ギリシャ神話の地図
オデュッセウスもてなした客ゼウス役目を与えた神イタケ見えていた故郷アルキュオネ娘オデュッセウスの漂流旅の一場面アイネイアスの漂流嵐を起こした旅ポリュペモス直前の相手

アイオロス

Αἴολος人間

アイネイアスの漂流8 / 14

オデュッセウスの漂流4 / 14

風を受けると、ひとりでに弦が鳴りだす楽器がある。「エオリアン・ハープ」だ。その名は、英雄オデュッセウスに風を詰めた袋を贈った、風の管理人アイオロスから来ている。

では、故郷を目の前にしながら、その袋のせいで振り出しに戻ってしまった話を、『オデュッセイア』でたどってみよう。

一つ目の巨人の島を逃れたオデュッセウスの船団は、海の上を漂う浮き島にたどり着いた。島のまわりはぐるりと、壊れることのない青銅の壁で囲まれ、その下は切り立った岩の崖だった。ここに住んでいたのが、神々に愛されたアイオロスである。彼には6人の息子と6人の娘がいて、娘たちは息子たちの妻になっていた。家族はいつも父母を囲み、ごちそうを並べて宴を続けていた。

アイオロスは一行をまるひと月もてなし、トロイアでの出来事を詳しく聞きたがった。やがてオデュッセウスが故郷へ送ってほしいと頼むと、快く引き受けた。ゼウスはアイオロスに、風を吹かせるのも止めるのも思いのままにする役目を任せていたのだ。

アイオロスは、9歳の牛の皮をはいで袋を作り、吹き荒れる風をすべてその中に閉じ込めた。袋は銀の紐で固く縛られ、船の中に結わえつけられた。外に残されたのは、船を故郷へ運ぶ西風だけだった。

船は9日9夜走り続けた。10日目、とうとう故郷イタケの陸地が見えてきた。火を焚く人々の姿まで見えるほど近かった。ずっと自分で帆綱を握り続けていたオデュッセウスは、そこで疲れきって眠り込んでしまう。

そのすきに、仲間たちがささやきあった。あの袋には、きっとアイオロスからもらった金や銀がどっさり入っている。同じ危ない目にあってきたのに、隊長だけが宝を持って帰るのか。仲間たちは袋を開けた。風がいっせいに飛び出し、嵐が泣き叫ぶ仲間たちを故郷から遠く、沖へと押し流した。

風の詰まった袋を、宝が入っていると思って開けてしまう仲間たち。
風の詰まった袋を、宝が入っていると思って開けてしまう仲間たち。『アイオロスが風を閉じ込めた袋を開けるオデュッセウスの仲間たち』 テオドール・ファン・テュルデン(プリマティッチョの絵にもとづく版画の下絵) 1631〜1633年 アムステルダム国立美術館CC0

目を覚ましたオデュッセウスは、海に身を投げて死のうかとまで思いつめたが、黙って耐えた。船団は、あの浮き島まで吹き戻された。

オデュッセウスは再びアイオロスの館を訪ね、もう一度助けてほしいと頼んだ。だがアイオロスの態度は一変していた。この島から出て行け。お前ほど呪われた者はいない。不死の神々に憎まれている者を、送ってやるわけにはいかない。一行は、風のない海を自分たちの腕で漕ぎ進むしかなかった。

のちのローマの詩人ウェルギリウスは、アイオロスを、山の洞窟に荒れ狂う風たちを閉じ込めて治める「風の王」として描いた。女神ユノ(ギリシャのヘラにあたる)は、いちばん美しいニンフを妻にやるから嵐を起こしてくれと頼み、トロイアの生き残りアイネイアスの船団を嵐に巻き込ませた。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ウェルギリウス『アエネイス』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ホメロスは彼を「不死の神々に愛されたヒッポタスの子」と呼ぶだけで、神とは書かない。後代に「風の神アイオロス」として神格化して扱われるが、『オデュッセイア』では風を託された人間である。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ローマ以後の語り

ウェルギリウスでは、アイオロスは洞窟に風を閉じ込めて治める王で、ユノは14人のニンフのうち最も美しいデイオペイアを妻にやると約束して、アイネイアスの船団に嵐を起こさせる。

ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

もっと詳しく

住まいは海に浮かぶ島アイオリエ。島全体が砕けぬ青銅の壁に囲まれ、岩壁が切り立っていると描写される。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

6人の息子と6人の娘がいて、娘たちを息子たちに娶わせ、家族だけで宴を続けていると語られる。ホメロスはこれを咎めもせず淡々と記す。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

9歳の牛の革の袋にすべての逆風を詰め、銀の紐で船底に縛りつけて渡し、西風だけを吹かせて送り出す。9日間の順風でイタケの火が見えるところまで来る。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

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オデュッセウスが眠り込んだ隙に、仲間たちが袋には金銀が入っていると疑って開けてしまい、風が一斉に飛び出して船はアイオリエまで吹き戻される。故郷が見えていながら失う、物語中もっとも惜しい失敗。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

戻ってきた一行に「不死の神々に憎まれている者を送り出すことはできぬ、この島から失せろ」と言って追い返す。神の怒りを受けた者への態度が一転する場面。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

仲間たちは、同じ苦労をしたのにオデュッセウスだけがトロイアの戦利品とアイオロスからの金銀を持ち帰ると言い合って袋を開けた。目覚めたオデュッセウスは海に身を投げようかと迷ったが、耐えて船に横たわった。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ほかのつながり(1人)

出来事・場所・物

今の言葉に残る

エオリアン・ハープ / aeolian harp風が弦を鳴らす楽器(1791年)。風を革袋に入れてオデュッセウスに渡した風の管理者アイオロス(Aeolus)の名から。形容詞 aeolian は1600年頃で、ギリシャ語 aiolos「すばやく動く、移ろいやすい」に遡る。

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このページの出典(3件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前19年頃ウェルギリウス『アエネイス』
  3. 8年頃オウィディウス『変身物語』