アテナイ王パンディオン(二代目)の子。パンディオンは国を追われてメガラに逃れ、そこでアイゲウスが生まれた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

Αἰγεύς人間
テセウスが、父アイゲウスにわが子だと気づかれる場面。イポリット・フランドランの作。 『父に見いだされるテセウス』 イポリット・フランドラン 1832年 パリ国立高等美術学校Public domain
「エーゲ海」という名前には、ある父親が身を投げた海だから、という言い伝えがある。息子の船が黒い帆を揚げて戻ってくるのを見て、息子が死んだと思い込んだアテナイの王、アイゲウスである。ただし、この名の由来には異説もあって、確かなことは分かっていない。
では、アイゲウスとはどんな王だったのか、息子との出会いと別れを中心に見ていこう。
アテナイの王アイゲウスには、なかなか子ができなかった。兄弟たちに国を奪われるのを恐れた王は、デルポイの神に、どうすれば子を授かるかを尋ねた。返ってきたのは謎めいたお告げだった。酒袋の口を、アテナイに着くまで解いてはならない。
意味の分からないまま帰る途中、王はある町の王の家に泊まった。この家の主はお告げの意味を悟り、アイゲウスを酔わせて、自分の娘と寝かせた。後の時代の神話集によれば、同じ夜、海の神ポセイドンもこの娘と交わったという。
アテナイへ発つ前に、アイゲウスは娘に言い残した。男の子が生まれたら、父の名を明かさずに育ててほしい。そして、大きな岩の下に、剣とサンダルを隠した。子がこの岩を動かせるほどに育ったら、この二つを持たせて私のもとへ送ってくれ。生まれた子が、のちの英雄テセウスである。
やがてアイゲウスは、魔女メデイアを妻に迎えていた。コリントスで我が子を手にかけ、竜の引く車で逃れてきた、あのメデイアである。そこへ、たくましく育ったテセウスがやって来た。メデイアは若者の正体を見抜き、あれは裏切り者だから気をつけよ、と夫に吹き込んだ。自分の息子とは知らないアイゲウスは、若者を暴れ牛の退治に送り出した。若者が牛を倒して戻ってくると、今度はメデイアから受け取った毒の杯を差し出した。若者が杯を口にしかけたそのとき、彼が差し出した剣を見て、アイゲウスは息子だと気づき、杯を払い落とした。メデイアは国を追われた。
そのころアテナイは、クレタの王ミノスに、若者と娘を怪物の餌として差し出させられていた。ミノスの息子がアテナイで死んだことへの報復だった。テセウスは、その貢ぎ物の一人としてクレタへ向かう。船には黒い帆が張られていた。アイゲウスは息子に言った。生きて帰るなら、白い帆を揚げてくれ。
テセウスは怪物を倒した。けれど帰りの船で、白い帆に替えるのを忘れてしまった。同じ神話集によれば、アクロポリスから黒い帆の船を見たアイゲウスは、息子が死んだと思い込み、身を投げて死んだ。ローマ時代の別の神話集は、王が身を投げたのは海で、その海がアイゲウスの海と呼ばれるようになったと書いている。
この物語の出典: エウリピデス『メデイア』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
アテナイ王パンディオン(二代目)の子。パンディオンは国を追われてメガラに逃れ、そこでアイゲウスが生まれた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃
アポロドーロスは、アイゲウスは実はスキュリオスの子で、パンディオンが自分の子として通したのだ、という説も併記する。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アポロドーロスでは、テセウスが帆を白に替え忘れたため、アクロポリスから黒い帆の船を見たアイゲウスが身を投げて死ぬ。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヒュギヌスでは、アイゲウスは海に身を投げ、そこからその海が Aegeum pelagus(アイゲウスの海)と呼ばれるようになった、とする。エーゲ海の名の由来話。
ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃
帰路トロイゼンでピッテウスが神託の意味を悟り、酔わせたアイゲウスを娘アイトラと寝かせた。アイゲウスは岩の下に剣とサンダルを隠し、これを取り出せる男子が生まれたら自分のもとへ送れと言い残した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
メデイアを妻にしていたアイゲウスは、やって来た若者テセウスをメデイアにそそのかされて毒殺しかけたが、剣を見て息子と気づいて杯を払い落とした。
オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
メデイアは若者テセウスを裏切り者だと言ってアイゲウスに警戒させ、アイゲウスは彼をマラトンの牛の退治に送り、戻ると毒を差し出した。テセウスが剣を渡したのでアイゲウスは息子と気づいて杯を払い落とし、メデイアは追放された。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
テセウスが3度目の貢ぎ物としてクレタへ向かうとき、船は黒い帆だったので、アイゲウスは生きて帰るなら白い帆を張れと命じた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
子ができないアイゲウスがデルポイで受けた神託は「アテナイに着くまで酒袋の口を解くな」という謎だった。エウリピデス『メデイア』では、アイゲウスがちょうどこの神託の帰りにコリントスでメデイアに会う。
エウリピデス『メデイア』 前431年、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
1.22.4-5 ここから身を投げた
エーゲ海 / Aegean Seaヒュギヌス(43)は、テセウスが黒い帆を白に替え忘れたため、息子が死んだと思ったアイゲウスが海に身を投げ、そこからその海が Aegeum pelagus(アイゲウスの海)と呼ばれた、と説明する。ただしアポロドーロス(摘要 1.10)では、アイゲウスが身を投げたのは海ではなくアクロポリスから。etymonline も英語 Aegean(1570年代〜)について、アイゲウス由来の説を伝えつつ、ギリシャ語 aiges(波)から来たのかもしれない、と留保をつけている。確定した語源ではない。