アポロドーロスでは、ゼウスに牝牛を盗むよう命じられたヘルメスは、ヒエラクスが告げ口したため密かに盗めず、石を投げてアルゴスを殺した。そこから「アルゲイポンテス(アルゴス殺し)」と呼ばれた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Ἄργος Πανόπτης怪物
倒れたアルゴス(右下)から目を取り出し、孔雀の尾羽に移す女神ヘラ。ルーベンスの絵。 『ユノとアルゴス』 ピーテル・パウル・ルーベンス 1610年代 ヴァルラフ・リヒャルツ美術館(ケルン)Public domain
孔雀が尾羽を広げると、目のような模様がいくつも並ぶ。古代ローマの詩人オウィディウスによれば、あれはもともと、ある番人の目だった。体じゅうに目をもち、いつもどこかの目が起きている巨人、アルゴスの目である。
この巨人が何をして、なぜ目を失ったのか。神話集と詩をたどってみよう。
アポロドーロスの神話集によれば、アルゴスは全身に目があり、「すべてを見る者」と呼ばれた。ひどく力が強く、アルカディアを荒らした牡牛を殺して、その皮を身にまとった。家畜を奪う乱暴者のサテュロスを倒し、通りがかりの人をさらう怪物エキドナも、眠っているところを討ち取った。
そんな番人に、女神ヘラはある牝牛の見張りを任せた。その牝牛は、ゼウスが愛した娘イオだった。ヘラに見つかりそうになったゼウスが娘を白い牝牛に変え、何もなかったと言い張ったのである。ヘラはその牝牛をもらい受けると、アルゴスに見張りを任せた。アルゴスは牝牛をオリーブの木につないだ。
ゼウスは息子ヘルメスに、牝牛を盗み出すよう命じた。アポロドーロスでは、ヘルメスは石を投げてアルゴスを殺し、そこから「アルゴス殺し」という呼び名を得たという。ヘシオドスの詩でも、ヘルメスはこの呼び名で呼ばれている。
オウィディウスは、この場面をもっと丁寧に描いた。彼のアルゴスは頭のまわりに百の目をもち、そのうち二つずつが交代で休み、残りはいつも起きている。どちらを向いても、イオがいつも目に入っていた。羊飼いに化けたヘルメスは、葦の笛を吹き、長い話を聞かせた。笛の由来を語るうちに、百の目は一つ残らず閉じた。ヘルメスはすかさず、曲がった剣で首を斬った。

一つの夜が、百の目をまとめて覆った。ヘラはその目を拾い集め、自分の鳥である孔雀の尾羽に、宝石のようにはめ込んだという。
この物語の出典: ヘシオドス『仕事と日』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
アポロドーロスでは、ゼウスに牝牛を盗むよう命じられたヘルメスは、ヒエラクスが告げ口したため密かに盗めず、石を投げてアルゴスを殺した。そこから「アルゲイポンテス(アルゴス殺し)」と呼ばれた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウスでは、百の目は二つずつ交代で休み、残りは起きている。羊飼いに化けたメルクリウス(ヘルメス)は葦笛を吹き、シュリンクスの話を語って百の目をすべて眠らせ、曲がった剣で首を斬って岩から落とした。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
アポロドーロスでは、アゲノルの子アルゴスは「すべてを見る者」と呼ばれ、全身に目があった。非常に強く、アルカディアを荒らす牡牛を殺してその皮をまとい、アルカディア人の家畜を奪うサテュロスを殺し、通行人をさらうエキドナを眠っているところで討ち、アピスを殺した者たちに報復した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
父母は伝える者で異なる。アポロドーロスはアゲノルの子とする一方、ペレキュデスはアレストルの子、アスクレピアデスはイナコスの子、ケルコプスはアルゴスとイスメネの子、アクシラオスは大地から生まれたとする説を並べる。オウィディウスはアレストルの子とする。
オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヘラはゼウスから牝牛になったイオをもらい受け、アルゴスに見張らせた。アルゴスは牝牛をミュケナイの森のオリーブの木につないだ。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アルゴスが死ぬと、ユノ(ヘラ)はその目を集めて自分の鳥である孔雀の羽に置き、尾を星のような宝石で満たした。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ヘシオドスの『仕事と日』でも、ヘルメスは「アルゴス殺し」の呼び名で呼ばれる。
ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃
『ギリシア神話』
アポロドーロス 著/高津春繁 訳(岩波文庫)
世界のはじまりから英雄たちの冒険、トロイア戦争までを順にまとめた神話集。
『変身物語』
オウィディウス 著/中村善也 訳(岩波文庫)
神話の中の変身の話を、ローマの詩人オウィディウスがひとつながりに描いた作品。
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