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4トロイア戦争

人間の五つの時代

χρύσεον γένος出来事

スポーツでも音楽でも、いちばん輝いていた時期を「黄金時代」と呼ぶ。英語の golden age は、16世紀半ばから「過ぎ去った完全な時代」の意味で使われるようになった言葉で、もとをたどると、古代ギリシャとローマの詩人たちの考えに行き着く。人間の歴史は金の時代から始まり、だんだん悪くなってきた、という考えだ。

では、詩人たちが語った「金の時代」とはどんな時代で、人間の世界がそのあとどうなっていったのか、たどってみよう。

いちばん古い語り手は、ヘシオドスの『仕事と日』である。オリュンポスの神々が最初に作ったのは、金の種族の人間だった。ゼウスの父クロノスが天を治めていたころのことだ。彼らは神々のように、悩みも苦労も悲しみも知らずに暮らした。惨めな老いは訪れず、手足はいつまでも衰えず、宴を楽しんだ。大地は耕さなくても、実りをたっぷりと恵んだ。死ぬときも、眠りに落ちるように穏やかだった。死んだあと、彼らは霧に身を包んで地上をめぐる善い霊となり、人間を見守って富を授けるようになった。

耕さなくても木の実や果物が手に入る、金の時代の人々。
耕さなくても木の実や果物が手に入る、金の時代の人々。『黄金時代』 ヨアヒム・ウテワール 1605年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

次に神々が作ったのは、銀の種族だった。体も心も、金の種族とは比べものにならないほど劣っていた。子どもは母親のそばで100年も、分別のない幼子のまま遊んで育つ。ようやく大人になっても、愚かさゆえに苦しみのうちに短く生きるだけだった。互いを傷つけ合い、神々を敬わず、祭壇に供え物もしない。怒ったゼウスは、彼らを地の下に隠してしまった。

ゼウスが作った三番目の種族は、青銅の種族。とねりこの木から生まれ、恐ろしく強く、軍神アレスの仕事と暴力を好んだ。パンを食べず、心は鋼のように固い。鎧も家も道具も青銅で、黒い鉄はまだなかった。彼らは自分たちの手で殺し合って滅び、名を残さず冥界へ下っていった。

四番目は、ひときわ正しく気高い、英雄たちの種族だった。半神と呼ばれた彼らのある者は、テーバイの七つの門の前で、またある者はヘレネのために海を渡ったトロイアで、戦いに倒れた。ゼウスは残りの者たちに、大地の果ての「幸いな者たちの島」を住まいとして与えた。そこでは、大地が一年に三度も甘い実りをもたらすという。

そして五番目が、いまの鉄の種族だ。ヘシオドスは嘆く。できることなら、この五番目の種族に生まれたくなかった。人々は昼も夜も苦労と悲しみから逃れられない。やがて子が白髪頭で生まれてくるようになると、ゼウスはこの種族も滅ぼすだろう。父と子は心を通わせず、客人も友も兄弟も大切にされなくなる。力が正義になり、慎みは消える。最後には、恥を知る心と義憤の女神が白い衣に身を包んで、人間を見捨てて神々のもとへ去っていく、と。

同じ話を、夜空の星に結びつけた詩人もいる。アラトスの『星辰譜』によれば、おとめ座の乙女は、かつて地上で人間と一緒に暮らしていた正義の女神だった。金の時代、女神は広場に長老たちを集めて、正しい掟を説いて聞かせた。人々は争いも裁判も知らず、危険な海に船を出すこともなく、牛と鋤で暮らしていた。銀の時代になると、女神は夕暮れどきにだけ山から下りてきて、人々を叱った。そして青銅の種族が初めて人を殺す剣を鍛え、畑を耕す牛まで食べるようになったとき、女神はその種族を憎んで天へ飛び去り、星座になったという。

ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』は、時代を四つにまとめている。金の時代には、罰する者も法もないのに、人々はおのずと正しく生きていた。山の松を切って船にすることもなく、町を堀で囲むことも、剣や兜もなかった。春が永遠に続き、川には乳と神々の飲み物が流れ、樫の木からは蜂蜜がしたたった。クロノスが闇の底へ落とされてゼウスの世になると、銀の時代が来る。季節が生まれ、人は初めて家を建て、畑を耕すようになった。青銅の時代の人々は、荒々しく武器を取りやすかったが、まだ罪深くはなかった。

最後の鉄の時代には、あらゆる悪が押し寄せた。恥と真実と信義は逃げ去り、欺きと暴力と欲が居座った。船が見知らぬ海へ乗り出し、誰のものでもなかった大地に境界が引かれ、人々は地の底から鉄と、鉄よりも害の多い金を掘り出した。客は主人に、義父は婿に気を許せない。そして血に濡れた大地を、神々のうちで最後まで残っていた正義の乙女も、ついに去っていった。この堕落がゼウスを怒らせ、やがて人類を滅ぼす大洪水へとつながっていく。

この物語の出典: ヘシオドス『仕事と日』、アラトス『星辰譜(パイノメナ)』、オウィディウス『変身物語』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ヘシオドス『仕事と日』は、神々とゼウスが順に作った五つの種族を語る。金(クロノスの治世)、銀、青銅、英雄(半神)、そして詩人自身が生きる鉄の種族。金属の名の中に、金属でない英雄の種族が挟まっているのが特徴。

ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃

オウィディウス『変身物語』では時代は金・銀・青銅・鉄の四つで、英雄の時代はない。金の時代には法も罰もなく、船も城壁も武器もなく、永遠の春の中で乳とネクタルの川が流れ、樫から蜂蜜がしたたった。サトゥルヌス(クロノス)がタルタロスへ送られユピテルの世になると銀の時代となり、季節と家と農耕が始まる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

ローマ以後の語り

オウィディウスの鉄の時代には、恥・真実・信義が逃げ、欺き・暴力・所有欲が入れ替わる。航海が始まり、土地に境界が引かれ、鉄と「鉄よりも害の多い」金が掘り出された。血に濡れた大地を、天の神々のうち最後に処女アストライアが去った。その後に巨人の反乱、リュカオンの話、大洪水が続く。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

英語 golden age「過ぎ去った完全な時代」は1550年代から見え、ギリシャ・ラテンの作家たちの考えに由来する。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

もっと詳しく

金の種族は神々のように悩みも苦労もなく、老いを知らず、眠るように死んだ。大地は耕さずとも実りを与えた。死後は、霧をまとって地上をめぐり人間を見守り、富を授ける善い霊になった。

ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃

銀の種族は、子が母のもとで100年も幼子のまま育ち、大人になると愚かさゆえに互いを傷つけ、神々を敬わず供え物もしなかったため、短命でゼウスに隠された。死後は地下の霊と呼ばれる。

ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃

青銅の種族はとねりこの木から生まれ、アレスの業と暴力を好み、パンを食べず、鎧も家も道具も青銅だった。黒い鉄はまだなかった。彼らは互いの手で滅び、名も残さず冥界へ下った。

ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃

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英雄の種族は、テーバイでオイディプスの家畜をめぐって、またトロイアでヘレネのために戦って倒れた。残りの者はゼウスによって大地の果て、オケアノスのほとりの幸いな者たちの島に住まわされ、年に三度実る大地の恵みを受ける。

ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃

詩人は「五番目の種族の中にいたくなかった」と嘆く。鉄の種族は昼夜苦労し、子が白髪で生まれるころにゼウスに滅ぼされる。親子・客と主人・友・兄弟の信頼が失われ、力が正義となり、最後にアイドス(恥)とネメシス(義憤)が白い衣に身を包んで神々のもとへ去る。

ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃

アラトスは、おとめ座の乙女を、金の時代に人間と交わって暮らし、広場で長老たちに掟を説いた正義の女神ディケとする。銀の時代には夕方だけ山から下りて人々を叱り、青銅の種族が初めて剣を鍛え、耕す牛を食べるようになると、天へ飛び去って星座になった。

アラトス『星辰譜(パイノメナ)』 前3世紀前半

プラトン『国家』では、同じ金属の序列が国家の身分の神話に使われる。神は支配者に金を、補助者に銀を、農民や職人に鉄と銅(青銅)を混ぜて作った。鉄や銅の守護者が国を守るとき国は滅びる、という神託があると語らせる。

プラトン『国家』 前375年頃

寄港地

  1. 4トロイア戦争テーバイ攻めの七将

今の言葉に残る

ヒーロー(hero)英語の hero は、ギリシャ語の hērōs(半神)から来ている。語源辞典によれば、ギリシャ神話では神と人間のあいだに生まれた者、とくに人間のために働いた者を指した。英語では14世紀後半から「並外れた力や勇気をもつ男」の意味で使われ、1690年代からは劇や物語の主人公も指すようになった。ヘシオドスの『仕事と日』は、人間の種族の移り変わりを語る中で、いまの人間のひとつ前に「半神と呼ばれる、神のような英雄たちの種族」がいたと書く。七つの門のテーバイでの戦いや、ヘレネのためのトロイアの戦いで多くが死に、残りはゼウスによって大地の果て、大洋のほとりの至福の島々に住まわされたという。

おとめ座 / Virgoおとめ座(乙女座)の乙女は、人間に愛想を尽かして天へ去った女神だ、という話がある。紀元前3世紀のアラトスが星座を題材に書いた詩『星辰譜』によれば、この女神はむかし地上で人間とともに暮らし、広場や大通りに長老たちを集めては、人々のためになる裁きを説いていた。人々は彼女を「正義」と呼んだ。争いも戦もなく、船で遠くへ出る者もいない金の時代のことである。銀の時代になると、女神は夕方に山からひとりで下りてきて、人々の悪い行いを叱るだけになった。そして青銅の時代、人間が初めて悪事のための剣を鍛え、畑を耕す牛まで食べるようになったとき、女神はこの種族を嫌って天へ飛び去った。いまも夜空に見える乙女がその姿だという。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』もこの話を紹介しつつ、同じ星座を実りの女神ケレス(デメテル)や幸運の女神とする人もいて意見が合わない、それは乙女の頭のあたりの星が暗すぎるからだ、と書いている。英語の Virgo はラテン語で「乙女」の意味で、1000年ごろから使われている。

星座になった話

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このページの出典(5件)
  1. 前700年頃ヘシオドス『仕事と日』
  2. 前375年頃プラトン『国家』
  3. 前3世紀前半アラトス『星辰譜(パイノメナ)』
  4. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  5. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』