ヘレネに多くの求婚者が集まったため、争いを恐れ、オデュッセウスの助言で「誰が選ばれても、その夫を皆で助ける」と求婚者全員に誓わせた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Τυνδάρεως人間
トロイア戦争で、ギリシャじゅうの王たちが10年も戦場に縛りつけられた理由をたどっていくと、スパルタの一人の父親の悩みに行き着く。美しすぎる娘の、婿選びである。
その父がテュンダレオス。絶世の美女ヘレネを娘として育てたスパルタの王だ。彼の決断が何を引き起こしたのか、見ていこう。
アポロドーロスによれば、テュンダレオスはもともと、兄弟の一人に国を追われた身だった。逃れた先の王の娘レダを妻にし、のちに英雄ヘラクレスがその兄弟を討ったおかげで、スパルタに戻って王になった。
妻レダのもとには、白鳥の姿をしたゼウスも通っていた。同じ夜に、ゼウスと夫の両方と交わったレダは、ゼウスの子としてヘレネと拳闘の名手の息子を、夫の子としてクリュタイムネストラと馬の名手の息子を産んだ、とアポロドーロスは伝える。『オデュッセイア』では、二人の息子はどちらもテュンダレオスの子として語られる。
娘ヘレネが年頃になると、ギリシャじゅうの王や王子が求婚にやってきた。オデュッセウスをはじめ、アポロドーロスはその名を30人以上書き並べている。テュンダレオスは恐れた。一人を選べば、選ばれなかった者たちが争いを起こすだろう。
そこへ、求婚者の一人オデュッセウスが話を持ちかけた。争いを避ける方法を教えよう。その代わり、あなたの兄弟の娘ペネロペイアを私の妻にもらえるよう、口添えしてほしい。取引が成立すると、オデュッセウスは言った。求婚者全員に、先に誓わせるのです。誰が選ばれても、その花婿が結婚のことで害を受けたら、皆で助けに行く、と。
テュンダレオスは求婚者たちに誓わせ、娘の夫に、のちのギリシャ軍の総大将アガメムノンの弟、メネラオスを選んだ。オデュッセウスも約束どおりペネロペイアを妻に迎えた。のちにヘレネがトロイアの王子に連れ去られると、この誓いが王たちを呼び集めることになる。策を考えたオデュッセウス自身も、その例外ではなかった。
双子の息子たちが神々のもとへ去ったあと、テュンダレオスはメネラオスを呼び寄せて、スパルタの王位を譲った。
娘たちの運命は、幸せなものではなかった。ヘレネは夫を捨てて海を渡り、クリュタイムネストラは夫アガメムノンを殺した。ヘシオドスの『女たちのカタログ』の断片は、そのわけを、テュンダレオスが神々に犠牲を捧げたとき、愛の女神アプロディテだけを忘れたからだと語る。怒った女神が、娘たちに夫を裏切る悪い評判を負わせたのだという。
エウリピデスの悲劇『オレステス』では、年老いたテュンダレオスが、母を殺した孫を告発する側に立って現れる。
この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス(に帰される)『女たちのカタログ(エーホイアイ)断片』、エウリピデス『オレステス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
ヘレネに多くの求婚者が集まったため、争いを恐れ、オデュッセウスの助言で「誰が選ばれても、その夫を皆で助ける」と求婚者全員に誓わせた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
求婚者に誓わせたこの取り決めが、のちにギリシャ中の王が10年の遠征に参加する根拠になる。トロイア戦争の法的な仕掛けを作ったのは彼である。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
誓いの案を出したのはオデュッセウスで、見返りにテュンダレオスの姪ペネロペを妻に得る口添えを頼んだとされる。結果として、自分を戦争に縛り付ける仕掛けを自分で考えたことになる。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
スパルタの王。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
エウリピデス『オレステス』では、母を殺した孫オレステスを告発する側に回る。血縁の長老が法を盾に孫を追い詰めるという、悲劇での厳しい役どころ。
エウリピデス『オレステス』 前408年
娘たち(ヘレネ、クリュタイムネストラ、ティマンドラ)が夫を裏切ったのは、テュンダレオスが犠牲を捧げる際にアフロディテを忘れたためだという伝承がある。ヘシオドスに帰される『女たちのカタログ』の断片が、怒った女神が娘たちに悪い評判を負わせたと歌う。同じ話はステシコロスにも帰される。
ヘシオドス(に帰される)『女たちのカタログ(エーホイアイ)断片』 前6世紀頃
『オデュッセイア』11.298-299、アポロドーロス 3.10.5