ギリシャ神話の地図
アタランテ妻アプロディテ恩人アドニス聞き手ポセイドン祖先黄金の林檎別の林檎
ヒッポメネスとアタランテ。グイド・レーニの作。

ヒッポメネス

Ἱππομένης英雄

ヒッポメネスとアタランテ。グイド・レーニの作。 『ヒッポメネスとアタランテ』 グイド・レーニ 1618〜1619年 プラド美術館Public domain

足の速い美女に、かけっこで勝った者だけが結婚できる。負けた者は殺される。そんな命がけの徒競走に、三つの黄金のリンゴを隠し持って挑んだ若者がいる。ヒッポメネスである。

では、この若者がどうやって勝ち、そのあと何を失ったのか、ローマの詩人オウィディウスの語りでたどってみよう。

娘の名はアタランテ。どんな男よりも足が速く、その美しさも速さに劣らなかった。結婚について神に尋ねると、夫など持つな、夫からは逃れよ、だが逃れられはしまい、と告げられた。おびえた娘は森で独り暮らし、押し寄せる求婚者たちに条件を出した。わたしと走って勝った者の妻になる。遅れた者には死を。

ヒッポメネスは、はじめ見物人の一人だった。妻一人のために、そんな危険を冒す者がいるのか。そう求婚者たちを笑っていた。ところが、衣を脱いで走るアタランテの姿を見たとたん、彼は自分の言葉を撤回した。そして自ら名乗りを上げる。自分は海の神ポセイドンのひ孫だ、と。

彼は、愛の女神アプロディテに祈った。女神はその願いを聞き、キュプロス島の聖なる畑に立つ金色の木から、三つの黄金のリンゴを摘んで彼に渡した。

ラッパが鳴り、二人は走り出した。見物人たちは若者を声援した。アタランテは、何度も彼を追い越せたのに、追い越すのをためらった。それでもゴールはまだ遠く、若者の息は上がっていく。そこでヒッポメネスは、リンゴを一つ投げた。輝く金に目を奪われた娘は、道をそれて拾いに行く。そのすきに若者は前に出た。娘はすぐに追いつき、また抜き去る。二つ目のリンゴ。また追いつかれる。最後の直線で、若者は三つ目のリンゴを、戻るのに時間がかかるよう、わざと横の方へ投げた。娘は拾いに行き、その重さに足をとられた。勝ったのは、ヒッポメネスだった。

けれども彼は、助けてくれた女神に礼を言うことも、香を焚くことも忘れた。女神は怒った。二人が旅の途中、神々の母キュベレの古い神殿のそばで休んだとき、女神は若者に抑えられない欲情を起こさせた。二人は聖なる場所を汚してしまう。怒った神々の母は、二人を獅子に変えた。二人は森にすみ、女神の車を引くことになった。

この話は、『変身物語』の中で、アプロディテ自身が恋人の美少年アドニスに語って聞かせるものである。獣には気をつけなさい、と女神は言った。アドニスは聞かず、狩りで猪に殺される。

この物語の出典: オウィディウス『変身物語』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

勝者の名は出典で違う。オウィディウスとヒュギヌスではヒッポメネス。アポロドーロスはメラニオンを本筋とし、黄金の林檎もメラニオンがアプロディテから持ってきたとしたうえで、「エウリピデスは夫をヒッポメネスとする」と書き添える。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

勝った後、ヒッポメネスはアプロディテに礼も香も捧げなかった。オウィディウスでは、怒った女神がキュベレの神殿のそばで彼に欲情を起こさせ、神殿を汚された女神キュベレが二人を獅子に変えて車を引かせる。ヒュギヌスでは、パルナッソス山でゼウスに犠牲を捧げる途中のことで、二人を獅子に変えたのはゼウス。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

オウィディウスの形: はじめ見物人として「妻ひとりにこれほどの危険を冒すのか」と求婚者たちを笑っていたヒッポメネスは、走るアタランテを見て心変わりし、自ら挑む。祈りを聞いたアプロディテが、キュプロス島タマソスの聖なる畑に立つ金色の木から摘んだ3つの林檎を渡し、彼は競走の最中にそれを一つずつ投げて、アタランテが拾うあいだに勝った。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

『変身物語』では、この話はアプロディテが恋人アドニスに語る話の中に入っている。女神は、獅子になった二人の話を引き合いに出し、「背を見せず胸を向けてくる獣は避けよ」とアドニスに忠告する。アドニスはこの忠告を聞かず、狩りで猪に殺される。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

オウィディウスでは、ボイオティアのオンケストスのメガレウスの子で、ポセイドン(ネプトゥヌス)の曾孫だと自ら名乗る。ヒュギヌスは母をメロペとする。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

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ここで使われる黄金の林檎は、オウィディウスではキュプロスのタマソスにあるアプロディテの聖域の木の実とされる。同じ「黄金の林檎」でも、ヘスペリデスの園の林檎や、パリスの審判の発端となったエリスの林檎とは出どころが別である。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

オウィディウスでは、アタランテは何度も追い越せたのにためらう。ヒッポメネスは林檎を一つずつ投げ、最後の一つはわざと脇へ投げて、アタランテが戻るのに時間がかかるようにした。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

アタランテは結婚について神に尋ね、「夫は要らない、夫から逃れよ、だが逃れられない」と告げられて、負けた求婚者を殺す徒競走を条件にした。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

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このページの出典(3件)
  1. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  2. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  3. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』