出典 · ローマ期
アエネイス
ウェルギリウス · 前19年頃 · Aeneid
第2巻がトロイア落城(木馬・ラオコオン)の最も詳しい古代の記述。
日本語訳: 岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会、2001 · 原文・参考リンク ↗
この出典が語っていること
アカイメニデス
- エトナ山麓の浜で夜を明かしたトロイア人の前に、やせ衰え、ひげは伸び放題、とげで綴じた服をまとった見知らぬ男が森から出てくる。トロイアの武具を見て一瞬立ちすくむが、「自分はギリシャの船団の一人だ。罪が許せないなら海に投げ込んでくれ。人の手で死ねるならそれでいい」と足元にすがる。 (3.588-607)
- アカイメニデスは洞窟で見たことを語る。キュクロプスが仲間二人を岩に打ちつけて食べるのを見た。オデュッセウスは酒で眠らせ、くじを引いた仲間とともに鋭い杭で一つ目を潰した。『オデュッセイア』9歌でオデュッセウス自身が語る場面を、ウェルギリウスはその場にいた別の部下の口からもう一度語らせている。 (『アエネイス』3.616-638。『オデュッセイア』9.287-398)
- 敵であるギリシャ人を、トロイア人のアイネイアスたちは迷わず受け入れる。アンキセスは長く考えずに若者に右手を差し出して安心させる。直後に盲目のポリュペモスが海辺に降りてくると、一行は「助けを求めた者を当然のように乗せて」、黙って綱を切り逃げ出す。 (3.610-611、3.655-668)
- 父の名はアダマストゥス。貧しい父のもとからトロイアへの遠征に加わったイタケの出身だと名乗る。 (3.613-615)
- 置き去りにされたアカイメニデスは、月が3度満ちるあいだ森の獣の巣に隠れ、木の実や草の根で生き延び、キュクロプスたちの足音と声に震えていた。 (3.645-650)
- 関係: companion → odysseus (『アエネイス』3.613「不運なウリクセスの仲間」、3.616-618 洞窟から急いで逃げる仲間に置き去りにされた。『変身物語』14.158-222)
- 関係: enemy → polyphemus (『アエネイス』3.616-654 仲間が食われるのを見て、目を潰すのに加わった。『変身物語』14.167-217)
- 関係: companion → aeneas (『アエネイス』3.610-611 アンキセスが手を差し出して迎え、3.666-667 船に乗せて逃げる。3.690-691 シチリアの岸を案内する。『変身物語』14.220「ギリシャ人をトロイアの船が迎えた」)
- 関係: participated_in → wanderings-of-aeneas (3.588-691)
- 関係: participated_in → wanderings-of-odysseus (3.613-638 キュクロプスの洞窟の場面にいた一人として、自分の目で見たことを語る(『オデュッセイア』9歌には名前は出てこない))
アケロン
- 『アエネイス』では、冥界への道はタルタロスのアケロンの流れへ通じ、泥に濁った渦が煮え立って砂をコキュトスへ吐き出す。その水と流れを守るのが渡し守カロンで、岸には、秋の初めの寒さに落ちる木の葉ほどの死者が押し寄せる。 (6.295-312)
- 『アエネイス』7巻で、トロイア人がラティウムに落ち着くのを止められないと知ったユノは、自分の神威が足りないならどこにいる者にでもすがろう、「天上の神々を動かせないなら、アケロンを動かそう」と言い、冥界の闇から復讐の女神アレクトを呼び出す。 (7.308-326(7.312 flectere si nequeo superos, Acheronta movebo))
- フロイトは『夢判断』(初版1900年)の扉にこの一行を掲げ、第7章でも、覚めているあいだ押さえこまれた心の中身が夜に意識に現れる、と述べたあとでもう一度引き、夢の解釈は無意識を知る「王道」だと続ける。 (Brill 英訳(第3版、1913年)の扉と第7章。原句は『アエネイス』7.312)
- 関係: visited_by → aeneas (6.295-330)
アイネイアス
- 落城の夜、老父アンキセスを肩に担ぎ、息子アスカニオスの手を引き、家の守り神を携えて脱出する。西洋美術で繰り返し描かれた図像。 (2.721-724(担ぎ上げる)、2.804(第2巻の最終行))
- ローマ建国の祖とする筋立ては『アエネイス』で確立した。アイネイアス自身が建てるのはラウィニウムで、ローマの建国はさらに後のロムルスとされる。 (1.1-7(冒頭でラウィニウムへの到達を歌う)、1.257-296(ユピテルの予言でアルバ・ロンガとロムルスまで語られる))
- 落城の夜、ついて来ていた妻クレウサがはぐれる。アイネイアスは町へ引き返して名を呼び続け、現れた妻の影から、長い流浪の末に西の国(ヘスペリア)のテヴェレ川のほとりで王国と王家の妻を得ると告げられる。三度抱こうとして三度とも腕がすり抜けた。 (2.735-795)
- 関係: participated_in → sack-of-troy (2巻全体。落城を語る語り手でもある)
アイオロス
- ウェルギリウスでは、アイオロスは洞窟に風を閉じ込めて治める王で、ユノは14人のニンフのうち最も美しいデイオペイアを妻にやると約束して、アイネイアスの船団に嵐を起こさせる。 (1.50-86)
アゲノル
- ウェルギリウス『アエネイス』では、女神ウェヌスがカルタゴを「テュロスの人々の、アゲノルの町」と呼ぶ。フェニキアのテュロスから来た女王ディドの国を、アゲノルの名で言い表したもの。 (1.338)
アンキセス
- 『アエネイス』では、燃えるトロイアから息子アイネイアスに肩車されて運び出され、家の守り神(ペナテス)を抱える役を担う。 (2.707-729(とくに 2.721-724))
- 放浪の途中、シケリアのドレパヌムで死ぬ。『アエネイス』6巻では冥界のエリュシオンで再会し、ローマの未来の英雄たちを息子に見せる。 (3.707-715(ドレパヌムでの死)、6.679-892(冥界での再会とローマの未来))
- アンキセスが逃げるのを拒むと、孫イウルスの頭に害のない炎がともり、アンキセスがユピテルにしるしを求めると左手に雷鳴がして流れ星がイダの森へ落ちた。アンキセスは翻意した。 (2.680-704)
- アイネイアスは、戦いと殺しから出たばかりの自分は流水で身を清めるまで聖物に触れられないとして、父に家の守り神(ペナテス)を持たせ、ライオンの毛皮を肩に掛けて父を背負った。 (2.717-724)
- 関係: participated_in → sack-of-troy (2.634-729 逃げるのを拒むが、瑞兆を見て翻意し、息子に担がれる(2.721-724))
アンドロマケ
- その後の生は出典で異なる。エウリピデス『アンドロマケ』ではネオプトレモスとの間に息子を産んでおり、劇の最後にテティスが、その子の血統がモロッソイの地を治めると予言し、アンドロマケはヘレノスと結ばれると告げる(劇中でこの子がモロッソスと名指されることはない)。『アエネイス』ではヘレノスの妻としてエペイロスに小さなトロイアを再現している。 (エウリピデス『アンドロマケ』1243-1252、『アエネイス』3.294-505)
- 『アエネイス』で、アイネイアスはブトロトゥム近くの森で、空の墓の前でヘクトルの霊を呼んで供物を捧げるアンドロマケに出会う。彼女は、ネオプトレモスがヘルミオネと結婚するために自分をヘレノスに譲ったと語る。別れにはアスカニウスに手織りの衣を贈り、アステュアナクスの面影を見る。 (3.301-332、3.482-491)
- 関係: spouse → helenus (エウリピデス『アンドロマケ』1243-1252 の予言、『アエネイス』3.294-505 でブトロトゥムの王妃として登場)
アポロン
- ローマ神話ではアポロンに固有の対応神がなく、名も Apollo のまま取り入れられた。主要なオリュンポス神でローマ名が別に無いのは珍しい。ローマでの受容は輸入神としてのもので、前433年の疫病に際して誓願された「医神アポロ(Apollo Medicus)」の神殿が最初の神殿とされる。 (リウィウス 4.25「Aedis Apollini pro valetudine populi vota est(民の健康のためアポロに神殿が誓願された)」、4.29 で執政官ユリウスが奉献(前431年)。『アエネイス』3.79-120 などラテン語文献でも名は Apollo のまま)
アレス
- ローマのマルスは軍神であると同時に農耕と国家の守護神で、ロムルスとレムスの父とされる建国神話の中心人物である。ギリシャで嫌われたアレスとは社会的な位置がまったく違う。 (『アエネイス』1.274-277 でマルスの子としてのロムルスに触れる。マルス固有の性格(軍神であると同時に農地の祓いと国家祭祀の神であること)は OCD『Mars』の項による)
