ギリシャ神話の地図
ヘクトル討った男トロイア戦争最初の戦死トロイア上陸した岸アウリス出陣の港大アイアス隣の陣パトロクロス船を救った男

プロテシラオス

Πρωτεσίλαος英雄

トロイア戦争で、最初に死んだギリシャ人は誰だったのか。『イリアス』はその答えを書き残している。船がトロイアの岸に着いたとき、誰よりも先に飛び降りて、真っ先に討たれた男。それがプロテシラオスである。

では、「最初の戦死者」になったこの男の話と、その死後に起きた出来事を見ていこう。

プロテシラオスは、ギリシャ北部の町々から40隻の船を率いてトロイアへ向かった。『イリアス』の、出陣したギリシャ軍の顔ぶれを並べる箇所に、彼のことが短く書かれている。船から飛び降りた彼は、ギリシャ勢のうちで群を抜いて早かった。そして、トロイア方のある男に討たれた。故郷には、悲しみのあまり両頬をかきむしった妻と、建てかけのままの家が残された。

『イリアス』は、討った男の名前を伏せ、ただ「トロイアの男」とだけ言う。ところが今は失われた別の叙事詩のあらすじでは、彼を討ったのはトロイアの総大将ヘクトルだったとされている。名もない一兵が、のちの伝承では最強の敵にすり替わった。

主を失った兵たちは、弟が引き継いで率いた。兵たちは弟を頭に戴きながらも、失った兄を慕い続けた、と『イリアス』は書き添えている。

彼の名前は、その運命とあまりにぴったり合っている。ギリシャ語では「最初に」と「民」を組み合わせたように読める。ローマ時代のある神話集は、もとの名は別で、最初に船から飛び降りて最初に死んだから、この名で呼ばれるようになったのだと言い切っている。

戦争が始まってから長い年月がたったころ、トロイアの総大将ヘクトルが、浜に引き上げられたギリシャの船に火を放とうと、一隻の船の船尾をつかんだ。『イリアス』は、それがプロテシラオスをトロイアへ運んできた船だったと書く。彼を連れてきたのに、故郷へ連れ帰ることはなかった船だ、と。まわりでは敵味方が入り乱れて斬り合った。やがてアキレウスの鎧を借りて出撃した親友パトロクロスが、この船の船尾めがけて最初の槍を投げ込み、トロイア勢を追い払う。

後の時代には、残された妻の話がふくらんでいった。その神話集によれば、妻は神々に願って、夫を三時間だけ冥界から返してもらい、夫が去ると、あとを追って命を絶った。

プロテシラオスは、実際に祀られた英雄でもあった。歴史家ヘロドトスは、トロイアの対岸にあたる半島の町に、彼の墓と聖域があったと書いている。ペルシア王の総督がその宝を奪い、聖域を畑にして、女たちまで連れ込んだ。のちにこの総督がアテナイ軍に捕らえられたとき、見張りの兵が干し魚を焼いていると、魚が火の上で跳ねてのたうちはじめた。総督は言った。これは私へのしるしだ。プロテシラオスは死んで干からびていても、神から力を与えられて、自分を辱めた者に仇を返そうとしているのだ。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、作者不詳(スタシノスに帰される)『キュプリア』、ヘロドトス『歴史』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

殺したのが誰かは出典で違う。『イリアス』は「ダルダニアの男」とだけ言って名を伏せるが、『キュプリア』の要約ではヘクトルが討ったとされる。無名の一兵が後代に最大の英雄に置き換わった例。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、作者不詳(スタシノスに帰される)『キュプリア』 前7世紀頃

ローマ以後の語り

残された妻ラオダメイアの話が後代に膨らむ。ヒュギヌスでは、神々に願って夫を三時間だけ冥界から返してもらい、夫が去るときに後を追って死ぬ。夫の蝋像を作って抱いていたという話も伝わる。

ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

名前は「最初に(プロートス)」と「民(ラオス)」の組み合わせと読め、その運命とぴったり合う。ヒュギヌスは、もとの名はイオラオスで、最初に船から跳び降りて最初に死んだためにプロテシラオスと呼ばれるようになったと明言する。名前が物語から作られた可能性を、古代の資料の側が示している例。

ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

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船から真っ先に飛び降り、「アカイア勢のうちはるかに先んじて」ダルダニアの男に討たれた。妻は顔をかきむしって嘆き、家は半ば建てかけのまま残された、と書かれる。『イリアス』の船の一覧の中でも特に印象の強い一節。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ヘロドトスはケルソネソスのエライウスにプロテシラオスの聖域と神託所があったと記す。神話上の一行の人物が、実在の祭祀の対象になっていた。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃

プロテシラオスの兵は、弟ポダルケスが率いた。兵たちは指揮者を欠いてはいなかったが、失った立派な兄を慕い続けた。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

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ヘクトルが火を放とうとつかんだのは、プロテシラオスをトロイアへ運んできたが故郷へは連れ帰らなかった船だった。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ヘロドトスによれば、エライウスのプロテシラオスの聖域から宝を奪い、聖域を耕し女を連れ込んだペルシアの総督アルタユクテスが捕らえられたとき、見張りが焼いていた干し魚が火の上で跳ねた。アルタユクテスは、死んで干からびたプロテシラオスが神から力を得て仇を返そうとしているしるしだと言った。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃

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このページの出典(4件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前7世紀頃作者不詳(スタシノスに帰される)『キュプリア』
  3. 前430年頃ヘロドトス『歴史』
  4. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』