ギリシャ神話の地図
1オイネウス2メレアグロス3アタランテ4アルタイア

カリュドンの猪狩り

ὁ Καλυδώνιος κάπρος出来事

その年の収穫の初物を、王はすべての神々に捧げた。ただ一柱、狩りの女神アルテミスにだけ、捧げるのを忘れた。女神は怒り、とてつもなく大きな猪を王の国へ送り込んだ。

では、英雄たちが総出で挑んだこの「カリュドンの猪狩り」がどんな出来事だったのか、見ていこう。

舞台は、ギリシャの町カリュドン。猪は白い牙で果樹園を荒らし、大木を根こそぎ倒し、種まきを妨げ、家畜も人も襲った。一人や二人の手に負える獣ではない。王はギリシャ中から名高い勇士を呼び集め、仕留めた者には猪の皮を与えると約束した。

集まった顔ぶれは、伝える作者によって大きく違う。いちばん古い『イリアス』は、狩人たちの名を一人も挙げない。ところがアポロドーロスの伝えでは、ゼウスの双子の息子たち、英雄テセウス、アルゴ号の船長イアソン、アキレウスの父など、別の物語の主役たちがずらりと並ぶ。ローマの詩人オウィディウスの名簿はさらに膨らんで30人を超え、のちにトロイア戦争の老将となる男の若き日の姿や、オデュッセウスの父まで加わっている。時代が下るほど、名高い英雄が書き足されていったのである。

中心にいたのは、王の息子メレアグロス。そして、狩人たちの中にはただ一人、女がいた。弓の名手アタランテである。女と一緒に狩りなどできるか、と不満を言う者もいたが、メレアグロスは彼らを従わせた。

獲物を囲むと、猪は暴れて二人を殺した。アキレウスの父は槍を投げて、誤って仲間を死なせてしまう。最初に猪に矢を当てたのは、アタランテだった。次に予言者の英雄が猪の目を射た。そして最後に、メレアグロスが脇腹を突いて仕留めた。

猟犬とともに、巨大な猪を囲む狩人たち。
猟犬とともに、巨大な猪を囲む狩人たち。『カリュドンの猪狩り』 ピントゥリッキオ 1509年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

メレアグロスは、手に入れた猪の皮をアタランテに贈った。これに怒ったのが、メレアグロスの母の兄弟たちだった。男たちを差し置いて女が褒美を取るとは何事か。息子がいらないなら、その皮は血筋から言ってわれわれのものだ。彼らは皮をアタランテから取り上げた。メレアグロスは怒り狂って叔父たちを殺し、皮をアタランテに返した。

悲劇はそこで終わらなかった。メレアグロスが生まれて7日目、運命の女神たちが現れて告げていた。炉で燃えているこの薪が燃え尽きたとき、この子は死ぬ。母はすぐに火のついた薪を取り出して、箱にしまい込んでいた。兄弟を息子に殺された母は、その薪を火にくべた。薪が燃え尽きると同時に、メレアグロスは息絶えた。

『イリアス』は、同じ出来事を別の形で語っている。猪の頭と皮をめぐって、町の人々と隣の部族のあいだで戦争が起きた。母が兄弟の死を嘆き、大地を叩いて冥界の神々に息子の死を願ったため、メレアグロスは母を恨んで戦いから退いてしまう。町が攻め込まれ、長老たちも父も母も頼んだが、彼は動かない。最後に妻が、町が落ちたときに人々を襲う不幸を涙ながらに語ると、ようやく鎧を着けて町を救った。この昔話を語るのは、老いた武将である。戦いから身を引いたアキレウスを、戦場へ戻そうと説得するためだった。

猪の皮は、ずっと後の時代まで残っていたという。2世紀の旅行家パウサニアスは、ギリシャ南部のある町のアテナの神殿に、毛の抜け落ちた猪の皮が奉納されていたと書いている。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、パウサニアス『ギリシア案内記』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ホメロスの形: 『イリアス』9歌で、ポイニクスがアキレウスを説得するために語る昔話として出てくる。オイネウスが初穂をアルテミスにだけ捧げなかったため、女神は白い牙の猪を送り、メレアグロスが「多くの町から狩人と犬を集めて」仕留めた。狩人の名はメレアグロス以外ひとりも挙がらない。アタランテも、燃えさしの薪も出てこない。話の中心は狩りの後で、猪の頭と皮をめぐってクレテス人とアイトリア人の戦争になり、怒ったメレアグロスが戦いから退く。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