アスカニウス
- ユピテルは『アエネイス』1巻で、少年アスカニウスは「イウルス」という添え名を持ち、30年治めてアルバ・ロンガに都を移すと予言する。続けて、トロイアの血を引くカエサルが現れ、「偉大なイウルスから受け継いだ名」ユリウスを名乗ると言う。 (1.267-271、1.286-288)
- ウェルギリウスでは、アスカニウスはトロイアでの妻クレウサの子。落城の夜、クレウサは逃げる途中ではぐれて消え、亡霊となって夫の前に現れ「二人の子への愛を守って」と告げる。ラウィニアとの子として予言されるのは別の息子シルウィウス。 (2.736-740、2.771-789(亡霊の言葉は 2.789)、6.763-765(シルウィウス))
- ラティウムでの戦争のきっかけを作ったのもアスカニウスだった。狩りの最中、復讐の女神アレクトに猟犬を狂わされ、土地の娘シルウィアが飼い慣らしていた大鹿を射てしまう。怒った農民たちが武器を取り、戦いが始まる。 (7.475-510)
- 初陣で、トゥルヌスの妹を娶ったばかりのヌマヌスを弓で射止める。空から見ていたアポロンが「新たな武勇に栄えあれ、少年よ。かくして人は星々に至る(sic itur ad astra)」と声をかけ、ただし今はこれ以上戦うなと諭して姿を消す。 (9.590-658(「かくして人は星々に至る」は 9.641))
- リウィウスでは、アスカニウスは栄えたラウィニウムを母(あるいは継母)ラウィニアに任せ、アルバ山の麓に細長く延びる新しい町アルバ・ロンガを築いた。ラウィニウムの建設からおよそ30年後のことだという。 (リウィウス 1.3.3-4。『アエネイス』1.270-271)
- 落城の夜、アンキセスが逃げるのを拒むと、イウルスの頭頂に害のない炎がともり髪をなめた。これをしるしと見てアンキセスは逃げる決心をした。 (2.680-704)
- 関係: child → aeneas (『アエネイス』2.666、2.710-711。リウィウス 1.3.1-3)
- 関係: grandchild → anchises (2.707-711 祖父を担ぐ父の横で手を引かれて逃げる)
- 関係: grandchild → aphrodite (4.163「ウェヌスのダルダノスの孫」。1.691-694 ウェヌスが眠らせてイダリオンの森に隠す)
- 関係: impersonated_by → eros (1.657-722 ウェヌスの命で、クピド(エロス)がアスカニウスの姿を借りてディドの膝に抱かれる)
- 関係: advisee → apollo (9.638-658 初めての手柄を立てた少年をアポロンがほめ、それ以上戦うなと諭す(「かくして人は星々に至る」9.641))
- 関係: participated_in → wanderings-of-aeneas (3.12 ほか)
カルタゴ
- 『アエネイス』は冒頭で、カルタゴをイタリアとテヴェレ川の河口の向かいにある古い町、ユノがどの土地よりも愛した町として紹介する。ユノはトロイアの血筋からいつかこの町を滅ぼす民が出ると聞いており、それがトロイア人を憎む理由の一つになっている。 (1.12-22)
- ディドたちは「牛の皮一枚で囲えるだけの土地」を買い、その土地を「ビュルサ」と名づけた。ウェルギリウスはここまでしか書かないが、ユスティヌスは皮をできるだけ細い紐に切って広い土地を囲ったという話まで書く。 (『アエネイス』1.365-368。ユスティヌス 18.5)
- アイネイアスは建設中のユノの神殿で、トロイア戦争の場面を描いた壁画を見つけ、自分たちの戦いがこんな遠い土地にまで知られていることに涙する。自分の姿もギリシャ勢の中に描かれていた。 (1.446-493(自分の姿は 1.488))
- アイネイアスに去られたディドは死ぬ前に、カルタゴとトロイアの子孫が海を挟んで代々争うよう呪い、「わが骨から復讐者よ現れよ」と叫ぶ。 (4.622-629(復讐者は 4.625)。ハンニバルの名は本文には出ない)
- ユスティヌスはカルタゴの建設をローマ建国の72年前とする。一方『アエネイス』では、アイネイアスの到着からロムルスのローマ建国まで300年以上ある(アスカニウスの30年とアルバ王家の300年)。両者を並べると、ディドはアイネイアスより2世紀以上あとの人になり、二人の出会いは年代の上では成り立たない。 (ユスティヌス 18.6。『アエネイス』1.265-277)
- アイネイアスは丘の上から建設中のカルタゴを見下ろし、城壁を築き、港を掘り、劇場の柱を切り出す人々を蜂にたとえて眺め、「城壁がすでに立ち上がっていく人々は幸いだ」と言う。 (1.418-437)
- 関係: ruled_by → dido (『アエネイス』1.340「ディドが治める」、1.365-368。ユスティヌス 18.5)
- 関係: protected_by → hera (1.15-18 ユノ(ヘラ)がサモスよりも愛した町で、武具と戦車を置いている。1.446-449 ディドがユノの大神殿を建てる)
- 関係: visited_by → aeneas (1.418-440 丘の上から建設中の町を見下ろす。4.259-264 ディドの町づくりを手伝っている)
- 関係: visited_by → hermes (1.297-304 ユピテルがメルクリウス(ヘルメス)を送り、カルタゴ人がトロイア人を迎えるよう心を和らげる。4.259-278 で再び来てアイネイアスに出航を命じる)
カッサンドラ
- 木馬を城内に入れるなと警告しても聞き入れられない。『アエネイス』では「神がその言葉を信じさせなかった」と説明される。 (2.246-247)
ケライノ
- 高い岩の上に止まったケライノは「不吉な予言者」として叫ぶ。おまえたちはイタリアへ行き、港にも入れる。だが、我らを殺そうとした罪ゆえに、恐ろしい飢えに迫られて食卓をかじり尽くすまで、約束の町を城壁で囲むことはできない。言い終えると森へ飛び去り、トロイア人は武器を捨てて祈りで和を乞う。 (3.245-262)
- 予言はラティウムで、拍子抜けする形で成就する。上陸後の食事で平たいパンを皿がわりにし、それまで食べてしまったのを見たアスカニウスが「食卓まで食べちゃった」と言う。アイネイアスはこれを予言の成就と悟る。ただしこの場面でアイネイアスは、予言を残したのは父アンキセスだと言っている。 (7.107-129)
- ケライノは自分のことを「フリアエ(復讐の女神たち)の中で最も偉大な者」と名乗る。ハルピュイアと復讐の女神を重ねる言い方で、ホメロスにもハルピュイアがさらった娘たちを復讐の女神エリニュスたちに渡す話がある。 (『アエネイス』3.252。『オデュッセイア』20.77-78)
- ヘシオドスがハルピュイアの名として挙げるのはアエロとオキュペテの二人だけで、ケライノの名はない。ハルピュイアの一人としてのケライノは、ウェルギリウスとヒュギヌスに出てくる。 (『神統記』267。『アエネイス』3.211。ヒュギヌス序文)
- 3巻の最後で父アンキセスを失ったアイネイアスは、ヘレノスもケライノもこの悲しみは予言しなかったと嘆く。多くの予言を受けてきた旅で、いちばん身近な死だけは誰も告げていなかった。 (3.712-713)
- ストロパデス島で、トロイア人が番のない牛を屠って宴を開くと、ハルピュイアが山から舞い降りて料理を奪い汚した。場所を変えても襲われ、剣で迎え撃つが羽根にも背にも刃が通らなかった。その後、ケライノだけが岩に止まって予言を叫ぶ。 (3.219-258)
- 関係: member_of → harpies (『アエネイス』3.211-212。ヒュギヌス序文はタウマスとエレクトラの子として、イリス、ハルピュイア、ケライノ、オキュペテ、ポダルケを挙げる)
- 関係: advisor → aeneas (3.245-257 アポロンから聞いたという予言を告げる)
- 関係: enemy → aeneas (3.247-249 牛を殺したうえに、罪のないハルピュイアを父祖の国から追い出すつもりかと責める)
- 関係: advisee → apollo (3.251-252 全能の父がポイボスに、ポイボス・アポロンが自分に告げた予言だと言う)
ケルベロス
- 『アエネイス』では、アイネイアスを冥界へ導くクマエの巫女が、眠り薬と蜂蜜をしみ込ませた団子を投げ与え、三つの喉を開けて食らいついたケルベロスが洞穴いっぱいに伸びて眠り込んだ隙に通り抜ける。 (6.417-425)
カロン
