ギリシャ神話の地図
カッサンドラ被害者アテナ女神ポセイドン沈めた神大アイアス同名パトロクロス故人トロイア落城罪の舞台テティス弔い手
アイアスとカッサンドラ。ソロモン・ジョゼフ・ソロモンの作。

小アイアス

Αἴας ὁ Λοκρός英雄

アイアスとカッサンドラ。ソロモン・ジョゼフ・ソロモンの作。 『アイアスとカッサンドラ』 ソロモン・ジョゼフ・ソロモン 1886年Public domain

トロイア戦争のギリシャ軍には、アイアスという名の英雄が二人いた。一人は、アキレウスに次ぐ強さを誇った大男。もう一人が、小柄な「小アイアス」である。

では、この小さい方のアイアスがどんな男で、なぜ海に沈んだのか、見ていこう。

『イリアス』によれば、小アイアスはギリシャ中部の一地方から40隻の船を率いて出征した。もう一人のアイアスよりずっと小柄で、重い青銅の鎧ではなく亜麻の胸当てを着けていた。そのかわり、槍を投げさせればギリシャ中の誰にも負けなかったという。戦場では、しばしば二人のアイアスが肩を並べて戦った。

『イリアス』の終わり近く、戦死した英雄パトロクロスを弔う競技会が開かれる。徒競走で、小アイアスは先頭を走っていた。ところが、女神アテナが足をすべらせる。倒れた先は、犠牲に捧げた牛の糞の山だった。口も鼻も糞だらけで起き上がった彼を見て、見物のギリシャ兵たちはどっと笑った。

笑い話で済んだのは、ここまでである。

木馬の計略でトロイアが落ちた夜のことだ。トロイアの王女カッサンドラは、女神アテナの神殿に逃げ込み、女神の木像にすがりついていた。小アイアスはその王女を、神像ごと引き剥がして乱暴した。女神への冒涜だった。アポロドーロスは、そのためにアテナの像は今も天を仰いでいるのだと伝えている。ただしこの話は、『イリアス』にも『オデュッセイア』にも出てこない。

帰りの海で、報いは来た。アポロドーロスによれば、女神アテナはゼウスに頼んで、帰るギリシャ軍に嵐を送らせた。小アイアスの船には、アテナ自身が雷を投げつけた。船は砕けたが、彼は泳いで岩にたどり着き、女神の思惑に逆らって助かってやったと叫んだ。

その言葉を、海の神ポセイドンが聞いた。ポセイドンは三叉の矛で岩を打ち割り、小アイアスは崩れ落ちた岩もろとも海に沈んだ。

『オデュッセイア』にも、ほとんど同じ最期が語られている。ただしそこでは、神殿での乱暴には一言も触れていない。アテナに憎まれていたとはあるが、彼を沈めたのは、神々の意に逆らって逃れてみせたという、あの一言の傲慢だった。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、アルクティノス(伝)『イリオスの陥落』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

ローマ以後の語り

アポロドーロスでは、アテナはゼウスに嵐を送らせ、アイアスの船に自ら雷を投げつける。岩にたどり着いたアイアスが「アテナの意に反して助かった」と言うと、ポセイドンが岩を割って沈めた。打ち上げられた遺体はテティスがミュコノスに葬った。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

カッサンドラへの乱暴のために、アテナの像は天を仰いでいるのだと言われる、とアポロドーロスは伝える。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

ロクリス勢40隻を率いる。大アイアスより小柄で亜麻の胸当てを着け、投げ槍の扱いでは全ギリシャ人に勝ると書かれる。重装ではなく軽装の戦士。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

パトロクロスの葬礼競技の徒競走で先頭を走るが、アテナに足を取られて牛の糞の中に倒れる。口の中まで糞だらけになり、観衆に笑われる。『イリアス』の彼はほぼ道化である。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

落城の夜、アテナの神殿で女神像にすがっていたカッサンドラを、像ごと引き剥がして乱暴を働いた。ホメロスにこの話は無く、『イリオスの陥落』の要約とアポロドーロス摘要が伝える。

アルクティノス(伝)『イリオスの陥落』 前7世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

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『オデュッセイア』では、アテナに憎まれながらも岩にしがみついて助かりかけるが、「神々の意に反して逃れてみせた」と豪語したためにポセイドンが三叉の矛でギュライの岩を割り、海に沈められる。神殿での乱暴には一言も触れられず、死因はこの一言の傲慢である。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

『イリアス』では二人のアイアスがしばしば「アイアンテ(二人のアイアス)」という双数形でひとまとめに呼ばれ、並んで防戦する。ただしヴァッカーナーゲルは、この双数が本来「アイアスとその弟テウクロス」を指す省略双数で、小アイアスと組ませる読みのほうが後から生じたものだと論じた。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ヤーコプ・ヴァッカーナーゲル『ホメロスの双数について』 1877年

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このページの出典(6件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前7世紀頃アルクティノス(伝)『イリオスの陥落』
  4. 前7世紀頃アギアス(伝)『帰国物語(ノストイ)』
  5. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  6. 1877年ヤーコプ・ヴァッカーナーゲル『ホメロスの双数について』