ギリシャ神話の地図
ゼウス祈った神アテナ女神アキレウス盟友オデュッセウス宿敵アガメムノン総大将ヘクトル好敵手パトロクロス戦友小アイアス戦友

大アイアス

Αἴας英雄

オランダのサッカークラブ、アヤックス。その紋章に描かれているのは、公式サイトによれば、力と決意と戦士の魂を表すギリシャの英雄だという。クラブ名の由来は説明されていないが、アヤックスという名は、ギリシャ神話の英雄アイアスのローマでの呼び名と同じつづりだ。トロイア戦争には同じ名のアイアスが二人いて、大きいほうを「大アイアス」と呼ぶ。

では、アキレウスに次ぐ強さと言われたこの戦士が、どんな最期を迎えたのか、順に見ていこう。

大アイアスは、サラミス島の王子で、12隻の船を率いてトロイアに来た。『イリアス』は、アキレウスが怒って戦いを離れているあいだ、男たちの中でいちばん強かったのはアイアスだった、とはっきり書く。

目印は、塔のような大盾だ。7枚重ねの牛の革に青銅を張ったもので、この盾を構えて最前線に立ちはだかる。神の加護や不思議な武具ではなく、大きな体と粘り強さで戦う、人間くさい英雄である。

トロイア一の勇士ヘクトルとは、一騎打ちで日が暮れるまで戦った。決着はつかず、二人は互いの強さをたたえて贈り物を交わした。アイアスは緋色の帯を、ヘクトルは銀の鋲を打った剣を贈る。この剣が、のちにアイアス自身の命を奪うことになる。

日が暮れるまで続いたアイアスとヘクトルの一騎打ち。決着はつかなかった。
日が暮れるまで続いたアイアスとヘクトルの一騎打ち。決着はつかなかった。『伝令たちに引き分けられるヘクトルとアイアス』 ジョン・フラックスマン(原画) 1895年(A・J・チャーチ『イリアス物語』の挿絵)Public domain

ギリシャ軍が追いつめられたとき、最後まで踏みとどまったのもアイアスだった。トロイア勢が船に火をかけようと押し寄せると、彼は長さ10メートル近い海戦用の長槍を手に、船から船へと甲板の上を大股で渡り歩き、大声で味方を励ましながら、火を持って近づく敵を次々に槍で突いた。ついにヘクトルの剣が槍の穂先を切り落とすと、アイアスは神々がトロイア方に勝たせようとしていると悟って身震いし、ようやく退いた。その直後、船に火が放たれた。

船の上から長槍を突き出すアイアスと、松明を掲げて押し寄せるトロイア勢。
船の上から長槍を突き出すアイアスと、松明を掲げて押し寄せるトロイア勢。『トロイア勢からギリシャの船を守るアイアス』 ジョン・フラックスマン(原画) 1895年(A・J・チャーチ『イリアス物語』の挿絵)Public domain

アキレウスの親友が討たれたときは、遺体を守って戦った。戦場が濃い霧に包まれると、アイアスはゼウスに祈った。父ゼウスよ、この闇から救ってください。空を晴らし、目で見えるようにしてください。殺すなら、せめて光の中で殺してください。ゼウスは涙を流す彼を哀れみ、霧を払った。

やがてアキレウス自身が矢に倒れる。アポロドーロスによれば、アイアスは降りそそぐ矢の中、アキレウスの遺体を担いで敵のただ中を突っ切り、そのあいだオデュッセウスが追いすがる敵を防いだ。

悲劇はそこから始まった。アキレウスの武具は、いちばん勇敢な者に与えられることになり、アイアスとオデュッセウスが名乗りを上げた。選ばれたのはオデュッセウスだった。今は失われた叙事詩『小イリアス』や、アポロドーロスによれば、アイアスは悔しさのあまり、夜のうちにギリシャ軍を襲おうとした。ところが女神アテナに正気を奪われ、剣を手に家畜の群れに飛び込んで、家畜を牧人もろとも、ギリシャ勢だと思い込んで斬り殺した。我に返ったとき、アイアスは自ら命を絶った。

