オウィディウスの形: ガラテイアは、シチリアのファウヌスとニンフの子で16歳の美しい若者アキスを愛し、アキスも彼女だけを愛した。そのあいだポリュペモスは彼女を追い続け、アキスへの愛とポリュペモスへの憎しみのどちらが強かったか分からないほどだった、と彼女は言う。ポリュペモスはエトナ山のふもとの岩に座り、百本の葦を合わせた笛を吹いて長い恋歌を歌う。
オウィディウス『変身物語』 8年頃

Γαλάτεια神
海の女神ガラテイア。ギュスターヴ・モローの作。 『ガラテイア』 ギュスターヴ・モロー 1880年ごろPublic domain
恐ろしい一つ目の巨人ポリュペモスが、恋をした。旅人を捕らえては食らい、神々さえ見下していた巨人が、羊の世話も忘れて、身なりを気にしはじめる。熊手で硬い髪をとかし、鎌で伸び放題のひげを刈り、水に顔を映して表情をつくってみたり。ローマの詩人オウィディウスが描く、恋する巨人の姿である。
その巨人が恋い焦がれた相手が、海の女神ガラテイアだった。巨人の恋がどうなったのか、見ていこう。
ガラテイアは、「海の老人」と呼ばれる神の50人の娘の一人である。『神統記』にも『イリアス』にも名前は出てくるが、そこでは姉妹たちの名の列に並んでいるだけだ。彼女が恋の物語の主人公になるのは、もっと後の時代のことである。
前3世紀の詩人テオクリトスの牧歌では、ひげが生えはじめたばかりの若いポリュペモスが、浜の岩に腰かけて歌う。凝乳よりも白いガラテイアよ、どうして私を拒むのか、と。
オウィディウスの物語では、ガラテイア自身が身の上を語る。彼女が愛していたのは、シチリアの若者アキスだった。16歳になったばかりで、頬にうっすらとひげの影が見えはじめたころ。アキスも彼女だけを愛していた。一方で巨人は、彼女をしつこく追い回す。アキスへの愛と巨人への憎しみ、どちらが強かったかと聞かれても分からない。どちらも同じくらいだった、とガラテイアは言う。
そのころ、鳥占いの名人がやって来て、巨人に告げた。お前の額に一つだけある目は、いつかオデュッセウスに奪われるだろう。巨人は笑い飛ばす。愚かな予言者め、その目はもう別の女に奪われている、と。この予言は、のちに『オデュッセイア』で、目を焼かれた巨人自身が思い出す。
ある日、巨人は海に突き出た丘に登って腰を下ろし、百本の葦を束ねた笛を吹いて、恋の歌を歌った。岩陰でアキスの膝に抱かれていたガラテイアは、遠くからそれを聞いていた。ガラテイアよ、お前は雪のように白いイボタの葉より白く、野原より花やかで、ガラスより輝き、熟れたぶどうより甘い。そう始まる長い歌だった。
歌い終えた巨人は、二人が一緒にいるところを見つけてしまう。見たぞ、これがお前たちの最後の逢瀬だ、と巨人が叫ぶと、その声にエトナ山が震えた。ガラテイアは海に潜って逃れ、アキスは助けを求めて逃げ出す。巨人は山から引きはがした岩を投げつける。岩の端がかすめただけで、アキスは押し潰された。
ガラテイアにできたのは、アキスに、川の神である祖父の力を取らせることだけだった。岩から赤い血がにじみ出し、やがて澄んだ水に変わる。岩が割れて葦が伸び、水音が響くと、割れ目から青い顔の若者が腰まで姿を現した。角を葦で飾ったその若者は、前より大きくなってはいたが、アキスだった。アキスは川になり、いまもその名で呼ばれている。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、テオクリトス『牧歌(エイデュリア)』、オウィディウス『変身物語』、ルキアノス『対話篇(神々の対話・海神たちの対話)』
オウィディウスの形: ガラテイアは、シチリアのファウヌスとニンフの子で16歳の美しい若者アキスを愛し、アキスも彼女だけを愛した。そのあいだポリュペモスは彼女を追い続け、アキスへの愛とポリュペモスへの憎しみのどちらが強かったか分からないほどだった、と彼女は言う。ポリュペモスはエトナ山のふもとの岩に座り、百本の葦を合わせた笛を吹いて長い恋歌を歌う。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
