アポロドーロスでは、アトラスとプレイオネの七人の娘プレイアデス(アルキュオネ、メロペ、ケライノ、エレクトラ、ステロペ、タユゲテ、マイア)はアルカディアのキュレネで生まれ、マイアが長女。ゼウスとのあいだにキュレネの洞窟でヘルメスを産んだ。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Μαῖα神
英語で5月は「May」。語源の辞書によると、この名はラテン語の「マイウスの月」から来ていて、もとをたどると女神マイアの名にゆきつく。
ローマの詩人オウィディウスは、祭りの暦を詩にした『祭暦』の中で、5月の名の由来を詩の女神たちに尋ねている。女神たちの答えはばらばらだった。そのうちの一人は、5月はマイアの月だ、と語る。のちに星になった七人姉妹のひとりで、神々の使者ヘルメスの母だ。ヘルメスが母の名を月に贈ったのだという。
では、5月に名を残したというこの母が、ギリシャ神話ではどんな女性として語られているのか、見ていこう。
マイアは、天を背負う巨人アトラスの娘で、七人姉妹プレイアデスのいちばん上の姉だった。姉妹はのちに星になり、日本では「すばる」と呼ばれる星の集まりになる。

とはいえ、古い叙事詩の中のマイアは影が薄い。ホメロスの『オデュッセイア』では、「マイアの子ヘルメス」という呼び名の中に名前が出てくるだけ。ヘシオドスの『神統記』も、アトラスの娘マイアがゼウスの聖なる床に上り、神々の使者ヘルメスを産んだ、と短く記すにとどまる。
マイアの姿を生き生きと描いたのは、『ホメロス風讃歌』の中の「ヘルメス讃歌」だ。マイアは神々の集まりを避ける内気なニンフで、アルカディアのキュレネ山の、深く陰った洞窟に住んでいた。ゼウスはそこへ、夜更け、妻ヘラがぐっすり眠っているあいだに通ってきた。神々にも人間にも知られずに。
10か月目、マイアは男の子を産む。この子がとんでもなかった。明け方に生まれ、昼には竪琴を弾き、夕方には兄にあたるアポロンの牛を盗みに出かけたのだ。
その夜、赤ん坊は秋の風のように、霧のように鍵穴をすり抜けて洞窟に戻り、何食わぬ顔で産着にくるまってゆりかごに横になった。だが、母の目はごまかせない。この悪たれ、こんな夜更けにどこから帰ってきたの。じきにアポロンが、ほどけない縄であなたを縛って連れ出しにくるでしょう。お父さまは、神々にも人間にも厄介の種になるように、あなたをこしらえたのね。
生まれて一日の息子は言い返した。どうして弱い赤ん坊みたいに脅すのか。神々の中で自分たちだけが、供え物も祈りもないまま暗い洞窟に座っているなんてごめんだ。父がくれないのなら、盗人の王になってでも、アポロンと同じ名誉を手に入れてみせる、と。
やがて怒ったアポロンが、洞窟に踏み込んでくる。赤ん坊は産着にもぐり込んで、眠ったふりをした。アポロンは山のニンフとその子に気づくと、住まいの隅々まで探し回った。鍵で開けた三つの物置には、神々の飲み物ネクタルと食べ物アンブロシア、金と銀、そしてマイアの紫や銀白の衣が、神々の館と同じようにしまわれていた。
母としてのマイアには、もうひとつの顔がある。アポロドーロスによれば、ゼウスに愛されて熊に変えられた娘が死んだとき、ゼウスは残された赤ん坊を取り上げ、アルカディアで育てるようにとマイアに預けた。
ローマの叙事詩、ウェルギリウスの『アエネーイス』では、トロイアから逃れてきた英雄アイネイアスが、のちにローマとなる土地に住むギリシャ人の王に、あなたと私の血筋はもとは一つだと語りかける。王の父はマイアが産んだメルクリウス(ヘルメス)で、アイネイアスの祖先はマイアの姉妹の子。どちらも、天を支えるアトラスにさかのぼる。
ところで5月の名については、ローマにはもともと別のマイアという大地の女神がいた、と説明する辞書もある。オウィディウス自身も、女神たちが挙げた三つの由来のどれが正しいかは決めず、どの説にも等しく肩入れすると言って話を終えている。
この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アラトス『星辰譜(パイノメナ)』、ウェルギリウス『アエネイス』、オウィディウス『祭暦』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
