『神統記』では、テテュスがオケアノスとのあいだに渦巻く河々と「聖なる娘たちの一族」を産む。四十人余りの名が挙げられたあと、「これは年長の娘たちで、ほかにも大勢いる。足首のほっそりしたオケアノスの娘は三千人いて、大地と湖の深みのあちこちにいる」と続く。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃

Ὠκεανῖναι神
波間の岩に集う海の娘たち。ドレの絵。 『オケアニスたち(海のナイアス)』 ギュスターヴ・ドレ 1860年ごろPublic domain
姉妹の数は、3000人。
『神統記』は、大洋の神オケアノスとその妻テテュスのあいだに生まれた娘たちの名を、40人あまり並べたあとで、こう続ける。いま挙げたのは年上の娘たちだけで、ほかにもまだ大勢いる。足首のほっそりした大洋の娘は3000人いて、大地のあちこちや湖の深みに散らばっている、と。
オケアニスと呼ばれるこの姉妹は、神話の中でさまざまな役目を担っている。
オケアノスは、世界のまわりをぐるりと取り巻いて流れる大河の神だ。『イリアス』は、すべての川も、海も、泉も、深い井戸も、この大河から流れ出るという。その娘たちは、海の女神というより、地上の泉や川の女神である。『神統記』によれば、姉妹はゼウスから、光の神アポロンや川の神々とともに、地上で若者を一人前に育てる役目を授かった。
3000人のうち、名を挙げられた年上の娘たちには、のちの物語で大きな役を担う女神が多い。冥界を流れる誓いの川の女神ステュクス。ゼウスの最初の妻となり、知恵の女神アテナの母となる娘。三人の優美の女神たちの母。海の老人に嫁いで50人の娘を産んだ娘。虹の女神イリスの母となった娘。天を背負う巨人アトラスと、人間に火を与えたプロメテウスの母も、この姉妹の一人である。大洋の娘たちの血は、神々の系図のあちこちに流れ込んでいる。
ゼウスが父の世代の神々と戦ったとき、真っ先に味方に駆けつけたのも、この姉妹の一人、ステュクスだった。
姉妹は、明るい野で遊ぶ娘たちとしても姿を見せる。『ホメロス風讃歌』の一篇『デメテル讃歌』では、冥界の王ハデスにさらわれる直前、女神デメテルの娘ペルセポネは、大洋の娘たちと一緒に、やわらかな草地で花を摘んでいた。
悲劇作家アイスキュロスの『縛られたプロメテウス』では、大洋の娘たちが合唱隊として登場する。人間に火を与えた罰で世界の果ての岩山に縛りつけられた神のもとへ、翼のある車に乗って飛んでくるのである。プロメテウスは彼女たちを、子だくさんの母の子ら、大地をめぐって眠らずに流れる大洋の娘たち、と呼びかけた。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アイスキュロス(伝)『縛られたプロメテウス』
『神統記』では、テテュスがオケアノスとのあいだに渦巻く河々と「聖なる娘たちの一族」を産む。四十人余りの名が挙げられたあと、「これは年長の娘たちで、ほかにも大勢いる。足首のほっそりしたオケアノスの娘は三千人いて、大地と湖の深みのあちこちにいる」と続く。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
オケアノスの娘たちは、アポロンと河の神々とともに、地上で若者を一人前に育てる役をゼウスから授かっている。海の女神というより、泉と川と成長に関わる女神たち。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
名の並びには、のちの物語で重要になる女神が多い。ステュクス(冥界の川で、神々の誓いの証人)、メティス(ゼウスの最初の妻でアテナの母)、エウリュノメ(カリスたちの母)、ドリス(ネレイスたちの母)、エレクトラ(虹のイリスの母)、ディオネ、カリュプソなど。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ホメロスには「オケアノスの娘たち」という集団は出てこない。ただし『イリアス』では、オケアノスは「神々の生まれのもと」であり、すべての河と海と泉と井戸がそこから流れ出るとされる。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
アイスキュロス『縛られたプロメテウス』では、オケアノスの娘たちが翼のある車で岩山に飛んで来て合唱隊をつとめる。プロメテウスは彼女たちを「子沢山のテテュスの子、大地をめぐって眠らずに流れる父オケアノスの娘たち」と呼ぶ。
アイスキュロス(伝)『縛られたプロメテウス』 前5世紀
『デメテル讃歌』では、冥王にさらわれる直前、ペルセポネはオケアノスの娘たち(エレクトラ、メリテ、カッリロエ、テュケ、カリュプソ、ステュクス、ウラニアなど)やアテナ、アルテミスと一緒に野で花を摘んでいた。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
オケアニスの一覧には、ムーサと同じ名のウラニアが入っている。『神統記』はムーサのウラニアとオケアノスの娘ウラニアを別々に数えている。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