プラトンの王アトラスはポセイドンとクレイトの子で、ヘシオドスが語る、イアペトスの子で天を支える巨人アトラスとは別人である。大西洋(Atlantic)の名を、北アフリカのアトラス山にちなむ「アトラスの海」とする説明もある。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃、ヘロドトス『歴史』 前430年頃、プラトン『クリティアス』 前4世紀、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
Ἀτλαντὶς νῆσος場所
海に沈んだ幻の島、アトランティス。大西洋は英語でアトランティック・オーシャンというが、この島の物語を書いた哲学者プラトンによれば、その海の名は、島の最初の王アトラスから来ているという。
ただし、アトランティスは古くから語り継がれてきた神話ではない。この島が初めて登場するのは、プラトンの二つの対話篇『ティマイオス』と『クリティアス』である。では、プラトンがこの島について実際に何を書いたのか、読んでいこう。
話は、伝言のリレーの形で語られる。語り手のクリティアスが子どものころ、90歳近い祖父から聞いた話で、祖父はそれを、アテナイの賢人ソロンから伝え聞いていた。ソロンはエジプトを旅したとき、ナイル川の河口近くの町で、年老いた神官にこう言われたのだという。ソロンよ、ギリシャ人はいつまでも子どもだ。年老いたギリシャ人など、ひとりもいない。洪水や大火で、何度も昔の記憶を失ってきたからだ。そう言って神官は、エジプトの記録に残るという9000年前の出来事を語り始めた。
かつて、地中海の出口にある「ヘラクレスの柱」の外の大洋に、一つの島があった。リビュアとアジアを合わせたよりも大きな島で、そこから別の島々へ、さらにその向こうの大陸へと渡ることができた。この島アトランティスには強大な王たちの連合があり、島じゅうと多くの島々、大陸の一部を支配し、地中海の内側でもエジプトの手前までのアフリカと、イタリア中部までのヨーロッパを治めていた。

その軍勢が、ある時ひとまとまりになって、地中海の内側の国々をすべて奴隷にしようと攻め寄せた。立ちはだかったのが、女神アテナの守るアテナイだった。アテナイはギリシャ勢を率い、仲間に見捨てられて孤立してもなお戦い抜いて、侵略者を打ち破り、まだ奴隷にされていなかった人々を守った。
だがその後、恐ろしい地震と洪水が起きた。ある一日と一夜のうちに、アテナイの戦士たちは一人残らず大地に呑まれ、アトランティスの島もまた海に呑まれて消えた。島が沈んだあとに泥の浅瀬が残り、そのあたりの海はいまも船で渡れないのだという。
続きの『クリティアス』は、島の成り立ちを詳しく語る。神々がくじで世界を分けたとき、この島を引き当てたのは海の神ポセイドンだった。島の平野の近く、低い丘に、両親を亡くした人間の娘が住んでいた。ポセイドンは彼女を妻にすると、誰も近づけないよう、丘のまわりを陸と海の輪で何重にも囲った。陸の輪が二つ、海の輪が三つ。まだ船というものがなかった時代のことだ。丘には温かい泉と冷たい泉を湧かせた。
娘は5組の双子の息子を産んだ。ポセイドンは島を十に分け、最初に生まれた長男アトラスを全体の王にした。島の名も海の名も、この王の名から来ている。
島は豊かだった。金の次に尊い「オリハルコン」という金属が島のあちこちで掘れ、森の木材も、獣も、香りのよい草木も、果物もあふれていた。象までたくさんいた。王たちは都の外側の城壁を青銅で、内側を錫で、城そのものをオリハルコンで覆い、城壁は火のように輝いた。ポセイドンの神殿は外側を銀で、屋根の飾りを金で覆い、中には六頭の翼のある馬の戦車を駆るポセイドンの黄金像が、頭が天井に届くほどの高さでそびえていた。まわりを、イルカに乗った百人の海の娘たちが囲んでいた。
十人の王は、5年目と6年目にかわるがわる神殿に集まった。ポセイドンの聖域に放たれた牛を、鉄の武器を使わず、棒と縄だけで捕らえる。捕らえた牛は、掟を刻んだオリハルコンの柱の上で喉を切り、その血を刻まれた文字に注いだ。夜になると、王たちは美しい濃い色の衣をまとって火を消し、互いの罪を裁いた。
長いあいだ、王たちは神の血を引く者らしく、富に溺れず徳を重んじた。けれど代を重ねるうちに、神の血は人間の血と混じって薄れていく。王たちは富と力への欲に満たされ、見る目のある者には醜く映るようになった。神々の王ゼウスはそれを見て罰を与えようと決め、宇宙の中心にある住まいに神々を呼び集めた。そして、こう語り出した。
