映画『トロイ』の元ネタのギリシャ神話
トロイア戦争を描いた2004年の映画『トロイ』。ホメロスの『イリアス』と並べると、どこが同じで、どこが変えられているのか。
どんな作品か
『トロイ』は、ウォルフガング・ペーターゼン監督の2004年の映画。アメリカ映画協会(AFI)の作品目録では、原作の欄に「ホメロスの『イリアス』に着想を得た」と書かれている。
近現代AFIカタログ「Troy(2004)」近現代ブリンマー古典学書評(BMCR)2007.08.09『Troy: from Homer's Iliad to Hollywood Epic』評
神々が出てこない
『イリアス』では、神々が戦場に割り込んでくる。怒ってアガメムノンに斬りかかろうとしたアキレウスを、女神アテナが髪をつかんで止める。一騎打ちで負けかけたパリスは、愛の女神アプロディテが霧に包んで連れ去る。
ホメロスイリアス
映画には、神々が登場しない。この映画を論じた論集を紹介した古典学の書評誌の記事によれば、論集の多くの論文が、この映画の目立つ特徴として、筋の大きな変更とともに、『イリアス』で重要な役割を果たす神々の不在を取り上げている。
近現代ブリンマー古典学書評(BMCR)2007.08.09『Troy: from Homer's Iliad to Hollywood Epic』評
トロイアで死ぬ王たち
同じ書評によれば、論文が取り上げた筋の大きな変更の一つが、アガメムノン、メネラオス、アイアスがトロイアで命を落とすことである。
近現代ブリンマー古典学書評(BMCR)2007.08.09『Troy: from Homer's Iliad to Hollywood Epic』評
いとこという設定
映画は、アキレスとパトロクロス、ヘクトルとブリセイスを、いとこ同士として描く。
近現代ブリンマー古典学書評(BMCR)2007.08.09『Troy: from Homer's Iliad to Hollywood Epic』評
『イリアス』の外まで
『イリアス』は、ヘクトルの葬儀で終わる。木馬の計略も、トロイアの落城も、『イリアス』には出てこない。それを語ったのは、今は失われた叙事詩『イリオスの陥落』や、ローマの詩人ウェルギリウスの『アエネイス』だった。映画は、そのトロイアの滅びまでを描いている。
ホメロスイリアス古拙期イリオスの陥落ローマ期アエネイス近現代ブリンマー古典学書評(BMCR)2007.08.09『Troy: from Homer's Iliad to Hollywood Epic』評
この話の項目
- トロイア戦争ギリシャ連合軍がトロイアを10年にわたって攻めた戦争。『イリアス』はその10年目の50日ほどしか描かない。発端も木馬も落城も、別の詩や後代の作品が埋めたものである。
- アキレウスペレウスと女神テティスの子で、トロイアに来たギリシャ勢で最強の戦士。『イリアス』はその「怒り」を主題とする。踵の弱点で有名だが、その話はホメロスには無く、ずっと後代の付け足しである。
- ヘクトルプリアモスの長子でトロイア軍の総大将。アンドロマケの夫。パトロクロスを討ったことでアキレウスの復讐を招き、城壁の外で討たれて遺体を引きずられる。『イリアス』は彼の葬儀で終わる。
- メネラオススパルタ王でヘレネの夫。アガメムノンの弟。妻を連れ去られたことでトロイア遠征の当事者になる。
- アガメムノンミュケナイ王でギリシャ連合軍の総大将。アキレウスからブリセイスを奪って『イリアス』の発端をつくる。帰国した日に殺されるが、誰が手を下したかは出典によって違う。
- 大アイアステラモンの子。アキレウスに次ぐギリシャ最強の戦士で、塔のような大盾で知られる。アキレウスの武具をめぐる争いに敗れて自害する。
- ブリセイスアキレウスの戦利品としての女。アガメムノンに取り上げられたことが『イリアス』全体の発端になる。名前は「ブリセウスの娘」という父称で、本人の名ではない。
- パトロクロスアキレウスの最も親しい仲間。アキレウスの武具を借りて出撃し、ヘクトルに討たれる。その死がアキレウスを戦場に戻し、『イリアス』後半をまるごと動かす。
- トロイアの木馬ギリシャ軍が中に兵を潜ませてトロイア城内に運び込ませた巨大な木の馬。『イリアス』には出てこず、『オデュッセイア』で三度短く語られ、最も詳しく描くのはウェルギリウス『アエネイス』第2巻である。
ほかの作品の話
- 聖闘士星矢女神アテナを護る少年たちが、星座の名を背負って戦う。『聖闘士星矢』のどこが、ギリシャ神話のどの話につながっているのか。
- オデュッセイア(ノーラン監督)2026年7月に公開された、クリストファー・ノーラン監督の映画『オデュッセイア』。ホメロスの叙事詩と並べると、何を変え、どこをふくらませたのか。
- ヘラクレス(ディズニー)ディズニーのアニメ映画『ヘラクレス』。神話の英雄の話と並べると、母も、敵も、師匠も、メガラの役回りも、ずいぶん入れ替わっている。
- パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々ギリシャの神々が今もいて、神と人間のあいだに生まれた子どもたちが怪物と戦う。『パーシー・ジャクソン』のどこが、神話のどの話につながっているのか。
- ゴッド・オブ・ウォースパルタの戦士クレイトスが、オリュンポスの神々に挑むゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』。主人公の名前からして、ギリシャ神話に出てくる神の名前だった。
- ワンダーウーマンアマゾン族の王女ダイアナが、人間の世界で戦う『ワンダーウーマン』。その故郷の島の名前も、一族の名前も、ギリシャ神話にさかのぼる。
- ハデス(ゲーム)冥界の王子になって、死者の国からの脱出を何度も試みるゲーム『ハデス』。神話で、冥界から出ていこうとした者たちはどうなったのか。
- タイタンの戦い英雄ペルセウスが、メドゥサの首で海の怪物クラーケンに立ち向かう映画『タイタンの戦い』。神話のペルセウスの話と、どこが重なり、どこが違うのか。
- Fate/Grand Order歴史や伝説の人物が「サーヴァント」として戦う『Fate/Grand Order』。ギリシャ神話から来たメドゥーサ、ヘラクレス、アタランテは、神話ではどんな人物だったのか。
- 海のトリトン(手塚治虫)少年トリトンが、海の支配者ポセイドンの一族と戦う手塚治虫の『海のトリトン』。ところが神話では、トリトンはポセイドンの息子だった。