ギリシャ神話の地図
オデュッセウス愛した男ヘルメス使いゼウス命じた神アテナ守り神アトラス父ペネロペイア恋敵オギュギア島住まい
洞窟の前のカリュプソ(右)と、岩の上から海のほうを向いて立つオデュッセウス。ベックリンの絵。

カリュプソ

Καλυψώ神

洞窟の前のカリュプソ(右)と、岩の上から海のほうを向いて立つオデュッセウス。ベックリンの絵。 『オデュッセウスとカリュプソ』 アルノルト・ベックリン 1882年 バーゼル市立美術館Public domain

オデュッセウスの漂流11 / 14

2026年のクリストファー・ノーラン監督の映画『オデュッセイア』で、シャーリーズ・セロンが演じた女神がいる。英雄オデュッセウスを、7年ものあいだ島に引き留めた女神カリュプソだ。その名は「隠す者」と説明される。

では、英雄を隠し続けた女神カリュプソが、原典の『オデュッセイア』でどんな姿を見せるのか、見ていこう。

カリュプソの島は、「海のへそ」と呼ばれる遠い海の真ん中にある。彼女は天を支える巨人アトラスの娘で、島の大きな洞窟に住んでいた。

使いに来た伝令神ヘルメスでさえ、足を止めて見とれた島である。洞窟の炉では杉とネズの薪が燃え、その香りが島じゅうに漂っていた。女神は美しい声で歌いながら、黄金の杼で機を織っている。洞窟のまわりにはハンノキやポプラや糸杉の森が茂り、フクロウやハヤブサが巣を作る。入口には葡萄の蔓が房を垂らし、4つの泉が並んで澄んだ水を流していた。

戦争の帰り道に船を失い、ひとり流れ着いたオデュッセウスを、カリュプソは愛した。夫として島に留め、不死で年を取らない身にしてやろうとまで申し出た。7年が過ぎた。

オデュッセウスの心は、とうに離れていた。夜は仕方なく女神の横で眠ったが、昼は浜の岩に座って海を見つめ、泣いて過ごした。

見かねた女神アテナの訴えで、神々の王ゼウスはヘルメスを送った。あの男を故郷へ帰らせよ。カリュプソは身を震わせて抗議した。男の神々が人間の女と結ばれても咎められないのに、女神が人間の男を夫にすると、あなたたちはいつも妬む。それでも、ゼウスの命令には逆らえない。

女神は浜のオデュッセウスのもとへ行き、もう泣かなくていい、帰してあげる、と告げた。木を切って筏を作りなさい。ところがオデュッセウスは身を震わせた。筏で大海を渡れとは、何か別の企みがあるのではないか。災いを企んでいないと、神々の大いなる誓いを立ててほしい。女神は微笑んで彼をなで、なんと疑り深い人でしょう、と言いながら、神々が最も恐れる冥界の川の名にかけて誓った。

最後の夕食の席で、女神はもう一度だけ尋ねる。故郷に着くまでにどれほど苦しむか分かっていたら、ここに残って不死になるでしょうに。それに、姿でも背丈でも、私が人間の妻に劣るとは思えない。オデュッセウスは答えた。妻があなたに及ばないことは、よく分かっている。妻は人間で、あなたは不死で年を取らない。それでも私は、家に帰る日を毎日待ちわびている。

カリュプソは斧と道具を与えて筏作りを手伝い、布を渡して帆を張らせ、食べ物と追い風を送って彼を海へ出した。筏は4日で出来上がり、船出から18日目に、次の国の陸が見えた。

『オデュッセイア』は、二人の間に子どもがいたとは言わない。ところが後の時代には、子がいたとする伝えも現れる。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』、クリストファー・ノーラン監督『映画『オデュッセイア』』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ホメロスでは「悪意を抱くアトラスの娘」とされる。ヘシオドス『神統記』ではオケアノスの娘たちの一人として名が挙がっており、系譜が一致しない。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、ヘシオドス『神統記』 前700年頃