- ウェルギリウスの描くカロンは、ぼうぼうの白髭に炎のような目、汚れた外套を肩で結んだ老人で、老いてなお神らしく頑健。アケロンの岸に押し寄せる無数の死者のうち、埋葬された者だけを乗せ、埋葬されなかった者は百年岸をさまよわせる。生者であるアイネイアスは、黄金の枝を見せて初めて舟に乗せてもらえた。カロンは、かつて生きたまま来たヘラクレス(番犬を鎖につないで連れ去った)やテセウスとペイリトオスを乗せたのは喜ばしいことではなかった、とこぼす。 (6.295-330、6.384-416(ヘラクレスとテセウス 6.392-397))
- 『アエネイス』でカロンはアイネイアスに、ここは影と眠りと夜の場所で、生きた体を冥界の舟で運ぶのは許されない、かつてアルキデス(ヘラクレス)やテセウスとペイリトオスを乗せたのも喜ばしくはなかった、と言う。シビュラが衣の下から黄金の枝を見せると怒りはおさまり、ほかの魂をどけてアイネイアスを乗せると、縫い合わせた小舟は重みにうめき、隙間から沼の水を多く入れた。 (6.384-416)
- 関係: servant → hades (冥王の領域の渡し守。『アエネイス』6.298-304 /『アルケスティス』252-257, 361)
- 関係: visited_by → aeneas (6.384-416 黄金の枝を見せられ、生者アイネイアスを舟に乗せる)
コイオス
- 『アエネイス』でも、噂の女神ファーマは、神々に怒った大地がコイオスとエンケラドスの妹として最後に産んだ娘とされる。ローマの詩では、コイオスは巨人エンケラドスと同列に扱われる。 (4.178-180)
クマエのシビュラ
- ヘレノスはブトロトンで、クマエの巫女は木の葉に予言を書いて洞窟に並べるが、扉が開くと風で葉が散り、もう並べ直さないと教える。だから葉に書かせず、自分の口で歌ってもらえと助言する。アイネイアスは実際にシビュラにそう頼む。 (3.441-460(ヘレノスの助言)、6.74-76(アイネイアスの頼み))
- 神がかりになったシビュラは、トロイア人はラウィニウムの国に着くが、着いたことを後悔するだろうと告げる。「戦争が、恐ろしい戦争が、血で泡立つテヴェレ川が見える」。災いの原因はまたしても異国の花嫁で、救いは思いもよらないギリシャの町から来るという。 (6.83-97(「戦争が、恐ろしい戦争が」は 6.86))
- 「アウェルヌスへ下るのはたやすい。冥王の門は昼も夜も開いている。だが足を戻して上の空気へ出ること、それが難しい」。冥界へ下るには、森に隠れた黄金の枝を見つけてプロセルピナへの贈り物として折り取らねばならない、とシビュラは教える。 (6.126-131、6.136-148)
- アイネイアスはシビュラに、自分の国に神殿を建て、民に告げられた彼女の予言を納めて選ばれた者に守らせると約束する。ローマではのちに予言集「シビュラの書」が保管された。ハリカルナッソスのディオニュシオスは、異国の女がタルクィニウス王に予言の書9巻を売りに来て、断られるたびに3巻ずつ焼き、最後に残った3巻を言い値で買わせた話を伝える。ただしディオニュシオスはこの女をクマエのシビュラとは呼んでいない。 (『アエネイス』6.71-74。ディオニュシオス 4.62.1-5)
- 関係: advisor → aeneas (『アエネイス』6.83-97 ラティウムでの戦争を予言し、6.125-155 冥界へ下る手順(黄金の枝)を教える。『変身物語』14.104-153)
- 関係: servant → apollo (6.9-12 アポロンが心を吹き込む予言者。6.35「ポイボスとトリウィアの巫女」、6.77-101 神がかりの様子)
- 関係: servant → hecate (6.35 トリウィア(ヘカテ)の巫女でもあり、6.564-565 ヘカテにアウェルヌスの森を任され、冥界の罰を見せられたと語る)
- 関係: visited → underworld (『アエネイス』6.236-898 アイネイアスを連れて冥界を案内する。『変身物語』14.116-155)
- 関係: visited → anchises (6.666-678 エリュシオンでアンキセスの居場所を尋ね、6.897-898 アンキセスに見送られて地上へ戻る)
キュクロプス族
- ウェルギリウスでは、リパラ島とエトナ山の下の洞窟がウルカヌスの鍛冶場で、キュクロプスのブロンテス、ステロペス、ピュラグモンがユピテルの雷を鍛えている。 (8.416-432)
- ウェルギリウスでは、目を潰された巨人の叫びを聞いて、エトナの森や山からキュクロプス族が浜へ押し寄せ、天に届く高い樫や糸杉の森のように立ち並ぶ。 (3.672-681)
デイポボス
- 『アエネイス』では、冥界で無残に切り刻まれた亡霊として現れ、ヘレネが家中の武器を隠し、メネラオスを招き入れたと語る。この裏切りの筋は『オデュッセイア』には無い。 (6.494-534)
- 『アエネイス』の冥界で、デイポボスの亡霊は体中を切り刻まれ、顔と両手を傷つけられ、耳と鼻をそがれた姿で現れる。ヘレネは祭りの踊りを装って松明でギリシャ軍を呼び、家の武器と枕もとの剣を持ち去って、メネラオスを招き入れたと語る。 (6.494-527)
- 関係: killed_by → menelaus (『アエネイス』6.494-534、アポロドーロス摘要 5.22)
ディド
- テュロス王家の娘で、夫シュカエウスを兄の王ピュグマリオンに財宝目当てで殺された。夢に現れた夫の亡霊に真相と隠された財宝の場所を教えられ、同じ思いの者たちと船で逃れて、北アフリカに町を築いた。 (1.338-368(女神ウェヌスが少女の姿で語る))
- 兄の名ピュグマリオンは、オウィディウスで象牙の像に恋をするキプロスの彫刻家と同じ名だが、別の人物。テュロスの王で、妹の夫を殺した悪役として出てくる。 (『アエネイス』1.346-352。彫刻家は『変身物語』10.243-297)
- ウェルギリウスでは、ユノとウェヌスがそれぞれの思惑で二人を結ばせる。狩りの最中の嵐で同じ洞窟に逃げ込んだ日を、ディドは結婚と呼んだが、ユピテルの使いメルクリウスに急かされたアイネイアスはイタリアへ去る。ディドは彼の残した剣で自害する。 (4.90-128(女神たちの取引)、4.165-172(洞窟)、4.259-278(メルクリウス)、4.642-705(死))
- ウェヌスの計略で、宴の席でディドが膝に抱いたアスカニウスは、実はその姿を借りたクピドだった。アイネイアスが去ったあとも、ディドは父親の面影を求めてアスカニウスを膝に抱いていたと書かれる。 (1.657-722(クピドのすり替え)、4.84-85)
- 冥界でアイネイアスは、恋に死んだ者の森にディドの影を見つけ、「本意ではなかった」と涙ながらに語りかける。ディドは目を伏せたまま一言も返さず、最初の夫シュカエウスのもとへ去る。 (6.450-476)
- 死の直前、アイネイアスの一族とカルタゴが永遠に争うよう呪い、自分の骨から復讐者が現れるよう願う。カルタゴとローマの戦争の起源を、一人の女王の恨みに置いた場面。 (4.607-629(復讐者は 4.625))
- 牛の皮一枚で囲える土地を手に入れる逸話から、決まった長さの線で最大の面積を囲む数学の問題(等周問題)は「ディドの問題」と呼ばれる。 (MathWorld「Dido's Problem」。逸話は『アエネイス』1.365-368)
- ディドはアイネイアスの剣を抜いて薪の上の床に伏し、「私は生きて、運命が与えた道を歩み終えた。名高い町を築き、夫の仇を兄に報いた。トロイアの船がこの岸に来さえしなければ幸せだったのに」と語って剣に伏す。死にきれない彼女を哀れんだユノがイリスを送り、イリスは髪を一房切ってディス(冥界の王)に捧げ、魂を解いた。 (4.642-705)
- カルタゴの人々は、牛の皮一枚で囲えるだけの土地を買い取り、それにちなんで城砦をビュルサと名づけた。 (1.365-368)
- 関係: lover → aeneas (『アエネイス』4.160-172 嵐の中の洞窟で結ばれる。オウィディウス『名婦の書簡』7 はディドがアイネイアスに宛てた手紙)
- 関係: ruler → carthage (『アエネイス』1.340-368。ユスティヌス 18.5-6)
- 関係: courted_by → eros (1.657-722 アスカニウスに化けたクピド(エロス)が膝に抱かれ、アイネイアスへの恋の火を吹き込む)
- 関係: visited_by → iris (4.693-705 死にきれずにいるディドのもとへユノがイリスを送り、髪を一房切って魂を解き放つ)
- 関係: visited → underworld (6.450-476 死後、冥界の「嘆きの野」をさまよい、下ってきたアイネイアスに一言も答えずに立ち去る)
- 関係: participated_in → wanderings-of-aeneas (1.753-756 宴でアイネイアスに漂流の話をせがむ)
ディオメデス
