ウェルギリウスの形: 川辺でアリスタイオスから逃げる途中、草むらの水蛇に気づかず噛まれて死ぬ。アリスタイオスの蜂が全滅したのはこの死の報いだった、という枠で語られる。夫が振り返った瞬間に「なんという狂気が私とあなたを滅ぼしたのか」と嘆き、煙のように消える。冥界の渡し守は、二度目の渡河をオルペウスに許さなかった。
ウェルギリウス『農耕詩』 前29年頃

Εὐρυδίκη人間
蛇に噛まれた足を押さえるエウリュディケ。ジャン=バティスト・カミーユ・コローの作。 『傷ついたエウリュディケ』 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 1868〜1870年ごろ ミネアポリス美術館Public domain
グルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』では、振り返った夫のせいで死んだ妻が、最後に愛の神の力で生き返り、二人は結ばれる。ところが、もとの神話の彼女は、二度死んでそれきりだった。その妻が、エウリュディケである。
では、夫オルペウスの物語の陰にいるこの女性の側から、話をたどってみよう。
意外なことに、古い時代のギリシャの資料では、オルペウスの妻には名前さえ付いていないことが多い。哲学者プラトンも、オルペウスが冥界へ迎えに行った「妻」と書くだけだ。物語が詳しく語られるのは、ローマの詩人たちからである。
ローマの詩人ウェルギリウスの語るエウリュディケは、川辺を必死に逃げていた。追ってきたのは、蜂を飼う一人の若者だった。逃げるのに夢中で、足もとの深い草むらに潜んでいた大きな水蛇に気づかなかった。噛まれた娘は死んだ。仲間のニンフたちの泣き声が、山々に響きわたった。
同じローマの詩人でも、オウィディウスの語り方は違う。婚礼の神が婚礼に来たが、吉兆は一つもなく、掲げた松明はくすぶって煙ばかり上げた。花嫁になったばかりのエウリュディケは、川のニンフたちと草原を歩いているとき、蛇にくるぶしを噛まれて死んだ。ここには追ってくる若者は出てこない。
夫オルペウスは、生きたまま冥界へ下り、竪琴の歌で冥界の王と妃の心を動かした。エウリュディケは、死んだばかりの霊たちのあいだから呼び出され、傷ついた足を引きずりながら、ゆっくりと進み出た。地上に出るまで振り返ってはならない。その条件で、彼女は夫のあとについて、暗い上り坂を歩きはじめた。

地上の光まであと少しのところで、夫は振り返った。
ウェルギリウスのエウリュディケは叫ぶ。オルペウス、なんという狂気が、私とあなたを滅ぼしたのか。またむごい運命が私を呼び戻す。眠りが私の目を閉じる。さようなら。大いなる夜に包まれて連れ去られていく。あなたに差し伸べるこの手は、もうあなたのものではない。そう言うと、煙が風に溶けるように消えた。
オウィディウスのエウリュディケは、夫を責めなかった。愛されたこと以外に、何を責めることがあるだろう。かろうじて聞こえるほどの「さようなら」を残して、彼女はもう一度冥界へ落ちていった。
それでもオウィディウスは、二人に続きを用意している。やがてオルペウス自身が殺されて冥界へ下ると、祝福された者たちの野で妻を見つけ、腕に抱いた。今は二人で並んで歩き、ときには彼女が先を、ときには夫が先を行く。夫はもう、安心して妻を振り返ることができる。
この物語の出典: プラトン『饗宴』、ウェルギリウス『農耕詩』、オウィディウス『変身物語』、クリストフ・ヴィリバルト・グルック作曲、ラニエーリ・デ・カルツァビージ台本『オルフェオとエウリディーチェ』
ウェルギリウスの形: 川辺でアリスタイオスから逃げる途中、草むらの水蛇に気づかず噛まれて死ぬ。アリスタイオスの蜂が全滅したのはこの死の報いだった、という枠で語られる。夫が振り返った瞬間に「なんという狂気が私とあなたを滅ぼしたのか」と嘆き、煙のように消える。冥界の渡し守は、二度目の渡河をオルペウスに許さなかった。
ウェルギリウス『農耕詩』 前29年頃
オウィディウスの形: 婚礼の神ヒュメナイオスが来ても吉兆はなく、新妻はナイアスたちと草原を歩くうちに踵を蛇に噛まれて死ぬ。アリスタイオスは出てこない。二度目の死でも夫を責めず、聞こえるかどうかの「さようなら」を残して引き戻される。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
オウィディウスは続く巻で、殺されて亡霊になったオルペウスが「敬虔な者たちの野」で彼女を見つけ、抱きしめる場面を置く。今度は並んで歩き、オルペウスは安心して彼女を振り返る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
「エウリディーチェ」はイタリア語形で、グルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』(1762)の邦題に使われる。この作品では最後に愛の神アモーレが彼女を生き返らせ、二人は結ばれる。台本作者カルツァビージは序文で「劇場に合わせるため結末を変えざるを得なかった」と書いている。
クリストフ・ヴィリバルト・グルック作曲、ラニエーリ・デ・カルツァビージ台本『オルフェオとエウリディーチェ』 1762年 ウィーン初演
コクトーの映画『オルフェ』(1950)では、舞台が現代のパリになり、ユリディス(マリー・デア)は死の使いのオートバイ乗りに連れ去られる。夫が振り返ってはいけないという条件は、鏡越しでも見てはいけないという形で残る。
ジャン・コクトー監督『オルフェ』 1950年
ウェルギリウスでは、振り返られたエウリュディケは「なんという狂気が私とあなたを滅ぼしたのか。またむごい運命が呼び戻す。眠りが目を閉じる。さようなら。もうあなたのものではない手をあなたに差し伸べながら、大いなる夜に包まれて運ばれていく」と語り、煙が風に混じるように消える。
ウェルギリウス『農耕詩』 前29年頃
オウィディウスでは、冥界の王と妃に呼ばれたエウリュディケは、新しく来た霊たちのあいだから、傷のためにゆっくりと足を引きずりながら進み出る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
古典期の資料では、オルペウスの妻は名前なしで語られる。プラトン『饗宴』も「彼が迎えに来た女」と言うだけで、名前を出さない。「エウリュディケ」という名が文学に現れる最古の例は、前1世紀の『ビオン哀悼歌』とされる。
プラトン『饗宴』 前4世紀前半