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オデュッセウス仇ネオプトレモス相棒ヘラクレス弓の主パリス敵ディオメデス迎えアガメムノン総大将カルカス予言者トロイア戦争戦争
レムノス島に置き去りにされたピロクテテス。デイヴィッド・スコットの作。

ピロクテテス

Φιλοκτήτης英雄

レムノス島に置き去りにされたピロクテテス。デイヴィッド・スコットの作。 『トロイアへ向かうギリシャ人にレムノス島に置き去りにされたピロクテテス』 デイヴィッド・スコット 1840年 スコットランド国立美術館Public domain

『イリアス』に、一度も戦場に姿を見せないのに、わざわざ予告だけが置かれている男がいる。いまは島に置き去りにされ、ひどい傷に苦しんで横たわっている。けれどもギリシャ軍は、やがてこの男のことを思い出すことになる、と。

では、見捨てられた弓の名手ピロクテテスが、なぜ呼び戻されることになったのか、たどってみよう。

ピロクテテスは、英雄ヘラクレスの弓を持っていた。アポロドーロスによれば、ヘラクレスが最期に自ら火葬の薪の山に登ったとき、誰も火をつけようとしなかった。通りかかって火をつけたのはピロクテテスの父で、その礼に弓を与えられたという。ソポクレスの悲劇では、火をつけたのはピロクテテス自身とされる。

トロイア戦争が始まると、ピロクテテスは7隻の船を率いて出征した。ところが途中、ギリシャ軍が神に犠牲を捧げていたとき、祭壇から出てきた水蛇に足を噛まれる。傷はいつまでも治らず、ひどい臭いを放った。本人は痛みに叫び続け、犠牲の儀式もままならない。総大将アガメムノンの命令で、オデュッセウスが彼を途中の島に置き去りにした。残されたのは、ヘラクレスの弓だけだった。ピロクテテスはその弓で鳥を射て、何年も一人で生き延びた。

10年目、戦争は行き詰まっていた。そこへ予言が下る。ヘラクレスの弓がなければ、トロイアは落とせない。捨てた男を、今度は頭を下げて迎えに行かなければならなくなった。

古い叙事詩の要約では、迎えに行ったのは英雄ディオメデスだった。ピロクテテスはトロイアに渡って傷を治してもらい、トロイアの王子パリスとの一騎打ちで、彼を射殺した。

この迎えの場面を、一本の悲劇に仕立てたのがソポクレスの『ピロクテテス』である。島へ向かったのは、自分を捨てた張本人オデュッセウスと、アキレウスの息子で、まだ若いネオプトレモスだった。

オデュッセウスは若者に言い含める。ピロクテテスは自分を憎んでいるから、近づけない。お前が作り話で信用させて、弓を手に入れろ。正直な若者は気が進まないまま、言われたとおりに近づいた。孤独だったピロクテテスは若者を心から信じ、発作に襲われたときには、自分の弓を預けさえした。

若者は耐えられなくなった。だましていたことを打ち明け、奪った弓を返してしまう。弓を取り戻したピロクテテスは、姿を現したオデュッセウスに矢を向けた。それを止めたのも若者だった。それでもピロクテテスは、トロイアへは行かないと言い張る。説得は、最後まで実らなかった。

そのとき、空にヘラクレスが現れる。神となったかつての持ち主は告げた。トロイアへ行け。そこで病は癒やされ、この弓でパリスを討ち、町を落とすだろう。お前とこの若者は、互いを守り合う二頭の獅子になれ。ピロクテテスは、ついに島を離れる決心をした。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、レスケス(伝)『小イリアス』、ソポクレス『ピロクテテス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

『小イリアス』の要約では、捕らえたヘレノスの予言に従い、ディオメデスがレムノスからピロクテテスを連れ戻す。医者マカオンが傷を治し、彼はパリスとの一騎打ちに勝つ。

レスケス(伝)『小イリアス』 前7世紀頃

ソポクレス『ピロクテテス』(前409)では、迎えに行くのはオデュッセウスとネオプトレモスである。しかも弓だけ奪えばいいと考えるオデュッセウスと、騙すことに耐えられないネオプトレモスが対立し、説得は最後まで失敗する。決着をつけるのは神格化したヘラクレスの登場(デウス・エクス・マキナ)である。

ソポクレス『ピロクテテス』 前409年

ローマ以後の語り

レムノス島に置き去りにされたピロクテテスは、ヘラクレスの弓で鳥を射て生き延びた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

戦争10年目、カルカスが「ヘラクレスの弓矢がなければトロイアは落ちない」と予言し、オデュッセウスとディオメデスがレムノスへ向かい、計略で弓を手に入れて彼を説き伏せた。ポダレイリオスに癒やされ、アレクサンドロス(パリス)を射殺した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

『イリアス』が彼に触れるのは船の一覧の一箇所だけ。「弓の扱いに長けた者たち」7隻の将だが、本人は聖なるレムノスで水蛇の悪い傷に苦しんで横たわっている、と書かれる。そのうえで「やがてアルゴス勢は彼のことを思い出すことになる」と予告される。本編には一度も出てこないのに、この予告だけが置かれている。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ヘラクレスの弓矢を持つ。ヘラクレスの火葬の薪に火をつけた礼に譲り受けたとされる。ホメロスは弓の名手だとは言うが、その弓がヘラクレスのものだとは書かない。

ソポクレス『ピロクテテス』 前409年、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

蛇に噛まれた場所は伝承で分かれる。ホメロスは「レムノスに残された」とだけ書き、どこで噛まれたかを言わない。アポロドーロスの摘要はテネドス上陸後、アポロンに犠牲を捧げている最中に祭壇から出た水蛇に噛まれたとし、ソポクレスはクリュセの屋根の無い聖所を守る蛇に噛まれたとする。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ソポクレス『ピロクテテス』 前409年、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

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置き去りの理由は、傷の悪臭と絶え間ない叫び声が犠牲の儀式の妨げになったからだとされる。戦力としてではなく、耐えがたい存在として捨てられた点が、後にヘラクレスの弓を必要として呼び戻される展開と噛み合っている。

ソポクレス『ピロクテテス』 前409年

アポロドーロスでは、ヘラクレスの火葬の薪に火をつけたのはピロクテテスの父ポイアスで、その礼に弓を与えられた。ソポクレスではピロクテテス自身が火をつけたとされる。

ソポクレス『ピロクテテス』 前409年、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ソポクレスでは、ネオプトレモスはだましていたことを打ち明けて弓を返し、ピロクテテスがオデュッセウスを射ようとするのを止める。

ソポクレス『ピロクテテス』 前409年

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このページの出典(6件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前7世紀頃レスケス(伝)『小イリアス』
  4. 前409年ソポクレス『ピロクテテス』
  5. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』