古い形の一つ: 前5世紀の系譜家アクシラオスは、アクタイオンがセメレ(ゼウスの恋人でディオニュソスの母)に求婚したためゼウスが怒った、とする。前6世紀の抒情詩人ステシコロスも、セメレを妻にさせないために女神が鹿皮をアクタイオンにかぶせ、猟犬に襲わせたと歌ったという。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

Ἀκταίων英雄
ディアナ(アルテミス)と、狩人アクタイオン。ティツィアーノの作。 『ディアナとアクタイオン』 ティツィアーノ 1556〜1559年Public domain
ローマの詩人オウィディウスは、この若者の話を語りはじめる前に、わざわざ断っている。よく調べてみれば、彼の身に起きたのは不運であって、罪ではない。道に迷うことの、どこが罪だろうか。
鹿に変えられ、自分の猟犬に食い殺された狩人アクタイオン。その不運を、オウィディウスの『変身物語』に沿ってたどってみよう。
アクタイオンは、テーバイの町を築いた英雄カドモスの孫にあたる。アポロドーロスによれば、半人半馬の賢者ケイロンのもとで育てられ、狩人に仕込まれた。
ある日の昼、朝から山で獲物を追っていたアクタイオンは、仲間に今日はここまでにしようと声をかけた。網も槍も獲物の血で濡れていた。一人になった彼は、見知らぬ森の中を当てもなく歩き回った。
その谷の奥に、泉の湧く洞窟があった。狩りの女神アルテミスが、狩りに疲れると体を洗いに来る場所である。ちょうどその日も、女神はニンフたちに弓と矢と衣を預け、泉で水浴びをしていた。運命に導かれるように、アクタイオンはその洞窟に足を踏み入れてしまった。
裸のニンフたちは男の姿を見て胸を打ち、悲鳴を上げて女神のまわりを囲んだ。けれども女神は、ほかの誰よりも背が高く、首から上がのぞいてしまう。女神の顔は、日の光を受けた雲のように赤く染まった。手もとに矢があれば射たかっただろう。女神は代わりに水をすくい、若者の顔に浴びせて言った。さあ、私の裸を見たと人に話すがいい。話せるものなら。
水を浴びた頭に、鹿の角が生えた。首が伸び、耳がとがり、手足は細長い脚に変わり、体はまだらの毛に覆われた。アクタイオンは逃げ出し、自分の足の速さに驚いた。水に映った顔と角を見て、ああ情けない、と言おうとした。声は出なかった。うめき声だけがもれ、涙が自分のものではない顔を流れた。心だけが、もとのままだった。
そこへ、彼の猟犬たちが気づいた。オウィディウスは30頭以上の犬の名を一頭ずつ並べ立てる。犬たちは群れになって、鹿になった主人を岩場から谷へと追い回す。私はアクタイオンだ、主人がわからないのか、と叫ぼうとしても、言葉にならない。仲間の狩人たちは、何も知らずに犬をけしかけ、アクタイオンはどこだ、せっかくの獲物を見逃すなんて、と彼の名を呼んだ。その名を聞くたびに、鹿は振り向いた。いなければよかったと思っても、彼はそこにいた。犬たちはまわりを取り囲み、鹿の姿をした主人を引き裂いた。女神の怒りは、彼が命を落とすまで収まらなかったという。

女神を怒らせた理由は、出典によって違う。エウリピデスの悲劇『バッコスの信女』では、祖父カドモスが、アクタイオンは狩りの腕なら女神アルテミスより上だと豪語したために、自分で育てた犬に八つ裂きにされたのだ、と孫をいさめる。さらに古い伝えには、ゼウスの恋人に言い寄ったためにゼウスの怒りを買った、という話もある。
アポロドーロスは、主人を失って吠え続ける猟犬たちのために、ケイロンがアクタイオンの像を作って慰めたという結末も伝えている。
この物語の出典: エウリピデス『バッコスの信女』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、パウサニアス『ギリシア案内記』
古い形の一つ: 前5世紀の系譜家アクシラオスは、アクタイオンがセメレ(ゼウスの恋人でディオニュソスの母)に求婚したためゼウスが怒った、とする。前6世紀の抒情詩人ステシコロスも、セメレを妻にさせないために女神が鹿皮をアクタイオンにかぶせ、猟犬に襲わせたと歌ったという。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
エウリピデス『バッコスの信女』では、カドモスが孫ペンテウスをいさめて、アクタイオンは「狩りの腕ではアルテミスより上だ」と豪語したため、自分で育てた猟犬に八つ裂きにされたのだ、と言う。
エウリピデス『バッコスの信女』 前405年上演
「水浴び」の形: アポロドーロスは「大多数の人の説では」として、アルテミスの水浴びを見てしまったため、女神がその場で鹿に変え、50匹の猟犬を狂わせたとする。オウィディウスはこの形を詳しく描き、アクタイオンが偶然洞窟の泉に迷い込んだだけで罪はなかったと強調する。女神は水をかけて「見たと言えるものなら言ってみよ」と告げ、鹿に変える。
オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウスは猟犬の名を30頭以上並べ、声の出ない鹿の姿のアクタイオンを、仲間の狩人たちが「アクタイオンはどこだ」と呼びながら追い立てる場面を描く。アポロドーロスには、主人を失って吠え続ける猟犬のために、ケイロンがアクタイオンの像を作って慰めたという結末が残る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
パウサニアスは、メガラからプラタイアへの道の途中に「アクタイオンの寝床」と呼ばれる岩と泉があり、狩りに疲れて眠った彼が、この泉でアルテミスの水浴びをのぞいたと言われている、と記す。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
オウィディウスは話の前置きで、よく調べれば彼の身にあったのは運の罪であって悪事ではない、迷うことのどこが悪事か、と断っている。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
アルテミスは手近に矢がないので水をすくって彼の顔に浴びせ、「私の裸を見たと話せるものなら話すがいい」と言う。頭に角が生え、首・耳・手足が変わり、水に映った姿を見て嘆こうとしても声が出ず、心だけがもとのままだった。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
アリスタイオスと、カドモスの娘アウトノエの子。つまりカドモスの孫で、ディオニュソスやペンテウスとはいとこにあたる。テーバイ王家の不幸の最初の一つとして語られる。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃、オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