テセウスが少女ヘレネをさらってアピドナイに連れ去ると、テセウスが冥界にいる間に、カストルとポリュデウケスは町を攻め落としてヘレネを取り戻し、テセウスの母アイトラを捕虜にした。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Κάστωρ英雄
レウキッポスの娘たちをさらう、カストルとポリュデウケスの兄弟。ルーベンスの絵。 『レウキッポスの娘たちの略奪』 ピーテル・パウル・ルーベンス 1618年ごろ アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)Public domain
夜空のふたご座で、二つの明るい星が並んでいる。名前はカストルとポルックス。星の名になったのは、ギリシャ神話の双子の兄弟、カストルとポリュデウケスである。二人はまとめて「ゼウスの息子たち」と呼ばれた。
双子を産んだのは、スパルタの王妃レダである。『オデュッセイア』では、二人ともスパルタ王とレダの子とされる。後の時代に神話をまとめたアポロドーロスは、もっと込み入った話を伝える。白鳥の姿のゼウスがレダと交わり、同じ夜に夫の王も彼女と床を共にした。そしてゼウスの子としてポリュデウケスと絶世の美女ヘレネが、王の子としてカストルと、のちに総大将アガメムノンの妻となる娘が生まれた。双子なのに、父が違うという。

カストルは戦いと馬の扱いにすぐれ、『イリアス』では「馬を御するカストル」と呼ばれる。もう一人のポリュデウケスは、拳闘の名手だった。
姉妹のヘレネが少女のころ、アテナイの英雄テセウスにさらわれたことがある。テセウスが冥界へ出かけて留守にしているあいだに、兄弟は軍を率いてその町を攻め落とし、彼女を取り戻した。二人は金の羊毛を求める英雄たちの船にも乗り込んでいる。
最期は、牛をめぐる争いだった。兄弟は、いとこにあたる別の兄弟とともに牛を奪ってきて、分け方を相手に任せた。相手は牛を四つに切り分け、先に自分の分を食べ終えた者が半分を取る、と言い出す。そして自分の分も兄弟の分も真っ先に平らげ、牛を全部持ち去った。
兄弟が仕返しに待ち伏せしたとき、相手の一人は地面の下まで見通すほど目がよかった。隠れていたカストルは見つかり、討ち取られた。
ポリュデウケスは神の子で、死ななかった。けれども、兄弟が死んでいるのに自分だけ不死になることを拒んだ。そこでゼウスは、二人が一日おきに神々のもとと、死すべき者の世界とで過ごすことを許した。
『イリアス』には、この兄弟をめぐる切ない場面がある。トロイアの城壁からギリシャ軍を見渡したヘレネは、兄弟たちの姿を探すが、どこにもいない。自分のせいで恥ずかしくて来なかったのかしら、と思う。『イリアス』はすぐに付け加える。二人はそのとき、もう故郷の土の下に眠っていた。
死んだあとの二人は、船乗りの守り神になった。神々をたたえる古代の詩によれば、嵐の海で船乗りが祈ると、二人が翼で空から舞い降りて、風と波を鎮めるという。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、ピンダロス『祝勝歌集』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
テセウスが少女ヘレネをさらってアピドナイに連れ去ると、テセウスが冥界にいる間に、カストルとポリュデウケスは町を攻め落としてヘレネを取り戻し、テセウスの母アイトラを捕虜にした。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アパレウスの子イダス、リュンケウスと牛を奪ったとき、分配を任されたイダスは牛を四つに切り、先に食べ終えた者が半分を取ると言って、自分と兄弟の分を平らげて牛を持ち去った。待ち伏せの際、地中まで見通すリュンケウスがカストルを見つけ、イダスが討った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
「馬を御するカストル」と呼ばれる。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
兄弟とともに、一日おきに生きては死ぬという形でゼウスから栄誉を与えられ、神々と同じように敬われている。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
『イリアス』3巻で、ヘレネは城壁からギリシャ軍を見渡して二人の兄弟を探すが見つけられず、恥ずかしがって来なかったのだろうかと思う。詩人はすぐに「二人はすでに故郷のラケダイモンの地に葬られていた」と付け加える。ヘレネは自分が知らないことを、読者だけが知らされる。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
死因として広く伝わるのは、イダスとリュンケウスの兄弟との牛をめぐる争い。カストルはイダス(あるいはリュンケウス)に討たれ、ポリュデウケスだけが不死ゆえに残される。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
『オデュッセイア』は二人が「一日おきに生きては死ぬ」形でゼウスから栄誉を受け、神々と同じように敬われていると書く。ピンダロスはこれを、不死のポリュデウケスが兄のために自分の不死を半分譲ったという形で語る。分け合いの筋道は後代のほうが明確になっている。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半
ふたご座の二つの明るい星のうち、α星がカストル、β星がポルックス(ポリュデウケス)と呼ばれる。航海の守護は古く、『ホメロス讃歌』33 は嵐の海で船乗りが二人を呼ぶと、翼で翔け下りて風と波を鎮めると歌う。プリニウスは帆桁に灯る火を二つ見えれば吉、一つなら凶とし、二つのそれを「カストルとポルックス」と呼ぶと記す。のちの聖エルモの火にあたる。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃、大プリニウス『博物誌』 77年、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
1.9.16
『オリュンピア祝勝歌』3.34-38、パウサニアス5.8.4
1.8.2 / Met. 8.301-302 / 『神話伝説集』173 / 8.45.7 テゲアの破風
3.10.5-3.10.7。スパルタ王家の子として
ふたご座 / Geminiふたご座(双子座)の双子は、「ゼウスの息子たち」と呼ばれたカストルとポリュデウケス(ラテン語でポルックス)の兄弟である。二人の名は、この星座でいちばん明るい二つの星の名としても残っている。ヒュギヌスの『天文譜』は、なぜこの二人が星になったのかを、仲の良さで説明する。どの兄弟よりも互いを大事にし、どちらが上かを争うこともなく、何をするにも二人で相談して決めた。その心がけに報いて、ゼウスが二人をよく目立つ星にした。海の神ポセイドンも、乗る馬と、難破した人を救う力を二人に与えた。さらに同じ本は、ポルックスが自分の命の半分を兄弟に分けたので、二人は一日おきに輝くのだと、ホメロスの名を挙げて書き添えている。ただしこの星座を、ヘラクレスとアポロンの組とする説もあった。英語の Gemini はラテン語で「双子」の意味で、古英語の終わりごろから使われている。
ジェミニ計画 / Project Geminiアポロ計画の前に、アメリカが二人乗りの宇宙船で行ったのがジェミニ計画である。NASAの公式の歴史によると、計画は最初「マーキュリー・マークII」などと呼ばれていたが、NASA本部の命名委員会が「ジェミニ」を選んだ。黄道十二星座の一つ、ふたご座のラテン語名で、意味は「双子」。名付け親は職員のアレックス・ネイギーで、賞品にスコッチを1本もらった。ネイギーは、二人乗りであること、宇宙船どうしのランデブーを目指すこと、先行のマーキュリー計画とのつながりに、この名がうまく合うと考えたという。ふたご座の双子は、ゼウスの息子たちと呼ばれたカストルとポリュデウケス(ラテン語でポルックス)で、星座の二つの明るい星にもその名が付いている。