ギリシャ神話の地図
アガウエ母ディオニュソスいとこカドモス祖父テイレシアス予言者アクタイオンいとこセメレおばイノ・レウコテアおばテーバイ町
ペンテウスが母と、その姉妹たちに引き裂かれる場面。アントニオ・テンペスタの作。

ペンテウス

Πενθεύς人間

ペンテウスが母と、その姉妹たちに引き裂かれる場面。アントニオ・テンペスタの作。 『ペンテウスの死(母と姉妹たちに引き裂かれるペンテウス)、オウィディウス『変身物語』の挿絵 第30図』 アントニオ・テンペスタ 1606年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

ギリシャ語で「悲しみ」「嘆き」を意味する言葉がある。その言葉にそっくりな名を持った若い王がいた。エウリピデスの悲劇『バッコスの信女たち』でも、その名は不運の予告として口にされる。テバイの王ペンテウスである。

では、この若い王がなぜ母の手にかかって死ぬことになったのか、たどってみよう。

ペンテウスは、テバイの町を開いた老王カドモスから、王の位を譲られた孫だった。母は、カドモスの娘アガウエ。そのころテバイに、一人の異国の若者がやって来る。実は神ディオニュソスで、ペンテウスとはいとこにあたる。神の母と、ペンテウスの母は、姉妹だった。

町の女たちは家を捨てて町の外の山に入り、新しい神をたたえて踊り狂っていた。旅から戻ったペンテウスは激怒する。祖父カドモスと盲目の予言者までが、神の祭りの衣装を着て山へ向かおうとしていた。予言者は、新しい神を受け入れよと諭した。祖父は、同じ山で自分の猟犬に食い殺された、もう一人の孫の最期を持ち出していさめた。若い王は、どちらも聞き入れなかった。

ペンテウスは異国の若者を捕らえ、髪を切り、馬小屋に閉じ込めた。けれども、縛ったつもりの相手は、実は一頭の牡牛だった。やがて館は揺れ、火が燃え上がり、若者は何事もなかったかのように外に出てくる。

山から来た牛飼いは、女たちが素手で牛を引き裂くのを見たと報告した。ペンテウスはますます武力で押さえつけようとする。そこへ若者がささやいた。女たちの様子を、自分の目で見てみたくはないか。

王の心は、少しずつ神に乗っ取られていった。見つからないよう女の服を着て、長い髪をかぶり、神の杖を手に持った。町を歩く王は、太陽が二つ、テバイの町が二つに見えると言い、道案内の若者の頭に牛の角が生えて見えると口にした。

山に着くと、神は一本の高い樅の木をたわめ、王をその梢に座らせてから、ゆっくりと元に戻した。高い木の上の王は、女たちからまる見えだった。どこからか声が響く。女たちよ、お前たちとわたしを笑いものにした男を連れてきた。

女たちは木を引き倒した。先頭に立ったのは、母アガウエだった。ペンテウスは髪の紐を外して顔を見せ、母上、わたしです、と頼んだ。けれども狂った母の目に、息子は獣にしか見えなかった。

この物語の出典: エウリピデス『バッコスの信女』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

母には何に見えたか: エウリピデスでは、アガウエは息子の首を「若い獅子」の首と思い込み、テュルソスの先に刺してキタイロン山から持ち帰る。オウィディウスでは、アガウエは姉妹に「われらの畑をうろつくあの大猪を打て」と叫んで襲いかかる。アポロドーロスは、単に獣と思ったとする。

エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演、オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

オウィディウスの形: ペンテウスは予言者テイレシアスをあざけり、捕らえた神の従者アコイテスの長い話(神を売ろうとした海賊たちがイルカに変えられた話)にも耳を貸さない。自らキタイロン山に向かい、儀式を見ているところを最初に母に見つかり、叔母アウトノエとイノに両腕をもがれる。「アクタイオンの影に心を動かして」と叔母に叫ぶが、狂ったアウトノエにはアクタイオンが誰かも分からない。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

もっと詳しく

ホメロスとヘシオドスにはペンテウスの名が無い。ヘシオドス『神統記』はカドモスとハルモニアの娘としてアガウエの名を挙げるが、その子には触れない。現存する作品で筋が確かめられる最古のものは、エウリピデスの『バッコスの信女』(前405年上演)。それより前にアイスキュロスが、デルポイの巫女の口を借りて「バッコスの女たちを率いた神が、ペンテウスに兎のような死を縫い上げた」と、すでに知られた話として触れている。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃、アイスキュロス『オレステイア三部作(アガメムノン・供養する女たち・慈しみの女神たち)』 前458年、エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演

名前が運命を示す: 『バッコスの信女』で、テイレシアスはカドモスに「ペンテウスがあなたの家に悲嘆(penthos)を持ち込まぬよう気をつけよ」と言い、ディオニュソスも名乗ったペンテウスに「その名は不運にふさわしい」と返す。名前そのものが悲劇の予告として使われている。

エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演

エウリピデスの形: 若い王ペンテウスは、町の女たちが山で狂乱の祭儀をしていると聞いて怒り、人間の姿をした「リュディアから来た異国人」(実はディオニュソス)を捕らえる。しかし神にそそのかされて、女装して祭儀を覗き見に行き、神が引き下ろした高い木の上にいるところを見つけられる。先頭に立って襲ったのは母アガウエで、彼が頭の紐を外して「母上、私です」と頼んでも聞き入れられず、腕を引きちぎられた。

エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演

残り3件を読む

いとこ同士の悲劇: ペンテウスとディオニュソスは、共にカドモスの孫で、母同士(アガウエとセメレ)が姉妹のいとこにあたる。同じくカドモスの孫でアウトノエの子のアクタイオンも、キタイロン山で自分の猟犬に引き裂かれて死んでおり、『バッコスの信女』のカドモスは、その死を引き合いに出してペンテウスを諫める。

エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ペンテウスは捕らえた異国の若者(ディオニュソス)を馬小屋に閉じ込めて縛ろうとするが、実際に縛ったのは牡牛だった。

エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演

女装して町を出るペンテウスは、太陽が二つ、テバイが二つに見えると言い、案内する若者に牛の角が生えて見えると口にする。

エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演

ほかのつながり(1人)

家族・恋愛

次に読む

このページの出典(6件)
  1. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  2. 前458年アイスキュロス『オレステイア三部作(アガメムノン・供養する女たち・慈しみの女神たち)』
  3. 前405年上演エウリピデス『バッコスの信女』
  4. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  5. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  6. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』