- 『オデュッセイア』3.180-182 によれば、無事に帰国した数少ない将のひとり。帰国後にイタリアへ渡ったという話は後代のもので、ウェルギリウス『アエネイス』11.243-295 ではイタリアに王国を築き、トロイア勢との再戦を断る。 (『オデュッセイア』3.180-182 / 『アエネイス』11.243-295)
エリュシオン
- ウェルギリウスでは、エリュシオンは冥界の中にある。冥界の分かれ道で左はタルタロス、右はディス(冥王)の城壁をへてエリュシオンへ通じる。そこは紫の光に満ちた明るい野で、自分の太陽と星をもち、祖国のために傷ついた者、清らかな祭司、敬虔な詩人たちが歌い踊る。アイネイアスはここで亡き父アンキセスに会う。 (6.540-543、6.637-678、6.679-702)
- 『アエネイス』でアイネイアスはエリュシオンの谷で父アンキセスに会い、三度抱こうとして三度すり抜けられる。アンキセスは、レテ川のほとりに群がる魂は、千年の巡りを終えてこの川の水を飲み、記憶を失って再び体に戻ろうと望むのだ、と説く。 (6.679-702、6.703-715、6.748-751)
- ウェルギリウスのエリュシオンでは、人々が草の上で競技をし、踊り歌う。祖国のために戦って傷ついた者、清らかな祭司、アポロンにふさわしい言葉を語った敬虔な詩人たちが住む。 (6.642-665)
エラト
- ウェルギリウス『アエネイス』は、後半の始まりにあたる第7巻で「さあエラトよ」と呼びかけ、古いラティウムの王たちと、そこで起こる戦いを語ろうとする。恋ではなく戦争の物語のためにエラトが呼ばれている。 (7.37-45)
エリニュス
- 三柱の名、アレクト、ティシポネ、メガイラは、ヘシオドスにもホメロスにも出てこない。アポロドロスは、ウラノスの血の滴から生まれた者としてこの三つの名を挙げる。ウェルギリウスの『アエネイス』では、ティシポネが冥界の罪人を鞭打ち、アレクトが戦争を起こし、メガイラは夜が一度のお産で産んだ二柱の「ディラエ」と姉妹とされる。 (アポロドロス 1.1.4。『アエネイス』6.570-572, 7.323-326, 12.845-848)
エウアンドルス
- アルカディアの王家の祖先パラスの名をとって、テヴェレ川のほとりの丘に町パランテウムを築いた。リウィウスは、この町の名からパランティウム、さらにパラティウム(パラティヌスの丘)という名が出たと説明する。 (『アエネイス』8.51-54。リウィウス 1.5.1)
- エウアンドルスはアイネイアスを連れて、のちのローマの名所を歩く。カルメンタ門、のちにロムルスが避難所にする森、ルペルカルの洞窟、タルペイアの岩、今は黄金に輝くが当時は茂みだったカピトリウム。今は大広場や高級住宅地になっている場所で、牛が鳴いていたと書かれる。 (8.337-361)
- シビュラが「救いの道は、思いもよらないギリシャの町から開ける」と予言していたのは、この町のこと。トロイアを滅ぼしたギリシャ人と同じギリシャ出身の王が、アイネイアスの最初の同盟者になる。 (6.96-97(シビュラの予言)、8.127-133(アイネイアスが、相手がギリシャ人でアトレウスの子らの親戚でも恐れなかったと言う))
- 母は予言のニンフのカルメンタ(カルメンティス)。ウェルギリウスではアイネイアスの子孫の偉大さを最初に歌った予言者とされ、リウィウスでは、シビュラがイタリアに来る前に人々が敬っていた予言者とされる。 (『アエネイス』8.335-341。リウィウス 1.7.8)
- 息子を送り出すとき、生きて帰らないなら今のうちに死なせてくれと神々に祈った老王は、パラスの遺体を迎えて棺に取りすがる。先に死んだ妻は幸いだった、自分は長生きしすぎたと嘆く。 (8.572-584(出発の祈り)、11.139-181(遺体を迎える))
- エウアンドルスはアイネイアスに、ヘラクレス祭の由来として、ウルカヌスの子で火を吐く半人半獣のカクスが、ヘラクレスの牛を尾から後ろ向きに洞窟へ引きずり込んで足跡をごまかし、見破ったヘラクレスに締め殺された話を語る。 (8.185-275(カクスの姿 8.193-199、牛の盗み 8.205-211、最期 8.259-261))
- 関係: companion → aeneas (8.126-174 同盟を結ぶ。8.514-519 息子パラスと騎兵を預ける)
- 関係: child → hermes (8.138-141 アイネイアスが「あなた方の父はメルクリウス」と言い、両家がともにアトラスにさかのぼる親戚だと説く)
- 関係: descendant → atlas (8.138-142 メルクリウスの母マイアがアトラスの娘。アイネイアス側もアトラスの娘エレクトラからダルダノスが出ている)
- 関係: visited_by → anchises (8.154-168 若い頃、アルカディアを訪れたアンキセスに憧れて自分の町ペネオスへ案内し、弓矢や金の外套を贈られた)
- 関係: tells_of → herakles (『アエネイス』8.185-275 ヘラクレスが怪物カクスを退治した話を語り、その祭りの由来を説く。リウィウス 1.7.3-15)
- 関係: enemy → turnus (8.55 アルカディア人はラテン人と絶えず戦っている。10.479-500 トゥルヌスが息子パラスを討つ)
ハルピュイア
- 追跡を打ち切って引き返した場所の島々は、それまで「プロタイ(浮き島)」と呼ばれていたが、このことから「ストロパデス(引き返しの島)」と呼ばれるようになった、とアポロニオスは説明する。アポロニオスではハルピュイアはそのあとクレタへ逃げ込むが、ウェルギリウスでは、ピネウスの館を追われたハルピュイアがこのストロパデス島に住みついている。 (アポロニオス 2.284-300。『アエネイス』3.209-213)
- ウェルギリウスのハルピュイアは、乙女の顔をした鳥で、腹からはひどい汚物を垂れ流し、手は鉤爪で、顔はいつも飢えで青ざめている。冥界の川から現れた神々の怒りの中でも、これほど忌まわしい怪物はいないと言われる。 (3.214-218)
- ストロパデス島に上陸したトロイア人は、見張りのいない牛の群れを屠って宴を開く。そこへハルピュイアが山から舞い降りて料理を奪い汚す。場所を変えても同じことが起こり、三度目に剣で迎え撃つが、羽は刃を通さず、背中にも傷がつかない。 (3.219-244)
- ケライノの予言(食卓をかじり尽くすまで町は築けない)は、イタリアでパンを皿がわりに食べ尽くしたとき、イウルスが「食卓まで食べている」と冗談を言ったことで成就したとアイネイアスは悟る。 (3.245-258、7.107-127)
- 関係: enemy → aeneas (3.219-262 ストロパデス島でトロイア人の宴を二度襲い、三度目に剣で迎え撃たれる)
- 関係: sibling → celaeno (『アエネイス』3.211-212「恐ろしいケライノと、ほかのハルピュイアたち」。ヒュギヌス序文もケライノをハルピュイアの名に挙げる(集団と個人を結ぶ関係の種類がないため sibling を使う))
ヘカトンケイル
- ローマの詩人は彼らを反対側に置く。ウェルギリウス『アエネイス』では、アイガイオンは百の腕と五十の口から火を吐き、五十の盾を打ち鳴らしてユピテルの雷に立ち向かった者のたとえに使われる。ホラティウスも「百の手のギュアス」を、知恵のない力が自滅する例として、神に逆らった巨人たちと並べる。 (『アエネイス』10.565-568。ホラティウス『歌章』3.4.65-72(2.17.14 にも「百の手のギュアス」))
ヘクトル
- 『アエネイス』では、落城の夜にアイネイアスの夢に血まみれのヘクトルの亡霊が現れ、逃げてトロイアの聖物と神々を託す。トロイア再建の物語の起点になっている。 (2.268-297)
ヘレノス
- 生き延びてネオプトレモスに従い、その死後アンドロマケと結ばれてエペイロスの王になる。『アエネイス』ではブトロトゥムに小さなトロイアを再建しており、そこでアイネイアスに長い予言を与える。 (3.294-355(再会)、3.356-462(予言))
- 『アエネイス』でヘレノスはアイネイアスに航路を予言する。人目につかぬ川辺で30匹の子を産んだ白い雌豚を見つけた所が町の地であること、スキュラとカリュブディスの海峡を避けてシチリアを回ること、クマエの巫女を訪ねること。ユノが残りを語ることを禁じている、とも言う。 (3.374-462)
- 関係: spouse → andromache (エウリピデス『アンドロマケ』1243-1252、『アエネイス』3.294-505)
イドメネウス
- 『アエネイス』では、イドメネウスが父祖の王国を追われて去り、クレタの岸が空になったという噂が流れ(3巻)、のちにイタリア南部のサレンティニの野を占めたと歌われる。11巻でもディオメデスが、覆されたイドメネウスの家に触れる。 (3.121-123、3.400-401、11.264-265)
