ギリシャ神話の地図
アンピアラオス夫アルクマイオン息子ポリュネイケス贈り主アドラストス兄弟ハルモニア元の主テーバイ攻めの七将夫の戦エピゴノイのテーバイ攻め子の戦

エリピュレ

Ἐριφύλη人間

テーバイ攻めの七将2 / 8

『オデュッセイア』で英雄オデュッセウスが冥界を訪れたとき、死んだ女たちの霊が次々に現れる。その中に、夫の命と引き換えに黄金を受け取った憎むべき女、とだけ紹介される霊がいる。エリピュレである。

では、この女がなぜ夫を売ったと言われるのか、見ていこう。

エリピュレは、アルゴスの王アドラストスの姉妹で、予言者アンピアラオスの妻だった。この結婚には事情があった。かつて夫と兄は激しく争い、和解のしるしとして彼女が嫁いだのである。アポロドーロスによれば、夫はそのとき、これから先アドラストスと意見が分かれたら、妻の裁定に従うと誓っていた。

やがて、テバイを攻める七人の将の戦が持ち上がる。国を追われたテバイの王子ポリュネイケスが、アドラストスの娘婿となり、祖国の王座を取り戻そうとしていたのだ。アンピアラオスは予言者として、この戦に出れば王を除く全員が死ぬと見抜き、出陣を拒んだ。王と予言者の意見が割れた。裁くのは、エリピュレである。

夫は妻に、ポリュネイケスからは何も受け取るなと言い含めていた。けれどもポリュネイケスは、彼女に黄金の首飾りを差し出した。テバイの町を開いた王が、神々の祝う婚礼で妻に贈った、王家に伝わる首飾りだった。エリピュレはそれを受け取り、夫に出陣を命じた。

逆らえなかったアンピアラオスは、幼い息子たちに言い残して出陣した。大きくなったら母を殺し、テバイを攻めよ、と。予言どおり戦は敗れ、アンピアラオスは逃げる途中、ゼウスの雷が裂いた大地に戦車ごと呑み込まれて消えた。

10年後、戦死した将たちの息子たちが、ふたたびテバイを攻めた。このときエリピュレは、ポリュネイケスの息子から、今度は同じ王家に伝わる衣を受け取り、自分の息子たちも戦に送り出した。

戦に勝って帰った長男は、母が自分の身まで売ったことを知った。そして神託に従い、父の遺言どおり母を殺した。母殺しの罪で、彼はその後、復讐の女神に追われてさまよい続ける。

古代の旅行家パウサニアスは、オリュンピアに奉納されていた古い箱の浮き彫りに、首飾りを手にしたエリピュレと、幼い息子たちの姿が彫られていたと書き残している。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ピンダロス『祝勝歌集』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、パウサニアス『ギリシア案内記』

この物語の人々

こういう風にも語られている

二度の買収: 1回目はポリュネイケスからハルモニアの首飾りを受け取って夫を出陣させ、2回目は10年後、ポリュネイケスの子テルサンドロスからハルモニアの衣を受け取って息子たちを出陣させた。どちらもカドモスがハルモニアとの婚礼で贈った品で、テーバイ王家に伝わっていたものだった。ヒュギヌスでは、首飾りを作って贈ったのは兄アドラストスとされ、隠れていた夫の居場所を明かした代価になっている。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

美術の中のエリピュレ: パウサニアスは、オリュンピアに奉納されていたコリントスの僭主キュプセロスの箱の浮き彫りに、アンピアラオスの家の前で首飾りを手にしたエリピュレと、裸の少年アルクマイオン、赤子のアンピロコスを抱く老女が彫られていたと記す。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

最期: テーバイ攻略のあと、アルクマイオンはアポロンの神託に従って母を殺した。弟アンピロコスと共に殺したともいう。オロポスのアンピアラオスの聖域で、アルクマイオンだけが祀られなかったのは、この母への仕打ちのためだとパウサニアスは記す。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

もっと詳しく

ホメロスでの姿: 『オデュッセイア』11歌の冥界の女たちの列に「夫の命の代価に高価な黄金を受け取った、憎むべきエリピュレ」として出てくる。15歌ではアンピアラオスが「女の贈り物のために」テーバイで死んだとされる。首飾りの持ち主がポリュネイケスだったこと、それがハルモニアの首飾りだったことは語られない。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

なぜ妻が決めたのか: アポロドーロスによれば、アンピアラオスはかつてアドラストスと争い、和解の際に「以後アドラストスとの争いはエリピュレに裁かせる」と誓っていた。ピンダロスも、内乱のあとタラオスの息子たちがエリピュレを「誓いの証」としてアンピアラオスに嫁がせたと歌う。出兵をめぐって夫と兄が対立したとき、裁定はエリピュレに委ねられ、首飾りを受け取った彼女は出兵を選んだ。

ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

次に読む

このページの出典(5件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前5世紀前半ピンダロス『祝勝歌集』
  3. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  4. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  5. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』