プラトンの文章は、そこで途切れている。ゼウスが何を語ったのか、島がどのように沈んだのかの続きは、どこにも書かれていない。
この物語の出典: プラトン『ティマイオス』、プラトン『クリティアス』
プラトンの王アトラスはポセイドンとクレイトの子で、ヘシオドスが語る、イアペトスの子で天を支える巨人アトラスとは別人である。大西洋(Atlantic)の名を、北アフリカのアトラス山にちなむ「アトラスの海」とする説明もある。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃、ヘロドトス『歴史』 前430年頃、プラトン『クリティアス』 前4世紀、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
アトランティスの話は、プラトンの『ティマイオス』と『クリティアス』が初出で、それ以前の叙事詩や悲劇には見えない。作中では、クリティアスが祖父から、祖父はソロンから、ソロンはエジプトのサイスの神官から聞いた話という形をとる。
プラトン『ティマイオス』 前4世紀、プラトン『クリティアス』 前4世紀
エジプトの神官はソロンに「ギリシャ人はいつまでも子どもだ、年老いたギリシャ人はいない」と言う。ギリシャでは洪水や大火のたびに記録が失われるが、エジプトは記録を保っている、というのがその理由とされる。ソロンがポロネウスやデウカリオンの洪水を最古の話として語ったのに答えたもの。
プラトン『ティマイオス』 前4世紀
島はヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)の外の大洋にあり、リビュアとアジアを合わせたより大きかった。そこから他の島々へ、さらに大洋を囲む向こうの大陸へ渡れたという。
プラトン『ティマイオス』 前4世紀
9000年前、アトランティスの王たちはリビュアをエジプトまで、ヨーロッパをテュレニア(イタリア中部)まで支配し、地中海内側の全土を一挙に隷属させようとした。アテナイはギリシャ勢を率い、見捨てられて孤立しても勝ち抜いて侵略者を退けた。
プラトン『ティマイオス』 前4世紀、プラトン『クリティアス』 前4世紀
その後の大地震と洪水で、一日と一夜のうちにアテナイの戦士たちは大地に呑まれ、アトランティスは海に沈んだ。沈んだ島が残した泥の浅瀬のため、その海は今も航行できないとされる。
プラトン『ティマイオス』 前4世紀、プラトン『クリティアス』 前4世紀
神々がくじで土地を分けたとき、ポセイドンがアトランティスを得た。島の地から生まれたエウエノルとレウキッペの一人娘クレイトを妻とし、その丘を陸の輪二つと海の輪三つで囲んで近づけないようにし、温かい泉と冷たい泉を湧かせた。
プラトン『クリティアス』 前4世紀
クレイトは5組の双子を産み、ポセイドンは島を十に分けて、長男アトラスを王とした。島の名と「アトランティコス」の海の名はこのアトラスから来ていると書かれる。アトラスの双子の弟は、ギリシャ語でエウメロス、土地の言葉でガデイロスで、ヘラクレスの柱近くのガデイラ(現在のカディス)の名の由来かもしれないとされる。
プラトン『クリティアス』 前4世紀
島では、金に次いで尊い金属オリハルコンが各地で採れた。当時は名前だけでなく実物があった、と作中では語られる。都の外側の城壁は青銅、内側は錫、城塞はオリハルコンで覆われ、火のように輝いた。
プラトン『クリティアス』 前4世紀
島は木材・獣・香料・果実に富み、象も多数いたと書かれる。
プラトン『クリティアス』 前4世紀
中心にはクレイトとポセイドンの聖域と、長さ1スタディオンのポセイドン神殿があり、外側は銀、屋根飾りは金、内部の天井は象牙に金銀とオリハルコンをあしらっていた。六頭の翼ある馬の戦車に立つポセイドンの黄金像は頭が天井に届き、イルカに乗った百人のネレイスが囲んでいた。
プラトン『クリティアス』 前4世紀
十人の王は5年目と6年目にかわるがわる集まり、ポセイドンの聖域の牛を鉄を使わず棒と縄で捕らえて、掟を刻んだオリハルコンの柱の上で屠り、血を碑文に注いで誓った。夜には濃い色の衣をまとって火を消し、互いを裁いて判決を金の板に記した。
プラトン『クリティアス』 前4世紀
王たちは長く徳を保ったが、神の性質が人間の性質に薄められると、欲と力にとらわれた。ゼウスは彼らを懲らしめようと神々を宇宙の中心の住まいに集め、語り出す。『クリティアス』はその言葉が始まる直前で、文の途中で終わっている。
プラトン『クリティアス』 前4世紀