ギリシャ神話の地図
メレアグロス仲間ヒッポメネス夫アプロディテ女神カリュドンの猪狩り猪狩りテーバイ攻めの七将息子の戦ペレウス好敵手アルゴナウタイの遠征遠征隊
ヒッポメネスとアタランテ。グイド・レーニの作。

アタランテ

Ἀταλάντη英雄

ヒッポメネスとアタランテ。グイド・レーニの作。 『ヒッポメネスとアタランテ』 グイド・レーニ 1618〜1619年 プラド美術館Public domain

カリュドンの猪狩り3 / 4

イタリアのサッカークラブ、アタランタ。愛称は「女神」、紋章には女性の横顔が描かれている。クラブ自身は名の由来を説明していないが、同じ名をもつ女性がギリシャ神話にいる。男たちより速く走り、男たちより先に獲物を射抜いた女狩人、アタランテである。

では、神話のアタランテがどんな人生を送ったのか、見ていこう。

アポロドーロスによれば、アタランテの父は男の子を欲しがっていた。生まれたのが娘だと分かると、父は赤ん坊を野に捨てた。そこへ一頭の雌熊が何度もやってきて乳を与え、やがて狩人たちが見つけて育て上げた。大人になったアタランテは、結婚せずに処女を守り、いつも武器を手に荒野で狩りをして暮らした。襲いかかってきた半人半馬のケンタウロス二人を、矢で射殺したこともある。

名を上げたのは、カリュドンの大猪狩りだった。狩りの女神アルテミスが送り込んだ猪を退治するため、ギリシャじゅうから英雄が集められた。女と一緒に狩りなどできるか、と嫌がる男たちもいたが、猪狩りの主催者の息子メレアグロスが彼女を同行させた。オウィディウスの『変身物語』では、最初に猪に矢を当てたのがアタランテだった。矢は耳の下をかすめ、毛を赤く染めた。とどめを刺したメレアグロスは、手柄の褒美を受けてくれと、猪の頭と毛皮を彼女に贈った。それに怒った彼の叔父たちが毛皮を奪い取り、メレアグロスに殺されることになる。

英雄たちと猟犬が、女神の送った大猪を追う。
英雄たちと猟犬が、女神の送った大猪を追う。『カリュドンの猪狩り』 ピントゥリッキオ 1509年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

英雄たちの競技会では、のちのアキレウスの父ペレウスと組み打ちをして勝ったとも、アポロドーロスは伝えている。

やがて実の父と再会したアタランテは、結婚を勧められる。オウィディウスでは、彼女は結婚について神託を仰ぎ、夫など要らない、結婚を避けよ、だがおまえは逃れられず、生きながら自分を失うだろう、と告げられていた。そこで彼女は条件を出した。私と駆けくらべをして、勝った者の妻になる。負けた者は死ぬ。それでも美しさにひかれて、多くの若者が挑み、命を落とした。

ある若者が、愛の女神アプロディテに助けを求めた。女神は、黄金の林檎を3つ授けた。競走が始まると、若者は抜かれそうになるたびに林檎を一つずつ投げた。アタランテは、転がる黄金に心を奪われて道をそれ、拾い上げる。そのすきに若者は前へ出る。3つ目の林檎で、若者はついに先にゴールした。

二人の結末は、どの伝えでも獅子だった。アポロドーロスでは、狩りの途中でゼウスの神域に入りこみ、そこで交わったために獅子に変えられた。オウィディウスでは、恩を忘れた若者に怒ったアプロディテが、二人に神聖な洞窟で欲情を起こさせ、洞窟を汚された女神が、二人を自分の車を引く獅子にしてしまった。

アタランテの息子パルテノパイオスは、のちに「テーバイ攻めの七将」の一人に数えられる。ソポクレスは、処女にちなんで名づけられた、アタランテの忠実な子、と彼を紹介している。

この物語の出典: ソポクレス『コロノスのオイディプス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ『アタランタ(公式サイト)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

父の名が割れる。アポロドーロスは、アルカディアのイアソスの娘とし、男子を望んだ父に捨てられて雌熊に育てられたと語ったうえで、「ヘシオドスらはスコイネウスの娘、エウリピデスはマイナロスの娘とし、夫もメラニオンではなくヒッポメネスとする」と書き添える。オウィディウスも、猪狩りの場面では「テゲアの」、徒競走の場面では「スコイネウスの娘」と呼び分けている。アルカディアの狩人とボイオティアの走者が、同じ名で語られていることになる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