ソポクレスの悲劇『アイアス』では、彼が使ったのは、あのヘクトルから贈られた剣である。敵の贈り物が自分を殺す道具になる皮肉を、劇はわざわざ台詞にしている。アポロドーロスによれば、総大将アガメムノンは彼の遺体を火葬することを許さず、トロイアで死んだ者のうちアイアスだけが、棺に納めて葬られた。

のちに冥界へ下りたオデュッセウスは、アイアスの霊に出会う。あんな武具など勝ち取らなければよかった、と言葉を尽くして呼びかけたが、アイアスは一言も答えず、闇の奥へ去っていった。

ローマの詩人オウィディウスは、彼の血から一輪の花が咲いたと書いている。その花びらには、嘆きの声とも、アイアスの名の頭文字とも読める文字が浮かんでいるという。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、レスケス(伝)『小イリアス』、ソポクレス『アイアス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、AFCアヤックス『AFCアヤックス公式サイト』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

ローマ以後の語り

アポロドーロス摘要 5.8 によれば、トロイアで死んだ者のうち彼だけは火葬されず、棺に納めてロイテイオンに葬られた。自害した者への扱いの違いとされる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

オウィディウス『変身物語』では、彼の血から花が咲き、その花びらに嘆きの声とアイアスの名の頭文字にあたる文字が読めるとされる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

アキレウスが倒れたあと、アイアスは矢の雨の中で遺体を担いで敵中を運び、オデュッセウスが追手を防いだ。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

『イリアス』は「アキレウスが怒っている間は、アイアスが男たちの中で最も優れていた」と明言する。アキレウス不在の間の実質的な最強である。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

七枚重ねの牛革に青銅を張った「塔のような盾」を持つ。神の助けや特別な武具ではなく、体格と持久力で戦う人間くさい英雄として描かれる。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ヘクトルとの一騎打ちは決着がつかず、日が暮れて引き分けになる。二人は互いを称えて贈り物を交わし、アイアスは帯を贈り、ヘクトルからは銀の鋲を打った剣を受け取る。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

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ソポクレス『アイアス』では、その敵からの贈り物である剣で自害する。敵が贈った剣が自分を殺す道具になるという皮肉を、劇自身が台詞で指摘している。

ソポクレス『アイアス』 前440年代頃

アキレウスの死後、その武具をめぐってオデュッセウスと争い、敗れる。『オデュッセイア』の冥界では、オデュッセウスが話しかけても一言も答えずに闇の中へ去っていく。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

『小イリアス』要約では、判定の後に狂ってアカイア勢の家畜を殺し、自害する。アポロドーロス摘要 5.6-5.7 も同じ筋で、アテナが狂気を送ったとする。

レスケス(伝)『小イリアス』 前7世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

トロイア勢が船に迫ると、アイアスは22ペーキュス(10メートル近く)の海戦用の長槍を手に、甲板から甲板へ大股で渡り歩いて防いだ。ヘクトルに槍の穂先を切り落とされると、ゼウスがトロイア方に勝たせようとしていると悟って退き、そこで船に火が放たれた。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

パトロクロスの遺体をめぐる戦いで戦場が霧に包まれると、アイアスは「父ゼウスよ、闇から救い、空を晴らしてくれ。殺すなら光の中で殺せ」と祈り、ゼウスは涙する彼を哀れんで霧を払った。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ほかのつながり(4人)

家族・恋愛

敵対・殺害

出来事・場所・物

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アヤックス / AjaxAjax はギリシャ語 Aias のラテン語形。オランダのサッカークラブ AFCアヤックス(1900年創設)の公式サイトは、クラブ紋章に描かれているのが「力・決意・戦士の精神を象徴するギリシャの英雄」であることを明記するが、クラブ名そのものの由来には触れていない。家庭用洗剤 Ajax(コルゲート・パーモリーブ、1947年発売)も公式の沿革に発売年を記すだけで、命名の理由の説明は見当たらない。Web技術の Ajax は Asynchronous JavaScript and XML の頭字語で、英雄とは無関係の同綴り。

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このページの出典(6件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前7世紀頃レスケス(伝)『小イリアス』
  4. 前440年代頃ソポクレス『アイアス』
  5. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』