ギリシャ神話の地図
デウカリオン夫パンドラ母エピメテウス父プロメテウス義父ヘレン息子テミス女神デウカリオンの洪水大洪水
デウカリオンとピュラ。ピーテル・パウル・ルーベンスの作。

ピュラ

Πύρρα人間

デウカリオンとピュラ。ピーテル・パウル・ルーベンスの作。 『デウカリオンとピュラ』 ピーテル・パウル・ルーベンス 1636年Public domain

「パンドラの箱」のパンドラには、娘がいた。アポロドーロスによれば、その娘ピュラは、世界を洪水が覆ったあと、夫と二人きりで生き残った女性である。災いを世界に放った最初の女の娘が、洪水のあとの人類の母になった。

ピュラと夫が、どうやって新しい人間を生み出したのか。ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』を中心に見ていこう。

ピュラの父は、神プロメテウスの兄弟。夫デウカリオンは、そのプロメテウスの息子だった。二人はいとこどうしの夫婦である。

人間の悪行に怒ったゼウスは、大雨を降らせて地上を水の底に沈めた。アポロドーロスによれば、デウカリオンは父プロメテウスの助言で箱舟を作り、食料を積んでピュラと乗り込んだ。オウィディウスは、二人の小舟がパルナッソス山の頂に流れ着いたと書く。何千何万といた人間のうち、生き残ったのは男が一人、女が一人。二人とも罪がなく、神々を敬っていた。デウカリオンほど正しい男はおらず、ピュラほど神々を畏れる女はいなかった、とオウィディウスは言う。ゼウスは雲を払い、水を引かせた。

水に呑まれていく地上。人々と動物が高い所へ逃れようとする。
水に呑まれていく地上。人々と動物が高い所へ逃れようとする。『デウカリオンの洪水』 1589年 アムステルダム国立美術館CC0

静まりかえった世界を見て、デウカリオンは妻に語りかけた。東から西まで、この世にいるのは私たち二人だけだ。もし私だけが助かっていたら、あなたはどうしただろう。もし海があなたを奪っていたら、私もあなたの後を追って、海に呑まれていただろう。二人は泣いた。

二人は、苔むした掟の女神の神殿へ行き、ひれ伏して尋ねた。どうすれば人間をよみがえらせることができるのでしょう。女神は答えた。神殿を出て、頭を覆い、帯を解いて、偉大な母の骨を背後に投げよ。

二人は長いこと黙り込んだ。先に口を開いたのはピュラだった。お許しください、とてもできません。母の骨を投げて、その霊を傷つけるなど、恐ろしい。謎を解いたのは夫のほうだった。偉大な母とは大地のことだ。大地の体の骨とは、石のことだろう。

半信半疑のまま、二人は頭を覆い、帯を解いて、石を肩越しに後ろへ投げた。すると石は固さを失い、少しずつ柔らかくなって、形をとりはじめた。はじめは彫りかけの大理石の像のようだったが、湿った土の部分は肉に、固い部分は骨に変わり、石の筋はそのまま血管になった。夫の投げた石は男に、ピュラの投げた石は女になった。オウィディウスは、だから人間は硬く、苦労に耐える種族なのだと結んでいる。

顔を覆った夫婦が背後に石を投げる。石は男たちと女たちに変わっていく。
顔を覆った夫婦が背後に石を投げる。石は男たちと女たちに変わっていく。『新しい人類をつくるデウカリオンとピュラ』 1589年 アムステルダム国立美術館CC0

アポロドーロスによれば、二人のあいだに生まれた最初の子がヘレンだった。ギリシャ人が自分たちを呼ぶ名、ヘレネスのもとになった人物である。

この物語の出典: ヘシオドス(に帰される)『女たちのカタログ(エーホイアイ)断片』、ピンダロス『祝勝歌集』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

ローマ以後の語り

父はエピメテウス、母は神々が最初の女として造ったパンドラ。「箱(壺)を開けた」パンドラの娘が、洪水のあとの人類の母になる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

水が引いたあと、夫とともに頭越しに石を投げ、ピュラの投げた石は女になった。

オウィディウス『変身物語』 8年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

オウィディウスでは、テミスの神託「偉大な母の骨を背後に投げよ」を聞いたピュラが、母の骨を投げて亡霊を傷つけるのは畏れ多いと言って、しばらく従おうとしない。謎を解くのは夫のほう。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

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オウィディウスは、デウカリオンほど正しい男はおらず、ピュラほど神々を畏れる女はいなかった、と二人を並べて称える。だからユピテルは二人だけを生かした。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

水が引いたあと、デウカリオンはピュラに、この世に残ったのは自分たち二人だけだ、もし海があなたを奪っていたら自分も後を追って海に呑まれただろう、と語り、二人は泣いた。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

投げられた石は固さを失って柔らかくなり、彫りかけの大理石像のような形をとったのち、湿った土の部分は肉に、固い部分は骨に、石の筋は血管になった。オウィディウスは、だから人間は硬く、苦労に耐える種族なのだと結ぶ。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

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名はギリシャ語で「炎色の、赤毛の」を意味する形容詞 pyrrhos と同じ形。

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仲間・師弟

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このページの出典(4件)
  1. 前6世紀頃ヘシオドス(に帰される)『女たちのカタログ(エーホイアイ)断片』
  2. 前5世紀前半ピンダロス『祝勝歌集』
  3. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』