「ハーモニー」、つまり調和という言葉は、ギリシャ語の「ハルモニア」から来ている。もとは物と物をつなぎ合わせること、ぴたりと合うこと、音が調和することを指す言葉だった。そして同じ言葉が、ひとりの女神の名前でもあった。
では、調和の名を持つ女神ハルモニアが、どんな運命をたどったのか、見ていこう。
ヘシオドスの『神統記』によれば、ハルモニアは、戦の神アレスと愛の女神アプロディテの娘である。同じ両親から生まれた兄弟には、戦場で兵の隊列を崩す「恐慌」と「恐怖」の神がいた。戦と愛のあいだに、恐れと調和が生まれたことになる。
ハルモニアの夫は、都テーバイを建てた王カドモスだった。カドモスはかつて、アレスの泉を守る竜を殺した償いに、8年のあいだアレスに仕えていた。務めが終わると、ゼウスはアレスの娘ハルモニアを彼の妻として与えた。
二人の婚礼には、神々がみな天を離れて降りてきた。都の城砦で宴が開かれ、神々は歌で婚礼を祝った。カドモスは花嫁に、美しい衣と、鍛冶の神ヘパイストスが作った首飾りを贈った。
この首飾りが、のちに何世代にもわたって災いを呼ぶ。二人の子孫で、テーバイを追われた王子ポリュネイケスは、首飾りを持ってアルゴスへ逃れ、それを予言者の妻に贈って、夫を死の遠征へ送り出させた。10年後にはポリュネイケスの息子が、今度は衣を同じ妻に贈り、彼女の息子たちまで戦いへ向かわせた。怒った息子は母を殺し、首飾りと衣を持ってさまよったあげく、それがもとで殺される。首飾りと衣がようやくデルポイの神殿に納められて、災いの連鎖は止んだ。
ハルモニアとカドモスの娘たちも、不幸に見舞われた。娘のひとりはゼウスに愛されて酒の神ディオニュソスを身ごもり、雷とともに現れた神の姿の前で息絶えた。別の娘は正気を奪われて海に身を投げ、また別の娘の息子は、鹿に変えられて自分の猟犬に食われた。
年老いた二人はテーバイを去り、北の地で人々を率いて戦い、王と王妃になった。そして最後には、二人そろって蛇に変えられた。アポロドーロスの伝えでは、ゼウスが蛇になった二人を、死後の楽園エリュシオンへ送ったという。ローマの詩人オウィディウスは、先に蛇になっていく夫を抱きしめたハルモニアが、神々よ私も同じ蛇に変えてください、と叫んだと描いている。
この物語の出典: ヘシオドス『神統記』、エウリピデス『バッコスの信女』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』