さそり座の神話
思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
狩人の大口を罰したさそり
さそり座のさそりは、狩人オリオンを刺し殺したさそりだという。ローマ時代のヒュギヌスの星座の本『天文譜』では、ことの起こりは狩人の自慢話だった。狩りでは誰にも負けないと思い込んでいたオリオンが、女神アルテミスと母のレトの前で、この地面から湧いて出るものなら、どんな生き物でも仕留められる、と大きく出たのである。
ローマ期天文譜
これに腹を立てた大地が、さそりを送り込み、オリオンは刺されて死んだ。ゼウスは、さそりとオリオン、どちらの気概にも感心した。そしてさそりを星々のあいだに置いた。自分の力を当てにしすぎるな、という戒めを、その姿で人間たちに示すためである。
ローマ期天文譜
オリオンを惜しんだアルテミスは、大地には頼まれもしないのに与えたのと同じ恵みを、願い出た自分にも与えてほしい、とゼウスに求めた。こうしてオリオンも星になった。ただし、さそりが昇ってくると、オリオンが沈むように置かれたのだという。
ローマ期天文譜
丘を裂いて呼び出されたさそり
前3世紀の詩人アラトスは、星座の詩『星辰譜』で、別の理由を伝えている。アラトスは、アルテミスよ許したまえ、と断ってから、昔の人の話を語り出す。オリオンはキオス島で、島の王のために棍棒で獣を狩っていたとき、女神の衣に手をかけたのだという。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
アルテミスはすぐさま、島を囲む丘を真っ二つに裂き、まったく別の獣を呼び出した。それがさそりである。力自慢のオリオンよりも、さそりのほうが強かった。それで今も、東の地平からさそりが姿を現すころ、オリオンは西の端へと沈んで逃げていく、とアラトスは結ぶ。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
女神の母を狙ったさそり
ローマの詩人オウィディウスの『祭暦』では、オリオンはアルテミスの供をし、女神を守る役目についていた。ところが、うっかり口にした一言が神々を怒らせる。自分に勝てない獣など一匹もいない、と。
ローマ期祭暦
大地が送り込んださそりは、双子の神の母レトに、曲がった毒針を向けた。その前に立ちはだかったのがオリオンだった。レトは彼を輝く星々に加え、あなたの働きへのほうびです、と言ったという。
ローマ期祭暦
この話の項目
- オリオン巨人の狩人。『イリアス』ではすでに星座として空にあり、『オデュッセイア』では曙の女神エオスに選ばれたためにアルテミスに射殺され、冥界でも獣を追い続けている。死に方は出典ごとに大きく違い、サソリに刺されたという話から、サソリ座が昇るとオリオン座が沈むという星の動きの説明が生まれた。
- アルテミスゼウスとレトの娘でアポロンの双子の姉妹。狩りと野獣、処女性を司る。女性の突然死は彼女の矢によるとされた。トロイア戦争ではトロイア側に立つが、『イリアス』では神々の中でも弱い存在として描かれる。
- レトティタン神族の娘で、ゼウスとの間にアポロンとアルテミスを産んだ女神。出産の場所を求めてあらゆる土地に拒まれ、小島デロスだけが受け入れた。トロイア戦争ではトロイア側に立つ。
- ガイアカオスに次いで生まれた大地の女神で、ギリシャ神話の系図のほぼすべての出発点。ウラノスを単独で産み、その子らを産み、さらに夫ウラノスを倒す計略を立てた。神々の世代交代はいずれもガイアの助言から始まる。
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。