同じ王家の予言者でも、カッサンドラは信じられず、ヘレノスは信じられる。アポロドーロスは、プリアモスとヘカベの子としてカッサンドラとヘレノスを並べ、カッサンドラがアポロンの怒りで「真実を語っても信じられない」者にされた経緯を記す。一方ヘレノスは、捕らえられるとトロイア陥落の条件を語らされ、その言葉どおりに事が運ぶ。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Ἕλενος人間
トロイアの王家には、予言をする兄妹がいた。妹のカッサンドラは、真実を言い当てても誰にも信じてもらえない。兄のヘレノスは、その逆だった。彼の予言は信じられ、そのとおりに事が運んだ。ただし、その予言がトロイアを滅ぼす側に使われることになる。
では、信じられた予言者ヘレノスの物語を見ていこう。
ヘレノスは、トロイア王プリアモスの息子で、総大将ヘクトルの弟である。『イリアス』は彼を「鳥占いに並ぶ者のない者」と紹介する。そして予言者でありながら、戦場で槍を振るう武将でもあった。
戦況が苦しくなったとき、ヘレノスはヘクトルに言った。兄上は町に戻って、母上に女たちを集めさせ、女神アテナの神殿に祈らせてほしい。別の日には、神々が話し合うのを心で聞き取り、ヘクトルに進言した。全軍を座らせ、ギリシャ方でいちばんの勇士に一騎打ちを申し込めばいい。兄上はまだ死ぬ定めではない。神々の声でそう聞いた、と。
戦いが10年目に入り、兄のパリスが死ぬと、トロイアの中で争いが起きた。パリスの妻だったヘレネを、誰が妻にするか。ヘレノスは別の兄弟と争い、敗れた。ヘレノスはトロイアを出て、イデ山にこもってしまう。
ギリシャ方の予言者は、ヘレノスこそトロイアを守る神託を知っていると告げた。英雄オデュッセウスが待ち伏せて彼を捕らえ、陣営に連れてきた。ヘレノスは、トロイアを落とす方法を話すよう迫られた。英雄ペロプスの骨を持ってくること。アキレウスの息子を戦いに加えること。そして三つ目が、天から降ってきた女神の像を城の中から盗み出すことだった。像が城壁の内にあるかぎり、町は落ちない。
ギリシャ軍はそのとおりに動いた。そして、トロイアは落ちた。
ヘレノスは生き延び、アキレウスの息子に従ってギリシャへ渡った。のちにヘクトルの妻だったアンドロマケと結ばれ、ギリシャ北西部の地で王となる。
ローマの詩人ウェルギリウスは、そこで彼に、トロイアから逃れてきた英雄アイネイアスを迎えさせた。ヘレノスはトロイアを小さく模した町を築き、トロイアの川の名を付けた小川まで流していた。そしてアイネイアスに、これからの航路を予言する。人目につかない川のほとりで、30匹の子豚に乳をやる白い大きな雌豚を見つけたら、そこが町を築く場所だ。海峡の怪物スキュラと渦のカリュブディスは避けて遠回りせよ。イタリアに着いたら、洞窟に住む巫女を訪ねよ。すべては言えない、女神ヘラがそれを禁じている、と言い添えて。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、エウリピデス『アンドロマケ』、ソポクレス『ピロクテテス』、ウェルギリウス『アエネイス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
同じ王家の予言者でも、カッサンドラは信じられず、ヘレノスは信じられる。アポロドーロスは、プリアモスとヘカベの子としてカッサンドラとヘレノスを並べ、カッサンドラがアポロンの怒りで「真実を語っても信じられない」者にされた経緯を記す。一方ヘレノスは、捕らえられるとトロイア陥落の条件を語らされ、その言葉どおりに事が運ぶ。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
生き延びてネオプトレモスに従い、その死後アンドロマケと結ばれてエペイロスの王になる。『アエネイス』ではブトロトゥムに小さなトロイアを再建しており、そこでアイネイアスに長い予言を与える。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
『アエネイス』でヘレノスはアイネイアスに航路を予言する。人目につかぬ川辺で30匹の子を産んだ白い雌豚を見つけた所が町の地であること、スキュラとカリュブディスの海峡を避けてシチリアを回ること、クマエの巫女を訪ねること。ユノが残りを語ることを禁じている、とも言う。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
『イリアス』では「鳥占いに最も優れた者」と紹介される。神々の相談を聞き取り、ヘクトルに一騎討ちを申し込ませて戦況を動かす。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
予言者であると同時に前線で戦う武将でもあり、メネラオスの矢に手を射抜かれて退く場面がある。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
パリスの死後、ヘレネをめぐってデイポボスと争って敗れ、トロイアを去ってイダ山にこもる。そこをオデュッセウスに捕らえられ、トロイアが落ちるための条件を明かした。アポロドーロスが挙げる条件はペロプスの骨を持ち帰ること、ネオプトレモスを参戦させること、パラディオンを城内から奪うことの三つ。ソポクレス『ピロクテテス』では、ピロクテテスを連れて来なければ落ちないと予言する。
ソポクレス『ピロクテテス』 前409年、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
戦況が悪化したとき、ヘレノスはアイネイアスとヘクトルに兵を立て直させ、ヘクトルには町に戻って母ヘカベに女たちを集めさせ、アテナの神殿に祈らせるよう進言した。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
予言者かつ戦士として