ラオコオン
- 『アエネイス』では、木馬に駆け寄って「贈り物を持つギリシャ人こそ恐ろしい」と叫び、脇腹に槍を投げつける。中が鳴ったが、誰も気づかなかった。 (2.40-56(有名な一句 timeo Danaos et dona ferentis は 2.49))
- 海神に牛を捧げていると、テネドス島の方から二匹の大蛇が海を渡って現れ、まず二人の息子に、続いて助けに入ったラオコオンに巻きついて絞め殺す。トロイア人はこれを「木馬を傷つけた罰」と解釈し、木馬を城内へ引き入れてしまう。 (2.199-233(トロイア人の解釈は 2.228-233))
- どの神が関わるかも一定しない。『アエネイス』ではその日くじで選ばれたネプトゥヌス(ポセイドン)の祭司とされ、アポロドーロスでは単に「予言者」と呼ばれる。ヒュギヌスでは蛇を送るのはアポロンで、二人の息子にアンティファンテス、テュンブライオスという名まで付いている。 (『アエネイス』2.201「ネプトゥヌスの祭司」、アポロドーロス摘要 5.17、ヒュギヌス 135)
- 大蛇は血のように赤いとさかを波の上に出して泳ぎ来り、目は血と炎に燃えていた。息子たちを締めて噛み、助けに来たラオコオンを胴と首に二重ずつ巻いた。ラオコオンは傷ついた生贄の牛のような叫びを上げた。蛇はそのまま城砦のアテナ(トリトニス)の像の足もと、楯の下に隠れた。 (2.203-227)
- 関係: enemy → trojan-horse (2.40-56 木馬に槍を突き立てて警告する)
- 関係: participated_in → sack-of-troy (落城前夜の出来事)
- 関係: participated_in → troy (トロイアの神官)
ラティヌス
- ウェルギリウスによれば、ラティヌスは森の神ファウヌスとニンフのマリカの子。ファウヌスの父はピクス、その父はサトゥルヌスで、ラテン人の王家はローマの古い神々につながる。息子は若くして死に、跡を継ぐのは娘ラウィニアだけだった。 (7.45-53)
- アイネイアスが来る前、宮殿の月桂樹に蜂の群れが止まり、娘ラウィニアの髪に火がついて燃え広がるという前兆が起きた。父ファウヌスの神託は「娘をラテン人に嫁がせるな、外から来る婿の子孫が世界を治める」と告げていた。 (7.59-80(前兆)、7.81-101(ファウヌスの神託))
- 『アエネイス』のラティヌスは、妃アマタやトゥルヌスに押されて戦争を止められない老王として描かれ、最後まで生き残る。アイネイアスは戦いの前の誓いで、勝てば義父ラティヌスに軍と王権を残すと約束する。 (7.585-600(戦を止められず宮殿に籠る)、12.192-194)
- ラティヌスはアイネイアスの使者を迎え、神託の告げた婿がこの男だと悟って娘を与えると約束する。 (7.249-273)
- 関係: parent → lavinia (『アエネイス』7.52-53 ただ一人の娘。リウィウス 1.1.9)
- 関係: ruler → latium (『アエネイス』7.45-46。リウィウス 1.1.5)
- 関係: parent_in_law → aeneas (『アエネイス』7.268-273 で婿に迎えると告げ、12.192-194 でアイネイアスが「義父ラティヌス」と呼ぶ。リウィウス 1.1.9 では実際に娘を嫁がせる)
- 関係: descendant → kronos (7.47-49 ファウヌスとニンフのマリカの子で、祖父ピクス、その父がサトゥルヌス(クロノス))
ラティウム
- 上陸してすぐの食事で、薄いパンを皿がわりにして具を載せ、最後にそのパンまで食べてしまう。アスカニウスが「食卓まで食べちゃった」とふざけたのを聞いて、アイネイアスは予言が成就したと気づき、ここが約束の地だと宣言する。ただしこの場面でアイネイアスは、予言を残したのは父アンキセスだと言う。3巻でこの予言を告げたのはハルピュイアのケライノで、作品の中で食い違っている。 (7.107-129(アンキセスの予言とする 7.122-127)。ケライノの予言は 3.255-257)
- ウェルギリウスは地名の由来を、ユピテルに追われたサトゥルヌスがこの地に「隠れた(latere)」ことに求める。語源辞典はこれを古い説として紹介しつつ、本当の由来ははっきりせず、「平らな土地」を意味する語根から来た可能性を挙げる。 (『アエネイス』8.319-323。Online Etymology Dictionary「Latin」)
- リウィウスでは、アイネイアスは戦いに備えて土地のアボリギネス族とトロイア人の両方を「ラテン人」と呼ぶことにした。『アエネイス』の結末でも、ユノの願いを受けてユピテルが、トロイア人はラテン人の中に溶け込み、名前も言葉も服装もラテン人のままにすると約束する。 (リウィウス 1.2.4。『アエネイス』12.819-840)
- 7巻の冒頭でウェルギリウスはムーサのエラトに呼びかけ、ここからが「より大きな物語」だと宣言する。漂流を描いた前半6巻から、ラティウムでの戦争を描く後半6巻に移る節目。 (7.37-45(「より大きな仕事にとりかかる」7.44-45))
- ラティウムに着く直前、アイネイアスの乳母カイエタが死に、その名が港の名として残ったとされる。 (6.900-901、7.1-4)
- ラティヌス王には息子がなく、一人娘ラウィニアだけがいた。祭壇のそばに立つラウィニアの長い髪に火が燃え移り、髪飾りと冠が炎に包まれて館中に火を散らす前兆が現れ、娘は名高くなるが民に大きな戦をもたらすと予言された。王が父ファウヌスの神託を求めると、娘をラテン人に嫁がせるな、よそから婿が来て一族の名を星まで高めると告げられる。 (7.45-52、7.71-101)
- 『アエネイス』12巻で、ユノは土地の人々に古い名ラテン人を捨てさせず、トロイア人と呼ばせず、言葉も服装も変えさせないこと、ラティウムはラティウムのまま残し、トロイアはその名とともに滅びたままにすることを求め、ユピテルはトロイア人が混じり合って一つの言葉のラテン人になると約束する。 (12.819-840)
- 関係: ruled_by → latinus (『アエネイス』7.45-46。リウィウス 1.1.5)
- 関係: ruled_by → kronos (8.319-325 オリュンポスを追われたサトゥルヌス(クロノス)がこの地に隠れ住んで治め、黄金時代が続いた)
- 関係: visited_by → aeneas (7.25-36 テヴェレ川の河口から上陸)
ラウィニア
- アイネイアスが来る前、祭壇のそばに立つラウィニアの長い髪と冠に火がつき、煙と炎を宮殿中にまき散らした。予言者たちは、彼女自身は名高くなるが、民には大きな戦争をもたらす前兆だと告げた。 (7.71-80)
- 母アマタがトゥルヌスに戦わないでと泣いてすがる場面で、ラウィニアは話を聞いて顔を赤く染める。その色は、紅で染めた象牙や、白百合に混ざった赤いバラにたとえられる。この頬の赤みがトゥルヌスの恋心をさらにかき立てる。 (12.64-70)
- 物語の行方を左右する人物なのに、『アエネイス』に彼女の台詞はない。名前が出る場面でも、髪が燃える、顔を赤らめる、母の死に髪をかきむしるといった姿が描かれるだけで、本人の口から言葉は出てこない。 (7.71-80、11.479-480、12.64-70、12.605-607 ほか、名前の出る全箇所で台詞がないことを確認)
- アイネイアスは、勝てば町の名をラウィニアから付けると誓う。リウィウスでも、アイネイアスは建てた町を妻の名からラウィニウムと名づけた。 (『アエネイス』12.194。リウィウス 1.1.11)
- 冥界でアンキセスは、晩年のアイネイアスとラウィニアの間に生まれる子シルウィウスを示す。森(silva)で育てられ、アルバ・ロンガの王たちの祖になるという。 (6.760-766)
- ラウィニアの髪が燃える前兆の前に、宮殿の月桂樹の梢に蜂の群れがとまり、予言者は異国の男がやって来て城を治めると告げた。ラティヌスは森でファウヌスのお告げを聞き、「娘をラティウムの男に嫁がせるな、よそから婿が来て、その子孫が我らの名を星にまで届かせる」と言われる。 (7.59-101)
- 関係: child → latinus (『アエネイス』7.52-53。リウィウス 1.1.9)
- 関係: spouse → aeneas (『アエネイス』6.764「妻ラウィニア」(アンキセスの予言)、12.937 トゥルヌスが「ラウィニアはおまえの妻だ」と認める。リウィウス 1.1.9-11)
- 関係: courted_by → turnus (『アエネイス』7.54-57 多くの求婚者の中で、母アマタが推していたのがトゥルヌス。リウィウス 1.2.1 ではアイネイアスが来る前に婚約していた)