歌い終えたポリュペモスが、ガラテイアとアキスが一緒にいるのを見つけ、山から引きはがした岩を投げてアキスを押し潰す。ガラテイアは海に潜って逃れ、アキスに祖父の力を取らせた。岩から赤い血がにじみ出て、やがて澄んだ水に変わり、岩が割れて葦が生え、角を葦で飾った青い顔の若者が腰まで現れて、アキスは同じ名の川になった。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ピュグマリオンが彫った象牙の像は、オウィディウスでは名前がない。像を海のニンフと同じ「ガラテア」と呼ぶのは古代より後の作家たちで、いつ誰が始めたかははっきりしない。同じ名前でも、ポリュペモスに恋されたこのネレイスとは別の存在。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
オウィディウスでは、恋に落ちた凶暴なポリュペモスが羊も洞窟も忘れ、身なりを気にして、熊手で硬い髪をとかし、鎌でひげを刈り、水に顔を映して表情を整える。殺戮への欲も止み、船は無事に行き来するようになった。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ポリュペモスは海に突き出た丘に座り、百本の葦を束ねた笛を吹いて恋歌を歌う。岩陰でアキスの膝に抱かれていたガラテイアはそれを遠くから聞いていた。歌は「雪のように白いイボタの葉より白く、野原より花やかで…」と始まる。見つかったとき巨人の叫びでエトナ山が震えた。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ホメロスとヘシオドスのガラテイアは、ネレウスの娘たちの名前の列の一人にすぎない。『イリアス』では、パトロクロスの死を嘆くアキレウスのもとに母テティスとともに姉妹たちが集まる場面で「名高いガラテイア」と呼ばれ、『神統記』のネレイデスの一覧では「姿の美しいガラテイア」とされる。ポリュペモスとの話はどちらにもない。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ポリュペモスがガラテイアに恋する話は、前3世紀のテオクリトスの牧歌で知られる形になる。第11歌では、ひげが生え始めたばかりの若いポリュペモスが、浜の岩に座って「凝乳よりも白いガラテイア」に歌いかけ、歌うことで恋の病を癒やす。第6歌では、ガラテイアのほうが林檎を投げて彼の羊の群れをからかう。ホメロスの人食い巨人が、ここでは恋に悩む牧人になっている。
テオクリトス『牧歌(エイデュリア)』 前3世紀前半
オウィディウスは、予言者テレモスがポリュペモスに「お前の一つ目はウリクセス(オデュッセウス)に奪われる」と告げ、ポリュペモスが「もう別の女に奪われている」と笑い飛ばす場面を置いている。この予言は『オデュッセイア』第9巻にあるもので、恋の話を、よく知られたオデュッセウスとの出会いの前日譚につないでいる。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、オウィディウス『変身物語』 8年頃
2世紀のルキアノスの小対話では、ネレイデスの姉妹ドリスが、一つ目の羊飼いに好かれてうぬぼれるガラテイアをからかう。「あの人がほめたのは白い肌だけ。チーズや乳に似ているからでしょう」と。ガラテイアの白さを乳にたとえるのは、テオクリトス以来の言葉遊び。
テオクリトス『牧歌(エイデュリア)』 前3世紀前半、ルキアノス『対話篇(神々の対話・海神たちの対話)』 2世紀後半
Met. 13.735-749 まだ怪物になる前の娘スキュラに髪をすかせながら、ガラテイアが自分の恋を打ち明ける