ギリシャ神話の地図
アルテミス猪を送った女神ヘラクレス冥界で出会った英雄アルゴナウタイの遠征加わった遠征エリニュス呪いを聞いた女神モイラ運命の女神アタランテ恋した女狩人デイアネイラ妹カリュドンの猪狩り猪狩り
アタランテとメレアグロス、仕留められた猪の頭と猟犬。ピーテル・パウル・ルーベンスの作。

メレアグロス

Μελέαγρος英雄

アタランテとメレアグロス、仕留められた猪の頭と猟犬。ピーテル・パウル・ルーベンスの作。 『アタランテとメレアグロス』 ピーテル・パウル・ルーベンス 1616年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

カリュドンの猪狩り2 / 4

七面鳥の仲間を生物学では「メレアグリス」と呼ぶ。アフリカのホロホロチョウの学名にも、同じ言葉が使われている。もとをたどると、ある英雄の死を嘆いて鳥に変えられた姉妹たちの呼び名に行き着く。その英雄が、カリュドンの猪を仕留めたメレアグロスである。

では、メレアグロスの物語を、いちばん古い形から順に見ていこう。

メレアグロスは、ギリシャ中部カリュドンの王の息子だった。ある年、王は収穫の初物を神々に捧げたとき、狩りの女神アルテミスにだけ捧げるのを忘れた。怒った女神は、白い牙の巨大な猪を送り込んだ。猪は果樹園を荒らし、大木を根こそぎ引き倒した。とても少人数では倒せない。メレアグロスはギリシャ中の町から狩人と犬を集め、ついに猪を仕留めた。

猟犬とともに、巨大な猪を追い詰める狩人たち。
猟犬とともに、巨大な猪を追い詰める狩人たち。『カリュドンの猪狩り』 ピントゥリッキオ 1509年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

ところが女神は、猪の頭と毛皮をめぐって争いを起こさせた。隣の部族とカリュドンの人々のあいだで戦争が始まる。『イリアス』では、この話を、戦いを拒むアキレウスのもとを訪ねた老将が、説得のための例え話として語っている。

戦いのなかで、メレアグロスは母の兄弟を殺してしまった。母は地面を両手で打ち、涙で胸をぬらしながら、冥界の王と妃に息子の死を願った。その呪いを、闇を歩く復讐の女神が冥界の底で聞いた。母の呪いに怒ったメレアグロスは戦いから身を引き、妻のそばに閉じこもった。敵が城門に迫る。長老たちは広い土地を贈ると約束し、父は扉を揺すって頼み、姉妹も母も、親しい仲間も頼んだ。それでも出てこない。部屋にまで石が飛んでくるようになって、ようやく妻の涙の嘆願で出陣し、町を救った。けれど約束の贈り物は、ついにもらえなかった。

後の時代には、もっと恐ろしい話が語られるようになった。後の時代の神話集によれば、メレアグロスが生まれて7日目、運命の女神たちが現れて告げた。炉で燃えているあの薪が燃え尽きるとき、この子の命も尽きる。母はすぐに薪を火から取り出し、箱にしまい込んだ。

猪狩りには、ギリシャ中の英雄が集まった。その中に一人、女狩人アタランテがいた。女と狩りなどできるか、と嫌がる者もいたが、メレアグロスは彼女を加えさせた。妻がいながら、アタランテとのあいだに子が欲しいと望んでいたのだ。猪に最初に矢を当てたのはアタランテで、とどめを刺したのはメレアグロスだった。彼は手に入れた毛皮を、アタランテに贈った。

母の兄弟たちは、女が男を差し置いて褒美を取るのが気に入らず、毛皮を取り上げた。怒ったメレアグロスは、彼らを殺した。兄弟を殺された母は、しまっておいた薪を取り出して、火に投げ込んだ。遠く離れた場所で、メレアグロスは死んだ。

ローマの詩人オウィディウスによれば、嘆き悲しむ姉妹たちを、アルテミスは鳥に変えた。この鳥が、のちにホロホロチョウの名になった。

古代ギリシャの詩人バッキュリデスは、死後の出会いを描いている。冥界の番犬を連れに地下へ降りた英雄ヘラクレスは、鎧姿のメレアグロスの霊に出会い、その死の話を聞いて、生涯でただ一度だけ涙を流した。そして尋ねた。君に似た、まだ嫁いでいない姉妹はいないか。メレアグロスが名を挙げた妹は、のちにヘラクレスの妻となり、ヘラクレスの死を招くことになる。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』、オウィディウス『変身物語』、大プリニウス『博物誌』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)『GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

死に方(1)呪い: 『イリアス』では、兄弟を殺された母が大地を手で打ち、ハデスとペルセポネに息子の死を願い、闇を歩くエリニュスがそれを聞いた。死そのものは語られないが、船のカタログでは「メレアグロスはもういない」とされる。パウサニアスも「ホメロスは、アルタイアの呪いをエリニュスが聞いたことを死の原因とする」とまとめている。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

死に方(2)燃えさしの薪: 生まれて7日目に運命の女神たちが現れ、炉で燃えている薪が燃え尽きるとき子も死ぬと告げた。母は薪を取り出して箱にしまったが、息子が兄弟を殺したと知って薪を火に投じ、メレアグロスは遠く離れた場所で体の内から焼かれるように死んだ。現存する詩ではバッキュリデス(前476年)が早い例。パウサニアスによれば、劇に初めて仕立てたのはプリュニコスの『プレウロンの女たち』だが、彼は自分で考えた話としてではなく、ギリシャ中で知られた話として軽く触れているという。

バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』 前5世紀前半(第5歌は前476年)、オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

死に方(3)アポロンに討たれる: パウサニアスによれば、ヘシオドスに帰される『エーホイアイ』と叙事詩『ミニュアス』は、アポロンがクレテス人に加勢してアイトリア人と戦い、メレアグロスを殺したとする。アポロドーロスも「クレテス人との戦いの中で戦死した」という別伝を書き添えている。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

殺した母の兄弟の名も出典で違う。バッキュリデスではイピクロスとアパレス(クレテス人との戦闘中に、狙ったのではなく乱戦で)。オウィディウスではプレクシッポスとトクセウスで、アタランテから皮を奪ったことに怒って刺す。ヒュギヌスはイデウス、プレクシッポス、リュンケウスの名を挙げる。アタランテをめぐる争いに変わるのは後代の形で、ホメロスとバッキュリデスには恋の要素が無い。

バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』 前5世紀前半(第5歌は前476年)、オウィディウス『変身物語』 8年頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

嘆く姉妹は鳥になった。オウィディウスでは、ゴルゲとデイアネイラを除く姉妹をアルテミスが鳥に変える。ヒュギヌスはその鳥を「メレアグリデス(ホロホロチョウ)」と呼ぶ。大プリニウスは、ボイオティアにいるメレアグリデスはアフリカ産の雌鶏の一種で、メレアグロスの墓がこの鳥を有名にしたと書き、ソポクレスが琥珀を「メレアグロスを悼む鳥の涙からできる」と詠んだことを、あり得ない話として批判している。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、大プリニウス『博物誌』 77年、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

アポロドーロスでは、女と狩りをするのを嫌がる者たちをメレアグロスが従わせた。妻クレオパトラがいながらアタランテとの子を望んでいたからである。アタランテが最初に矢を当て、アンピアラオスが目を射て、メレアグロスが脇腹を刺して仕留め、皮をアタランテに与えた。テスティオスの息子たちが皮を取り上げたため、メレアグロスは彼らを殺した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

ホメロスの形: 『イリアス』9歌でポイニクスが語る。猪の後、皮をめぐるクレテス人との戦争で母の兄弟を殺したメレアグロスは、母アルタイアに呪われ、怒って妻クレオパトラのそばに籠もる。長老、父オイネウス、姉妹、母、仲間が次々に頼んでも出ず、町が焼かれかけてようやく妻の嘆願で出陣した。約束の贈り物は結局もらえなかった。ポイニクスはこれを、贈り物のあるうちに戦いに戻れとアキレウスを説く例え話として語る。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

冥界でヘラクレスと出会う: バッキュリデスの祝勝歌では、ケルベロスを連れに冥界へ降りたヘラクレスが、鎧姿のメレアグロスの亡霊を見て矢をつがえる。メレアグロスが自分の死を語ると、ヘラクレスは生涯でこの時だけ涙を流し、「きみに似た未婚の姉妹はいないか」と尋ねる。メレアグロスが名を挙げたのがデイアネイラで、のちにヘラクレスの妻となり、彼の死の原因となる。

バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』 前5世紀前半(第5歌は前476年)

アルゴナウタイにも名がある。アポロニオスの『アルゴナウティカ』では、まだ少年で、父オイネウスが異母兄弟ラオコオン(トロイアの神官とは別人)を目付役に付けて送り出し、母方の叔父イピクロスも同行した。あと一年アイトリアで育っていれば、ヘラクレスを除いて誰にも負けなかっただろうと語られる。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

カリュドン王オイネウスが収穫の初物を神々に捧げたとき、アルテミスにだけ捧げなかったため、怒った女神が白い牙の猪を送り、果樹園を荒らさせた。メレアグロスは多くの町から狩人と犬を集めて猪を倒した。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ほかのつながり(1人)

家族・恋愛

  • アレス親

    1.8.2「アレスの子だとも言われる」という異伝。オイネウスの子とするのが普通

今の言葉に残る

Meleagris(シチメンチョウ属)/ Numida meleagris(ホロホロチョウ)ラテン語 meleagris はホロホロチョウの類を指す鳥の名で、ヒュギヌスは、メレアグロスの死を嘆いて鳥に変えられた姉妹たちを「メレアグリデス(ホロホロチョウ)」と呼ぶ。大プリニウスも、ボイオティアのメレアグリデスはアフリカ産の雌鶏の一種で、メレアグロスの墓がこの鳥を有名にしたと書く。リンネ(1758年)はこの語を、シチメンチョウの属名 Meleagris(七面鳥 Meleagris gallopavo)と、ホロホロチョウの種小名 Numida meleagris の両方に使った。新大陸の七面鳥の学名に、ギリシャ神話の英雄の姉妹の鳥が残っていることになる。

次に読む

このページの出典(8件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前5世紀前半(第5歌は前476年)バッキュリデス『祝勝歌・ディテュランボス』
  3. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  4. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  5. 77年大プリニウス『博物誌』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  8. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』