イタリアのサッカークラブ、アタランタ。愛称は「女神」、紋章には女性の横顔が描かれている。クラブ自身は名の由来を説明していないが、同じ名をもつ女性がギリシャ神話にいる。男たちより速く走り、男たちより先に獲物を射抜いた女狩人、アタランテである。
では、神話のアタランテがどんな人生を送ったのか、見ていこう。
アポロドーロスによれば、アタランテの父は男の子を欲しがっていた。生まれたのが娘だと分かると、父は赤ん坊を野に捨てた。そこへ一頭の雌熊が何度もやってきて乳を与え、やがて狩人たちが見つけて育て上げた。大人になったアタランテは、結婚せずに処女を守り、いつも武器を手に荒野で狩りをして暮らした。襲いかかってきた半人半馬のケンタウロス二人を、矢で射殺したこともある。
名を上げたのは、カリュドンの大猪狩りだった。狩りの女神アルテミスが送り込んだ猪を退治するため、ギリシャじゅうから英雄が集められた。女と一緒に狩りなどできるか、と嫌がる男たちもいたが、猪狩りの主催者の息子メレアグロスが彼女を同行させた。オウィディウスの『変身物語』では、最初に猪に矢を当てたのがアタランテだった。矢は耳の下をかすめ、毛を赤く染めた。とどめを刺したメレアグロスは、手柄の褒美を受けてくれと、猪の頭と毛皮を彼女に贈った。それに怒った彼の叔父たちが毛皮を奪い取り、メレアグロスに殺されることになる。
英雄たちと猟犬が、女神の送った大猪を追う。『カリュドンの猪狩り』 ピントゥリッキオ 1509年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)英雄たちの競技会では、のちのアキレウスの父ペレウスと組み打ちをして勝ったとも、アポロドーロスは伝えている。
やがて実の父と再会したアタランテは、結婚を勧められる。オウィディウスでは、彼女は結婚について神託を仰ぎ、夫など要らない、結婚を避けよ、だがおまえは逃れられず、生きながら自分を失うだろう、と告げられていた。そこで彼女は条件を出した。私と駆けくらべをして、勝った者の妻になる。負けた者は死ぬ。それでも美しさにひかれて、多くの若者が挑み、命を落とした。
ある若者が、愛の女神アプロディテに助けを求めた。女神は、黄金の林檎を3つ授けた。競走が始まると、若者は抜かれそうになるたびに林檎を一つずつ投げた。アタランテは、転がる黄金に心を奪われて道をそれ、拾い上げる。そのすきに若者は前へ出る。3つ目の林檎で、若者はついに先にゴールした。
二人の結末は、どの伝えでも獅子だった。アポロドーロスでは、狩りの途中でゼウスの神域に入りこみ、そこで交わったために獅子に変えられた。オウィディウスでは、恩を忘れた若者に怒ったアプロディテが、二人に神聖な洞窟で欲情を起こさせ、洞窟を汚された女神が、二人を自分の車を引く獅子にしてしまった。
アタランテの息子パルテノパイオスは、のちに「テーバイ攻めの七将」の一人に数えられる。ソポクレスは、処女にちなんで名づけられた、アタランテの忠実な子、と彼を紹介している。
この物語の出典: ソポクレス『コロノスのオイディプス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ『アタランタ(公式サイト)』