レテ
- ウェルギリウスでは、はっきり「レテの川」になる。エリュシオンの奥の谷を流れる川の周りに無数の魂が蜂のように群がっており、父アンキセスは、次の体を与えられる魂たちがレテの川の水で長い忘却を飲むのだとアイネイアスに説明する。千年の巡りを終えた魂は、上の世界の記憶を忘れて再び体に戻る。 (6.703-751(忘却を飲む 6.713-715、6.748-751))
- アンキセスの説明を聞いたアイネイアスは、魂がふたたび重い体に戻るなど本当にあるのか、なぜそれほどこの世の光を恋しがるのか、と問う。 (6.719-721)
マイア
- 『アエネーイス』でアイネイアスは、エウアンドロスの父メルクリウスは色白のマイアがキュレネの冷たい山頂で産んだ子で、マイアの父はアトラス、自分の祖ダルダノスもアトラスの娘エレクトラの子だから、両家は同じ血から分かれたと説く。 (8.134-142)
- 関係: grandparent → evander (8.138-141 エウアンドロスの父メルクリウスは、マイアがキュレネの山頂で産んだ子)
ネオプトレモス
- 落城の夜、祭壇に逃れたプリアモスを殺す。ウェルギリウス『アエネイス』2巻では、まず王の目の前で息子を殺し、それから祭壇で王を斬る。父アキレウスが24巻でプリアモスに示した憐れみと正反対の振る舞いとして書かれている。 (『イリオスの陥落』要約 / 『アエネイス』2.526-558)
- 『アエネイス』で、プリアモスは息子ポリテスを目の前で殺したネオプトレモスに、おまえの父アキレウスは嘆願者の掟を重んじて私にヘクトルの遺体を返した、と責める。ネオプトレモスは、ならば父のもとへ行って、父の名を汚す息子のしわざを伝えよと言い、祭壇で王を斬る。 (2.526-558)
- 関係: killed → priam (『イリオスの陥落』要約、『アエネイス』2.526-558(祭壇で討つ))
ギリシャ勢の帰国(ノストイ)
- ウェルギリウスは『アエネイス』11巻で、ギリシャ側の帰国の顛末をディオメデス本人に振り返らせる。トロイアの地を荒らした者はみな罰を受けた。メネラオスはプロテウスの柱まで流され、オデュッセウスはエトナのキュクロプスを見た。ネオプトレモスの国、覆されたイドメネウスの家、リビュアの岸に住みついたロクリス人のことまで語ろうか。アガメムノンは屋敷の入口で妻に殺された。自分も美しいカリュドンに帰ることを許されなかった、と語り、イタリアに築いた町からアイネイアスとは戦わないと答える。 (11.243-295(帰国の一覧は 11.255-270))
- 関係: participant → diomedes (『オデュッセイア』3.167、3.180-182 無事にアルゴスへ。『アエネイス』11.243-270 ではイタリアのアルギュリパに住む)
パラディオン
- 『アエネイス』では、この盗みの話をシノンが嘘に利用する。二人が血に汚れた手で女神の像に触れたため女神の心がギリシャ勢から離れ、その償いとして木馬を作ったのだ、城内に入れればトロイアが勝つ、と信じ込ませる。 (2.162-194)
- 関係: owned_by → troy (アポロドロス 3.12.3 イロスが神殿を建てて祀る。『アエネイス』2.166 城砦の神殿に置かれていた)
- 関係: stolen_by → odysseus (盗み出された。『小イリアス』プロクロス要約、アポロドロス『摘要』5.13、『アエネイス』2.163-168)
- 関係: stolen_by → diomedes (オデュッセウスと二人で盗み出す。『アエネイス』2.164「テュデウスの子」)
ペンテシレイア
- 『アエネイス』では、カルタゴのユノ神殿の壁画に描かれたトロイア戦争の場面の一つとして、胸をあらわにして戦うペンテシレイアが現れる。アイネイアスがそれを見て涙する導入部の名場面。 (1.490-493)
プリアモス
- 落城の夜、目の前で息子ポリテスを殺されたうえ、ゼウス・ヘルケイオスの祭壇でアキレウスの子ネオプトレモスに斬られる。『イリアス』にはこの場面は無い。 (『アエネイス』2.506-558、アポロドーロス摘要 5.21、『イリオスの陥落』要約)
- 『アエネイス』では、息子ポリテスを目の前で殺されたプリアモスが、ピュロス(ネオプトレモス)に「お前が父と偽るアキレウスは、敵の私にこうはしなかった。ヘクトルの遺体を返してくれた」と叫び、弱い槍を投げる。王は息子の血に足を滑らせながら祭壇へ引きずられて殺され、首のない骸が浜に横たわる。 (2.526-558)
- 関係: killed_by → neoptolemus (『アエネイス』2.506-558、アポロドーロス摘要 5.21、『イリオスの陥落』要約。『イリアス』には死は描かれない)
- 関係: participated_in → sack-of-troy (2.506-558 落城の夜に殺される)
ラダマンテュス
- ウェルギリウスでは、タルタロスの最も過酷な国を「クノッソスのラダマントゥス」が治め、罪を罰し、偽りを聞き、生前に隠して死ぬまで償いを延ばした悪事を白状させる。そのあと復讐の女神ティシポネがむちで罪人を打つ。 (6.566-572)
- 関係: ruler → tartarus (6.566 「クノッソスのラダマントゥスがこの最も過酷な国を治める」)
トロイア落城
- 祭壇に逃れた老王プリアモスが、目の前で息子を殺されたうえで斬られる場面は、落城の残虐さを象徴する図像として古代から繰り返し描かれた。 (『アエネイス』2.506-558、アポロドーロス摘要 5.21)
- 『アエネイス』第2巻は、落城を敗者の側から一人称で語る。ローマの叙事詩がトロイア人を祖先として描くため、同じ出来事がギリシャ側の武勲譚ではなく、破壊と喪失の物語として語り直されている。 (2.1-804(アイネイアスがディドに語る形式))
- アイネイアスの夢に、引きずられた傷と血と土にまみれたヘクトルが現れ、敵が城壁を占めたから逃げよ、トロイアの聖物と守り神を託す、海を渡って大きな城壁を築け、と告げる。 (2.268-297)
- 老プリアモスは使い慣れない鎧を着けて出ようとし、ヘカベに祭壇のそばへ座らされる。目の前で息子ポリテスがピュロス(ネオプトレモス)に殺されると、アキレウスは嘆願した私に遺体を返したと責めて力のない槍を投げ、ピュロスは彼を息子の血に滑らせながら祭壇へ引きずって殺した。亡骸は首のない名もない骸として浜に横たわる。 (2.506-558)
- ウェヌスはアイネイアスの目から霧を払い、ネプトゥヌスが三叉の矛で城壁を崩し、ユノがスカイア門に立ち、パラス(アテナ)が城砦に座り、ユピテル自身がギリシャ勢に力を与えている姿を見せる。 (2.604-623)
- 逃げる途中で妻クレウサがはぐれ、アイネイアスが燃える町へ戻って名を呼ぶと、大きく見える妻の影が現れて、これは神々の定めで、長い旅の果てに西の地で王国と新しい妻を得ると告げる。三度抱こうとして三度すり抜けた。 (2.735-795)
- 関係: participant → priam (『アエネイス』2.506-558、アポロドーロス摘要 5.21 祭壇で殺される)
- 関係: participant → neoptolemus (プリアモスを討つ。摘要 5.21)
- 関係: participant → aeneas (『アエネイス』2巻では脱出。『イリオスの陥落』要約では落城前にイダ山へ退く)
- 関係: participant → trojan-horse (2巻全体)
シノン
- 『アエネイス』のシノンは、後ろ手に縛られて羊飼いたちにプリアモスの前へ引き出される。自分から捕まりに来た男で、欺きとおすか死ぬか、どちらにも覚悟ができていた。オデュッセウスに憎まれ、帰国の生贄にされかけて逃げてきたと涙ながらに語り、木馬は女神の怒りを鎮める奉納物で、城内に入れればトロイアがギリシャに攻め込めると信じ込ませる。 (2.57-62(登場)、2.77-144(身の上話)、2.162-194(木馬の説明))
- シノンは身の上話の最初に、オデュッセウスに陥れられて殺されたパラメデスの親族だと名乗る。ギリシャ勢の中で実際にあった恨みを持ち出して、嘘に本当らしさを持たせている。 (2.81-90)
- アイネイアスは語る。ディオメデスもアキレウスも、10年の戦いも千隻の船も落とせなかった町を、偽りの誓いと作り涙が落とした、と。 (2.195-198)
- シノンの本当の役目は、夜になって合図の火を上げることだった。叙事詩環の『イリオスの陥落』要約では「先に偽って城内に入っていた」シノンが火の合図を上げ、アポロドロスはそれをアキレウスの墓の上でとする。ウェルギリウスでは、シノンが木馬の閂を外して中の兵を出す役も担う。 (『イリオスの陥落』プロクロス要約。アポロドロス『摘要』5.19。『アエネイス』2.256-259)
