語の出典: オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
アポロドーロスは1巻で、ヘラの怒りで狂ったアタマスがイノとの子レアルコスを矢で射殺し、イノはもう一人の子メリケルテスを抱いて海に身を投げた、と書く。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
同じアポロドーロスが3巻では、ディオニュソスを預かったことでヘラに狂わされたアタマスが、レアルコスを鹿と思い込んで狩り殺した、と別の形で書く。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウスでは、ユノが冥界から復讐女神ティシポネを呼び寄せてアタマスを狂わせる。アタマスは妻を雌獅子、子を仔獅子と思い込み、母の腕からレアルコスを奪って岩に叩きつける。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
後妻のイノは前妻ネペレの子を憎み、女たちに種麦をこっそり炒らせて畑を不作にした。デルポイに神託を聞きに行く使者を買収し、「プリクソスをゼウスに捧げれば不作が止む」と言わせた。民に迫られたアタマスは息子を祭壇に立たせる。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ボイオティアを追われたアタマスは、「野の獣にもてなされた所に住め」という神託を受けた。羊を食べていた狼たちが彼を見て獲物を置いて逃げたので、そこに住んでアタマンティアと名づけ、ヒュプセウスの娘テミストを妻にした。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウスでは、ティシポネに狂わされたアタマスが宮殿で「網を張れ、ここに雌獅子と二頭の子獅子を見たぞ」と叫び、妻を獣のように追い、母の懐から笑って小さな腕を伸ばすレアルコスを奪い取って、投石器のように振り回して岩に叩きつけた。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
父のアイオロスはヘレンの子で、テッサリアの王。『オデュッセイア』で風の袋を渡すアイオロスとは同名の別人として扱われる。同じアイオロスの息子たちの中に、コリントスのシシュポスやサルモネウスがいる。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