アポロドーロスでは、アトラスとプレイオネの七人の娘プレイアデス(アルキュオネ、メロペ、ケライノ、エレクトラ、ステロペ、タユゲテ、マイア)はアルカディアのキュレネで生まれ、マイアが長女。ゼウスとのあいだにキュレネの洞窟でヘルメスを産んだ。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ゼウスに愛されて熊に変えられたカリストが死ぬと、ゼウスは赤ん坊を取り上げてアルカスと名づけ、アルカディアで育てるようマイアに預けた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
『アエネーイス』でアイネイアスは、エウアンドロスの父メルクリウスは色白のマイアがキュレネの冷たい山頂で産んだ子で、マイアの父はアトラス、自分の祖ダルダノスもアトラスの娘エレクトラの子だから、両家は同じ血から分かれたと説く。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
オウィディウス『祭暦』5巻は、5月の名の由来を三人のムーサに語らせる。ポリュムニアは「威厳(マイエスタス)」、ウラニアは「年長者(マイオレス)」、カリオペは、姉妹の中で最も美しくゼウス(ユピテル)と結ばれたマイアから、と説く。カリオペの話では、エウアンドロスとともにイタリアに来たメルクリウスが、母の名を月に与えた。詩人はどれか一つを選ばない。
オウィディウス『祭暦』 8年頃(未完)
英語 May(12世紀初め)は古フランス語 mai とラテン語 Maius(マイウスの月)から。語源辞典は、その元をローマの大地の女神マイア(ウルカヌスの妻とされる)とし、名の起こりは不明、印欧祖語の「大きい」の語根から来た可能性がある、と説明する。プレイアデスのマイアと同じ女神かどうかには触れていない。
ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
ホメロスではマイアは物語に登場せず、『オデュッセイア』で豚飼いが供物を分ける場面の「ニンフたちとマイアの子ヘルメスのために」という呼び名に名が出るだけ。『イリアス』に名は無い。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
『神統記』は、アトラスの娘マイアがゼウスの聖なる床に上り、神々の使者ヘルメスを産んだと一文で記す。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
「ヘルメス讃歌」では、マイアは神々の集まりを避ける内気なニンフで、深く陰った洞窟に住む。ゼウスは白い腕のヘラが眠っている夜更けに、神々にも人間にも知られずにそこへ通った。10か月目にヘルメスが生まれる。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
ヘルメスは明け方に生まれ、昼に竪琴を弾き、夕方にアポロンの牛を盗んだ。マイアが彼を産んだのは月の4日だった、と讃歌は記す。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
鍵穴から霧のように戻った息子に、マイアは「恥知らず、夜中にどこから帰ってきた。アポロンに縛り上げられるだろう。父はあなたを神々と人間の厄介者にこしらえた」と叱る。ヘルメスは、暗い洞窟で供物もなく暮らすのはごめんだ、父がくれないなら盗人の王になってでもアポロンと同じ名誉を得る、と言い返す。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
牛を探して洞窟に入ったアポロンは、山のニンフとその子に気づき、住まいを探し回って三つの物置を開ける。中にはネクタルとアンブロシア、金銀、ニンフの紫や銀白の衣が、神々の館のように蓄えられていた。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
5月 / May英語の May(5月)は、古フランス語を経て、ラテン語の「マイウスの月」から来ている。語源辞典は、そのもとをローマの大地の女神マイア(ウルカヌスの妻とされる)の名ではないか、と「かもしれない」の形で説明している。ローマの詩人オウィディウスは『祭暦』で、5月の名の由来を詩の女神たちに語らせた。答えは三つに割れ、「威厳」から、「年長者」から、そしてアトラスの娘でヘルメスの母マイアから、という説が並ぶ。最後の説では、ヘルメス(ローマのメルクリウス)が母の名を月に贈ったという。オウィディウス自身はどれが正しいか決めていない。