- シノンの作り話では、帰国の風を得るには血が要るとの神託があり、オデュッセウスに迫られたカルカスが10日黙った末にシノンを生贄に指名した。シノンは縄を切って逃れ、沼の葦に隠れていたという。木馬はパラディオン(女神の像)を奪った償いの奉納物で、わざと大きく造ったのは城門を通れないようにするためだと説明する。 (2.108-194)
- 関係: participated_in → trojan-horse (『アエネイス』2.57-198(嘘の演説)、2.257-259(夜に木馬の閂を外す)。アポロドロス『摘要』5.15、5.19)
- 関係: enemy → priam (2.146-151 プリアモスは縄を解かせて身の上を尋ね、シノンは嘘の誓いで答える)
タルタロス
- ウェルギリウスでは、タルタロスは罪人が罰を受ける場所としてはっきり描かれる。深さはホメロスの倍で、天からオリュンポスを見上げる高さの二倍も真っ逆さまに落ち込む。ティタンの一族、アロアダイ、サルモネウス、ティテュオス、ラピタイ族のイクシオンとペイリトオスらがここにいる。善人の行くエリュシオンとは道が二手に分かれている。 (6.540-543(分かれ道)、6.577-601(深さと罪人))
- 『アエネイス』では、冥界の道が二手に分かれ、右がエリュシオン、左が罪人の罰を受けるタルタロスへ通じる。 (6.540-543)
三叉の槍(トライデント)
- 『アエネイス』でネプトゥヌスは、勝手に嵐を起こした風たちに「海の支配と恐ろしい三叉の槍は、アイオロスではなく、くじで私に与えられたのだ」と言い、三叉の槍で座礁した船を持ち上げる。 (1.137-145)
- 『アエネイス』で、ウェヌスに目を開かれたアイネイアスは、ネプトゥヌスが大きな三叉の槍でトロイアの城壁と土台を揺さぶり、町を根こそぎ崩す姿を見る。『イリアス』では、この城壁はポセイドンとアポロンがラオメドンのために築いたものだった。 (『アエネイス』2.604-612、『イリアス』7.452-453)
トリトン
- ウェルギリウス『アエネイス』では、アイネイアスのラッパ手ミセヌスが、ほら貝で海を鳴らして神々に腕比べを挑んだため、嫉妬したトリトンに泡立つ岩のあいだで海に沈められた、と語られる。語り手は「信じてよいなら」と一歩引いている。 (6.171-174)
トロイロス
- 叙事詩環の『キュプリア』要約に、アキレウスがトロイロスを殺したと記される。古代の壺絵では、泉で水を汲む場面をアキレウスに待ち伏せされ、アポロンの神域まで追われて殺される少年として繰り返し描かれた。 (『キュプリア』要約。『アエネイス』1.474-478 はカルタゴの壁画として、戦車に引きずられる若いトロイロスを描く)
トロイアの木馬
- 最も詳しい語りは『アエネイス』第2巻。ラオコオンの警告と蛇、わざと残されたシノンの偽りの訴え、城壁を壊して馬を引き入れる市民、夜に腹から降りる兵という一連の流れは、この作品で完成した形である。 (2.13-267(シノンの偽証は 2.57-198、ラオコオンと蛇は 2.199-233))
- 『アエネイス』では、ギリシャ勢は陣を焼いてテネドス島の陰に隠れ、トロイア人は城門を開いて見物に出る。馬を城に入れろ(テュモイテス)、海に捨てるか焼くか腹を探れ(カピュス)と意見が割れるなか、ラオコオンが「贈り物を持ってくるギリシャ人をこそ恐れる」と叫んで槍を突き立てる。 (2.13-56(「ギリシャ人を恐れる」は 2.49))
- シノンは、馬はパラディオンを盗んだ罪を償うミネルウァへの捧げ物で、城門を通れないよう巨大に造らせたのはカルカスだ、城内に入ればトロイアが守られると偽った。 (2.183-194)
- トロイア人は城壁を切り開き、車輪をつけた馬を綱で引き入れた。少年少女が歌いながら綱に触れた。馬は城門の敷居で四度止まり、そのたびに腹の中の武具が鳴った。 (2.234-245)
- 夜、テネドスの船団が月明かりの中を戻り、シノンが閂を外して兵が綱を伝って降り、見張りを殺して城門を開いた。 (2.250-267)
- 関係: participated_in → sack-of-troy (落城の直接の手段)
- 関係: enemy → laocoon (2.40-56 城内に入れることに反対して槍を突き立てる)
- 関係: enemy → cassandra (2.246-247 入れるなと警告するが信じられない)
トロイア
- 関係: setting_of → sack-of-troy (落城)
トゥルヌス
- クマエのシビュラは、ラティウムで待つ戦争を予言して「ラティウムにはもう一人のアキレウスが生まれている、これも女神の子だ」と言う。トゥルヌスはトロイア人にとって、トロイア戦争のアキレウスをもう一度相手にするような敵として位置づけられている。 (6.86-90(もう一人のアキレウスは 6.89)。母は女神ウェニリア(10.76))
- トゥルヌスの家系はギリシャにさかのぼる。妃アマタは、トゥルヌスの祖先はアルゴス王イナコスとアクリシオスでミュケナイの出だから、彼も「異国の婿」に当たると言い張る。町アルデアも、アクリシオスの娘ダナエが南風に流されて来て築いたとされる。 (7.371-372(アマタ)、7.409-412(アルデアの建設))
- 初めは花嫁を奪われた怒りだけだったトゥルヌスを本格的な戦争に駆り立てたのは、ユノが冥界から呼び出した復讐の女神アレクトだった。老女の姿で現れて相手にされず、正体を現して松明を胸に投げ込む。 (7.323-340(ユノがアレクトを呼ぶ)、7.406-466(トゥルヌスのもとへ))
- トゥルヌスはアイネイアスに預けられたエウアンドルスの息子パラスを討ち、その剣帯を奪って身に着ける。最後の一騎打ちで、倒れたトゥルヌスの命乞いにアイネイアスは心を動かされかけるが、肩にパラスの剣帯を見つけて怒りに火がつき、とどめを刺す。叙事詩はトゥルヌスの魂が「憤りながら」影の世界へ去る一行で終わる。 (10.479-500(パラスを討つ)、12.938-952(結末))
- 姉妹のユトゥルナは、ユピテルから川と泉を司る女神の位を与えられたニンフで、ユノにけしかけられて戦場で兄を助ける。御者に化けて戦車を操り、トゥルヌスをアイネイアスから遠ざける。 (12.138-160(ユノとユトゥルナ)、12.468-480(御者に化ける))
- アイネイアスの槍に腿を貫かれて膝をついたトゥルヌスは、命乞いはしないが、老いた父ダウヌスをあわれんで自分(あるいは遺体)を家族に返してほしい、ラウィニアはあなたの妻だ、これ以上憎しみを押し広げるな、と言う。アイネイアスはためらいかけるが、パラスの剣帯を見て怒り、とどめを刺す。 (12.919-952)
- アレクトは老女カリュベの姿でトゥルヌスの夢に現れ、相手にされないと正体を現して松明を胸に投げ込む。トゥルヌスは汗にまみれて飛び起き、武器を求めて叫び、戦への狂気が煮えたつ釜のように沸き立つ。 (7.406-466)
- ラティヌスは父ファウヌスの神託で、娘をラティウムの男に嫁がせるな、異国から婿が来てその子孫が世界を治める、と告げられており、アイネイアスこそその婿だと考えた。 (7.96-101、7.255-258)
- 関係: enemy → aeneas (『アエネイス』7〜12巻。リウィウス 1.2.1)
- 関係: killed_by → aeneas (『アエネイス』12.938-952(最後の場面)。『変身物語』14.573)
- 関係: suitor → lavinia (『アエネイス』7.54-57。リウィウス 1.2.1「アエネアスが来る前にラウィニアと婚約していた」)
- 関係: advisee → hera (9.1-13 ユノがイリスを送り、今こそ攻めよとけしかける。10.606-688 ではアイネイアスの幻を作って、トゥルヌスを戦場から逃がす)
冥界
- ローマの詩人たちは冥界の入口を具体的な地名に置いた。オルペウスはペロポネソス南端のタイナロン(テナロン)の洞穴から下り、アイネイアスはイタリアのクマエ近く、アウェルヌス湖のほとりの洞窟から下る。 (『農耕詩』4.467 / Met. 10.13 /『アエネイス』6.237-242)
- ウェルギリウス『アエネイス』第6巻で、冥界の「地図」はもっとも詳しくなる。入口の擬人化された悲しみや病、アケロンの岸と渡し守カロン、ケルベロス、幼くして死んだ者や自害した者の場所、そして分かれ道の左がタルタロス(罪人の罰の場)、右がエリュシオン(善人の野)で、その奥にレテの川が流れる。ホメロスの「オケアノスの彼方の館」から、ここまで細かい構造が書き足された。 (『アエネイス』6.268-751 /『オデュッセイア』10.508-515 と比較)
