ギリシャ神話の地図
アプロディテ母アレス父ディオニュソス孫ヘパイストス作り手カドモス夫セメレ娘イノ・レウコテア娘アクタイオン孫
蛇に変わった夫カドモスに巻きつかれるハルモニア。ド・モーガンの絵。

ハルモニア

Ἁρμονία神

蛇に変わった夫カドモスに巻きつかれるハルモニア。ド・モーガンの絵。 『カドモスとハルモニア』 イーヴリン・ド・モーガン 1877年Public domain

「ハーモニー」、つまり調和という言葉は、ギリシャ語の「ハルモニア」から来ている。もとは物と物をつなぎ合わせること、ぴたりと合うこと、音が調和することを指す言葉だった。そして同じ言葉が、ひとりの女神の名前でもあった。

では、調和の名を持つ女神ハルモニアが、どんな運命をたどったのか、見ていこう。

ヘシオドスの『神統記』によれば、ハルモニアは、戦の神アレスと愛の女神アプロディテの娘である。同じ両親から生まれた兄弟には、戦場で兵の隊列を崩す「恐慌」と「恐怖」の神がいた。戦と愛のあいだに、恐れと調和が生まれたことになる。

ハルモニアの夫は、都テーバイを建てた王カドモスだった。カドモスはかつて、アレスの泉を守る竜を殺した償いに、8年のあいだアレスに仕えていた。務めが終わると、ゼウスはアレスの娘ハルモニアを彼の妻として与えた。

二人の婚礼には、神々がみな天を離れて降りてきた。都の城砦で宴が開かれ、神々は歌で婚礼を祝った。カドモスは花嫁に、美しい衣と、鍛冶の神ヘパイストスが作った首飾りを贈った。

この首飾りが、のちに何世代にもわたって災いを呼ぶ。二人の子孫で、テーバイを追われた王子ポリュネイケスは、首飾りを持ってアルゴスへ逃れ、それを予言者の妻に贈って、夫を死の遠征へ送り出させた。10年後にはポリュネイケスの息子が、今度は衣を同じ妻に贈り、彼女の息子たちまで戦いへ向かわせた。怒った息子は母を殺し、首飾りと衣を持ってさまよったあげく、それがもとで殺される。首飾りと衣がようやくデルポイの神殿に納められて、災いの連鎖は止んだ。

ハルモニアとカドモスの娘たちも、不幸に見舞われた。娘のひとりはゼウスに愛されて酒の神ディオニュソスを身ごもり、雷とともに現れた神の姿の前で息絶えた。別の娘は正気を奪われて海に身を投げ、また別の娘の息子は、鹿に変えられて自分の猟犬に食われた。

年老いた二人はテーバイを去り、北の地で人々を率いて戦い、王と王妃になった。そして最後には、二人そろって蛇に変えられた。アポロドーロスの伝えでは、ゼウスが蛇になった二人を、死後の楽園エリュシオンへ送ったという。ローマの詩人オウィディウスは、先に蛇になっていく夫を抱きしめたハルモニアが、神々よ私も同じ蛇に変えてください、と叫んだと描いている。

この物語の出典: ヘシオドス『神統記』、エウリピデス『バッコスの信女』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

こういう風にも語られている

蛇への変身: エウリピデス『バッコスの信女』の結末で、ディオニュソスはカドモスとハルモニアが蛇に変わり、牛の引く車で異民族を率いて多くの町を攻めるが、最後はアレスに守られて祝福された者たちの地へ移されると予言する。アポロドーロスでは、二人はイリュリアでエンケレイス人を率いて勝ち、のちに蛇に変えられてエリュシオンの野に送られる。オウィディウスでは、年老いて不幸の続いた家を離れイリュリアへ流れ着いたカドモスが、殺した竜の祟りなら自分も蛇になりたいと願って蛇に変わり、妻もそれに続いて、二匹は森へ這っていった。

エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演、オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

神々の降りてきた婚礼: アポロドーロスによれば、アテナがカドモスに王国を用意し、ゼウスがハルモニアを妻として与えた。神々は皆天を離れてカドメイアで宴を開き、賛歌で婚礼を祝った。カドモスはこの婚礼の前に、アレスの竜を殺した償いとして「永遠の一年」(人間の8年)の間アレスに仕えていた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

呪われた首飾り: 婚礼の贈り物のうち、首飾りはヘパイストスの作だった。アポロドーロスは出どころに異説を挙げ、ヘパイストスがカドモスに与えたとも、ペレキュデスによれば、ゼウスから受け取ったエウロペ(カドモスの妹)が渡したともいう。首飾りと衣はテーバイ王家に伝わり、追放されたポリュネイケスがアルゴスへ持ち出してエリピュレを買収し(テーバイ攻め)、その子テルサンドロスが衣で再び買収した(エピゴノイ)。その後もアルクマイオン、その妻たち、ペゲウスの息子たちの手を渡るたびに死を招き、最後はデルポイに奉納された。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

首飾りと衣はアルクマイオンの死後、アケロオスの指示でアルクマイオンの子らがデルポイに奉納した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

ヘシオドスの形: 『神統記』では、アプロディテがアレスとの間に、戦場で隊列を乱す恐ろしい神ポボス(恐慌)とデイモス(恐怖)、そして「心高いカドモスが妻としたハルモニア」を産む。戦の神の子として「恐怖」と「調和」が兄弟姉妹になっている。ホメロスにはハルモニアは出てこない。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

名前は普通名詞と同じ: ハルモニアはギリシャ語で「つなぎ合わせる手段、一致、音の調和」を意味する普通名詞でもあり、英語 harmony(ハーモニー)の語源。女神の名から普通名詞が生まれたのではなく、同じ一語が抽象概念としても女神の名としても使われた。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

ほかのつながり(3人)

家族・恋愛

今の言葉に残る

ハーモニー(harmony)英語 harmony(14世紀後半から「耳に快い音の組み合わせ」)は、ギリシャ語 harmonia「一致、音の調和」から。harmonia のもとの意味は「つなぎ合わせる手段」で、船板の接合などに使われ、harmos「継ぎ目、関節」にさかのぼる。カドモスの妻ハルモニア(アレスとアプロディテの娘)は、この普通名詞と同じ語を名に持つ女神で、ギリシャでは音楽の擬人化としても扱われた。「女神の名から harmony が生まれた」のではなく、同じ一語が普通名詞としても神の名としても使われた、という関係。

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このページの出典(5件)
  1. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  2. 前405年上演エウリピデス『バッコスの信女』
  3. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  5. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』