糸杉は、古くから喪の木とされてきた。枝は葬儀に使われ、死者を悼むしるしとなった。英語でサイプレスと呼ばれるこの木の名は、ギリシャ語の「キュパリッソス」にさかのぼる。そしてキュパリッソスは、アポロンに愛された一人の少年の名前でもあった。
では、糸杉になった少年キュパリッソスの物語を、ローマの詩人オウィディウスの語りでたどってみよう。
この話は、竪琴の名手オルペウスが妻を失って嘆く場面の中に置かれている。オルペウスが丘の上で竪琴を弾くと、それまで木陰ひとつなかった丘に、あちこちから木々が集まってきた。その最後にやって来たのが、競走路の折り返しの柱のようにすらりと伸びた糸杉だった。今は木だが、昔は竪琴と弓を操る神、アポロンに愛された少年だった。
ある島の野に、ニンフたちに捧げられた大きな鹿がいた。広く張った角が自分の頭に影を落とすほどの大鹿で、角は金色に輝き、首には宝石の首飾りがかかり、額には銀の飾りが揺れていた。この鹿は人を少しも怖がらず、家々をたずねては、見知らぬ人にも首をなでさせた。
中でもこの鹿を、いちばんかわいがったのが、島でいちばん美しい少年キュパリッソスだった。新しい草地や澄んだ泉へ連れていき、角に色とりどりの花を編み込み、背にまたがって紫の手綱であちこち駆け回った。
ある夏の真昼のことだ。暑さに疲れた鹿は、草の上に横たわり、木陰で涼んでいた。そこへ、キュパリッソスはそれと気づかずに、鋭い投げ槍を放ってしまった。槍は鹿を貫いた。むごい傷で死んでいく鹿を見て、少年は自分も死のうと決めた。
アポロンはあらゆる言葉で慰め、これほどのことで悲しみすぎないようにと言い聞かせた。けれども少年は嘆き続け、神々に最後の願いを一つだけ求めた。いつまでも、悲しみ続けさせてください。
果てしなく流れる涙で、少年の体から血が尽きた。手足は緑に変わり、雪のように白い額にかかっていた髪は、ごわごわした葉になった。体は硬く細く伸び、とがった梢で星空を見上げる姿になっていく。
アポロンは悲しげにため息をつき、木になった少年に言った。お前は私に悼まれ、ほかの者を悼み、嘆く人々のそばにいるだろう。こうして糸杉は、死者を悼む木になったという。
この物語の出典: オウィディウス『変身物語』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』