- ウェルギリウスでは、冥界の入口に悲しみ・復讐する苦悩・病・老い・恐れ・飢え・貧窮・死・労苦・眠り・戦争などが住み、アケロンの岸では渡し守カロン(白いひげ、炎のような目)が舟を操る。岸には秋の落ち葉のように死者が群がるが、葬られていない者は百年のあいだ岸をさまよってから渡される。 (6.268-330)
- 冥界の奥の谷にはレテの川が流れ、再び肉体を得る定めの魂たちがその水を飲んで長い忘却に入る、とアンキセスが説明する。 (6.703-715)
- 関係: visited_by → aeneas (第6巻全体。クマエの巫女に導かれて生きたまま冥界を旅する)
- 関係: visited_by → herakles (『オデュッセイア』11.623-626 ハデスの犬を連れ出しに下った /『アエネイス』6.392-395)
- 関係: visited_by → theseus (6.392-397 ペイリトオスとともに生きたまま冥界へ来た)
アイネイアスの漂流
- 寄港地の大半は、カルタゴの女王ディドの宴で、アイネイアスが頼まれて語る回想になっている。落城の夜(2巻)と航海(3巻)を語り終えると、3巻の最後でアンキセスの死を告げて口を閉じる。オデュッセウスがパイエケス人の宴で漂流を語る『オデュッセイア』9〜12歌と同じ入れ子の形。 (『アエネイス』1.753-756(ディドの頼み)、3.716-718(語り終える)。『オデュッセイア』9.1-38、12.447-453)
- トロイア近くのアンタンドロスで船団を造って出航し、トラキア(ポリュドロスの墓)→デロス島→クレタ→ストロパデス島(ハルピュイア)→アクティウム→エペイロスのブトロトン→イタリアのかかと→エトナ山麓(キュクロプス)→シチリア西端のドレパヌムと進む。そこから嵐でカルタゴへ流され、シチリアに戻ってからクマエ、ラティウムへ向かう。 (3.5-6(アンタンドロス)、3.13-68(トラキア)、3.73-120、3.121-191、3.209-269、3.270-293(アクティウム)、3.294-505、3.506-547、3.568-691、3.707-715、1.34-179、5.1-871、6.1-8、7.25-36)
- オデュッセウスの漂流と同じ場所をいくつも通る。スキュラとカリュブディスの海峡(警告を受けて迂回)、キュクロプスの浜(ポリュペモス本人を見る)、セイレンの岩、キルケの岸。ただしどれも上陸や対決はせず、先にオデュッセウスが通った場所を後から避けて通る形になっている。キュクロプスの浜では、オデュッセウスが置き去りにした部下アカイメニデスを拾い上げる。 (『アエネイス』3.420-432、3.554-569、3.588-691、5.864-866、7.10-24。『オデュッセイア』9.105-566、10.133-574、12.165-259)
- 目的地は最初から分かっていたわけではない。デロスの神託「古い母を探せ」を父アンキセスはクレタのことと読み違え、クレタに町を築いてから、守り神の夢で本当の行き先がイタリア(トロイア王家の祖ダルダノスの出身地)だと知らされる。旅は予言を少しずつ解き直していく過程でもある。 (3.94-98(神託)、3.102-117(アンキセスの解釈)、3.161-171(守り神の夢、ダルダノスの出身))
- カルタゴに着いたときには、トロイアを出てから7度目の夏になっていた。ディドのこの言葉が、漂流の長さを示すほぼ唯一の手がかり。 (1.755-756「7度目の夏が、あらゆる陸と海をさまようあなたを運んでいる」。5.626 でも7度目の夏と言われる)
- 『アエネイス』2巻で、アイネイアスは父アンキセスを背負い、息子イウルスの手を引いて逃れるが、妻クレウサははぐれて姿を消す。探し回る夫の前に亡霊となって現れ、長い流浪の果てに、テヴェレ川の流れるヘスペリアで王国と王家の花嫁を得ると告げる。三度抱こうとして、三度すり抜けた。 (2.707-795(予言は 2.780-784))
- トラキアで祭壇を飾るため茂みの枝を引き抜くと、根から黒い血がしたたり、そこに葬られたプリアモスの子ポリュドロスの声が、なぜ私を引き裂くのかと訴えた。 (3.22-48)
- ハルピュイアのケライノは、トロイア人は飢えに迫られてテーブルまで食べ尽くすまで町に城壁を巡らせられない、と予言した。テヴェレの岸で、一行がパンを皿にして果物を食べ、パンまで平らげたとき、イウルスが「テーブルまで食べてしまった」と言い、アイネイアスは予言の成就とこの地が約束の地であることを悟る。 (3.245-257、7.107-134)
- 関係: participant → aeneas (3.1-12 船団を率いて出航。2〜3巻は本人の語り(2.3 から 3.718 まで))
- 関係: participant → anchises (3.9 出航を命じる。3.707-715 ドレパヌムで死ぬ)
- 関係: participant → ascanius (3.12「仲間と息子と家の守り神とともに」)
- 関係: participant → hera (ユノ(ヘラ)が旅を妨げる側。1.12-33 でカルタゴを愛しトロイア人を憎む理由、1.34-80 で嵐を起こさせる)
- 関係: has_episode → apollo (3.73-120 デロス島。アポロンの神託「古い母を探せ」(3.94-98)を、アンキセスはクレタのことと解く)
- 関係: has_episode → crete (3.121-191 町ペルガメアを築くが疫病。夢に現れた守り神が、行き先はイタリアだと告げる(3.147-171))
- 関係: has_episode → harpies (3.209-262 ストロパデス島。牛を屠って宴を開くとハルピュイアが襲う)
- 関係: has_episode → celaeno (3.245-257 ケライノが「食卓まで食べるほど飢えるまで町は築けない」と予言する)
- 関係: has_episode → helenus (3.294-505 ブトロトン。王となったヘレノスが航路を予言する(3.374-462))
- 関係: has_episode → andromache (3.294-343 ブトロトンで再会。3.482-491 でアスカニウスに贈り物をし、アステュアナクスの面影を見る)
- 関係: has_episode → charybdis (3.554-569 エトナが見えたところで渦の音を聞き、アンキセスが「これがカリュブディスだ」と叫んで漕いで逃れる)
- 関係: has_episode → scylla (3.420-432 ヘレノスが海峡の右にスキュラ、左にカリュブディスがいると警告し、シチリアを大回りせよと言う。実際にスキュラの姿は見ない)
- 関係: has_episode → achaemenides (3.588-654 キュクロプスの浜で、オデュッセウスに置き去りにされたギリシャ人が助けを求める)
- 関係: has_episode → polyphemus (3.655-683 目を潰されたポリュペモスが海で傷を洗い、仲間のキュクロプスたちが浜に集まる)
- 関係: has_episode → anchises (3.707-715 シチリア西端のドレパヌムでアンキセスが死ぬ。ここで回想が終わる(3.716-718))
- 関係: has_episode → aeolus (1.50-123 ユノに頼まれた風の王アイオロスが嵐を放ち、船団はリビュアへ流される)
- 関係: has_episode → carthage (1.157-4.705 リビュアの浜に上陸し、建設中のカルタゴへ)
- 関係: has_episode → dido (1.494-756 女王ディドに迎えられ、4巻で恋と別れ。出航を見たディドは自害する(4.642-705))
- 関係: has_episode → sirens (5.864-866 シチリアで父の一周忌の競技を終えて出航したあと、夜の海で「かつてのセイレンの岩」のそばを通る。舵取りパリヌルスはこの直前に海に落ちる(5.833-871))
- 関係: has_episode → cumaean-sibyl (6.1-155 イタリアのクマエに上陸し、アポロンの巫女シビュラに冥界行きを願う)
- 関係: has_episode → underworld (6.236-898 アウェルヌスの洞穴から冥界へ下り、ディドの影、父アンキセスと未来のローマの英雄たちに会う)
- 関係: has_episode → circe (7.10-24 キルケの住む岸をかすめ、獣に変えられた者たちの唸り声を聞く。ネプトゥヌスが風を送って寄港させない)
- 関係: has_episode → latium (7.25-36 テヴェレ川の河口に入り、7.107-122 で「食卓まで食べた」予言が成就して、ここが約束の地だと分かる)