アポロドロスでは、エピメテウスとパンドラの娘ピュラが、プロメテウスの子デウカリオンと結婚し、ゼウスの大洪水を二人だけ生き延びる。先に考える兄の子と、あとで考える弟の子が夫婦になって人類をやり直す。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Ἐπιμηθεύς神
獣には牙や爪があり、鳥には翼があり、熊には厚い毛皮がある。なのに人間は、裸で、はだしで、武器ひとつ持たずに生まれてくる。哲学者プラトンの書いた対話の中で、その理由として語られる神話がある。うっかり者の神が、配る順番を間違えたのだ、と。
その神の名はエピメテウス。「後から考える者」という意味の名を持つ、火を盗んだ神プロメテウスの弟である。
兄のプロメテウスは「先に考える者」。兄弟は、ティタン族の神の息子で、天を支える巨人アトラスとも兄弟にあたる。名前からして、すでに正反対の二人だった。
プラトンの対話『プロタゴラス』の神話では、神々が地中で生き物を形づくり、光のもとへ出す前に、兄弟に能力を配る役目を任せた。自分に配らせてほしい、あとで兄さんが見てくれればいい。そう言って引き受けた弟は、ある動物には力を、別の動物には速さを与え、小さな者には翼や地下の隠れ家を、大きな者には体の大きさそのものを与えた。寒さを防ぐ毛皮、足を守るひづめ、食べる物の違い。うまく釣り合うように配っていった。
ところが最後に人間の番が来たとき、配るものはもう何ひとつ残っていない。見に来た兄が目にしたのは、裸で、はだしで、寝床も武器もない人間だった。困ったプロメテウスは、鍛冶の神ヘパイストスと女神アテナのもとから、技術の知恵と火を盗み出して人間に与えた、と神話は続く。
もっと古い、ヘシオドスの『仕事と日』の語る失敗は、さらに取り返しがつかない。火を盗まれた神々の王ゼウスは、人間への罰として、神々から贈り物を詰め込まれた美しい娘パンドラを作らせた。兄はかねて弟に言い聞かせていた。ゼウスからの贈り物は決して受け取るな、送り返せ、と。伝令神ヘルメスが娘を届けに来ると、エピメテウスは兄の言葉を忘れて受け取ってしまう。災いが自分のものになってから、ようやく気づいた。まさに「後から考える者」である。
パンドラが甕の蓋を開けたことで、人間の世界にはあらゆる災いがあふれ出た。

ただ、この兄弟の話には続きがある。後の時代の伝えでは、エピメテウスとパンドラのあいだに娘が生まれ、その娘がプロメテウスの息子と結婚した。ゼウスが大洪水で人類を滅ぼしたとき、この夫婦だけが生き延びて、新しい人間の祖となる。先に考える兄の子と、後から考える弟の子が、人類をもう一度始めたのである。
この物語の出典: ヘシオドス『仕事と日』、ヘシオドス『神統記』、プラトン『プロタゴラス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
アポロドロスでは、エピメテウスとパンドラの娘ピュラが、プロメテウスの子デウカリオンと結婚し、ゼウスの大洪水を二人だけ生き延びる。先に考える兄の子と、あとで考える弟の子が夫婦になって人類をやり直す。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
『神統記』ではエピメテウスは「うかつな」者で、ゼウスが作った乙女(のちのパンドラ)を最初に受け入れたために、初めから人間にとって災いのもとになった、とだけ語られる。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
『仕事と日』では、プロメテウスが「オリュンポスのゼウスからの贈り物は受け取らず送り返せ」と言っておいたのに、エピメテウスはそれを忘れてパンドラを受け取り、災いが自分のものになってから気づいた。名前どおり「あとから分かる」者として描かれる。
ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃
プラトン『プロタゴラス』の神話では、神々が生き物を作ったとき、エピメテウスが兄に代わって各種族に能力を配る役を引き受け、力・速さ・翼・毛皮などを動物に配り尽くし、人間の分を残し忘れる。裸で丸腰の人間を見たプロメテウスは、ヘパイストスとアテナのもとから技術の知恵と火を盗んで人間に与える。
プラトン『プロタゴラス』 前4世紀前半
プロメテウスの名は古くから「前もって考える者」と解されてきた(ただし民間語源とする見方もある)。エピメテウスはその反対の「あとで考える者」で、兄弟の名そのものが物語の筋になっている。
ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
エピメテウス(土星の衛星)/ Epimetheus土星の衛星エピメテウスは、1966年に観測されたとき、同じ軌道にもう一つの衛星ヤヌスがいることに誰も気づかず、1つの星だと思われていた。2つの天体がほとんど同じ軌道を分け合っていると分かったのは1978年で、1980年に探査機ボイジャー1号が確かめた。名は、兄弟プロメテウスの忠告を聞かずに、神々から贈られたパンドラを受け入れたエピメテウスから。土星にはプロメテウスとパンドラの名を持つ衛星もあり、神話の三人が同じ星のまわりにそろっている。