オウィディウスの形: アキスはファウヌスとシュマイトス川のニンフの子で、16歳になったばかりの、頬にうっすら産毛の生えた美しい若者。両親の喜びだったが、ガラテイアの喜びはそれ以上だった、と彼女自身がスキュラに語る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃

Ἆκις人間
ポリュペモスの目を逃れようとするアキスとガラテイア。フランソワ・ペリエの作。 『ポリュペモスの目を逃れるアキスとガラテイア』 フランソワ・ペリエ 1645〜1650年Public domain
『オデュッセイア』で英雄オデュッセウスに目を潰される、一つ目の巨人ポリュペモス。その巨人が、オデュッセウスがやって来るより前に、海のニンフに恋をして、恋敵の若者を岩で押し潰したという話がある。押し潰された若者が、アキスである。
では、アキスの短い恋と、その後の姿を、ローマの詩人オウィディウスの語りで見ていこう。
この話を語るのは、アキスの恋人だった海のニンフ、ガラテイア本人である。アキスは、森の神と川のニンフのあいだに生まれた、シチリアの若者だった。16歳になったばかりで、頬にうっすらと産毛が生えていた。両親の自慢の息子だったが、ガラテイアの喜びはそれ以上だった。
ところが、そのガラテイアに、もう一人恋をした者がいた。山に住む一つ目の巨人、ポリュペモスである。恋に落ちた巨人は、人が変わったように身なりを気にしはじめた。硬い髪をくまで梳かし、もじゃもじゃのひげを鎌で刈りそろえ、水に映った自分の顔を眺めて表情をつくる。
あるとき、予言者が巨人に告げた。お前の額にある一つの目は、いつかオデュッセウスという男に奪われるだろう。巨人は笑った。その目なら、もう別の女に奪われてしまったよ。
巨人は海に突き出た丘に座り、百本の葦を束ねた笛を吹き鳴らして、ガラテイアへの恋の歌をうたった。お前は雪のように白いイボタノキの花びらより白く、野原より花やかで、そのくせ野生の子牛より気が荒い。岩陰では、ガラテイアがアキスの胸に寄りかかって、その歌を聞いていた。
歌い終えた巨人は、立ち上がって森をさまよい、そして二人を見つけた。見たぞ、これがお前たちの最後の逢瀬にしてやる。その叫び声に、エトナの山が震えた。ガラテイアは海に飛び込んだ。アキスは逃げながら叫んだ。助けて、ガラテイア。父さん、母さん、ぼくを迎えて。
巨人は山から岩を引きはがして投げつけた。当たったのは岩の端だけだったが、それだけでアキスはすっかり押し潰された。
ガラテイアにできることは、一つしかなかった。アキスに、祖父である川の神の力を与えることだった。岩の下から流れ出た赤い血は、やがて雨で濁った川の色になり、澄んでいった。岩が割れ、すき間から葦が伸び、水が音を立てて湧き出した。そこへ、青い顔をし、葦を角に巻いた若者が、腰まで姿を現した。それがアキスだった。アキスは川になり、その流れは今もアキスの名で呼ばれている。
この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、テオクリトス『牧歌(エイデュリア)』、オウィディウス『変身物語』
オウィディウスの形: アキスはファウヌスとシュマイトス川のニンフの子で、16歳になったばかりの、頬にうっすら産毛の生えた美しい若者。両親の喜びだったが、ガラテイアの喜びはそれ以上だった、と彼女自身がスキュラに語る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ガラテイアと一緒にいるところをポリュペモスに見つかり、アキスは「助けて、ガラテイア、父母よ」と叫んで逃げるが、巨人が投げた岩の端に押し潰される。ガラテイアはアキスに祖父(川の神)の力を取らせた。岩からにじんだ血は濁った雨水の色になり、やがて澄んで、割れた岩から葦が伸び、角を葦で巻いた青い顔の若者が腰まで現れた。アキスは川となり、昔の名を保った。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ガラテイアに恋したポリュペモスは、硬い髪をくまで梳かし、ひげを鎌で刈りそろえ、水に映る顔を見て表情をつくる。予言者テレモスが「お前の一つ目はオデュッセウスに奪われる」と告げると、「もう別の女に奪われた」と笑う。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ポリュペモスは海に突き出た丘に座り、百本の葦の笛を吹いてガラテイアをさまざまなものにたとえて歌う。ガラテイアはアキスの胸に寄りかかって、岩陰でその歌を聞いていた。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
アキスという名の川は、オウィディウスより前のテオクリトスにすでに出てくる。第1歌で、牧人テュルシスがやせ衰えて死んだダプニスを悼み「エトナの見張り場にも、アキスの聖なる水にもいなかったのか」とニンフに呼びかける。ただしテオクリトスのポリュペモスとガラテイアの歌(第6歌・第11歌)には恋敵アキスは登場しない。アキスを恋の三角関係に置いたのは、現存する資料ではオウィディウスが最初とされる。
テオクリトス『牧歌(エイデュリア)』 前3世紀前半、オウィディウス『変身物語』 8年頃
ヘンデルは英語の仮面劇『エイシスとガラテア』(1718年頃)でこの話を音楽劇にした。英語読みの「エイシス」はここから広まった表記。