ドリュアデス(単数ドリュアス)は樹木のニンフで、名は樹木 drys(カシの木)から。木とともに生を終えると信じられたことから、ハマドリュアデスとも呼ばれる。
平凡社『改訂新版 世界大百科事典』 2007年改訂(2026年9月閲覧)

Δρυάδες神
木の幹から半身を現した木の精。ド・モーガンの絵。 『ドリュアス』 イーヴリン・ド・モーガン 1884〜1885年Public domain
森の木を一本切り倒すと、その木に宿っていた娘の命も終わる。古代ギリシャの人々は、木の一本一本にそういう精がいると考えた。ドリュアス、つまり木のニンフである。名前は、ギリシャ語で樫の木を指す言葉から来ている。木と「ともに」命を終えるところから、ハマドリュアスとも呼ばれた。
木の精がどんな存在で、人間とどう関わってきたのか。古い讃歌と、二つの物語からたどってみよう。
ホメロス風讃歌と呼ばれる古い讃歌集の『アプロディテ讃歌』は、山のニンフの命についてこう語る。彼女たちは人間でも神でもない。長く生きて、神々の食べ物を口にする。そしてニンフが生まれるとき、樅や樫の木も一緒に大地から生えてくる。その木が枯れるとき、ニンフの命もまた日の光を離れていく。
その木を、守るべきものと考えなかった男がいた。ローマの詩人オウィディウスが『変身物語』で語るエリュシクトンである。豊穣の女神デメテルの聖なる森に、一本だけで森のように見える、樫の大木が立っていた。枝には願いがかなったお礼の飾りや花輪が掛けられ、その下では木の精たちがよく輪になって踊った。男は家来に斧を入れろと命じ、ためらう家来から斧を奪って、自分で打ちかかった。すると幹から声がした。私は女神に愛されたニンフで、この木の中にいる。死にゆく私が告げる。お前の罰はすぐに来る、と。
大木が倒れると、姉妹の木の精たちは喪の黒い衣をまとって女神のもとへ行き、男への罰を願った。女神はうなずき、「飢え」を男に取りつかせた。男はどれだけ食べても満たされなくなり、財産を食べ尽くし、娘まで売り、ついには自分の体を食べはじめた。
もう少し穏やかな結末の話もある。アポロニオスの『アルゴナウティカ』では、山で木を切っていた男が、樫の木の精の頼みを聞き入れなかった。その樫は精と同じ年月を生きてきた木で、精は泣きながら切らないでくれと頼んだ。男は若さの驕りで切り倒し、精の呪いは男とその子どもたちにかかった。息子は働いても働いても暮らしが苦しくなるばかりだったが、予言者の勧めで、そのニンフのために祭壇を建てて償いの供え物をした。

木の精は、恐ろしいだけの存在ではない。竪琴の名手オルフェウスの妻エウリュディケも、木のニンフだったと伝えられる。オルフェウスが殺されたとき、『変身物語』では、泉のニンフたちと木のニンフたちが、黒い喪服を着て髪をほどき、彼の死を悼んだ。
この物語の出典: 作者不詳『ホメロス風讃歌』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、オウィディウス『変身物語』、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』、平凡社『改訂新版 世界大百科事典』
ドリュアデス(単数ドリュアス)は樹木のニンフで、名は樹木 drys(カシの木)から。木とともに生を終えると信じられたことから、ハマドリュアデスとも呼ばれる。
平凡社『改訂新版 世界大百科事典』 2007年改訂(2026年9月閲覧)
一人一人の命は一本ずつの木と結びつき、木とともに生まれ、死ぬとされる。
ブリタニカ・ジャパン『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 随時改訂(2026年9月閲覧)
オウィディウスでは、ケレス(デメテル)の森の樫の下で木の精たちが踊り、エリュシクトンが切り倒すと、中にいたニンフが死の間際に罰を予告した。姉妹の木の精たちは喪の衣で女神に罰を願い、女神は「飢え」を送った。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
『アプロディテ讃歌』では、山のニンフが生まれるとき樅や樫が一緒に生え、その木が枯れるときにニンフの命も日の光を離れる。木を「ニンフの聖域」として人は斧を入れない、とも語る。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
アポロニオスでは、パライビオスの父が、自分と同じ年月を生きてきた樫を切らないでほしいというハマドリュアスの頼みを退けて切り倒し、その呪いが父と子どもたちにかかった。ピネウスの勧めで、息子はニンフのために祭壇を建てて償った。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀
『変身物語』
オウィディウス 著/中村善也 訳(岩波文庫)
神話の中の変身の話を、ローマの詩人オウィディウスがひとつながりに描いた作品。
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