結末は獅子への変身。アポロドーロスでは、狩りの途中でゼウスの神域に入り、そこで交わったため獅子に変えられた。オウィディウスでは、恩を忘れたヒッポメネスに怒ったアプロディテが、キュベレの神殿の洞で二人に欲情を起こさせ、神殿を汚された女神キュベレが二人を獅子にして自分の車を引かせた。ヒュギヌスでは、パルナッソス山で勝利のゼウスに犠牲を捧げる途中、アプロディテの怒りで神域の中で交わり、ゼウスが二人を獅子と雌獅子に変えた。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

息子パルテノパイオスは、テーバイを攻めた七将のひとり。ソポクレス『コロノスのオイディプス』では「昔の処女(パルテノス)にちなんで名付けられた、アタランテの忠実な子」と紹介され、名前そのものが母の処女性を思い出させる。父はアポロドーロスではメラニオンかアレス、ヒュギヌスではメレアグロスとされる。

エウリピデス『フェニキアの女たち』 前410年頃上演、ソポクレス『コロノスのオイディプス』 前401年上演(作者の死後)、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

猪狩りでは、ケペウスやアンカイオスが女と狩りをするのを嫌がったが、メレアグロスが同行させた。アタランテが最初に猪の背に矢を当て、メレアグロスが止めを刺して、皮を彼女に与える。オウィディウスでは、矢が耳の下をかすめて毛を赤く染め、メレアグロスが「武勇の褒美を受けよ」と叫ぶ。これに怒ったテスティオスの息子たちが皮を奪い、メレアグロスに殺される。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

徒競走: 求婚者はアタランテと走り、負ければ殺される。オウィディウスでは、アプロディテがキュプロス島タマソスの畑の木から摘んだ3つの黄金の林檎をヒッポメネスに渡し、彼はそれを走りながら投げてアタランテが拾う間に勝つ。アポロドーロスでは林檎を持って来るのはメラニオン。ヒュギヌスでは、求婚者が武器を持たずに先に走り、アタランテが武器を持って追う、という形になっている。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

ラテン語形アタランタは、1907年創設のイタリア・ベルガモのサッカークラブの名前になっている。クラブの愛称は「ラ・デア(女神)」で、紋章には女性の横顔が描かれる。クラブ公式サイトの記事(2019年)は、ギリシャ神話のこのヒロインが1907年にクラブに名を与えたと書いている。

アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ『アタランタ公式サイトの記事「Studenti Sarpi a Zingonia」』 2019年6月12日(2026年9月閲覧)、アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ『アタランタ(公式サイト)』 2026年9月閲覧

残り2件を読む

アポロドーロスによれば、男子を望んだ父に捨てられたアタランテは、雌熊の乳で育ち、狩人たちに拾われた。成人して処女を守り荒野で武装して狩りをし、乱暴しようとしたケンタウロスのロイコスとヒュライオスを射殺した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

オウィディウスでは、結婚について問うたアタランテに神が「夫は要らない、結婚を避けよ。だが逃れられず、生きながら自分を失うだろう」と告げたので、彼女は求婚者に命がけの駆けくらべを課した。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

もっと詳しく

ホメロスには登場しない。『イリアス』9歌のカリュドンの猪の話にも、バッキュリデス第5歌(前476年)の猪狩りにも出てこない。猪狩りの英雄としての姿が確かめられるのは、エウリピデス『フェニキアの女たち』(前410年頃)の盾の図柄や、ローマ期のアポロドーロス、オウィディウスから。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』 前5世紀前半(第5歌は前476年)、エウリピデス『フェニキアの女たち』 前410年頃上演

ほかのつながり(1人)

仲間・師弟

今の言葉に残る

アタランタ(イタリアのサッカークラブ)ベルガモのサッカークラブ、アタランタ・ベルガマスカ・カルチョは1907年創設で、愛称は「ラ・デア(女神)」、紋章は女性の横顔。クラブの公式サイトの記事(2019年)は、ギリシャ神話のヒロイン、アタランテ(ラテン語形 Atalanta)が1907年にクラブに名を与えたと書き、名前を勧めたのは当時の体育の教師だったらしい、と伝聞として添えている。

この話が出てくる作品

次に読む

このページの出典(11件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前5世紀前半(第5歌は前476年)バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』
  3. 前410年頃上演エウリピデス『フェニキアの女たち』
  4. 前401年上演(作者の死後)ソポクレス『コロノスのオイディプス』
  5. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  6. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  7. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  8. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  9. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』
  10. 2019年6月12日(2026年9月閲覧)アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ『アタランタ公式サイトの記事「Studenti Sarpi a Zingonia」』
  11. 2026年9月閲覧アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ『アタランタ(公式サイト)』