異伝: ホメロスは二人の間の子に触れないが、ヘシオドス『神統記』ではナウシトオスとナウシノオスを産んだとされ、アポロドーロスの摘要ではラティノスを産んだとされる。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

現代解釈: クリストファー・ノーラン監督の映画『オデュッセイア』(2026年)でシャーリーズ・セロンが演じる。

クリストファー・ノーラン監督『映画『オデュッセイア』』 2026年7月17日公開

もっと詳しく

オデュッセウスがオギュギア島に留め置かれた期間は7年。本人がアルキノオスの前でそう語る。漂流10年のうち最も長い停滞で、物語の開始時点も彼がここにいる場面から始まる。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

オデュッセウスを不死で不老にすると申し出る。彼は「ペネロペイアはあなたに比べれば姿も背丈も劣る、彼女は人間であなたは不死の身だ」と認めたうえで、それでも故郷に帰りたいと答える。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ヘルメスに解放を命じられると、女神が人間の男を伴侶にすると神々は妬むが、男神が人間の女を娶るのは咎めないと抗議する。神々の側の不公平を女神自身が指摘する珍しい場面。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

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引き留めをやめた後は、斧と手斧を与え木を教え、布を与えて筏作りを助ける。筏は4日で完成し、18日目にパイエケス人の陸が見える。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ヘルメスが訪れたカリュプソの洞窟では、杉とネズの薪が香り、女神は歌いながら黄金の杼で機を織っていた。周りにはハンノキ・ポプラ・糸杉の森、フクロウやハヤブサの巣、葡萄の蔓、並んで流れる4つの泉、スミレとパセリの草地があり、不死の者でも見とれるほどだった。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

オデュッセウスは夜は洞窟でしかたなく女神の横に眠ったが、昼は浜の岩に座り、涙を流して海を眺めていた。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

筏で帰れと言われたオデュッセウスは企みを疑い、災いを企まないと大いなる誓いを立ててくれと求める。カリュプソは微笑んで彼をなで、大地と天とステュクスの水にかけて誓った。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ほかのつながり(3人)

家族・恋愛

  • オケアノス親

    359 オケアニスの一人。ホメロスはカリュプソをアトラスの娘とする

仲間・師弟

  • ニンフ仲間

    『オデュッセイア』1.14, 5.57 などでカリュプソは「ニンフ」と呼ばれる。関係の種類は仮に「仲間」とした

  • オケアニス仲間

    『神統記』359 姉妹の一人として名が挙がる。ホメロスのカリュプソ(アトラスの娘)と同一かは不明

今の言葉に残る

カリプソ(土星の衛星)/ Calypso土星の衛星カリプソは、1980年に地上の望遠鏡で見つかった半径10キロほどの小さな衛星である。大きな衛星テティスと同じ軌道を、60度遅れて追いかけるように回っている。名は、オデュッセウスを島に7年引き留めた女神カリュプソから。『オデュッセイア』では、父は天を支えるアトラスで、土星にはアトラスの名を持つ衛星もある。前を行く衛星テティスの地形には『オデュッセイア』の人物や場所の名が付いていて、カリュプソは自分の物語の後ろを回っていることになる。

カリプソ(音楽)トリニダード島で育った歌・音楽のジャンル名。語源辞典は、この音楽の意味での初出を1934年とし、名の由来ははっきりしないとして、『オデュッセイア』の女神カリュプソとの関係には触れていない。精選版日本国語大辞典も、音楽のカリプソ(スペイン語由来とする)と、女神カリュプソの英語名としてのカリプソを、別の項目に分けて載せている。女神の名 Καλυψώ は、kalyptein「覆い隠す」から「隠す者」の意とされる。

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このページの出典(4件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  4. 2026年7月17日公開クリストファー・ノーラン監督『映画『オデュッセイア』』