バッキュリデスの形(前476年): 冥界でメレアグロスの亡霊がヘラクレスに語る。「ギリシャの最良の者たち」が六日間続けて猪と戦い、アンカイオスとメレアグロスの兄弟アゲラオスが牙にかかって死んだ。名が挙がるのはこれだけで、ここにもアタランテはいない。その後、皮をめぐってクレテス人と戦った。

バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』 前5世紀前半(第5歌は前476年)

アポロドーロスの名簿(1〜2世紀): 出身地つきで並べる。カリュドンからメレアグロスとドリュアス、メッセネからイダスとリュンケウス、スパルタからカストルとポリュデウケス、アテナイからテセウス、ペライからアドメトス、アルカディアからアンカイオスとケペウス、イオルコスからイアソン、テーバイからイピクレス、ラリッサからペイリトオス、プティアからペレウスとエウリュティオン、サラミスからテラモン、アルカディアからアタランテ、アルゴスからアンピアラオス、それにテスティオスの息子たち。アルゴナウタイの顔ぶれと大きく重なる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

残り2件を読む

オウィディウスの名簿(8年頃): さらに膨らみ、30人を超える。アポロドーロスと共通の顔ぶれに加え、若き日のネストル、オデュッセウスの父ラエルテス、アキレウスの育ての親ポイニクス、アカストス、カイネウス、モプソスらが並ぶ。アンピアラオスは「まだ妻から無事な」と、のちに妻エリピュレに裏切られる運命をほのめかして紹介される。ネストルは猪から逃れるため槍を棒にして木に跳び上がり、トロイア戦争を待たずに死ぬところだったと語られる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

ヒュギヌスの名簿: 医神アスクレピオス、ミノスの子デウカリオン、ヘルメスの子エウリュトスという、他の名簿に無い名を含む。オデュッセウスの父ラエルテスはオウィディウスと共通。続けて、援軍を送った国々としてイオルコス、スパルタ、メッセネ、プティア、サラミス、イタケ、テゲア、クレタ、アテナイなどを挙げる。一方、アンピアラオスはこの名簿に入っていない。

ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

アポロドーロス、オウィディウス、ヒュギヌス、テゲアの神殿破風(パウサニアスの記録)の4つを突き合わせると、すべてに名があるのはメレアグロス、アタランテ、カストルとポリュデウケス、テセウス、ペレウス、テラモン、アンカイオスの8人と、テスティオスの息子たち(アルタイアの兄弟)。ネストルはオウィディウスだけ、アスクレピオスはヒュギヌスだけに出てくる。後代の作家ほど、別の物語で有名な英雄を名簿に加えていったことがうかがえる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

記念品と美術: 2世紀のパウサニアスは、アルカディアのテゲアにあるアテナ・アレアの神殿(建築家はパロスのスコパス)の正面の破風に猪狩りが彫られていたと記し、中央の猪の両側にアタランテ、メレアグロス、テセウス、テラモン、ペレウス、ポリュデウケス、イオラオス、テスティオスの息子たち、傷ついたアンカイオス、カストル、アンピアラオス、ヒッポトオス、ペイリトオスの名を挙げる。神殿には毛の抜け落ちた猪の皮も奉納されていた。牙はアウグストゥスがアントニウスに勝った後にローマへ持ち去り、1本は折れ、残る1本は皇帝の庭園のディオニュソスの社にあったという。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

メレアグロスが生まれて7日目、運命の女神たちが「炉で燃えている薪が燃え尽きたときこの子は死ぬ」と告げ、母アルタイアは薪を取り出して箱にしまった。兄弟を殺されたアルタイアがその薪を燃やすと、メレアグロスはたちまち息絶えた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

メレアグロスが猪の皮をアタランテに与えると、テスティオスの息子たち(母の兄弟)は、女が男を差し置いて賞を得ることを侮りとし、メレアグロスが取らないなら血筋から自分たちのものだと皮を取り上げた。メレアグロスは彼らを殺して皮をアタランテに返した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

テーバイ攻めとのつながり: エウリピデス『フェニキアの女たち』では、七将のひとりパルテノパイオスの盾に「アイトリアの猪を遠くから矢で射るアタランテ」が描かれている。彼はアタランテの子で、母の最も有名な場面を盾の図柄にして戦場に立ったことになる。

エウリピデス『フェニキアの女たち』 前410年頃上演

寄港地

  1. 1オイネウス
  2. 2メレアグロス
  3. 3アタランテ
  4. 4アルタイア
ほかのつながり(4人)

出来事・場所・物

この話が出てくる作品

次に読む

このページの出典(7件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前5世紀前半(第5歌は前476年)バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』
  3. 前410年頃上演エウリピデス『フェニキアの女たち』
  4. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  5. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  6. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  7. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』